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大切な事は、やっぱりシラを切ることだな

 先日、某テノール歌手のコンサートに行きました。もちろん、プロの方のです。

 コンサートそのものは、すっご~く良かったです。選曲は、私好みだし、声はビンビンに出ていて、カッコ良かったし…。私は、満足、大満足だったんです。

 で、コンサートが終わって、さっそくご挨拶&「すっごくよかったで~す」と言いに行こうとしたら、歌手さん、私の顔を見るなり「今日は、色々とやってしまいました(謝)」と言ってきたので、つい「私、全く気にしてません。だから、その件については何も言いません。それより、コンサート、すっごく良かったで~す」とご挨拶。

 後日、歌手さんからメールが届きました。内容は、コンサートに来てくれてありがとう。体調を整えられなくて申し訳ないって書いてました。

 ここまで読んで、一体何があったの? と思うでしょ? いやいや、別に大した事は起こってないんですよ。ただ、コンサート中でHi-Cを出す場面があったのだけれど、そこで失敗しちゃっただけです。テノールにはよくある事。Hi-Cなんて、プロ歌手でもたまに失敗するくらいの超高音なんですから、私は全然気にしてませんし、歌手さんも、Hi-Cに失敗しても、その後、何事もなかったように歌ってましたしね。むしろ私は、コンサートのメニューに、Hi-Cなんて言う、スープラ・アクートな曲を入れる必要は全くないのに、毎回毎回、必ず一曲はスープラ・アクートな曲を入れる勇気に感心していたくらいです。

 それに、そんなに有名な曲ではなかったので、あそこでHi-Cが出てくるなんて、たぶん、テノールじゃなきゃ知らないです。だから、アレはアレで終わったんです。

 でも、本人は、すっご~く気に病んでいるんだなって思いました。だって、彼の失敗に確実に気づいているのは、共演者以外だと、たぶん私だけ(笑)だから。あの場に(アマチュアとは言え)私しかテノール歌手はいないからね。

 おそらく、他の人は、Hi-Cに失敗した事すら気づいてないよ。妻ですら「曲の途中で、なんかノドに引っかかったみたいだねえ」としか思ってなかったもの。実はあそこが、テノールにとっての鬼門の箇所なんだよ~って気づいてないもの。

 …ってか、気づかせないように、上手にリカバーしていた…というか、シラを切っていたんです。見事に失敗していた事など、微塵も感じさせずに舞台を勤めていたわけで「さすが、プロだな…」と思って見ていたくらいですからね。

 …それが肝心なんだ…と私は思った次第です。

 コンサートなんてナマモノですからね。当然、失敗とかウッカリとか色々あるんです。完璧に修正されたCDを再生しているわけじゃないんですからね。問題は、失敗をしてしまった時に、演奏者が動揺したり、慌てたりすると、観客の方だって「むむ? 何かしたの」って気付くわけだし、それに気付くと、今まで音楽に集中していた耳から集中が外れて、歌手の一挙一動が気になってくるわけです。歌ではなく、歌手に注目が集まるようでは、そのパフォーマンスは失敗です。だから、歌唱の失敗は仕方ないにせよ、パフォーマンスとしての失敗は回避しないといけません。

 だから、Hi-Cを失敗しても、シラを切らなきゃいけないし、そのシラの切り方が実に見事で、私以外の人には失敗に気付かれなかった事は、さすがだなって感心したわけです。

 私も、ああいうシラの切り方を身につけないとなあ…。ほんと、そう思いました。それに、Hi-C以外は、本当に見事な歌唱だったんですよ。

 それにテノール歌手のミスなんて、かわいいものです。ピアニストなんて、どんなピアニストでも、コンサートってなると、バンバン、ミスタッチしているものね。まあ、ミスタッチをしても、それが演奏に影響しなきゃいいわけだし、最低、客にバレなきゃいいわけです。たまに、コンサートに楽譜を持ち込んで、しっかりチェックしながら聞いている客もいて、そういう客にはモロバレだろうけれど、そういう人って、ごく少数だからね(でも必ずいますし、たいてい女性客なんですよね)。

 ミスはしても、バレなきゃOK。それより大切なことは、客に感動を与えること。私はそう思います。

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コメント

  1. wasabin より:

    仰る様に「音符通り」が最高ではないですね。
    聴きがいがあるかどうか、歌い手の世界に連れ込まれてしまうかどうか。
    その為には「しらを切る」も大事な歌い手の技術だと思います。

    私の場合、K先生は本番間際は「自分の好きな様に歌いなさ~い、自分が楽しければ良いのよ」、片やM先生、リハでも微妙なズレでも注意する。

    直前レッスンはK先生の方が本番でシラを切りやすいですね。
    って、シラを切る必要があるって事なんですけどね。

  2. すとん より:

    wasabinさん

     先生にも色々なタイプの人がいます。でも、皆さん、最高の本番を迎えて欲しいと願っているのは同じです。本番間際のレッスンで「自分の好きなように歌いなさい」とおっしゃる先生は、本番直前では何よりもメンタルが大切だと考えているわけだし、リハでも注意する先生は、最高のパフォーマンスを願っているからです。

     困るのは、本番が近づくと、今まで言ってたことを全否定し、まったく違った事をやらせようとする先生。それも、新しいやり方を作ってくるのを見計らったかのように、それが出来上がったあたりで、また別の事を言い出すわけです。ピアノ合わせに非協力的でピアニストさんと連携が取れないようにしたり、本番の舞台に上がるところで、ダメ出しをしたりね。そういう先生だと、色々とつらいです。キング先生の事ですが(笑)。一応、彼なりに最善を尽くしてくれているんだろうけれど、自分が言った事を平気で忘れちゃう人なので、指導に一貫性がなくて困りました。

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