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カストラートに一番近い声って…本当にカウンターテナーなのかな?

 昨日の記事で書いた『ジュリアス・シーザー』を聞いて思ったのは、当時はブイブイ言わせていた、カストラートという声種の事。と言うのも、少年であるセストや宦官であるニレーノの声が甲高いのは、まあ良いでしょう。しかし、成人男性であるチェーザレとトロメオの声が甲高いのは、21世紀の感覚ではちょっとおかしいです。

 まあ、それでもトロメオは悪役だし、コミカルな役回りでもあるわけだから、異形のモノとして、あえて甲高い声を振り分けるという演出方法がないわけじゃないです。特に、メトでトロメオを歌ったクリストフ・デュモーは、発声方法として、ファルセットだけでなく、テノール的な発声も混ぜて歌っていましたので、トロメオという人が甲高い声の男性なんだなって設定が分からなくもないです。

 しかし、すべての声をファルセットで歌い通したディヴィッド・ダニエルズは…正直、キツかったです。この人、インタビューの声を聞いてみると、地声がかなり甲高い人なので、トロメオ役のデュモーのような発声方法でもよかったのに…と思わなくもないのですが…。とにかく、チェーザレの声が、アリアでもレチタティーヴォでも、やたらと甲高いんですね。それもただ甲高いだけでなく、もう、目が眩むほど甲高い。

 まあ、作品に忠実に演じようとすると、それもある意味、仕方のないことなんだろうなあって思います。

 と言うのも、ヘンデルの時代には、今は絶滅したカストラートという声種の歌手がいて、彼らがオペラの主役をやるのが当たり前だったわけです。だから、チェーザレとトロメオ(とニレーノ)の役をカストラートが歌っていたわけです。

 21世紀の現代、カストラートと言う声種の歌手は存在しません。そこで、バロックオペラを演奏する際は、カウンターテナーやメゾソプラノの歌手が、カストラートの役を代行するのは、仕方ないと言えば仕方ないことです。

 そしてバロックオペラでは、主役のほとんどが、ソプラノ~アルトの音域なので、どのアリアも高音ばかりで、アタマがクラクラします。たぶん、音域的には、女声しかいない宝塚のミュージカルよりも、バロックオペラの方が、高音偏在が激しいと思われます。

 おそらく『ジュリアス・シーザー』がオペラ全盛期である19世紀に作曲されたならば、おそらく、チェーザレはテノールが、トロメオはバリトンが、そしてバリトンがやっているアキッラはバスが歌う事でしょう。ニレーノは…やっぱりカウンターテナーかな? でも、バロックの時代の作品なので、アキッラ以外は全員カストラートなんですね。
 
 
 さて、カストラートの声なんて、今生きている人間は誰も聞いた事がないわけです。かろうじて『カストラートの録音』として残っているアレッサンドロ・モレスキが歌ったCDは、私も持っているけれど、彼の声で英雄が歌えるとは、私には到底思えません。

 それにだいたい、モレスキは教会系のカストラートであって、劇場系のカストラートではなかったわけです。今の歌手だって、宗教曲を歌う歌手と、オペラを歌う歌手は、案外きちんと棲み分けされていたりします。もちろん、両方歌いますって歌手もいるけれど、多くの歌手は、宗教曲専門だったり、オペラ専門だったりするわけです。と言うのも、この両者では、発声法も、必要とされる声楽テクニックも、ちょっと違ったりするわけなんです。

 そういう意味では、モレスキの声を聞いた所で、チェーザレやトロメオがどんな声で歌われる事を前提としていたかなんて、現代人である我々には、皆目見当もつかないわけで、どんな声が劇場系のカストラートに必要とされていたかなんて、誰も分からないわけで、だから21世紀の今日、カウンターテナーやメゾソプラノがカストラート役を歌ってもOKなんだと思います。だって、カストラートって、音域的にはアルトと同じだから、カウンターテナーやメゾソプラノの声で、十分歌えるんだよね。

 でもね、確かにカウンターテナーやメゾソプラノでも、歌えると言えば歌えるんだけれど、カウンターテナーやメゾソプラノの声では、英雄や神々を歌うのって…やっぱり変じゃない? 少なくとも、英雄の力強さとか神々の神々しさを歌声で表現するには、カウンターテナーやメゾソプラノの声では、パワー不足だと私は個人的に思います。

 私が思うに、おそらく劇場系のカストラートの声に一番近い歌声は…全盛期のマッテウッツィのような声なんじゃないかなって思います。どこまでも高く、限りなく力強くて軽やかな声。たぶん、そんな声がカストラートの声じゃないかと私は思います。もっともマッテウィツィはベルカント系のテノールであって、バロックは全く歌っていないわけなんだけれどね(笑)。

 ひとまず、マッテウィツィを知らない人のために、YouTUBE画像を張っておきますね。

 マッテウィツィは、レパートリー的にテノールと言う事になっているけれど、彼の声って、どう聞いても、テノールじゃないよね。テノールよりも、一段階、高音域な声だと思います。でも、メールアルトとかの宗教曲的な声ではなく、やっぱり劇場系の声だと思うんです。この声が、我々が耳にできる声の中で、一番カストラートに近い声なんじゃないかって思うんですよ。

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コメント

  1. Velvettino より:

    マッテウッツィ、好きですねぇ。
    3番目に好きなテノール。って順番つけるものではないですが・・・。

    バロック時代にオペラを再演することがあると、カストラートが手に入らない場合カストラートのために書かれた役を女性アルトが歌うことがよくありますよね。
    また初演時も、二流のカストラートしか手に入らないと(製作費が低予算のプロジェクトだったりするのか)、英雄役は女性が歌っているんですよねぇ。

    カウンターテナー、つまりファルセッティストの歴史はカストラートより古いから、バロック時代も彼らは存在していたけれど、オペラの舞台には出てこない。教会オンリーですよね。
    バロック時代の人はいくら外見が男性でも、ファルセッティストを使わず、女性歌手を代わりにしているんです。
    このことから私は、現代で聴くならカウンターテナーより力強い地声も使える女性歌手のほうが、まあまだカストラートの声に近いんだろうと考えています。
    カウンターテナーでOKなら、1599年頃の教皇がカストラートの声に感激して彼らをシスティーナ聖歌隊に入れたりしないでしょうしね。

    ただ、バロック時代のファルセッティストのテクニックより、現代のカウンターテナーのテクニックは進歩しているんだと思いますけどね!

    個人的な趣味ですが、、、
    パトリシア・バードンの声がアルトカストラートのイメージです。
    ついでにやたらと情熱的なバルトリがソプラノカストラートのイメージかな(笑)

  2. すとん より:

    Velvettinoさん

     パトリシア・バードンですか? 今回の『ジュリアス・シーザー』では、もう一人のヒロインであるコルネリオを歌っている人ですね。この人は、本来はカルメンを持ち役にする、花形メゾで、カルメン以外にも『リング』のエルダとか『トロヴァトーレ』のアズチェーナとか、いかにも濃ゆい女声歌手ですが…この人がアルトカストラートのイメージねえ…そう言われれば、そんな気もしないでもないか。パワフルなメゾさんで、そのパワフルさがカストラートのイメージとつながるのかな?

     バルトリがソプラノカストラートってのは、なんか分かる気がします。

     まあ、誰も本当のカストラートの声なんて知らないのだから、何を想像しようと、こっちの勝手と言うところが楽しいですね、妄想の余地ありってのは、うれしい事です。

  3. Velvettino より:

    >すとんさん

    バードンさん、女性の役を歌っているときと、男性の役を歌っているときで、「違い」があるように聴こえませんか!? まあ演技力ってことでしょうけど、同じ作曲家(ロッシーニなど)で比べるとおもしろいです。ブッファとセリアの違いではないかという見方も出来るかもしれませんが、自分は役柄を歌うことで自然に変化が出ていると思うんだなあ。。。

    ちなみに英語版のカルメン、セリフ部分が色っぽくて好きです(英語版なのでレチでなく普通にセリフで言っている)色々聴かれているすとんさんですから、おそらく「ああ、あれね」って感じでしょうが。

    >パワフルさがカストラートのイメージとつながる

    かも知れませんねえ。バルトリも歌い方がパワフルだし。好きなメゾにはほかにテレサ・ベルガンサがいるのですが、彼女に男性高音歌手のイメージはありません。

    でもバードンさんも女性役を歌っているときはそういうイメージはないというのが、冒頭に書いた話です。
    いくらでも語れそうなのでこのへんにしておきます(笑)
    色々な意味で、バロック音楽は自由度の幅が大きいのが魅力ですね♪(と、バロック好きは思っているのです!)

  4. すとん より:

    Velvettinoさん

     私が聞いたバードンは、いずれも女役をやってました。男役は聞いた事ないなあ…。では、と思って、YouTUBEを漁ってみたけれど見つけられませんでした。まあ、それはともかく、役によって歌い方が変わるのが、一流のプロシンガーってもんですから、バードンも娘役と男役では、当然歌い方が違っている事でしょう。

    >バロック音楽は自由度の幅が大きいのが魅力ですね♪

     そうね、そうかもね。作曲家とその作品を楽しむのが、クラシック音楽なら、演奏家とその技を楽しむのが、バロック音楽なのかもしれません。

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