やっと、やっと、メトのライブビューイングが復活しました(パチパチパチ…)。で、その第1弾である、ムソルグスキー作曲の『ボリス・ゴドゥノフ』を見てきたわけです。
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演出:スティーヴン・ワズワース
ボリス・ゴドゥノフ:ルネ・パーペ(バス)
グレゴリー:デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)
シュイスキー公:マクシム・パステル(テノール)
ピーメン:アイン・アンガー(バス)
感想ですが…そもそも『ボリス・ゴドゥノフ』って、名前ばかりが有名で、あまり上演されないオペラなんですよね。ロシア語ってのもネックだけれど、ストーリーや配役に華が無いというのも原因の一つでしょうね。とにかく、ソプラノのアリアの一つも無いし、華麗なバレエも無いんだもの。舞台の上にいるのは、突っ立ったまま歌う太ったオッサンばかりで、そりゃあ地味な絵ばかりが続いて、全くバエないんだよね。おまけに長いのよ! あまり、客が呼べる演目とは言えません。
それに上演に際しては、楽譜の版の問題もあって定番が無いんです。詳しくはウィキを読んで欲しいくらいです。
今回、メトで上演されたのは、いわゆる“原典版”と言われる、一番短いヤツです。ウィキでは4幕とされていますが、メトでは3幕扱いになっていますが、それを休憩なしの一気上演でやりました。全体で2時間半ですから、まあ普通に長い映画サイズなので、休憩なしでもいけるっちゃあいけるけれど、やっぱり途中に休憩が欲しかったです(ミュージカルなら、途中に30分程度の休憩を入れて2幕3時間で上演すると思います)。
昭和の時代ぐらいまでは『ボリス・ゴドゥノフ』と言えば、リムスキー=コルサコフが編曲した“リムスキー=コルサコフ版”で上演されるのが常だったようですが、平成以降はムソルグスキー自身による“1872年改訂版”で上演される事が多くなったそうです。ちなみに、私が事前に予習のために見たディスクは“1872年改訂版”に基づく上演でしたが、いやあ、今回見た“原典版”による上演とは、かなり大きく違っていました。
とにかく“原典版”は、政治家ボリス・ゴドゥノフの苦悩が中心テーマなのです。だから、全然女っ気無し。ひたすら暗くて陰惨で地味。その代わり、主人公であるボリス・ゴドゥノフがオペラの中心なので、お話は分かりやすいです。まあ、分かったからと言って、面白いのかと言われると…ちょっと微妙。少なくとも主人公のボリスには気の利いたアリアの1曲もありません。でも、凄いオペラだなってのは分かります。とにかく褒め言葉としては“凄い”ぐらいしか思いつきません。
このオペラ、そもそもが通好みのオペラ…だと思います。少なくとも、オペラ初心者には薦められません。決して楽しいオペラではありません。だから、この原典版は、作曲当時、劇場から上演を拒否られたんだと思います(確かにこれじゃあ、客が呼べません)。でも、これがムソルグスキーが当初思い描いていた『ボリス・ゴドゥノフ』なんだよね。
そう考えると、最近上演されている1872年改訂版は、ムソルグスキーがひねり出した、劇場で上演してもらうための妥協の産物であるとも言えるわけで、無理やり派手な音楽を挿入しているし、ソプラノのアリアとかバレエのシーンとかも新しく作曲して万人受けを狙ったのだろうけれど、そもそも政治劇がそんなに派手なお話になるわけないんだよね。
メトは、そこであえて、リムスキー=コルサコフ版でもなければ、1872年改訂版でもなく、原典版の上演に踏み切ったのだろうと思います。ある意味、潔しです。
確かに1872年改訂版の方が、音楽的には派手になっているし、面白くなっているとは思うものの…そもそも政治劇なんだし、メトが選んだ通り、原典版での上演がいいのかもしれません。
ちなみに私が予習のために見たディスクは…エロ満載なので、これまた万人には薦められません。あと、やっぱり退屈です。ダメじゃん、これじゃあ。
蛇足 メトの演奏は…演奏自体は、たぶん良いんじゃないかしら? とにかく高音フェチな私には、この演奏の良し悪しは判断しかねるわけなのてす。
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