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なぜ、洋銀の良いフルートはないのか?

 フルートには、楽器としてのレベルがあり、それはおおむね価格の差となって現れています。しかし、価格の差は、実は材料費の違いから生じています。なので、フルートの場合、往々にして、材料の違いが楽器としてのレベルの違いだと思われがちです。例えば、洋銀のフルートよりも銀のフルートの方が、銀のフルートよりも金のフルートの方が、より楽器としてのレベルも高いものと思われています。

 でも、それってほんとかな?

 楽器としてのレベルの差って、実はその楽器の設計方針の違いであったり、工作精度の差(職人の腕の差を内包します)であったりするだけで、本来的には材料の違いは、楽器としてのレベルには関係ないんじゃないのかな?

 なのになぜ、銀や金のフルートに比べて、洋銀製のフルートの、楽器としてのレベルが低く扱われがちなのは、単純に洋銀は金属として硬いので、銀や金ほど工作が容易ではなく、従って、工作精度も銀や金ほど精密にはなりづらく、結果として楽器としてレベルが低いものが出来やすいというだけの話です。

 また、フルート以外の金属楽器は、主に真鍮(ブラス)で作られています。その理由は、真鍮は安価で、程よい硬度で精密な工作に耐える素材だからです。なのになぜ、フルートは真鍮で作られないのかと言うと、真鍮が銅合金だからでしょう。真鍮は程よい硬さで工作精度が上げやすい反面、銅が含まれているため、錆びると緑青を発生します。この緑青が、昔は猛毒だと考えられていたので、他の楽器のようなマウスピースを使わずに、直接クチを楽器につけるフルートには適さないと考えられたのかもしれません。

 もっとも、銅合金うんぬんで言ったら、洋銀も銅合金ですから、真鍮と同じ緑青を発生させる金属なんですが、見た目が銅っぽくない事と、全面に銀メッキを施すことが多くて人間を緑青から隔離しているので、フルートの材料として活用されているのでしょう。

 真鍮は程よい硬さの工作しやすい金属ですし、洋銀はパイプオルガンのパイプに使われるほど良い音色を持つ金属です。ともに銅合金ゆえの欠点を持っていますが、メッキをする事で、それらの欠点を克服する事も可能でしょう。また洋銀の硬さも、19世紀ならともかく、21世紀の現代では、優れた工作機械を使うことで、その硬さも克服できるでしょう。

 つまり現代ならば、洋銀や真鍮を用いて、安価に安全で優れたフルートを作る事ができるのです。

 そもそも、現在のフルートが銀で作られている理由は、現代フルートを開発したテオバルト・ベーム氏が「フルートの材料は銀が良い」と決めたからそうなったわけで、19世紀ならば銀がベストチョイスだったかもしれませんが、21世紀の現在は、そのあたりを見直してもいいんじゃないかと思います。

 でも見直さない。いや、見直さないどころか、現代のフルートメーカーさんたちは、銀よりも高価な金や白金などでもフルートを作り始めています。今では、金のフルートは、銀のフルートの上位互換機という地位を確立したかのようです。

 楽器のレベルの違いが、設計方針や工作精度の違いにあるならば、材料の違いは大きな問題ではないはずですし、洋銀フルートよりも銀のフルートが、銀のフルートよりも金のフルートの方が優れているとは、単純には言えないと思います。

 しかし現在、洋銀フルートよりも銀のフルートが、銀のフルートよりも金のフルートの方が優れていると思われているのは、理屈でなんだかんだ言ったところで、事実その通りだからです。

 少なくとも、洋銀のフルートと銀や金のフルートの間に、明確な工作精度の違いがあると言わざるを得ません。つまり、A=B A=C なら B=C になるって事です。

 たとえ事実がそうであっても、ぶっちゃけた話、フルートメーカーさんたちが、洋銀や真鍮を材料とした工作精度の高い楽器を作らなかったり、銀や金を材料として工作精度の低い楽器を作らなかったりするだけの話なんだろうと思います。

 まあ、銀や金を使った工作精度の低い楽器なんて、誰も望んでいませんから作る必要はありませんが、洋銀や真鍮を材料とした、工作精度の高い楽器は、案外需要があるんじゃないかと私は思います。

 安価で良い品質の楽器は、誰もが望むものじゃないでしょうか? それに真鍮を透明皮膜で覆えば“なんちゃってゴールド”に見えるわけで、これはこれで、見栄っ張りさん相手に一定の需要があると思いますけれど…。

 ただあれこれ考えてみたところで、いくら良い品質であっても、安価で販売してしまえば、製造者にとっては利益は少ないでしょう。品物を安価で売るには、それなりに数多く販売して、利益を確保する必要があります。でも、フルートは、スーパーで大根を売るような感覚で、ポンポン売れるわけではなりません。元々フルートって、多く販売できるなんて事を期待しちゃいけない商品なんです。

 おそらく、楽器メーカーが、安価で良い品質の楽器が作れるのに作らない理由は、洋銀で工作精度の高い楽器を作っても、全然ペイしないから、手を出さない…だけなんだろうと思います。工作精度の高い楽器は、それなりに人件費等がかかりますし、この人件費って奴が実に高価なわけで、それに見合う儲けがないと商売として手が出せません。

 そのために、その儲けを確保するために、高い材料を使って、利益を確保しようとするのでしょう。なぜなら、銀や金のフルートって、銀や金の材料費を考慮に入れても、いわゆるジュエリーと比べて、かなりかなり高額に価格設定されているからです。この高めの価格設定の部分に、フルート職人さんたちとジュエリー職人さんたちの、人件費の差額が入っているんだろうと思います。

 まあ、それに、高い材料を使って、販売価格を上げて、利益を確保できるならば、時間をかけて丁寧な仕事ができるというわけで、現状のような、洋銀よりも銀が、銀よりも金の方が、楽器としてのレベルがより高いものを作れる…って事になるわけです。

 でもね、やっぱり、そういう舞台裏の事情は分かるとしても、安くて良い楽器が欲しいわけです。

 日本でフルートの多売をするなら、やっぱり学校の吹奏楽部で購入される事を前提に商品開発をしないといけないわけですが、学校の吹奏楽部は、何と言っても、ヤマハさんの独壇場ですからね。なので、色々と不満はあっても、安くて良いフルートの開発は、ヤマハさんに期待するしかないわけです。

 ある意味、ヤマハのスクールモデルのフルートたちが、現状での、世界最高の洋銀フルートって事になるんだろうなあ。

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コメント

  1. tetsu より:

    こんばんは。

    > 洋銀はパイプオルガンのパイプに使われるほど

    パイプオルガンの作っている過程のTV画像を見たことがあります。ハサミでパイプをジョキジョキ切って音程を取っていましたが、あの感じとか、wikiの記載(どこまでホントかは怪しいですが)錫と鉛の合金、あたりとおもいます。洋銀は最近の銅、ニッケル合金(ヤマハは白銅と呼ぶようになりました)か、19c.のMaillechort(銅、ニッケル、亜鉛の合金)か違いはありますが。
    モイーズは洋銀の楽器しは吹かなかった、というときの洋銀は白銅ではなくて、Maillechortです。

    > 現代フルートを開発したテオバルト・ベーム氏が「フルートの材料は銀が良い」と決めたからそうなったわけで

    ベームのTHE FLUTE AND FLUTE PLAYING(Dover版)を見る限り、見つかりませんでした。

    http://www.boehmflute.com/boehm/artikel4.html
    に要約もありますが、この程度くらいです。ただD.ミラーの注では銀管の重さが330gと今から思えば異様に軽い記載があって、昔試させてもらったベーム&メンドラーもメチャ軽かったです。

    白銅の安価なフルートは初めて楽器を触るのには十分ですし、裾野を広げる、という点では画期的だとおもいます。

  2. すとん より:

    tetsuさん

     パイプオルガンの中に入ると分かりますが、あの中には、色々な材質で作られたパイプがあります。木製パイプ(ってか箱)もあるし、おっしゃる通り、鉛っぽい外見のパイプもあります。ただ、どれもこれも結構硬いですよ。ハサミでジョキジョキ…それはちょっと考えられません。どのパイプもそこまでは柔らかくなかったと思います。少なくとも、ウチのオルガンのパイプは、ハサミではなく、専門の職人さんがやってきて、ネジとかボルトとかで調整してますよ。私は以前、パイプの材質を洋銀(ってかニッケル合金)だと聞いた記憶がありますが、なにしろ私の記憶ですから、あまり当てになりません。今度、職人さんが来たら、パイプの材質について尋ねておきます。

     マイショーも白銅も洋白も洋銀も、それぞれ細かく見ると違うのでしょうし、こだわる方はこだわるのでしょうが、全部ひっくるめて“洋銀”って事じゃダメですか? 総銀フルートと言っても、銀の含有率が違っていても、つなぎで入ってる金属の種類が違っても、みんな“総銀”って言っているようなものです。…って書くと屁理屈か(笑)。ごめん。

     モイーズって伝説のフルーティストで、伝説だからこそ憧れる部分ってありますね。そのモイーズが洋銀のフルートを愛用していたなら、今の我々だって(ってか私は)、そういうきちんとした演奏に使える洋銀のフルートがあったら試してみたいものだなって思うわけです。実際に、録音されて残されたモイーズの音ってチャーミングでしょ? ああいうフルートの音って、私、好きなんですよ。ヤマハのスクールモデルも悪くないけれど、なんか違うような気がするんですよね。なので、総銀フルートの代わりにはならないなあって思ってます。

     ベームの件は…私は学者じゃないです。ただの趣味の好事家ですから、当然、耳学問です。たしか、某フルートメーカーの社長さん(って書くと分かっちゃいますね)との会話の中で出てきた話だと(結構鮮明に)記憶してます。それとも、社長さんは嘘つきで、ベームは銀でフルートを作る事を否定していたのかな?

    >ただD.ミラーの注では銀管の重さが330gと今から思えば異様に軽い記載があって、昔試させてもらったベーム&メンドラーもメチャ軽かったです。

     今のフルートだと総銀で450gぐらいでしょ? たしかに330gなら軽いですね。ヤマハの総洋銀モデルでも400gを切ることはなかったと思います。なぜ、そんなに軽かったんでしょうね? 歴史的な必然性でもあったのかしら? そこらへんも調べてみると、おもしろいですね。

  3. susanou より:

    竹製の和笛の素材は比較的安価なので,材料の価格と音質の相関はほとんどありません。多くが職人の手数料です(有名匠作の付加価値も加わる場合もありますが)。なので,腕のいい職人が多くの手間を掛けたものほどいい笛となり,価格も高くなります。その場合,せっかく多くの手間をかけて作るのだから,煤竹等の高級材を使うということになるので,結果的に高級な竹材のものほど良い笛となってしまいますが。
    木製の横笛やケーナの場合には,木材の価格により製品価格にかなりの差が出ます(一般に硬くて密度が高いほど高級木材)が,高級木材ほど良い音ということは全くありません。柔らかい音が好みの人やシャープな音が好みの人がいて,安い笛の方が気に入る場合もあります。モイーズの例のように要はどの材質の音が好みかということと思います。
    安い材質といえば,樹脂製の笛もありますが,これがバカにできません。なにしろ最高の型で作られており,下手な竹製を凌ぐ良い音がします。
    ただ,人は高級な材質の装飾品ほど愛着を持つように,楽器としての良し悪しとは別の価値を,笛の材質に求める傾向も否定できませんけどね。

  4. すとん より:

    susanouさん

     笛に限らず、モノの値段とは、材料費+工賃+利益となります。工賃って奴が、職人さんの人件費+技術料になるわけです。メーカー製だと、広告費なども工賃に含まれるかもしれません。材料費が安ければ、工賃が価格を左右するだろうし、材料費が高ければ、価格は材料費に比例することになります。

     フルートは、材料費が高いので、材料の違いが価格の違いにダイレクトにつながりますが、その他の笛の世界では、かならずしもそうではないのは、おもしろいですね。価格=職人さんの技術料ならば『高い笛ほど良い笛』という図式が成り立ちます。…が、susanouさんもおっしゃる通り、人には好みというものがありますからね。

     フルートも、洋銀よりも金銀の方が良いと思われていますが、ジャズの世界だと、わざわざ洋銀のフルートを愛用している人もたくさんいます。彼らにとっては、金銀の音よりも、洋銀の音の方が音楽的に、よりしっくり来るんだそうです。そういう需要もあるわけだから、洋銀の良い笛ってのが、あるといいんだろうなあって思うんです。

     ちなみに私、樹脂製のフルート、愛用してます。金属管と比べると、反応がややトロいのが難点ですが、なかなか良い音もするし、これはこれでアリだなあって思ってます。

  5. 小実昌 より:

    昔、1970年代の洋銀の村松はよかったです。唯一の弱点はタンポでした。百回以上は自分で修理しましたが、完璧になったときは素晴らしい音がしました。ドップラーを吹くと、倍音をコントロールしやすいのです。初めは、倍音を含ませて張りのある音で、ラの音になるとだんだんと倍音を抜いていくそういうことができました。音も、安っぽくなく、適度に太く。でもタンポの状態が長続きしないんです。次に三響にしました。なりました。ナガハラさんはSANKYOにいたひとでしょ。でも面白くないんです。なんか楽器に自分がコントロールされているようで。商売で吹くにはいいんでしょうけど。昔の村松の洋銀(頭部菅だけ銀67000円、当時)が懐かしい。
    今の村松はパッドをシンセティックにしてから、音がどうしようもなくなりました。DS買ったけど、失敗でした。音は大きくなったが、安っぽい。
    アルタスも買いました。90万円くらいしましたが。音はいいけど、タンポがどうしようもない。よほどいい職人さんに毎週調整してもらわないと話になりません。フルートはタンポです。そrが私の結論でした。

  6. すとん より:

    小実昌さん

     昔のムラマツは素晴らしかった…とはよく耳にする話です。伝説の部分もあるんでしょうが、良かったのでしょうね。

     アルタスはタンポも含め、すぐに調整が必要になってしまう、割と繊細な楽器であることは、私もよくよく知ってます。アルタスと付き合うなら、マメな性格じゃないとダメでしょうね。調整が不要(と言っていいほど)タフな楽器と言えば、ヤマハですが、ヤマハは試されましたでしょうか?

    >なんか楽器に自分がコントロールされているようで。

     私は、サンキョウよりも、今のムラマツに、そんな感じを抱きます。よく言うと、笛に助けられているとも言えますが、フルートの手のひらの中で踊らされているような感じがするんです。

  7. 河童 より:

    オヤジパワーに物言わせて、中古の洋銀(頭部管銀)を手にいれました。
    日本の某個人制作所ものですが、ハンドメイドです。
    洋銀の良いフルートは個人制作所にあります!
    日本国内だと3-4人ほどいますね

  8. すとん より:

    河童さん、素晴らしい!

    >洋銀の良いフルートは個人制作所にあります!

     そうそう、そういう噂は何度か耳にした事があります…が、私は残念ながら、実物を拝見した事がないんです。でも、洋銀の良いフルートは、きっと軽やかで素晴らしい音がするんだろうなあって思います。

     宝くじが当たったら、洋銀のフルートを注文しちゃうか…って、宝くじが当たったら、洋銀じゃなくてゴールドだろうなあ(笑)。ってか、それ以前に宝くじに当たらないか。

  9. FLFL より:

    すとんさん 

    >宝くじが当たったら・・・
    私も同じこと考えてました [E:coldsweats01]
    やっぱり宝くじ当てたら一度は手にしたい
    ゴールドですよね 全然当たりませんが ( ̄Д ̄;;

    宝くじが当たった暁にはゴールドの他に
    木製フルートもほしいです

    近頃オケのフルート奏者はちらちら木製を
    使っている方がいますね

    金属とは違った音色を是非とも感じてみたいです

    木製でBACHとかバロックやってみたいなぁと思うのですが

    まずは年末ジャンボ ( ̄ー ̄)ニヤリ
    買いました

  10. 河童 より:

    偶然にもオペラと手に入れた洋白とは頭部管の太さがほぼ同じでそのまま差し替えができました。
    同じ頭部管で吹き比べると明らかに音色が異なります。
    洋白は軽やかで、オペラはどっしりと響く感じです。
    元々軽めの音色のマンケやペッカを洋白につけると、軽やか軽やかでビゼーのメヌエットを軽やか且つ艶やかに吹けます。
    逆にどっしりとした音色のをオペラにつけると力強く朗々と響き、これまた最高です。
    頭部管が同じでH(B)フットのリングキーという同じ条件ですから、材質の違いとい言いたくなりますよね。

    その時の気分と曲で使い分ける贅沢ができそうです。
    ますます腕を磨く必要がありますね。
    中年(あぶない、もう中年といえない歳に近づいている)の道楽です。

  11. すとん より:

    FLFLさん

     私も年末ジャンボ買いましたよ。ジャンボは毎回買うんです。必ず当たると信じて買ってますが、未だかつて信じた通りにはなりません。現実は厳しいのです。でも、買わないと絶対に当たらないので、今回もちゃんと買いました。

     ゴールドも欲しいけれど、木管も欲しいですね。クチは一つしかないのですが、宝くじが当たったら話は別です。クチは一つでも笛はたくさんあってもいいかなって思います(笑)。

  12. すとん より:

    河童さん

     頭部管を取り替えるのも確かに楽しいでしょうね。なかなか洋銀の良いフルートが手に入りづらいのですから、総銀のボディに洋銀の頭部管を差してみるのも、確かに面白そうです。

     でも、そうやって頭部管を取り替える楽しみを知ってしまったら、なんか泥沼にはまりそうで怖いですよ。

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