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メトのライブビューイングで『ジュリアス・シーザー』を見た

 最近は、仕事が忙しくて、いつも半病人状態なので、休日は専ら休息に充てています。休息と言っても、ひたすら寝ているだけの、巣籠もり状態なんですけれどね(笑)。とにかく、たとえ近所でも出かけると疲れるので(笑)、なるべく外出は控え気味している私です。おかげで、コンサートにも行かない行かない(涙)。それでも、この世に生きているわけで、最低限の社交はしないといけないので、どうしても顔を出さないといけない場所があったりします。どうせ出かけるなら…と、本来の用事の前に、景気づけにライブビューイングを見てきました。

 しかし、景気づけの前座のライブビューイングに5時間も使って、本来の用事は1時間もかかってないなんて、それってどうよ(爆)。

 とにかく『ジュリアス・シーザー』こと『エジプトのジュリオ・チェーザレ』を見てきました。

 指揮 ハリー・ビケット
 演出 ディヴィッド・マクヴィカー

 ジュリオ・チェーザレ:ディヴィッド・ダニエルズ(カウンターテナー)
 クレオパトラ:ナタリー・デセイ(ソプラノ)
 トロメオ:クリストフ・デュモー(カウンターテナー)
 セスト:アリス・クート(メゾソプラノ)
 コルネリア:パトリシア・バードン(メゾソプラノ)
 アキッラ:グイド・ロコンソロ(バリトン)
 ニレーノ:ラシード・ベン・アブデスラーム(カウンターテナー)

 ヘンデル作曲のオペラなので、いわゆる“バロック・オペラ”って奴です。でも、オケはいつものメトのオケでした。現代オケで古楽をやる時って、やっぱりピッチは…現代ピッチなんだろうか?

 さて、今回のライブビューイング。メトの新演出と銘打っているけれど、実は2005年のグラインドボーン音楽祭で上演したモノと、演出家が同じで、当然、演出もほぼ同じ。出演者も幾人かは重複していて、主なところでは、コルネリアのパトリシア・バードンと、トロメオのクリストフ・デュモーと、ニレーノのラシード・ベン・アブデスラームの三人が同じ。大きな役では、この三人だけれど、黙役などは、まだまだ他にも同じ人が同じ役を演じている可能性は大ですね。

 グラインドボーンの方はDVDとして発売されているので、どうしたって、そちらとの比較をせざるをえません。

 まず配役だけれど、主な役のうち、主役クラスの三人は変更、準主役クラスは続投と言うのが、まず面白いです。準主役の歌手たちを変更していないのは、もしかすると“変更出来ないから”かもしれません。だって、そもそもバロックオペラを歌えるオペラ歌手なんて、少ないし、ましてや、この演出はミュージカル並に踊らないといけないわけで、歌って踊れるオペラ歌手も少ないからね。どうしても、少ない人材の中から出演者を選ぼうと思うと…ダブるのも仕方ないです。ちなみに続投組の方々は、今回がメトデビューらしいです。

 グラインドボーンが2005年で、メトが2013年で、その間に8年もあるわけで、それだけあると、歌手の力もだいぶ変わるわけで、続投組はみな、グラインドボーンの時よりも、ずっと良くなっていました。特に、トロメオ役のクリストフ・デュモーは、歌も演技も、見違えるばかりに良くなっていました。

 変更された主役三人に関して言うと、まず、タイトルロールであるチェーザレだけれど、グラインドボーンのチェーザレは、メゾソプラノのサラ・コノリーでした。

 女性であるコノリーがチェーザレ、つまり50過ぎのオッサンを演じていたわけで、いくら音楽的に適任であると言っても、オペラは見かけもある程度は大切なわけです。たしかにコノリーは女性としては容姿に難アリの人で、衣装を着てメイクをすると男性にしか見えないのは立派だけれど、やはり女性は女性であって、どこかに宝塚的な“男装の麗人”っぽさが残るわけで、女性が中性的な少年を演じるならともかく、いかついオッサンを演じるのは、色々と厳しいわけです。

 その点、メトのチェーザレは男性であるディヴィッド・ダニエルズ(リアルなオッサン)が演じるわけで、その方が見ていて安心できます。ただ…純粋に歌手として考えた場合は、ダニエルズよりもコノリーの方が数枚上手で、安定感があって良いんですよ。つまり、歌を取るか、外見を取るか…なんですね。まあ、グラインドボーンのような目の肥えた観客を相手にした公演なら、歌を取るべきだろうけれど、庶民の方々もオペラを楽しむメトの場合は、外見を重要視しないといけないからね、コノリーを使うわけには行かなかったんでしょう。

 ヒロインのクレオパトラについては…メトのナタリー・デセイは、すごく良く頑張っていたと思います。最高のクレオパトラを歌い演じていたと言えます。実に素晴らしい。

 でもね、クレオパトラって“若くてセクシーな女性”という設定なんです。いくらデセイが素晴らしくても、アラフィフである彼女をハイヴィジョン撮影して、アップのシーンを映画館の大画面で見れば…どう見たって“若い女性”には見えません。補正下着の着用はバレバレだし、顔に刻まれたシワは隠せないし、腹部に波うつ脂肪の段々だって隠せない。ああ、ハイヴィジョンって、ほんと、残酷だなあ…。

 本来、オペラって舞台のモノだし、舞台なら遠目ですから、デセイの演技力で“若い女性”を演じる事は可能ですが、映画化のために、ハイヴィジョンで大画面でアップだと、演技だけでは隠しきれないものが写ってしまいます。

 一方、グラインドボーンでクレオパトラを演じたダニエル・ドゥ・ニースは当時25歳。リアルに若い女性だし、美人だし、スタイルいいし、実にセクシーだし、歌唱力だって演技力だって踊りだって標準以上なわけで…いくらデセイびいきの私でも、クレオパトラに関しては、ドゥ・ニースを、捨てるわけにはいきません。

 しかし、二幕のクレオパトラとチェーザレのベッドシーンでのお芝居は、ドゥ・ニースとコノリーの時は「???」だったけれど、デセイとダニエルズでは、実にすんなりと納得でき、それどころか数ヶ所でクスリと笑ったものです。ドゥ・ニースの演技力は標準以上だけれど、デセイの演技力はトップレベルだからね…比較してしまうとドゥ・ニースは厳しいわけで…、若さと美貌のドゥ・ニースか、演技力とカリスマ性のデセイかってところでしょうね。

 ああ、どっちのクレオパトラが良いのか…なかなか軍配を上げられません。

 ストーリー上の実質的な主役であるセストは“青年になりかけの少年”なので、この役は、ズボン役が確かに相応しいと思います。で、メトのアリス・クートと、グラインドボーンのアンゲリカ・キリヒシュラーガーですが、歌や演技力では、はっきり言ってドッコイドッコイですが、外見的には圧倒的にグラインドボーンのキリヒシュラーガーに軍配を上げます。と言うのも、キリヒシュラーガーのセストは、オトナになりかけているハングリーな少年なんですが、クートのセストは、肥満体のお坊っちゃまなんですよ。あんな、デブでユルイ男の子が敵討ち? そりゃあムリでしょ?って感じです。

 でも、クートはメトのズボン役ではレギュラー的な存在の歌手なので、彼女を使うというのは劇場の判断なのかもしれません。と言うのも、メトには、彼女の固定ファンがいるはずだし、彼女の固定ファンは、同時に劇場の固定ファンでもあるわけだから、そういう歌手を起用することで、おなじみさんを劇場に呼ぶ…ということも必要なんでしょうね。

 あと、黙役と言われる、歌わずに演技だけする出演者が、このオペラにはたくさん出てきますが、その人たちの演技は…メトの方がずっと良いです。いやあ、ほんと、小芝居が多くてね、あっちこっちでクスっとしてしまいました。

 小芝居と言えば、歌手たちの小芝居もメトの方がたくさんありましたね。特に、デセイの小芝居はすごかったですよ。他の歌手が歌っているそばで小芝居をかましているんですが、その小芝居がすごく上手なので、ついつい歌っている歌手じゃなくて、デセイの小芝居の方も見ちゃうんですよ(カメラも歌っている本人ではなく、デセイを写していますしね:笑)。デセイの演技って、歌やセリフがなくても、十分に人を惹きつける魅力があるんですよ。

 それにしても、面白いオペラでした。音楽的には、どの曲もヘンデルで、ある意味、ワンパターン(爆)。でも、どの曲も大曲だし、魅力的。規模的には『メサイア』と同じくらいの大曲になりますが、一曲一曲が『メサイア』よりもずっと良いので、音楽的な楽しみは、こちらの方が上です。おまけに、この演出では、どの曲もダンスが付き物だし、それをレチタティーヴォでつないでいくわけだから…そういう意味で、実にミュージカルっぽいオペラでした。

 主役のチェーザレの声種がカストラートではなく、テノールだったら、現代の普通の音楽ファンにも薦められる、良作オペラだと思いました。と言うのも、やっぱりカストラートの役って、現代人にはハードル高いですね。私も最後までチェーザレの声の甲高さには違和感を感じたままで、脳内で低く変換してました。だって、チェーザレって英雄なんですよ。その英雄がオネエじゃあねえ…。文化の差とは言え、なかなか受け入れられないってもんです。

 終曲は(死んだ人も含めて)登場人物が全員出てきて、大合唱をするわけだけれど、このオペラのキャストって、アキッラがバリトン、クレオパトラがソプラノだけど、その他は全員、音域的にはアルトなんだよね。うわー、合唱的には、すごくバランスの悪い合唱だこと(笑)。

 しかし、ヘンデル作曲の『ジュリアス・シーザー』ってオペラ、ワーグナーのオペラ並に長いオペラだけど、その長さなんて、ちっとも感じないくらいに面白いオペラでした。特に今回の場合、演出の素晴らしさもあって、本当に楽しかったです。

 …ところで、このオペラって、喜劇なんだよね?

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