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低音発声の魅力と危険性

 声楽レッスンの続きの続きの続きです。まだ「Der Tod und das Maedchen/死と乙女」の話です。
 死神パートは、あまり頑張って歌わない事が大切です。うっかり頑張って、声を張ろうとすると、声が胸に落ちてしまいかねません。声を落とさないように細心の注意を払いながら歌います。それゆえ声量は望めません。でもそれは仕方のない事です。だってテノールの声でこんな低い音程の旋律を歌う事自体がそもそもの間違いなのですから(笑)。
 そもそも無理をしているのだから、それ以上に頑張ってはいけないのです。
 最後の音は、オリジナル通りの超低音のD2で歌います。きちんと腹筋を使って歌えば、何とかぎりぎり発声できるからです。でもここが私の限界です。さすがに、これより低いC2になると、ノドから出てくるのはただの振動であって、音程のある声にはなりません…が、私はテノール(つまり高音歌手)なので、別にこんな低い音が出なくても気にしないのです。とは言え、D2は、ほんと音量的にも小さい声にしかならないので、レッスンではともかく、人前でこの曲を歌うなら(そんなチャンスはないでしょうが)D2ではなく、1オクターブ上げてD3で歌うべきでしょう。でないと観客には聞こえないでしょうから。聞こえない歌なんて歌う価値ありませんから。ただ、それでは“作曲者であるシューベルトの意図”とはかけ離れてしまうでしょうが…(そういう意味では、やはり私が歌うべき歌ではないってわけです)。
 これだけ低い音を連発した後なので、ドニゼッティの「Com’e gentil/なんという優しさ」は歌えるかどうか、先生は心配されました。で、試しに歌ってみたら、歌えるかどうかどころか、これまでで最高の出来栄えで歌えちゃいました。いやあ、奇跡でも起こったのかと思ったくらいです。
 これはおそらく、シューベルトで散々腹筋を使ったので、それが良い準備運動となって、腹筋が普段以上によく動いたのだと思います。それで、ドニゼッティも軽々歌えちゃったのです。
 逆に言えば、日頃は腹筋を動かしているつもりでも、大して動かしていなかったというのかバレバレです(汗)。とにかく、きちんと腹筋を動かせば、こんな私でも「Com’e gentil/なんという優しさ」をラクラクと歌えちゃう事が分かりました。
 で、そんな感じで、上出来な歌が歌えたところ、先生から「120点を目指して歌っちゃダメです」とダメ出しをされてしまいました。
 いつもより楽に声が出るからと言って、重い発声のまま高音をビヤッと出して歌った(歌っている本人的にはすごく気持ち良いのです)のが良くなかったようです。先生曰く「そんな歌い方をしたら声を壊します」って事です。つまり「調子に乗ったらしっぺ返しをくらうぞ」って話ですね。たとえ調子が良くても、発声を第一に考えて、本来軽く歌うべきところは、必ず軽く歌えないようでは、長く歌えないってわけです。
 たとえ調子が良くても、常に余裕をもって、ギリギリは攻めないのです。むしろ、調子が良かろうと悪かろうと、常に80点前後を狙って、コンスタントに歌えるように心がけないといけないのです。調子が良ければ120点で、悪ければ60点とかの、そんな博打のような好不調とか当たり外れのある歌い方はノンノンなのです。
 ホームランバッターを目指すよりも、ヒットメーカーを目指すべきなのです。
 ちなみに低音発声が高音発声の良き準備体操になるからと言って、一人で低音をガンガン歌うのは、先生的にはお勧めできないそうなのてす。と言うのも、一人で低音を練習すると変な癖(例えば、声を胸に落とすとか、声を掘ってしまうとか…)が付く事があり、一度変な癖が付くと、その癖を取るのが大変なので、低音を発声するにしても、なるべくならレッスンの時だけにしてほしいような事を言われました。まあ、それは大丈夫です。と言うのも、低音に限らず、一人で歌を練習する時間がなかなか取れず、変な癖を付けている余裕なんてないからです。
 でも、それもなんか寂しい話です。

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