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トスティは三流の作曲家なのか?

 さて、ここのところトスティという作曲家について取り上げている私ですが、なぜトスティを取り上げているのかと言うと、

 1)トスティが好きだから
 2)トスティに関する評伝を読んで興味が増したから

 …という理由があります。ちなみに私が読んだのは、以下の本です。

 資料の乏しいトスティに関する書籍であり、大切な資料本なのですが、書籍としては分厚い事と、お世辞にも読みやすいとは言えない本文構成なので、読み通すにはかなりの覚悟と体力が必要かもしれません。ちなみに、私は一度挫折して、しばらく放置していました(笑)。

 さて、本題に入ります。

 私はトスティが好きです。もちろん人物が好きなのではなく、彼の作曲した音楽作品がが好きなのです。でも、トスティは一般常識的に言えば、無名な作曲家になるんだろうなあ…と思います。学校の音楽の授業でトスティという作曲家について学ぶこともなければ、その作品に触れる事もないでしょう。なにしろ、日本の学校の音楽の授業で取り上げる作曲家は、基本的にドイツ系かつ器楽系かつバロック~ロマン派の作曲家ばかりですからね。

 トスティは、イタリア系で声楽系で近代音楽の作曲家です。

 学校の音楽の授業では、イタリア系の作曲家で取り上げられるのは、ヴィヴァルディぐらいかな? いわゆる“バッハ以前”の時代なので、まだドイツ系の作曲家に有名な人がいないので授業で取り上げてもらえるのかな…なんて思ってます。

 学校の音楽の授業では、声楽系の作曲家で取り上げられるのは、モーツァルトやシューベルトなど、そこそこいますが、皆、ドイツ系だし、器楽作品もふんだんに作曲しているような人ばかりです。授業では、声楽作品ではなく器楽作品で彼らを学ぶ事が多くて「声楽作品も作曲する器楽の作曲家」みたいな位置づけのようです。

 ま、声楽は言葉の壁があるなら、仕方ないよね。

 近代音楽の作曲家は、本当に学校では学ばないもので、リヒャルト・シュトラウスとストラヴィンスキーぐらいしか学ばないんじゃないかな? マーラーですら学校じゃ取り上げないからね。

 とにかく、日本の音楽教育では、イタリア系や声楽系、近代音楽の作曲家は冷遇されていると思います。

 なので、一般人がトスティの事を知らなくても不思議はないし、一般的なクラシックヲタクもドイツ器楽系を中心に楽しむ人が大半だから、トスティを知らなくても仕方ないです。トスティを知っている人と言うのは…声楽ファンで、イタリア歌曲大好きな人たちぐらいです。実に少数派、実にニッチな位置づけです。

 そういう、イタリア歌曲好きな人たちの間でのみ有名なのが、トスティという作曲家なのです。

 で、さらに言うと、そんなイタリア歌曲好きな人たちの間でも、評価が低いのがトスティだったりします。

 曰く「流行歌だからね」「芸術的な深みは無いからね」「技巧的にも簡単だし」…まあ、ハズレではないと思います。

 実際、トスティの歌曲は、20世紀の初頭の流行歌でした。特に英語の歌曲は、その楽譜は飛ぶように売れたのだそうです。商業的に成功した曲を“流行歌”と呼ぶなら、トスティの歌曲は流行歌だと思います。

 私のような愛好家には判断つきませんが、トスティの作品には芸術的な深みが無い…と感じる人が大勢いらっしゃるなら、たぶんそうなのでしょう。でも、芸術的な深みうんぬんの評価は、時代によって変わってくるかもしれないし、少なくともトスティの場合は変わってきたと思います。

 現在の感覚では、トスティの英語の歌曲は流行歌であって、せいぜいミュージカルナンバー程度の作品であって芸術的な深みはないけれど、イタリア歌曲やフランス歌曲は、プロのクラシック系歌手たちも頻繁に取り上げる、普通のクラシック声楽曲という扱いになっていると(私は)思います。でも実は、100年ほど前(つまりトスティの晩年)からしばらくの間は、英語だけでなくイタリア語やフランス語の歌曲も“流行歌”扱いであって“芸術的な深み”など無いと言われていたそうです。それが100年かけて、イタリア歌曲とフランス歌曲は認められるようになったわけですから、これから100年後経てば、トスティの評価も大きく変わるかもしれません。

 技巧的にも簡単…他の作曲家の作品が小難しすぎるだけだと思うし、技術的に難易度の高い事と、音楽作品としての価値は、特に関係ないと思います。ただ、技術的に難易度が高くないと、試験やコンクールでの演奏には向きませんし、試験やコンクールなどで頻繁に取り上げられる作品が、音楽的に必ずしも優れているとも思いません。

 まあ、それもこれも含めて、トスティの21世紀前半における扱われ方は、無名作曲家であり、必ずしも一流作曲家として数えられる事はありません。よくて二流? 無名な事も考え合わせれば、三流扱いされちゃう事もあります。まあ、何をもって、一流二流三流の区別をつけるのかは、書いている私自身もよく分かっていませんが(笑)。

 とにかく、トスティという作曲家は、無名で評価の低い作曲家である事だけは確かです。でも、無名で評価の低い割には、イタリア声楽曲という狭い世界に限って言えば、頻繁に新作CDが作成されるし、コンサートでもよく取り上げられます。おそらく、楽譜の販売だって、昨年新版が出たことからも分かるように、結構売れていると思います。

 多くの歌曲作曲家が、ソプラノのために曲を書いている事が多いのだけれど、トスティは男声、特にテノールに向けて曲を書いている事が多いので、私たち(アマチュアと言えども)テノール歌手にとっては、大切なレパートリーであるのです。

 世間の人たちは、もっとトスティの事を知り、もっと愛して欲しいと思います。

 最後にトスティと言えば…「Ideale/理想」ですよね。

 歌っているのは、ユアン・ディエゴ・フローレスです。ある意味、現役テノールの中では、もっともテノールっぽい声をしている人だと思います。今のスターテノールさんたちは、みんな声が重くて、テノールなのにバリトンっぽい声の人が多いですからね。こういう声は貴重なんだと思います。

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コメント

  1. 名無 より:

    こんにちは。

    突然ですが、この方日本人ですが
    ブログ主さんの声にも、好みにも合致しませんか?

    https://www.youtube.com/watch?v=v-xGvhgwUkc

  2. すとん より:

    名無さん

     うん、そうそう。こういう声は好きだよ。それに歌っている曲もいい感じ。音域的にも私にぴったりな感じだしね。『そのうち歌いたい歌リスト』に加えておきます。

     いい歌を紹介してくれて、感謝です。

  3. ドロシー より:

    トスティのことは、ヴェルディが「良い声楽教師」と言っていますね。
    でも、歌う人の数はトスティの方が多いんじゃないのかなって、思います。
    一般の人にとっては、時々、イタリア料理店のBGMになっているのを聞くくらいではないかな。

  4. すとん より:

    ドロシーさん

     おそらく、同時代の人にとってトスティは“良い声楽教師”という認識だったのだろうと思います。それは、我々にとって(ちょっと古くて申し訳ないけれど)バーンスタインが“凄腕の指揮者”だという認識と同じです。おそらく、100年後の人たちにとって、バーンスタインは指揮者と言うよりも、作曲家として認知されていると思いますので、我々もヴェルディと似たようなモンです。

    >でも、歌う人の数はトスティの方が多いんじゃないのかなって、思います。

     ヴェルディ、難しいからね(笑)。プロも歌うけれど、アマチュア歌手たちは、圧倒的にトスティを歌っていると思います。

     トスティって、知らない人は全く知らないけれど、知っている人には大人気なんだと思います。そういう意味では、マイナーメジャーな存在かなって思います。

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