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メトのライブビューイングで「エフゲニー・オネーギン」を見てきました

 車椅子同伴で、横浜まで出かけて行ったのですが、いやあ、大変でした。なにが大変って、移動が大変でした。JRにしても、みなとみらい線にしても、職員の方々は親切で丁寧なんですが、だから楽に移動できると言ったら、それは嘘になりますね。

 とにかく、エレベーターに乗るのが大変でした。すぐそばに階段とかエスカレーターとかがあっても、そちらを利用せずに、エレベーターを利用される一般の方が多くて、なかなか車椅子の我々まで順番が回ってきませんでした。これって東京や地元では見られない現象なので戸惑いました。横浜の人って、本当にエレベーターが好きなんだなって思いました。

 まあ、たしかに駅に設置されているエレベーターは、障害者や怪我人、老人やベビーカーの人のためだけにあるわけではなく、大きな荷物を持っている人や、コロコロの付いたスーツケースの利用者や、外見からは分からない怪我を負って徒歩に困難をかかえた人や、階段を降りるにも支障があるほどに疲れ切った方や、大きな理由はないけれどとにかくエレベーターが好きな方が利用しても、一向にかまわないはずです。

 でも、問題は状況の問題であり、程度の問題でしょ?

 すぐそばの階段やエスカレーターを使えば、15秒かそこらで行ける場所に、数分待ってもエレベーターを使おうとする行動原理が、私には分かりません。それも、自分の後ろに老人や数台の車椅子やベビーカーの人たちが並んでいるにも関わらず、その列の中に(少なからずの人数の若くて健康そうな方々が)混じっているんです。

 別にエレベーターを利用するなと言っているのではありません。こういう混んだ状況の中では、若くて健康な方は、すぐ側のエレベーターや階段を利用すれば、本人も速く移動できるし、他の人も速く移動できるわけでしょ。こういうターミナルでは速く移動したい人だらけのはずです。なのに、ほんのちょっとの手間を惜しんで、時間をたっぷり使う事で、そのエレベーターを利用するしか選択肢のない人たちの時間が浪費されるのが、ちょっと納得いかないです。

 それが一度ならずも二度三度となると、さすがにブログでグチもこぼしたくなります。

 横浜駅の改札を出るまでは、比較的快適に移動できましたが、横浜駅の東西自由通路からみなとみらい線の改札のあるフロアに移動するまで十数分かかり、改札からホームまでのエレベーターで五分近く待ち、ホームで電車を2本見送って(相手駅の準備が間に合わないからという理由で待ちます)、電車に乗って降りて、今度はホームから改札のエレベーターまで十数分(…もっと待ったかも)待ち、改札から地上までのエレベーターでも十数分待ち、結局、横浜から映画館最寄りの駅まで小一時間かかりました。歩けば(いつもは歩いているんです)10分程度の距離なのですが…。

 ほんと、車椅子だと、移動に時間がかかります。電車に乗っている時間は少なくとも、移動に本当に時間がかかります。時間がかかると、単純に疲れます。

 ちなみに、帰りは、エレベーターでの待ち時間を回避するために、いつも徒歩で来る道を、車椅子を押して帰りました。さすがに徒歩同様に約10分で移動…ってわけにはいかず、15分程度はかかってしまいましたが、それでも電車に乗るよりも、楽に早く移動できました。

 しかし、車椅子を15分も押して移動するのって、結構な運動量なんですよ。薄ら寒い日なのに、額に玉の汗をかいてしまうくらいの運動量です。もう、秋も深いのに汗まみれで、ちょっとみっともないくらいです。

 何をするにも、健康第一だと思いました。

 さて、肝心のライブビューイングの感想に移りましょう。

 今回の演目は、チャイコフスキー作曲の「エフゲニー・オネーギン」でした。いわゆるロシアオペラって奴です。

指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:デボラ・ワーナー

タチヤナ(ソプラノ):アンナ・ネトレプコ
エフゲニー・オネーギン(バリトン):マリウシュ・クヴィエチェン
レンスキー(テノール):ピョートル・ベチャワ
オリガ(メゾソプラノ)オクサナ・ヴォルコヴァ

 ロシアオペラって、イタリアオペラと比べると、ストーリーがちゃんとしているものが多く、芝居としてもきちんと成立しているものが多いのが特徴です。その反面、アリアにイタリアオペラのアリアのようなカタルシスを求めていると肩すかしを食らいます。

 「エフゲニー・オネーギン」はチャイコフスキーの作品だけあって、どこを切っても、メロディーが美しいですね。合唱もあっちこっちで活躍する場があり、舞曲も見事でオーケストラの見せ場もたくさんあります。低音歌手たちの活躍の場も多く、そういう意味では、実に音楽的なバランスの良いオペラだと思います。

 今回のメトの「エフゲニー・オネーギン」ですが、まず、演出が良かったと思います。最近のメトは、ヨーロッパの歌劇場の影響を受けてでしょうか、新演出版となると、奇抜なモノが増えていましたが、今回のものは、新演出版に関わらず、実にオーソドックスな演出で、見ていて素直に物語に入り込めました。やはり、演出が奇抜だと、物語に入り込むのが難しくなるので、こういうオーソドックスな演出は大歓迎です。

 オケはいいですね。ゲルギエフが指揮をしている事が関係しているかどうかは分かりませんが、メトのオケがいつになく、粘る音で演奏してます。この粘り具合が、なかなか良い感じです。イタリアオペラ向きの音ではないのですが、こういうストーリー重視のロシアオペラには似合う音なのかもしれません。

 さて、歌手の話をします。

 まず、声を大にして言うべきは、ネトレプコの素晴らしさです。

 実は私、アンナ・ネトレプコという歌手をきちんと評価していませんでした。美しいだけで、歌はまあまあの張りぼて系の人気先行方の歌手としか思っていませんでした。それは、たまたまだったのかもしれませんが、私が見てきたネトレプコ主演のオペラが立て続けに残念だったからかもしれません。

 今回のネトレプコは、まあまあどころの騒ぎではありません。実に素晴らしかったです。ネトレプコには、このタチヤナ役は、はまり役ではないかと思われるほどに素晴らしかったです。第1幕の手紙のアリアなんて、鳥肌モノでしたからね。うん、実にネトレプコは良かったです。第3幕のタチアナなんて、ネトレプコ以上にできる歌手は、そうそういないと思います。それくらい、見事でした。

 まあ、そんなネトレプコですが、文句がないわけじゃないです。

 宣伝に使われている彼女の写真と、メトのライブビューイングで見る動画の彼女。ほぼ、別人です(笑)。

 写真は、特別に美しく見えるものばかりをセレクトしているからでしょうし、モノによってはフォトショだって使っているのでしょうが、それにしても動く彼女との違いには、ほんと、ビックリです。ネトレプコも40歳を過ぎたロシア女性ですからね、ビア樽体型になっても不思議じゃないのに、むしろあの程度で収まっている事の方がビックリなのかもしれません。

 そろそろ、回りのスタッフも彼女の美しさをウリにするのは止めた方がいいんじゃないかな? むしろ、貫祿のあるセクシー系の歌手として売った方がいいんじゃないかな? 実際、ネトレプコも40過ぎて若い娘役もキツいし(実際、第1幕のタチアナは、歌はともかく、ビジュアルは相当にキツかったです)、成熟した女性役の方がいいんじゃないかな? 美しさよりも、色気だと思うよ、今のネトレプコのウリは。

 オネーギン役のクヴィエチェンの悪役っぷりはなかなかでした。インタビューでは「今回の演出では、オネーギンのダメ人間ぷりは抑えて演技してます」って言ってましたが、どうしてどうして、オネーギンのダメっぷりに、私は感動しました。そうそう、オネーギンって、これくらいに心が冷たくて、変人で、自分勝手な奴なんですよね。若いタチアナの心を折り、レンスキーをからかったあげくに殺してしまうほどにね。

 オネーギンがダメな人間であるほど、第三幕でタチアナに振られるのがカタルシスになるわけです。なので、オネーギンは、もっともっとダメ人間でも良かったくらいです。

 一方、レンスキー役のピョートル・ベチャワも良かったですね。テノールって、たいていのオペラでは主役クラスで色々と大変で、でもその見返りとしてアリアも大きなアリアが与えられるのですが、このオペラでのテノールは脇役なのに、あんなに甘美なアリアが与えられるなんて…いい感じですね。こういうオペラが他にもたくさんあると、いいのにね(笑)。

 このオペラは三幕モノなのですが、場が変わるたびに緞帳が降りて、時間をかけて場面転換をしているので、実質上は七幕モノって感じです。しかし、どうして、このオペラでは、場面転換にあんなに時間をかけるのかしら? メトって場面転換に時間をかけないでスムーズに劇を進行できる歌劇場でしょ? 通常の作品の場面転換なら、舞台を回転させたり、大道具が左右から出入りして、あっと言う間なのに、この作品に関しては、ほんと、時間をかけて場面転換してました。

 何か演出上の理由があったのだと思いますが、待っている側としては、もっとオペラをサクサクと進めてもらいたいかなって思いました。

 とにかく、今回のメトの「エフゲニー・オネーギン」は、ネトレプコを見るための公演だと私は思います。ネトレプコファンも、かつての私のようなアンチの人も、このオペラは一見の価値があると思いますよ。これを見なけりゃ、ネトレプコというソプラノに関して、きちんとした評価は下せないと思います。それくらいに、ネトレプコの良いところがたくさん出ている演奏だと思います。

 それにしても、今シーズンのメトのライブビューイングは全部で10作品。ざっと見ると、かかっている演目が、ちょっとマニアックな感じがするのは、私の気のせい?

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コメント

  1. 椎茸 より:

    ネトレプコって、声がもっさりしているように感じられて、あまり好きではないのですが、そんなに良かったとあっては、確認してみたいです。
    ロシアオペラってみたことがないですし、この機会に観てみたくなりました!

  2. すとん より:

    椎茸さん

     確かにネトレプコの声って、もっさりしている感じがするかも…。今回だって、声質そのものは変わりませんよ。ただ、あの声は、タチアナという役にはあっているかもしれません…って思いました。ま、私はどちらかと言えば、ネトレプコに対しては、アンチの側にいる人間ですが、そんなアンチな私でも、今回のネトレプコは認めます。まあ、それくらいに、役にはまっていたって事です。

    >ロシアオペラってみたことがないですし、この機会に観てみたくなりました!

     イタリアものとも、ドイツものとも、フランスものとも違う、独自の様式と世界観を持ったオペラ群ですよ。とにかく、低音が頑張るんです(笑)。

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