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高音発声のコツ(テノール編)

 今回の記事は“自分のための備忘録”と言った側面があることを明記しておきます。ですから、私に有効であっても、万人に有効であるかどうかの保証はできかねますので、その点はご承知おきくださいませませ。

 さて、高音発声のコツです。ここで言う高音とは、テノールにおける高いA~HI-Cの事です。他の声種の方は、それぞれ自分の音域に合わせて読み替えてください。

 一般的に、男声の高音の限界はAだと言われています。なので、合唱曲におけるテノールパートの高音限界はAですし、ミュージカルのソングなどでも男声ではAまでの曲が大半です。Aよりも高音は、限られた歌手のための曲にあるくらいです。

 一方、クラシック声楽におけるテノールにとって、Aより上の音が美味しいところであり、聞かせどころです。テノールの魅力と言うのは、高いA~HI-C(の、それもロングトーン)を、いかに美しく、いかに柔らかく、いかにパワフルに歌うかにかかっているわけです。つまり、クラシック声楽におけるテノールと言う存在は、男声の限界を超えた高い声で勝負をしている人たちの事を言うわけです。

 なんとも、アクロバチックなことをやっているわけですね。ほとんど、サーカスの曲芸のノリだね。そんな事、普通の人には、まず出来ません。

 出来ないと諦めるのは簡単ですが、しかし現実問題として、自分がテノールであり、クラシック声楽を学んでいる以上、なんとかして高いA~HI-Cの発声を可能にしないと、歌える歌が限られてくるのも事実です。いやあ、何とかしないといけません。

 “テノールの訓練”とは、ほぼ“高音発声の訓練”と同義です。それくらい、テノールって、高音発声の事ばかり考えて、日々、高音発声にトライし続けているのです。私のようなアマチュア歌手の場合、趣味人生の大半を高音発声に捧げていると言っても、過言じゃないくらいです。

 実際、ほんと、そうなんですよ。特に、以前はテノールのキング先生について学んでいた事もあり、高音発声には、とても強いこだわりを持っていまじた。

 キング先生の教えでは「高音発声にはコツはない。努力あるのみだ」と言うのがポリシーでした。“10回トライしてダメなら、100回トライする。100回トライしてダメなら1000回トライする。1000回トライしてダメなら、テノールを諦める”であり“楽するためにコツを見つけるのはダメ。高音は苦労して身につけなければいけない”と常々言ってました。

 ですから、私も私なりに頑張りました。先生と二人三脚で頑張りましたが、頑張れば頑張るほど、高音が出なくなり、声が割れるようになり、ノドから血の匂いがするようになりました。つまり、キング先生のやり方では、私の場合、高音発声なんて無理だったんですね。むしろ、頑張れば頑張るほど、ノドが壊れていってしまったのです。

 キング門下を離れて、そろそろ三年。キング先生に習った事が、少しずつカラダから抜けてきました。そして、ふと気づくと、高音発声が少しずつ出来るようになってきました。で、ちょっとずつ高音発声を繰り返しているうちに、コツのようなものが分かってきたので、それを整理する意味で、今回の記事を書いている…というわけです。

 出し惜しみせずに、そのコツを書くならば、

1)ノドは脱力。肩もアゴも脱力。とにかく、肩より上は、楽にする。

2)腹筋はしっかり収縮させつづける事。特に胃袋を肺の中に突っ込む感じでグイグイ行く事。

3)アゴは楽に大きく開ける事。アゴの骨はしっかり外す事。外したら、アゴを下にズドーンと落とす事。

4)決める時は一発で決める事。1回やってダメなら2回目のチャレンジは無し。

 こんな感じかな? こんな事に気をつけて発声すると、高音がうまく発声できるような気がします。

 実はこれ、Y先生がいつも言っている事だったりします。

 “高音発声”という特別な発声方法があるわけではなく、高音は中音の隣にあるのですから、まずは中低音をしっかり発声できるようにする事が大事。実は、高音発声のコツと書いた1)~3)は、中低音の発声のコツと全く同じです。つまり、高音も中低音も気をつけることは、全く一緒なんです。ただ、中低音は結構無頓着なままでも、なんとか発声出来ちゃうのだけれど、高音発声は、気をつけるべき事にしっかり気をつけていないと発声できない…というだけなんですね。

 難しいからこそ、基礎基本により忠実でないと出来ないんです。

 私は以前「高音を出そうとすると、ノドにフタが被さる」と言ってましたが、こいつの正体は、ノドに力が入って、ノドが絞まる事だったんですね。感覚としては“フタが被さる”感じなんですが、実際は、声帯付近に力が入る事で、声帯が硬くなって閉じてしまって、振動もしなければ、息も通らなくなっただけの話なんです。ですから、ノドの脱力を少しずつ身につけることで“ノドにフタ”状態から脱出できました。そして、ノドだけでなく、アゴとか肩とか、とにかく上の方を脱力して楽にする事で、声帯付近の筋肉が良く伸びるようになって、高音が出やすくなるようです。真剣に悩んでいた私に、なぜこんな簡単な事をキング先生は教えてくれなかったのか、大いに疑問です。

 腹筋を使う事、腹式呼吸をする事は、とても大切な事です。でも、腹式呼吸はすればいいのではなく“何のために”“どうやって”するのかが、とても大切です。

 腹式呼吸の目的は“大量の息を力強く吐き続ける”ために必要なんです。そう、大切なのは、息の吐き方なんです。上手に息を吐き続けるために腹式呼吸をするんです。

 実はキング先生のメソッドは逆なんですね。腹式呼吸は息を吐かないために行うんです。息をあっという間に吐かないように、少しずつ少しずつ吐き出して長く息を使うために腹式呼吸を行います。だから、腹筋の使い方も、Y先生に習ったやり方とは違います…が、別にこれは間違っているわけではありません。私が某合唱団で習った腹式呼吸もキング先生と同じで、やはり“長く息を保たせる”ために腹式呼吸を学びました。もっとも、その某合唱団では、テノールは、高音発声はファルセットで歌う事になっているので、リアルな声で高音を歌える必要は全くないのです。

 閑話休題。でも、結局、高音は(高音だけに限りませんが、声は)息を吐かなきゃ、音にならないんです。だから、高音発声をするためには、きちんと息を吐かないといけませんし、高音発声は、低中音よりも、激しく声帯を振動させなきゃいけないのだから、スピードのある息を吐かなきゃいけないんです。だから、腹筋、大切です。

 アゴを開くことも大切です。それも普通に大口を開ける程度では足りません。アゴって、大口を開けた、その先までは、実は開きます。その時、アゴの骨がカクンと外れる感覚があります。実際に外れるかどうかは分かりませんが、感覚的には“アゴの骨を外す感じです。で、アゴの骨をカクンと外した、その先までまだ開きます。その時、アゴが重力に従って、大きく下に落ちていくんですね。アゴって、ここまで開きます。アゴの開閉は、一般的に思われている限界の、その先の向こうまで開くんです。

 これ、実は出来ない人が多いです…ってか、普通の人がこれをいきなりやると、顎関節症という病気になるそうです。ですから、無理しちゃいけません。少しずつ少しずつ、アゴを開いていって、まずはアゴの骨を楽に外せるようにしましょう。最初は、うまく外れなかったり、外す際に痛みが伴ったり、物理的な抵抗がある人もいるそうですし、簡単に外せるようにならない人もいるそうですが、そこはやんわりと頑張る(笑)。無理なく繰り返していくうちに、やがて無造作に自由にアゴが外れるようになります。でも、最初はアゴの骨を外すので精一杯。さらにアゴを下に落とすなんて、無理無理無理。でも、アゴが楽に外せるようになると、やがて自然に楽にアゴが落とせるようになります。何事も慣れですね(笑)。

 実はアゴを開く運動は、声帯を伸ばす運動と連動しているようなんです。だから、アゴを大きく開けば開くほど、声帯がよく伸びるわけで、声帯が伸びれば伸びるほど、高音を出しやすくなる…とまあ、そういった仕組みらしいです。

 さらに、アゴを限界まで開いて、口腔内の容量を最大限にした状態で、限界以上の高音を出そうとすると、声って、自然にアクートになるんだそうです(これはK先生受け売りです)。だから、アクートを楽に出すためにも、アゴをガッと開く事は大切なんだそうです。確かに、アゴを最大限まで開くと、高音がほんとに楽になります。問題は、歌いながら、きちんとそこまでアゴを開ききることができるか…って事でしょうね。これが難しい。

 そして、一番大切なのは、高音って、出せない時は出ないのだから、出せない時は出さない勇気が必要なんです。10回やってできなきゃ100回やると…ノドを壊します(ほんとです)。そういう、敵の戦闘機に竹槍で突っ込むような暴挙は自殺行為なんです。私が体験していますから、本当です。絶対にやっちゃダメよ。

 手順通りにやっても高音が出ないのは、その日はきっと、そういう星のめぐり合わせの日なんです。努力や根性でどうにかできるわけじゃないので、その日は素直に諦めて、また明日チャレンジです。そうやって、無理なく成功体験を重ねていかないと上達しません。

 結局“10回やってできなきゃ100回やると…”のメソッドって、徒に失敗経験を積み重ねていくだけなんだよね。失敗経験を重ねていくと、やがて失敗する事が癖になって、簡単に失敗ばかりするようになって、うまく出来るようになりません。これは理屈で考えれば分かる事です。声楽に根性論は不要なんですね。もっとクレバーにいかないと。

 こんな事に気をつけながら、私は今、高音発声にチャレンジしていますし、これらの事に気を使っているうちは、うまく行きそうな予感がするんですね。

 「中低音を発声するのと、全く同じ事を丁寧にやっていくと、高音発声につながります」 Y先生が口を酸っぱくして言っていた事が、ようやく身に沁みるようになってきたお年頃な私です。

 このやり方が私以外の人に有効であるかは、保証しませんよ(大切なことなので、最後にもう一度書いてみました:笑)。

蛇足 高音が発声できる事と、正しい音程で発声できる事は、別問題です。まあ、発声方法が良くなると、高音発声が可能になり、音程もより正しく発声できるようになるそうですが、それでも両者は別問題です(笑)。

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コメント

  1. ネギ より:

    お疲れ様です。「合唱とソロの声」等、声のテーマを中心に拝読しております。自分も個人レッスンを受けたことのあるアマチュア・テナーでアラフィフなこともあり、たいへん参考になり、ありがたいです。
    ホントにテナーやっててこだわるのは高音発声ですよね。いろいろなしがらみがあって合唱やってますが、家ではA以上を出すための練習が多いです(汗)。発声の方法は、人によってみんな言うことが違うので、結局自分に合ったものを見つけるしかないのかな、という気がしています。また、いろいろご紹介ください。

  2. すとん より:

    ネギさん

     ほんと、発声方法ってたくさんありますよね。どれも正解であり、どれも間違いだったりするわけです。要は『結果オーライ』ですからね。私の前の声楽の先生が「ベルカントと言うのは、美しい発声のことであって、発声方法の事じゃない。どういうやり方をしても、結果として美しい発声で歌えるなら、それがベルカントだ」と言ってましたし、私もそう思うし、それは正解だと思います。

     結果的には試行錯誤にならざるを得ないのだろうけれど、一人で試行錯誤するよりは、一緒に試行錯誤してくれる人がいる方が、早く答えにたどり着けるような気がします。そういう意味で、指導者って大切だなって思ってます。

  3. アデーレ より:

    発声って、先生が100人いれば100通りありそうな、その人の声帯、身体にあった出し方であり、高音発声もしかり。だから、先生のやり方が合うか合わないかはやってみないとわからないし、本当にわかりずらい。しかし、生まれつき美声の先生ならある意味、天然でいけるから発声もテクニックはそれほどいらず、、なら、ある程度、苦労した先生がいいのか??しかし、大概、素晴らしく美声のは天然であったりして、見定めが難しい。そうこうして、なんとかいい先生に出会えても、なかなか発声のコツは掴めませぬ。しかし、レッスンを重ねるうち、先生の発声の特徴をつかむことができ、ひたすらイメージで練習するのみ。先生それぞれ、大事にしている発声のポイントがありますね!被せる声で重い発声もあれば、軽くひたすら明るい発声もありまからね!ソプラノはかなりバラエティーに富んでますから、声の重さで同じなら理想的。テノールも多少、重い軽いありますかね!いずれにしても、高音はソプラノも命。どこまで高音かだせるかが全て。高音の出ないソプラノは辛すぎますよ、、。市販の発声の教本、DVD付きのメソッド本
    も色々、ありますね!口の開け方、軟口蓋、舌の位置、声帯をさげる?顎の関節、気をつけないたと炎症おこすから、少しづつやらないとね!また、詳しい高音発声のお話、お願いしますね!!

  4. すとん より:

    アデーレさん

     プロ歌手だからと言って、プロ(声楽)教師ではありません。おそらく、歌手として活躍する能力と、教師として活躍するための能力は、全く違います。しかし、教師として活躍するためには、歌手としてもきちんとプロでないといけないと思います。

     つまり、“教師に向いているプロ歌手”と“教師に向いていないプロ歌手”の二通りの歌手がいるって事ですね。

    >生まれつき美声の先生ならある意味、天然でいけるから発声もテクニックはそれほどいらず

     当たりです。天才歌手は教師には向かないと思います。そして、テノールという声種には、結構天才がゴロゴロいるので、案外、歌手として活躍している人は教師には不向きかもしれません。

    >ある程度、苦労した先生がいいのか??

     ですね。ただし、その苦労が実を結んでいない場合は、教師としても???だと思います。

     ですから、理性的に考えるなら、名歌手として活躍しつつも、天才とは思えない人…つまり、複数の大学や養成所を卒業しているとか、海外で長期に渡って留学してきたとか、デビューが遅かったとか、が狙い目かもしれません。こういうのなら、その歌手さんの経歴を見れば分かります。

     あと“教える方面に特化した元歌手”という人もいます。たいてい、こういう人は、凄腕教師だったりして、音大受験生たちを相手にしている事が多いので、趣味のオジサンオバサンには関係ないですけれどね。

     あと、ひたすら自分の真似をさせる先生もいれば、理論派で理屈で教えてくれる先生もいますし、ほんと、先生にも色々な方がいらっしゃいますよね。

    >市販の発声の教本、DVD付きのメソッド本も色々、ありますね

     ありますね。その手の話題を、ここのブログの開びゃく以来、しようしようと思いつつ、なかなか書き上がらなくってボツになってばかりいます。というのも、私が書きためているうちに、本の方が絶版になったりして、追いつけなかったりするんですよね(汗)。

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