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トスティって、本当はヴァイオリニストだったの?

 トスティとは、作曲家のフランチェスコ・パオロ・トスティの事で、その作品は、多くの声楽ファンに親しまれています。彼の作品の大半は歌曲です。歌曲以外の作品も若干作曲しているようですが、ほぼ歌曲専科の作曲家であると断言しても構わないでしょう。なので、歌曲ファン以外にはあまり知られていない、ある意味マイナーな存在なのですが、それでもとにかく(トスティを知っている数少ない)現在の我々は、トスティを“作曲家”として認識しているわけです。

 ではトスティは、キャリアの最初っから作曲家であったのかと言えば違います。意外な事に、彼は学生時代、ヴァイオリンを専攻していたのですよ。つまり、ヴァイオリニストを目指していた音大生だった時代があり、もしかしたら、そのままヴァイオリニストになっていた可能性もある人だったのです。

 でも、ヴァイオリニストとしてのトスティは、学校を卒業するや否やいなくなります。彼のヴァイオリニストとしてのキャリアは、学校卒業とともに終わりを迎える…ってか、彼は方向転換をします。

 一体、何があったのでしょうね? ここは推測するしかなのですが、地元では「俺って、なかなかヴァイオリンじゃあ、イケてるじゃん!」とか思っていたのかもしれません。なにしろ地元では“ヴァイオリンの神童”ともてはやされていたという説もあるくらいですから、田舎のヴァイオリニストとしては、なかなかの腕前だったのかもしれません。でも都会の学校(彼はナポリ音楽院の卒業生です:この学校は現在もあります)に行ったら、自分ぐらい弾ける人なんてウジャウジャいたりするわけで…そんなこんなで、色々と考えるようになったのではないか…と勘ぐる私です。

 とにかく、学校卒業とともにヴァイオリンを辞めてしまったトスティは、最初は田舎に戻って、当時の音大卒業生の定番職業である、地元の教会のオルガン演奏とその教官助手を始めます。

 教会でオルガニストとして働きながら、(彼はピアノやオルガンの腕前もなかなかだったそうです)コツコツと歌曲の作曲を始めたそうです。ここが彼の人生のターニングポイントです。

 数年、オルガニストとして働いたあと、彼は大都会であるローマに出ていきます。オルガニスト時代に作曲した歌曲たちを携えての上京です。ローマに上京してからは、サロンや小さなホールなどで歌う歌手としてキャリアを始めます。声種はテノールです。

 当時はサロン文化がまだまだ健在で、そこで自作のサロン向けの歌曲を歌っていたそうです。また、その時代の流行歌(当然他人の作曲)も歌ったようですが、自分でもドンドン作曲をして、その曲を持って、小規模なツアーなども行っていたようです。結構な人気歌手になったそうです。今で言う、シンガーソングライターのハシリのような人だったのかもしれません。なにしろ、自分でピアノを弾きながら歌っていたそうですよ。つまり、弾き語りをしていたわけです。トスティはかなりの美声であったという説があります。声も良ければ、歌う自作の曲も良かったわけだし、若くて(写真を見る限り)かっこいい青年だったわけで、そりゃあ人気者になるよね。

 人気者になればファンがつきます。彼はサロンを中心に活躍していたので、彼のファンと言えば…上流階級のご婦人方ですね。トスティは、それらの上流階級のご婦人方に歌を教え始めます。やがて上流階級も上流階級である王家(サヴォイア王家)にも出入りするようになり、王家との人脈も得て、ローマの声楽教師として、大繁盛するようになったのだそうです。

 つまり、21世紀の我々はトスティを作曲家であると認識していますが、生前の彼は、もちろん作曲家であったのだけれど、それと同時に学校でヴァイオリンを学んだ、ヴァイオリニストのタマゴであったし、田舎の教会のオルガニストでもあったし、ローマで上流階級のご婦人方から愛されるテノール歌手であり、声楽教師でもあったわけです。

 トスティはヴァイオリニストとして音楽家のキャリアを始めようとした人だったけれど、アレコレ色々な事に手を染めて、最終的には作曲家として後世の人に評価される人になったわけです。

 そんな彼の初期の歌曲を一つアップしておきます。

 「お祝い/L’augurio」という曲です。作品番号1番で、彼が16歳の時の作曲です。音楽院の作曲の授業の課題として作曲されたそうです。ちなみに、当時の指導教官はミケランジェロ・カントーネ先生だそうです。歌っているのは、ウォルター・オマッジョというテノールさんです。

 うーん、曲の出来はまだまだ…かもしれないけれど、あっちこっちトスティっぽいです。、やっぱりトスティはトスティだよね。

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