前回の続きです。
とにかく試奏をしよう
フルートの購入には、まず試奏ありきです。試奏無しでフルートを購入してはいけません。
そう言うと「え、私はフルートの吹き比べをしたって、その違いが分からないよ」という人がいます。その人に聞きたいのは「あなたは今まで試奏をした事がありますか?」です。おそらくないでしょうね。その発言の源にあるのは日本人特有の謙遜って奴ですが、大金出して買い物するのですから、謙遜は家に置いてきましょう。
私も実際に試奏をするまでは「フルートの吹き比べをしたって、その違いなんて分からないよ」と思っていました。でもね、やってみるとよく分かる。実によく分かる。フルートって、本当に違う。特に素材が違えば楽器が違うんじゃないかと言うくらい、音が変わるし、同じ素材でできていても製品が違えば顕著に音が変わります。またハンドメイド系に特に言えますが、同じ製品でも個体差があって、全く同じフルートって、この世にないって事が分かります。これは理屈ではなく、感覚で分かる問題なので、初心者でも(今使っているフルートである程度の)一定した音が出せれば分かります。だから試奏については、特に心配する必要はないよ。
フルートって、なまじ人の声と同じ音域だからか、人間の聴覚の方も敏感に反応して、ちょっとの違いでも、すごくよく分かるんだと思います。だからこそ、試奏をして、お気に入りの一本を選んでください。
それから、管楽器では音の違いは、楽器の違いよりも奏者の違いの方が影響が大きいそうですから、試奏なんて無意味であるとおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。つまりは「ゴールウェイが吹けば、どんなフルートであれ、ゴールウェイの音になる。だからフルートの違いなんて意味のない違いだ」とネ。でもね、それは机上の空論であって、現実は違う。
まずは、このビデオを見てください。ゴールウェイが16本のフルートを吹いています。あなたが、このビデオを見て、これら16本のフルートの音が全部全く同じに聴こえるなら、たしかに試奏の必要はないでしょう。お店に行って、中国製の一番安いフルートを買って、余ったお金を別の用途に有意義にお使いください。その方がお金も幸せです。
おそらく大半の人は、このビデオで、同じゴールウェイという人が吹いているにも関わらず、16本とも違う音を出していることが分かると思います。ただ、確かに16本全部が全く違う音というわけではなく、同じ傾向の音であることは否定しません。おそらく楽器が違っても同じ傾向の音になることが、ゴールウェイの、つまり奏者の個性の部分なんだと思います。そしてこの個性の部分を“ゴールウェイの音”と呼んでいるのだろうと思います。
ですから、そういう意味で16本すべてのフルートの音は、全部“ゴールウェイの音”かもしれないけれど、その“ゴールウェイの音”であっても、楽器が違うとこれだけ音が違うわけ。いわんやまして…の世界ですよ。「考えるな、感じろ」の世界ですって。試奏は(後悔しないためにも)絶対した方がいいですって。
それでも「私は試奏をして、なんとなく違うことは分かったけれど、どれが自分にとって良いフルートなのかは分かりません」という人はいるでしょうね。音の違いが分かれば、まずはそれで十分です。なぜなら、音の善し悪しって、理屈でなく感覚ですからね。なんとなくでも違いが分かれば、あとは好きな音の楽器を買えばいいのです。好きな音がする楽器が良い楽器なのですから。
それでも自信を持って楽器を選べないとおっしゃる人へ。あなたが初心者ならば、先生に選んでもらってください。今のあなたにあった、無難な楽器を選んでくれると思います。まずはそこからスタートしましょう。経験者なら、今の自分の愛器を吹き続けることをお薦めします。心の底から良いと思えないものを買っても仕方ないでしょ。
次に、試奏をするためには、まずフルートがそこそこ揃っている楽器屋に行くか、フルートフェアなどを開催しているお店を狙っていきましょう。蛇の道は蛇。先生とか先輩とか呼ばれる人は、どの店にどれくらいのフルートがあるは知っているでしょう。最初はそういう人に尋ねてもいいですね。また、それとおぼしき店を見つけたら、電話などで問い合わせをしてもいいかもしれません。店によっては試奏をするには電話予約が必要というところもあるようです。地方在住者は、この際、そのために可能ならば都会に出かける覚悟で考えましょう。
お店に行ったら、私のように都会の空気に飲まれない(笑)で、正々堂々と店員さんに試奏を申し込みましょう。もし、いやな顔をされたら、後ろ足で砂を蹴って店から出てくればいいだけですから、大胆に参りましょう。恥ずかしかったら「試奏室はありますか?」と正直に聞いてもいいかもしれない。また、試奏の時に、こちらの注文ははっきりと伝えましょう。その際には、予算と条件を最初に言っちゃった方が良いかもしれません。
予算を言ったら、無理やり買わされるかも…。その心配は分かりますが、フルートは高額商品です。即決で購入といかないことくらい、お店も分かっていますから、堂々と冷やかしてくればいいと思います。特に、今回ではなくても、必ず買い換えるという意志を見せれば、お店も本気を出して、アドバイスしてくれます。
試奏室に案内されて、やがて店員さんが何本かのフルートを持ってくるでしょ。
まず最初にすることは、低音から高音までのすべての音を半音進行で出してみましょう。この段階でうまく音が出せないようなら、ちょっとキビシイでしょうね。
半音進行ですべての音が出せることを確認したら、次はスケールです。まずはハ長調のドレミを吹いてください。ピッチは大丈夫ですか? フルートは案外音痴な楽器です。私もそれなりの数を試奏しましたが、ピッチ的に「?」な笛が結構ありました。実際は多少音痴でも、演奏する時に微妙なピッチは修正しながら吹くので、大した問題ではないのですが、それでも修正する幅が狭いに越したことはないので、スケールで音程の確認をしてください。
私の感じでは、ハ長調の「ミ」と「シ」があやしい笛が、たくさんありました。
ハ長調が終わったら、別の調で再度確認するといいでしょうね。私はト長調を使いますが、ヘ長調も吹きやすいかもしれません。
この辺までは“試奏”というよりも“検品”って感じですかね。でも、道具としてのフルートの性能を知っておくということは大切ですよ。
次は音色の確認とキータッチの確認をかねて、何か曲を吹くとよいでしょう。それと、吹き心地もチェックです。ラクに音の出る笛もある一方、音出しに手間取る楽器もあると思います。これから長く使う楽器ですから、本当にしっくり来る笛を選ぶべきだと思います。
吹いている音を心を落ち着けて聴いてみてください。その時に聴くのは、フルートから出ている音ではなく、壁に当たって跳ね返ってくる音です。跳ね返ってくる音が他人に聴こえる、あなたのフルートの音です。難しいですけれど、挑戦してみましょう。
同伴者が笛吹きならば、同伴者に、そうでなれば店員さんにお願いして、吹いてもらって、それを聴くのも大切です。もちろん、彼(または彼女)はあなたではありませんから、あなたと同じ音は出せませんが、それでもその笛のおおまかな性格は分かると思います。
試奏をお願いして「私はフルートは吹けませんから…」と店員さんが断ったなら「他に音が出せる人はいらっしゃいませんか?」と尋ねてもいいでしょうね。それでも誰にもフルートを吹いてもらえないならば、その店はフルートに関しては素人のお店と判断してもいいでしょう。将来的にもあまり役にたたないかもしれません。ま、買い物するなとまでは言いませんが、ちょっと心配になりますよね。少なくとも売場の担当者は、上手でなくとも一通りの事ができなければ…ね。プロの販売員として、どうよ。
もし試奏をしてもピンと来る笛がなかったら…無理して今フルートを購入する必要はないと思います。また次の機会を待ちましょう。これだ!という笛で出会えたあなた、幸せ者です。さっそく『予約』を入れて、心と頭を冷静にしてから購入を検討しましょう。
では、続きはこちらです。
コメント
これ、ピアノの選定にも通じるところがありますね。
勿論、管楽器と鍵盤楽器の違いという部分は差し引いて、のお話ですが…。
面白いもので、まだ始めたばかりの初心者のお子さんでも、1台1台に違いがあるということはわかるようなのです。勿論予算がありますので、その点もお店の方に伝えるというのは大事です。そこで押し付けられたら、その店は売り上げを出そうと焦っているので、やめておいたほうがいい。これは高額商品を買う場合はどこでも同じなのではないかなと思います。(先日、義母が仏壇を購入したのですが、仏壇やで強引に売りつけられたので、キレて帰ってきてしまったわ~、という話を聞かされて苦笑した私)
ピアノの場合、先生に立ち会ってもらうのを親御さんがいやがるのは、先生も楽器店とグルになって(言葉は悪いですが)売りつけるのではと思われることがあるからだそうです。私は楽器を売ったところでなにかオイシイ思いをするわけじゃありませんが。ただ、同じ価格帯だったら、より生徒さんに合った、よいものを、気に入って買ってほしいっていうだけのことです。ピアノも1台ずつ違いますからね。その点はフルートと同じです。
>ことなりままっちさん
先生と楽器店の共栄関係(いわゆる“グル”ね)は、ままっちさんのように、何もないクリーンな人もいる一方、キックバックとかお返しとかお礼とか紹介料とか、まあ言い方は色々ですが、その手のものを持っている先生も、実際います。親御さんからすれば、どの先生がお店と、どの程度のその手の関係にあるかは分からないから、そういうことに敏感なご父兄も当然いるでしょうね。
実は私も(職業の性格上)その手の数字を、楽器店とか出版社とかに、持っていたことがあります。ネットなので、具体的には書けませんが、少なくとも私は私腹を肥やすことはしませんでしたヨ。一応これでも、清廉な精神を持ち合わせているつもりですから(笑)。でも、そういうものが、この世にあることは否定しません。またそれで私腹を肥やすと言うと言い過ぎでしょうが、自分のお財布に入れちゃう人がいることも、容易に想像できます。
自分のお財布に入れたら、横領とか汚職とか利益享受とか、言うんでしょ。よくやるよなあ…って思います。
それにたとえキックバックがあったとして、ほとんどの先生は、より生徒に合った、より良いものを、より安く、生徒さんに買ってもらおうとしている事には、間違いないと思います。
なかには、楽器店からのキックバックとは別に、先生に楽器を選んでもらったら、そのお礼を先生に渡すご父兄もいるみたいです。なんかそういう日本の「お礼文化」って、私、なじめません。「お礼」と「袖の下」って違うんだろうけれど、どう違うのか、分かんなくなる時があります。
あ、そうそう、キックバックって、たぶん、世間の人が思っているよりも少ないし…って、少ないのは私だから? かな??