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オペラとミュージカルの違い

 オペラとミュージカル。両者ともに歌芝居であって、似ているようで違い、違っているようで共通点も多いモノです。では、両者の違いはどこにあるのでしょうか?

 私が思うに、制作された時代が違うだけ。それだけだと思います。後の違いは、オペラとミュージカルの違いと言うよりも、個々の作品の違いに起因するのではないかと思います。だから、両者を較べて、オペラの方が芸術性が高いとか、ミュージカルの方が楽しいとか、そんな事はないと思います。

 しかし、制作された時代が違うと言うのは、実はかなり大きな問題だと思います。

 例えば、主に使用される言語が違います。オペラは、制作当時のヨーロッパにおける音楽界の共通語であったイタリア語が主に使用され、一部のオペラでドイツ語やフランス語、ロシア語などの現地語が使われました。一方、ミュージカルは巨大な国力をバックにブイブイ言わせているアメリカの英語(アメリカ語:事実上の世界共通語)が主に使用され、一部のミュージカルは、ドイツ語やフランス語、日本語などで作曲されました。

 この使用される言語の違いは、台本の違いにつながっていきます。オペラはイタリア語で台本が書かれているものが多いので、物語はイタリア的な気質に満ち満ちているわけですし、ミュージカルは英語で書かれているものが多いので、アメリカっぽい作劇になっているわけです。そしてこれら使用される言語の違いは、その時代において、どの言語が音楽界を席巻していたのかという違いから来ています。

 さらに言えば、オペラは原語上演主義で、基本的に世界のどこに言っても『椿姫』はイタリア語で、『カルメン』はフランス語で上演されます。同一の台本を使用するので、ジェット機に乗って世界中を飛び回って活躍するスター歌手が存在します。一方、ミュージカルは翻訳上演主義ですから、大半の作品が現地語に訳され、現地のミュージカル歌手たちが現地の言葉で上演します。世界的なスター歌手がいないわけではありませんが、基本的にローカル歌手たちによって上演されるのがミュージカルです。

 なぜオペラでは原語主義なのか? おそらくは当初のオペラはヨーロッパが主な消費地であり、ヨーロッパという地域では、多言語が日常で錯綜している地域で、複数の原語を理解する人も多かったからではないでしょうか?(この部分、私の推測です) 今の時代は…やはり現地主義というか、何でもローカライズして、広い層にまで受ける必要がありますよね、そうしないと経済的に成り立たないし…。

 また、オペラはせいぜい20世紀前半までに作られています。レパートリーとしては、すでに完結しているので、基本的に新作は作られません。一方ミュージカルは20世紀中葉から作られ始め、今でも新作が作られ続けています。

 ある意味、時の洗礼をすでに受けているのがオペラです。ですから、現存するオペラにはハズレがありません。すでに愚作は淘汰され、優秀な作品のみが残っているわけです。一方ミュージカルは、まだ時の洗礼を受けていませんから、実に玉石混交です、って言うか、駄作が多すぎますが、それはご愛嬌でしょう。

 また、ミュージカルは基本的に二幕仕立てで、上演時間も休憩を入れて3時間前後なのですが、オペラは二幕とは限らないし、上演時間も作品によってまちまちです。今は昔ほど時間に余裕がないと言えるのかもしれません。

 オペラとミュージカルは、制作年代が違うために、作品の様式もかなり違います。同じ音楽劇とは言え(例外もありますが)基本的に音楽だけで芝居を進行していくのがオペラであり、芝居そのものはセリフ劇で進め、要所要所で歌うのがミュージカルです。

 違いは劇の進め方だけではありません。オペラは基本的に分業制で関わる人間が多いです。例えば、オペラでは、歌手は歌手であり、ダンサーはダンサーです。また、歌手も一人一役が当然で、ソリストはソリストであって、合唱は合唱です。

 しかしミュージカルは違います。ミュージカルは関わる人間が少なくて、色々な人が色々な事を兼ねながら劇を進めていきます。歌手がダンサーを兼ねるのは当然です。歌手たちが場面転換の際に大道具の移動を行うのも普通です。とにかく、主役以外の人は、一人で何役もやります。当然、歌手としても、ソロも歌えば合唱もやります。ですから、贔屓の歌手がいるなら、香盤表のチェックは大切です。それにしても昔の方が、人員的には贅沢で、何かと余裕があったんでしょうね。

 機材も明らかに違います。舞台・照明と大道具小道具、それにオーケストラの伴奏で演じるのがオペラですが、ミュージカルはそれに加えて、音響設備って奴が加わります。つまり“マイクとスピーカー”って奴です。ですから、オペラでは生歌が前提ですが、ミュージカルではマイクテクニックを駆使した歌い方が必要となり、必然的に歌唱テクニックが違ってきます。オペラではより遠くまで響く声が、ミュージカルではマイクで上手に拾える声が、必要となってきます。やはり、その時代時代に応じたテクノロジーが採用されるのです。

 だいたい、オーケストラを構成する楽器も違います。オペラは、いわゆるクラシック音楽(交響曲をイメージしてもらうと分かりやすい)で使用される楽器でオーケストラが構成されていますが、ミュージカルではむしろポピュラー音楽のバンドに近い形態のオーケストラが使用されます。例えば、ドラムやエレキギターやエレキべース、シンセサイザーにサクソフォーンなどクラシック音楽ではあまり耳にしない新しい楽器も、普通に使います。もちろん、ヴァイオリンなどの伝統的な楽器も使うけれど、オペラのように十数台も使うわけではなく、せいぜい2~4台ぐらい。足りない分は、シンセでそれっぽい音を出して補うわけです。やはり、現代的な音楽を演奏するには、現代の楽器を使う必要があるんでしょうね。

 というわけで、オペラとミュージカルの違いは、制作された年代が違うだけ…と言うのが、私の意見です。

 あと、これは本質的な違いではないでしょうが、日本特有の事情による、オペラとミュージカルの違いがあります。

 まず、ミュージカルは、そこに携わる人たちがそれで食えます。日本のミュージカル・カンパニーって、営利団体として健全な団体が多いです。一方、オペラじゃメシは食えません。オペラ上演で生活を成り立たせることは、まず無理です。オペラ・カンパニーって、営利団体としては成り立っていない所が大半です。だから、一部のオペラ歌手以外は、バイトをしないと生きていけないわけです。いや、その一部のオペラ歌手だって、オペラ上演以外の仕事(例えば、大学で教鞭を取るとか、テレビでタレント業をするとか、リサイタルなどの自主公演を行うとか)を仕事の中心に据えて、なんとか続けているぐらいです。だから、ミュージカル歌手は職業かもしれませんが、オペラ歌手は道楽なのかもしれません。

 そんな食えないオペラ歌手なのに、成るには、原則、音大卒業が必須となります。この音大ってやつが、コストパフォーマンスが最高に悪い大学なんですよね。一方、ミュージカルは多彩な人材がいて、その出自も様々で、ミュージカル歌手になるためのチャンスもあっちこっちに転がっていて、結局学歴ではなく実力がモノを言う業界だったりします。

 つまり、オペラって、日本ではインテリの教養なんですね。それも古臭い教養なのかもしれません。だから、オペラの観客って(私も含めて)高学歴の年寄りばかりなんです。一方、ミュージカルはエンタメです。客層も老若男女幅広くいます。さらに言えば、最近では2.5次元のミュージカルも大流行です。例えば『テニスの王子様』とか『弱虫ペダル』とか『神様はじめました』とか『デスノート』とか…なんかもう、すごいですね。ほんと、ザ・エンタメって感じです。でも、馬鹿にしちゃダメですよ。結構、ここからスターが生まれていたりするわけですから。

 まあ、日本では、オペラは芸術だけれど、ミュージカルは芸能扱いなのかもしれません。芸術もいいけれど、芸能も悪くないよね。

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コメント

  1. おぷー より:

    オランダもミュージカルをやってますが、英語じゃなくてオランダ語でやってます。
    中でもロングランが”Soldaat van Oranje”「オランダ王国の兵士たち」ってやつで、
    オランダ人って結構ナショナリストが多いのかもしれません。
    イントロ貼っちゃいます。
    https://youtu.be/xEeW8SCa2yg

  2. すとん より:

    おぷーさん

     見ました。しっかりミュージカルですね(笑)。

     リンクされた画像が、まるで映画のようだったので、ちょっとググらせていただきましたところ、このミュージカル、やっぱり映画化されているんですね。もっとも、リンクされた画像が映画化されたモノかどうかまでは、私には分かりませんが…。

     映画の方ですが、日本では劇場未公開ですが、DVDは発売されています…でも、アマゾンにある日本語字幕版は、88分しかないので、短縮版でしょうね。wikiによると本来は149分の上映時間だそうですから、約半分にぶった切られているわけです。

     ちなみに、日本でのタイトルは『女王陛下の戦士』だそうです。監督は、若き日のポール・バーホーベンですね。のちに『ロボコップ』とか『トータル・リコール』とか『スターシップ・トゥルーパー』などを監督してます。そんな有名な監督さんが作った映画なんだなあ、なんかスゴイや。

  3. おぷー より:

    2次世界大戦の頃のユリアナ女王は、一家でイギリスに避難していたのですが、
    このミュージカルでは、「私は、イギリスには行きませんよ!」と言うと、
    「あなたは行かなくてはならない!王室を救うために!」と言われるシーンが
    入ってましたね。

    この映画は、昔見ましたが、あまり印象に残らなかったです。
    ミュージカル、観に行ってみようかな…

  4. すとん より:

    おぷーさん

     調べてみると、このミュージカル、オランダでは大人気なんだそうですね。たぶん、作品としても、ちゃんとしているんだろうと思います。しかし、そんな作品でも、日本には入っていないわけで、それを思うと、世の中には、たくさんの知られざるミュージカル作品があるんだなって思うわけです。私の心にちょっと引っかかってます。短縮版でなくて、きちんと日本語字幕が付いていたら、見てみたいかもしれません。(おそらく短縮版では、音楽部分がごっそり落とされていそうな気がするんですよ)

  5. おぷー より:

    この映画音楽に出会ったのは、1985年です。ミュージカルでも使われてます。
    私の入っていた合唱団は、1985年の戦争解放記念日コンサートで歌いました。(ロッテルダムのコンサートホールでした。)
    当時のベアトリックス女王の前で演奏をしました。
    https://youtu.be/GE4reiMbYCk
    この曲を聴くと、あの当時の事を思い出します。
    オランダ人のハートにいつもある音楽なんだと思います。

  6. すとん より:

    おぷーさん

     なるほど、単なるミュージカルではなく、オランダ人にとっては、とても大切な音楽作品なんですね。そんな、大切な音楽がミュージカルだというのは、ちょっとうらやましいです。

     日本人のハートにいつもある音楽…って、たぶん、文部省唱歌なんだろうと思います。でも、最近の学校の音楽の教科書からは、ドンドン文部省唱歌が消えていっているそうで…なんか寂しいような気がします。

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