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日本には“自称バリトン”のテノールが多い

 声種の違いは、何によって区別されるのでしょうか?

 よく市民合唱団等では、その人の、現在出せる声域、あるいは歌える最高音や最低音で決めますが、それは実は間違いで、あくまでも声種は、その人が持つ本来の声色で決まります。これは男声だけでなく女声も同じです。つまり“出せる音域”ではなく“歌声の音色”で決まるわけです。

 つまり、テノールにはテノールの声色があり、バリトンにはバリトンの声色があるので、その音色に合う声か否かで、その人の声種が決められます。

 テノールに求められる声色は、あくまでも軽い声なので、結果的に高音も出しやすく、そのためテノールパートには高音が書かれやすいのです。別に高音が出せるからテノールなのではなく、テノールなんだから高音を出せ!…という事になります(これを間違えてはいけません)。

 とは言え、まだ未熟なテノールは声色がテノールであっても高音は出せません。高音発声とは、訓練のたまものなのです。つまり、最初は誰であれ高音発声なんてできないわけで、そこから訓練とか修行とかを経て、高音を獲得していくわけですから、高音が出なくてもテノールはテノールなのです(この点においては、ソプラノも同様です)。高音が出ないうちは、高音を避けていればいいだけの話で、合唱なら、高音部分は口パクでやりすごすべきだし、独唱なら選曲に気をつければいいだけの話です。

 決して「高音が出ないからバリトン(or アルト)」ではないのです。バリトンでも高音が楽々出る人はいますが、声色がバリトンなら、その人は“高い声の出せるバリトン”なだけで、テノールではありません。とは言え、重いテノールとバリトンの境目は、実は極めてあやふやだったりします(デル・モナコやドミンゴは…バリトンではなくテノールだと思いたい私です)。

 何が言いたいのかと言えば、高音への挑戦を諦めて“自称バリトン”で楽な歌を歌っているテノールが多いのではないか…って事です。

 テノールの声でバリトンの歌を歌うのは、音域的な事だけを考えれば、極めて簡単です。でも、バリトンの声を前提に書かれた曲をテノールの声で歌ってしまうと、それはかなり違うのです。曲の味わいがだいぶ変わってしまいます。

 バリトンは美声の持ち主がなるべき声種であって、軽くて軽薄な声のテノールが歌うべきパートではないのです。

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