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メトのライブビューイングで「椿姫」を見てきました

 先日、メトのライブビューイングで新演出の「椿姫」を見てきました。

 演出が全く変わりました。「椿姫」の時代設定は、このオペラが作曲された当時…つまり、このオペラは現代劇なんです。なので、舞台化する際の時代設定としては、

1)オリジナルの時代設定である19世紀に設定する
2)現代劇である点を重視して、上演される時代(つまり、今)に設定する。

 の、だいたい2通りが考えられるのですが、今回の演出は、時代設定を18世紀に設定したのだそうです。つまり、通常の演出での時代設定とは逆ベクトルの、時代を思いっきり遡上した設定なのですが、これがいいんですよ。

 なぜ、18世紀の時代設定が良いのかと言えば、舞台が華やかで豪華になるからです。舞台って、原則的に、時代設定が、昔に遡れば遡るほど派手になり、逆に、現代に近づけば近づくほど、日常的になって地味になるものです。

 なので「椿姫」の時代設定が100年遡れば、それだけあれこれ派手になるんです。これ、大切です。だって「椿姫」って、パリの社交界のお話であって、なるべく豪華絢爛で夢々しい事が大切じゃないですか?

 時代が古めに設定されるとあれこれ派手になる…具体的に言うと、衣装が派手になります。装飾やら刺繍やらが派手派手になります。小道具も細かな細工の入った派手なモノになります。大道具(舞台装置)だって何やらゴテゴテと絢爛になります。良いでしょ?

 ただ、そうやって派手派手になると、お金がかかります。昨今のオペラハウスはどこも金欠だし、歌手たち(とりわけスター歌手たちの)ギャラは、本当に高いものです。なので、どこもなるべく経費をかけないようにオペラ上演をしたがります。まあ、その結果、オペラの舞台が現代に近づけられてきた(その方が経費が掛からないからね)わけです。

 例えば「椿姫」は3幕ものですが、場面としては4箇所あります。本来ならば、4つの大きくて豪華なセットが必要だし、それに合わせた舞台衣装も必要です。合唱が使われるので、合唱団のメンバーの衣装だって必要だし、衣装に合わせてカツラも必要だろうし、小道具だって…となるわけです。

 そこで、おそらく費用削減のためでしょうか? 今回の演出では、基本的な舞台セットは一つだけで、それらを多少アレンジすることで、4つの場面を表現しています。

 とは言え、基本的には一つの舞台セットですから、舞台中央にあるヴィオレッタのベッドは、最初っから最後まで、ずっと出っぱなしです。左奥にあるピアノも出っぱなしだし、右側にあるソファセットも出っぱなしなので、気になると言えばなります。

 そうやって舞台セットを一つにして、大道具にかかる費用を削減した分、衣装は凝っているようで、合唱団員まで含んで、皆さん、派手な衣装を着ていました。やっぱり、オペラはこうでないとね。少し前までメトで上演していた演出(デッカー版)だと、大道具も簡素だったし、衣装もヴィオレッタ以外は、黒の普段着っぽい衣装で、本当に地味な舞台でがっかりしたものです。

 まあ、昔々のゼッフィレッリが演出した派手派手な舞台には太刀打ちできませんが、今回の演出は、なかなか頑張っていて、私は大変気に入りました。

指揮 ヤニック・ネゼ=セガン
演出 マイケル・メイヤー

ヴィオレッタ ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)
アルフレード ファン・ディエゴ・フローレス(テノール)
ジョルジョ・ジェルモン クイン・ケルシー(バリトン)

 演出以外の話をすると、今回の公演が、メトの新音楽監督である、ヤニック・ネゼ=セガンの、初制作作品なんだそうです。

 ネゼ=セガンって、まだ42歳なんだそうです。若いね。ぜひ、メトに新しい風を吹き込んでほしいと思います。それにしても、ネゼ=セガンの指揮って、揺らすねえ…。これは好き嫌いが出るかも…私は好きだけれど、これをあざといと受け取る人もいるかもねえ…。

 歌手の皆さんは、頑張っていましたね。ヴィオレッタを演じていたダムラウは、歌はもちろん、演技も相当頑張っていました。ただ、1幕のアリアの最高音のEsは回避していました(残念)。それ以外は、ほぼ満足です。

 テノールのフローレスは…声が全然ヴェルディっぽくなくて、好き嫌いが分かれそうです。彼の声だと、アルフレードは情熱的な青年ではなく、偏執的な青年に感じられてしまうのですよ。フローレスがインタビューで「アルフレードは、いわゆるストーカーでしょ」と発言していますし、まあアルフレードには、確かにそういう部分もあるけれど、そこが強調されてしまうと、ちょっと違うかなって思うわけです。フローレスの甲高い声だと、アルフレードの、恋に狂った部分ばかりが強調されてしまうわけで、いわゆる従来よくある熱血漢で単細胞なアルフレードを求めている人には「???」な声だなって思いました。

 私の個人的な感想で言えば、フローレスは大好きなテノールだけれど、アルフレードは…無いなあって気がしました。まあ、好き嫌いの問題です。

 父ジェルモンは…普段よく聞く「椿姫」とは、あれこれ違っていたような気がします。おそらく、使用した楽譜が違うのかな? バリトンパートは、従来版とは、あれこれ違って聞こえたんですよ。もし、違う楽譜を使ったのなら、バリトンさん、ご苦労さまでした…って感じです。テノールも若干違っていたけれど、あれはたぶんアドリブだな(ぼそっ)。

 バレエは…ダンサーたちの化粧がグロかったけれど、バレエそのものはダイナミックで、好きだな。合唱はいつもながら、メトの合唱はすごいなあって思いましたよ。あと、ビックリしたのは、黙役だけれど、アルフレードの妹が舞台に登場した事。色々な「椿姫」を見たけれど、妹が登場する舞台は、これが初めてかもしれない(汗)。

 メトの演出は、一時はよその歌劇場と同じく、現代化の方向に走っていましたが、昨年あたりから、かつてのメトの演出同様、古典的な演出に戻りつつあるのは、私的にはうれしいです。やっぱりメトは、保守的で、初心者に優しい演出でお願いしたいです。濃いめのファン向けの尖った舞台は、ヨーロッパの歌劇場にまかせてくれた方がいいと、私は思うのでありました。

 ただの私のわがままなんだけれどネ。

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