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私はバリノールじゃない!

 以前の私は、よく事あるごとに自分の事を“バリノール”であるとか“テノリトン”であるとか称してきましたが、それはもう辞めることにします。私は自分をきちんとテノールであると宣言して、今後はそのように頑張っていきたいと決めました。

 ちなみに、バリノールとかテノリトンというのは、声楽俗語であって、バリノールは“バリトン+テノール”、テノリトンとは“テノール+バリトン”の事であって、高い音が出ない(ってか、高音域の上限がバリトン並の)擬似テノールの事を卑下/見下して言う時に使う言葉です。

 似たようなモノにハイバリトン(これば声楽的に正式用語)がいますが、それとは似ても似つかない蔑称です。

 と言うのも、ハイバリトンと言うのが「高音域が得意なバリトン」の事を指し、いくら高音域が出ても、ハイバリトンはバリトンの一種なのです。一方、バリノールとかテノリトンが「高音の出ないテノール」であって、あくまでも“不出来なテノール”に向かって言っているわけですが…さすがに“高音の出ないテノール”なんて、ありえないですよね。

 もちろん、高音は訓練して得るものですから、最初から高音の出るテノールは稀にしかいないわけで、多くの初心者テノールは高音が出なくて当たり前なので、そんなに心配する必要はありません。

 私が自分をバリノールであると卑下してきた理由は、キング先生に習っていた時に、どうやっても高音が出なかったからです。私の声は、間違いなくテノールの声質なのに、高音が出ない。つまり「高音の無いテノール」だから、バリノールと自虐的に称せざるをえなかったわけです。

 なにしろ、キング先生からは「どうやってもテノールの歌は歌えるようにならないから、さっさとバリトンに転向しなさい」と言われ続けてきたし、私があれこれ工夫して高音を出そうとすると「高音発声にはコツなんてない。すとんさんは、すぐに近道をして、ズルをしようとするのがいけない」と言われ「10回やってダメなら100回やる。100回やってダメなら1000回やる。1000回やってダメなら、才能がないんだがら諦める」と言われて、さっさとテノールを諦めろと言われ続けてきたのです。

 でも、私はテノールであると、自分で思っていたので、キング先生の言葉に納得できず、いつまでたってもバリトンに転向しなかったわけで、そういう部分でキング先生の言う事を聞かなかったので、長いこと、いじめられ続け、パシリとしてこき使われてきたんだと思います。

 まあ、あのまま、キング先生のところに居続けたら、本当に私はバリノールという中途半端なままでいたことでしょうね。テノールなのに、必要な高音発声を身につけられないまま、かと言っても、深みのあるバリトンヴォイスなんて出せないまま、おそらく、声楽そのものに嫌気がさして、音楽そのものを辞めていたかもしれない…と思います。

 キング先生のところからY先生のところに移動して、改めて発声を基礎から学び始めました。およそ、キング先生から習ってきた事の、真逆な事を、Y先生には言われ続け、最初は混乱をし、カラダも全然ついていけませんでした。

 キング先生には、最初の2年間をグループレッスンで、最後の3年間を個人レッスンで見てもらいましたが、その間に教えていただいたことが、私のカラダに染み付いていて、それを取り去るのに3年ほどかかりました。キング先生から3年間かけて個人レッスンで習った事をカラダから取り去るために、同じ3年間という時間がかかったわけです。

 癖を身に付けて、それを取り除いて…で、合わせて6年間。最初からY先生に習っていたら…と思うと、発声だけに関して言えば、実に無駄な6年間だったと思うし、人生の大無駄遣いだったと思います。

 今は、キング先生に習ったのとは、全く違ったメソッドによる発声方法で歌っています。高音を発声するにしても、きちんとコツや手順があって、それらをきちんと守って歌うようにしています。

 それこそ…10回やってダメなら、手順を間違えている可能性があるのだから、高音発声に至る手順を見直す。見直してもダメなら、カラダの準備ができていないのだから、しばらく時を置くことにする。決して10回やってダメだからと言って、100回はやらない、100回もやってしまうと、間違った悪い癖が定着してしまうので、かえって高音発声の妨げになる。…そうする事で、全然ダメだった高音が、最近はなんとか歌えるようになってきた事を実感しています。

 キング先生に習っていた時は、せいぜい高音はF#までで、Gはすでに博打状態でした。それが今では、GどころかA♭までは安定して出せますし、Aもなんとかひねり出せます。ラ・ボエームではBを使いますので、今はBもなんとかひねり出しています(これはまだまだ博打状態ですが、結構勝ち目のある勝負をしています)。後は、HやCをひねり出せるようになれば、独唱テノールとしては立派なものですが、すでにAまではどうにかなってますので、合唱テノールとしては必要十分な声になっていると思います。

 ですから私は、自分をバリノールであるとか、テノリトンであるとか、卑下をせずとも良い状態になってきたと思います。

 高音発声には、一定の手順があり、ちょっとしたコツを使うことで、楽に発声できる…この事を教えてくださったY先生に感謝していますし、高音の無いテノールであるために、バリトンに転向せずに済んだことが本当にうれしいです。だいたい、私のような、か細い声でバリトンなんて転向したら、バリトンの人に失礼だしね。

 正しい発声方法を身につける事で、自分の声にあった歌を歌えるようになり、成長を感じることができるようになり、本当に良かったと思ってます。

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