スポンサーリンク

クビを絞めずに跳躍音程を歌え!

 さて、声楽のレッスンの続きです。二重唱のレチタティーヴォに、一区切りをつけた所で、アリアの練習に入りました。モーツァルト作曲の歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」のテノールアリアである「Un’aura amorosa/恋のそよ風」です。

 この曲は、ある一つの発声テクニックさえ身につけていたら、歌うのは楽なアリア…なんだそうです。そのテクニックとは『楽に跳躍音程を歌えるテクニック』です。

 このアリアの肝は、高音への跳躍なんです。これがこの曲の音楽的なテーマであり、聞かせどころなんです。だから、跳躍音程が楽に歌える人には、楽なアリアであり、跳躍音程が苦手な人にとっては、地獄のようなアリアなんです。

 はい、跳躍音程、苦手です(涙)。

 跳躍音程が苦手と言っても、中低音での跳躍音程は、どってことないんです。問題は中音域から高音域への跳躍。具体的に言えば、ド~ソとか、ミ~ラとかの跳躍(上行)音程ね。

 何が難しいのかと言うと、このくらいの跳躍だと、ついついノドに力が入って、ノドが塞がってしまうからです。いわゆる、根性とか気合とかを、ついつい使ってしまうのです。根性とか気合とかを発声で使うと…たいてい失敗します。

 根性とか気合を使わずに、では一体何を使って発声すればいいのかと言うと、腹筋です。声の支えです。

 でも、だからと言って、声をしっかり支えて、狙った音を目指して、一直線に発声するは、ダメなんです。先生曰く「馬鹿なテノールは、みんなそういう歌い方をするんだけれど、そんな歌い方ができるのは40歳まで。だから、若い時に活躍していたテノールが年を取ると歌えなくなるのは、そういう理由なんです」と厳しいひと言。先生がおっしゃるには、元々大した声を持っていなくて、そのために若い時には芽が出なくて、散々発声に苦労して、勉強を重ねて、やっと声が出るようになって歌えるようになったテノールの方が、年齢を重ねても歌い続けられるんだそうです。

 つまり、高音は、若い時は若さだけで歌えるけれど、ある程度の年齢になって若さを失ってしまったならば、テクニックを使わないと発声できないけれど、若さだけで歌ってきた人はテクニックがないので、歌えなくなってしまうって事を言いたいようです。

 私が若ければ、若さで高音を歌っちゃうことも(ひとまず)可能だろうけれど、もはやすでに完璧に若くないので、きちんとテクニックを身につけないと、高音発声は難しいって事です。

 「レチタティーヴォの箇所で、高音を克服したような事を言ってなかったっけ?」

 レチタティーヴォで使う高音と、アリアで使う高音は(私が思うに)ちょっと違います。レチタティーヴォでは高音はあくまで結果であって、聴き手に高音を意識させないように歌わないといけないけれど、アリアでの高音は聴かせどころであって、聴き手に「はい、高音入りました!」と分かるように歌わないといけないのです。

 だからと言って、気合や根性は、もちろんご法度です。

 じゃあ、どーするのか? そこでテクニックを使うのです。

 若いテノールのように、目的とする高音を狙ってスパンと出すのは、なぜいけないのか? それはそんな事をすると、ノドが絞まるからです。クビが絞まると言ってもよいかもしれません。絞まるクビに抗うには体力が入ります。若ければ体力は無尽蔵にありますから、なんとでもなりますが、年寄りは体力がありませんからね。絞まるクビに抗うと、あっという間に体力を消耗して、歌えなくなってしまいます。だから、クビが絞まらないように歌わないといけないのです。だから、高音を狙ってスパンと出しちゃいけないのです。

 では、クビを絞めないように高音を出すには、どーするのか? 答えは『恐る恐る安全を確認しながら高音を出す』んです(笑)。いやあ、年を取ったら、慎重この上ない態度で高音に臨まないといけませんって事です。具体的に言えば、直接目標をスパンと狙うのではなく、迂回路を取って目標にたどり着けばいいんです。俗に言う『声を後ろにまわして出す』って奴です。

 その迂回路を取るのに使われるのが、ポルタメントです。跳躍音程をデジタル信号のように、スパンと目標に向かって一直線に、周囲の音を飛び越えて、ショートカットして歌うからノドが絞まるんです。目標までに存在するすべての音を経由してグルンと遠回りしながら歌うと、ノドが絞まらずに歌えるのです。さらに言えば、一つ一つの音を経由して着地点を探りながら発声していくので、着地間違いも無くなります。もちろん、体力的な問題があって、目標に届かなかったという事はあるでしょうが、そうでなければ、目標にしっかり届かせればいいだけの話になります。だから、目標とする音もしっかりと正しい音程で出すことができるわけです。

 年を取ったら、迂回路を通って慎重に歌う…これが私が取るべき高音ストラテジーってわけです。

 しかし、今まで“年寄りの冷や水”で、狙った高音を気合と根性で歌ってきた(そして撃沈してきた)私にとって、迂回路を通って歌うのは、実に難しいです。慣れない事をやれば、疲れます。なので、今はやはり、迂回路を使っても、このアリアを最後まで歌い切る事は難しいですね。

 本番である発表会当日までに、なんとか迂回路に慣れてしまえば、きちんと歌い切ることもできるんでしょうが…長年身につけた癖を治すのって、大変なんです。

 ですから、今回のレッスンでも、声を迂回路に回す事を重点的にやりました。もう、ヘトヘトですよ。でも、多少はレッスンの効果はあったかな?

 と言うのも、モーツァルトを歌った後で、もう一度、二重唱の練習をしたんですが、モーツァルトで散々迂回路を通ったせいか、二重唱を歌うと、すっご~く楽に歌えたからです。いやあ、迂回路サマサマです。

 今回、モーツァルトを本番曲として、発表会で歌う私ですが、この曲、エチュードとしてもかなりいい感じじゃないかなって思いました。

 蛇足 この日のレッスンはとても身体的にハードだったようで、レッスン直後は全然平気だったのですが、翌日は枕から頭が上がらないほど疲れきっていました。体幹がひどく疲れていて、とてもシンドかったです。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ
にほんブログ村

コメント

  1. のんきなとうさん より:

    ポルタメントですか、なるほど。
    でも、それは「この曲をすとんさんが歌う場合」限定、ってことですよね?

    いきなり高い音の歌い出しが必要な場合もありますから、(曲の先頭にはなくとも、休符の後とか)その場合は前の音がないからポルタメントは使えないですよね。

    まあ、その場合でも目的の音よりずっと低い音からわざと入って上げていくやり方もできますが、あまりカッコよくないです。もともとない音をつけちゃうわけですから。

    先日のレッスンで、出だしからいきなり高い音に入るテクニックのうちの一つを教わりました。いろんなテクニックがあるようです。
    私も若くないので、先生に気遣っていただいてます。

    たぶん、すとんさんもイキナリ高い音を出さなきゃならない曲にぶつかったときは、このようなやり方を先生が教えてくれますよ。

  2. すとん より:

    のんきなとうさん

    >でも、それは「この曲をすとんさんが歌う場合」限定、ってことですよね?

     違うと思いますよ。『椿姫』のライブビューイングで、デセイも似たような事を言ってましたから、最近は普通に使うテクニックだと思いますよ。

    >その場合は前の音がないからポルタメントは使えないですよね。

     うんにゃ、使いますよ。声って、声が鳴る前に息を通すじゃないですか? その声の鳴る前の息の段階でポルタメントをかけるんです。これ、なかなかイメージしづらいですし、私も何度も何度も注意されてますが、息の段階でグウ~ンとポルタメントをかけて、ちょうど目標の音程のあたりで声が鳴るようにするんです。

     昔々世話になっていた合唱系の指揮者の先生が、よく「高音は引っ張って出すんだ」とか「よく被せてから声を出せ」とか言ってました。Y先生とは言い方は違いますが、やっている事は同じだなって思いました。

     要は高音を出すには、声帯の振動数を増やすか、声帯を引っ張って薄く伸ばして出すかの二通りしかないんだろうと思います。で、振動数を増やす方法は若い時しかできないので、引っ張って薄く伸ばすやり方を学んでいるって事なんだろうと思います。

  3. のんきなとうさん より:

    なるほど、「声を出さないポルタメント」ですね。
    そうか、そういうことか。

    先日教わったいきなり高音を出す方法は、イメージ的には「声を出さないファルセットから入る」というものでした。

  4. すとん より:

    のんきなとうさん

     ファルセットを発声している時って、ノドが絞まっているんです。ノドを適宜締めつける事で、擬似的に声帯を小さくして、高音を発声しやすくしているんです。

     なので、ファルセットを出しながら、強制的にノドを開くと、同じ音程のまま実声になります。そうやって、ファルセットから高音を出すやり方もあるそうですが…このやり方は、著しく体力を消耗するので、若い人向けの発声方法なんだそうです。

     マメです。

タイトルとURLをコピーしました