読譜力の差がプロとアマチュアの決定的な差である…とフルート編では書いた私ですが、同じ事が声楽でも言えるかどうか、考えてみました。
声楽の場合、器楽と違って、現場に入って初めて楽譜を渡されて…という事は、どうやらなさそうです…ってか、器楽と違って、声楽ではそこまでの読譜力は求められないようです。実際、今はだいぶ減ったと思いますが、昔の歌手たちは、たとえプロでも、それほどの読譜力は必要なかったようです(実際、楽譜が読めない歌手もいたそうです)。
そもそも、今でもコレペティトール(いわゆる、コレペティさん)という職業があって、この人たちは、プロの歌手に音楽稽古を付ける事を生業としているわけです。逆に言えば、コレペティさんが必要とされている…という事は、プロ歌手には、高度な読譜力は不要で、仕事の前には、しっかりコレペティさんのところでお稽古を付けてもらってから仕事の現場に行けばいいので、そこは器楽の人とは違うわけです。
プロとアマチュアの違いに、読譜力の差は関係ないのです。
実は声楽の場合、器楽の記事で“経済力の差”という事でスルーした楽器の違いが、声楽では、プロとアマチュアの決定的な差になるのです。
楽器の差…つまり持ち声です。持ち声の良し悪しが、プロとアマチュアの決定的な違いとなります。
これはクラシック声楽やオペラに限った話です。ポピュラー音楽の世界では、マイクやエフェクター等の補助や支援が受けられますので、持ち声の良し悪しは、それほど問題にはなりませんし、クラシックの世界では、それら電気&電子系の補助がありませんから、歌手にとって必要なのは、何よりも持ち声の良さであり、それがプロとアマチュアの決定的な差になります。
もちろん、持ち声の差の中には、音域の広さであるとか、美声であるか否かとか、音程の正確度とか歌唱テクニックの確かさとかありますが、それらは後天的に磨き上げる事ができます。…となると、プロとアマチュアの差として考えられる要因は、先天的な要素がたぶんに含まれてきます。
つまり、プロの歌手として大成するためには、まず大前提として才能に恵まれている…という事が必要となります。
声楽における、プロとアマチュアの決定的違いとは、才能なのです。器楽と違って、努力すればプロになれるというわけではないのが、声楽なのです。努力の前に、まず才能の有無が問われるのです。才能を持っている人間が、どれだけの努力で、自分の才能を磨き上げていく事ができるのかが、プロとして成功するか否かなのだろうと思われます。
だから、クラシック音楽の本場であるヨーロッパでは、歌手のギャラは高いのです。指揮者並か、それ以上になります。器楽奏者の比ではありません。それだけ希少性が認められて、尊重されているのです。
まあ、日本では、そこまでクラシック声楽家の待遇がいいわけではありません。そういう意味では、日本ではクラシック声楽家は生きづらいとは言えるでしょうね。せいぜい、成功しても大学のセンセイ止まりだもの。
閑話休題。才能の差が、プロとアマチュアの決定的な違いと書きましたが、それが顕著に現れるのが、声量でしょうね。プロの歌手の声量はヤバいくらいに豊かです。そんな豊かな声量を得るためには、恵まれた骨格と鍛えられた筋肉が必要となります。筋肉は後天的に鍛える事ができますが、骨格はそうはいきません。こればかりは生まれついてのモノです。
豊かな声量を得るためには、分厚いカラダが必要です…が、日本人は人種の特徴として、カラダが薄いんですね。そういう意味では、日本人が声楽家として活躍するのは、かなり難しい…という結論になってしまうのです。
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コメント
すとん様、
昨日の、フルートプロアマに関する私の書き込みに
コメントをくださり、ありがとうございます。
本日の、歌手プロアマに関しましても、
すとん様のご投稿とは「全く」関係がないのですが、
私の知る「歌手プロアマ」話を書き込みますので、
すとん様コメントをいただければ、と思います。
私の家族が所属する「常設アマチュア合唱団」(創立数十年)が
年末の「第九」に出演することになりまして、
合唱団はアマチュアですが、
ソリスト4人は「プロ」を雇ってきてのコンサート、なわけですが、
芸大声楽科卒の、でも、プロではない(なれなかった?)女性が
合唱団にやってきて、
「ソリスト4人は(お友達とは言わないまでも)全員知り合い、
第九の合唱部分は、自分(その、芸大卒女性)は完璧に歌えるので、
普段の練習はスキップ(出ない)、
本番直前のゲネプロには出て、微調整して、
あとは本番だけ『出演してあげる』」
みたいなことを、
本当に(本当か?)「ご厚意」で言ってくれたんだけど、
合唱団代表は「丁重に」お断りしたそうです。
その女性は、レッスンプロでもなく、
もちろん、本当のプロでもなく、
腕(声)はプロ級、練習は不要、
言ってみれば、プロ級助っ人?
「本番だけ私がいれば、合唱団もレベルアップよ。」
そういう人を受け入れちゃう合唱団もあれば、
そういう人を受け入れない合唱団も、あるんでせうな~。
おしまい
オペラ座の怪人の怪人さん
そういう人の事を、あの業界では“トラ”って呼ぶんですよ。
トラ…「エキストラ」の略語ってか業界用語で、普通の日本語に訳せば「助っ人」って感じかな? アマチュア合唱団って、何かと人手不足だったり実力不足だったりするわけで、だから本番の時だけその合唱団に加わって歌ってくれる“歌のサポート”さんが必要なわけです。ちゃんと自分たちの実力を知っているアマチュア合唱団なら、割りと気軽にトラをお願いしてます。ほんの数人のトラを入れるだけで、合唱なんて、コロッといい方向に変わるからねえ。
で、このトラさんにはピンからキリまでいまして、もちろんプロ歌手にお願いする事もあれば、音大生に頼んだり、今回のようなプロアマの人に頼んだり、余所の合唱団の団員さん(当然、ド素人)にお願いしたりと、人数と予算で頼む人のレベルも様々です。あ、予算と書いたのは、一応、トラさんにはお礼(ってかギャラね)を渡すので、小さな合唱団とか、予算不足のところだと呼べないんですよ。
ただ、あくまでも、トラは合唱団が依頼するものであって、トラさんの方から売り込みに来るというのは、かなり珍しいと思います。と言うのも、トラも関係者のコネで頼むものなので、売り込みされても「はいそうですか」とはいかないもんなんですよ。
あの業界では、仕事の差配にも、人間関係が何よりも重視されるのですよ。
このケースの場合、第九を歌いたかったのなら、素直に合唱団に入れてもらえば良いだけの話だったんだと思うんですよ。アマチュア合唱団には、プロになれなかった音大卒業生なんて、割りとゴロゴロいますよ。ただみんな、自分の学歴に関して、クチを開かないだけなんです。それなのに、そんなところにトラの売り込みなんてしたら、そりゃあ…ねえ…。