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すとんが薦める初心者向けオペラ その9「ウエスト・サイド物語」

 さてさて、昨日はオペレッタを薦めた私ですが、今日は…ミュージカルをお薦めしたいと思います。良質なミュージカルを入り口としてオペラに突き進むのもアリだと私は思っております。

 という訳で、数あるミュージカルの中から、オペラの入り口になりうるミュージカルとして、私がお薦めするのは、バーンスタイン作曲の「ウエスト・サイド物語」です。

 お薦めディスクは…これしかないでしょう!

 はい、映画版の「ウエスト・サイド物語」です。この一択です。

 ストーリーは“ロミオとジュリエット”です。実はこのミュージカル、ロミジュリの舞台を1950年代のニューヨークに置き換えた翻案ものなんですね。つまり定番ストーリーって奴です。

 ニューヨークの下町にあるウエスト・サイド地区は、移民が多くて、いつも何かと騒ぎが絶えない地区である。特に、イタリア系移民のジェット団と、プエルトリコ系移民のシャーク団の二つは、いつも何かと張り合っては騒ぎを起こしていた。

 シャーク団のリーダのベルナルドは、副リーダーのチノの結婚相手として、自分の妹のマリアをプエルトリコから呼び寄せ、自分の恋人であるアニタが働くブライダルショップでバイトをさせていた。

 ある日、マリアはベルナルドに連れられて、ダンスパーティーに出かけ、そこでトニーと出会い、お互いに一目惚れをする。

 トニーはイタリア系移民の子で、ジェット団の元リーダー。つまり、マリアの兄のベルナルドが率いるシャーク団の敵対勢力の元親玉というわけだ。もっとも、今は更生して、コンビニでバントをしていたトニーであった。

 そのダンスパーティーでちょっとしたイザコザが起こり、二つのグループは、後日“決闘”をする事を決める。しかしそこに居合わせたトニーが、決闘では互いに武器などを使わずに、団を代表してリーダー同士が素手で一対一で闘って勝負をつける事を約束させる。

 しかし、この話を聞いたマリアは、たとえ素手であっても決闘は良くないことだと思い、なんとしてもこの決闘を止めさせて欲しいとトニーに頼み込む。それを承知したトニーは、急いで決闘を止めにかかる。

 まさに決闘が始まろうとしたその瞬間、トニーが両者に割って入って、決闘を止めにかかる。しかし、トニーが決闘に加わった事で、パワーバランスが崩れ、シャーク団のベルナルドがナイフを抜く。それを見たジェット団の現リーダーのリフもナイフを抜く。やがて素手ではなく、ナイフで戦う両者。ベルナルドのナイフが自分の後輩であるリフの胸に刺さるのを見たトニーは、その瞬間我を忘れて、リフのナイフでベルナルトを刺し殺してしまう。

 ベルナルドを殺され、悲しみにくれるシャーク団。マリアの許嫁であり、団のナンバー2であったチノは、銃を懐に入れて、ベルナルドの仇を取るために、街に飛び出してトニーを探し始めた。

 一方、自分の罪の重さを思い知るトニー。自首する事を決意し、その前にマリアに会いに行く。その姿を見たマリアは、トニーに駆け落ちを持ちかける。愛しあう二人の恋人たち。そこにアニタが入ってきたので、トニーは逃げ出す。アニタはチノが銃を持って飛び出した事をマリアに伝えた。そこへ、ベルナルドの殺人事件の件で、警察がマリアへの事情聴取にやってきた。チノが探している事をトニーに伝えなければ…しかしマリアは警察に身柄を拘束されてしまう。そこで、マリアは自分の代わりに、チノの件をトニーに伝えるようにアニタに頼む。マリアの真剣な思いに打たれ、しぶしぶ引き受けるアニタ。

 マリアの願いを聞き入れ、一人ジェット団の根城に行くアニタ。しかし、シャーク団の女であるアニタが行ったところで、トニーには会わせてもらえず、ジェット団の連中に弄ばれたアニタはつい「マリアはトニーのせいでチノに殺された」と嘘をついてしまう。

 その嘘を真に受けたトニーは、自分など生きていても仕方ない、これならチノに殺された方がマシだと思い「殺してくれ」と街中を叫びながらチノを探しまわる。そこに死んだはずのマリアが現れ、互いに駆け寄った時、チノの弾丸がトニーを撃つ。マリアの腕の中で死ぬトニー。

 ストーリーとしてはこんなものです。

 この「ウエスト・サイド物語」は、作曲者であるバーンスタインはミュージカルではなく、オペラとして完成させたかったのだそうですが、どうしてもフィナーレを音楽で書くことできず、セリフ劇のままにせざるをえなかったのだそうです。フィナーレがセリフ劇のオペラなんて存在しないわけで、そこでバーンスタインは「ウエスト・サイド物語」のオペラ化を諦めたそうですが…映画版では、そのフィナーレは、きちんとトニーとマリアの二重唱で締めくくられています。

 バーンスタインは晩年「ウエスト・サイド物語」の決定稿を書き下ろしますが、その際にもフィナーレは、映画のような音楽劇にせずに、セリフ劇のままにしたので、今でも「ウエスト・サイド物語」はオペラではなく、ミュージカル作品とされています(映画版を踏襲しなかったとは、バーンスタインも頑固だね)。しかし、バーンスタインの死後、彼の決定稿を元に、このミュージカルはオペラ劇場でオペラとして上演される事も増えました。有名どころでは、2000年にスカラ座で上演したそうです。また、近年では決定稿に基づく全曲盤が、オペラ歌手たちによって録音もされています。

 と言うわけで、YouTubeを漁ったところ、こんなモノを見つけました。

 コジモ・パノッツォというテノール歌手が歌っている「マリア」です。彼が歌っているのは、映画版の「マリア」でなく、決定稿による「マリア」です。調性と一部のメロディーが映画版とは異なっています。実は、映画版の「マリア」なら私でも歌えますが、この決定稿の「マリア」は難しすぎて歌えません。いや、この曲に限らず、決定稿では各ソングやアンサンブルが、映画版よりもずっと難易度が上がってます。映画版は初演当時の舞台版の楽譜を元にしていて、ミュージカル作品として当たり前の難易度(つまり歌って踊ってが可能なレベル)の曲なんですが、決定稿の方は、まるでオペラ作品のような難易度(歌に集中しないと歌えないレベル)なんですよ。なので、音楽的には、決定稿による演奏の方が聞き映します。ちなみに最近の舞台では、決定稿で上演するケースがほとんどなんだそうです。いやあ、ミュージカル俳優さんたちも、大変だなあ…。

 しかし、このコジモ・パノッツォというイタリアのテノール歌手、なかなかの美声でイケメンですが、一体何者なんでしょうね。

 さて、夏の連載も今回で終わりです。明日からは通常運転に戻りますので、よろしくね。

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コメント

  1. だりあ より:

    シリーズ、毎回楽しみに読んでいます。残念ですが私はオペラにはうといので、お話についていけていませんが、とても勉強になっていてうれしいです。特に、最初の「トスカ」、題名は存じてましたが、それがヒロインの名前そのまんま、ってことははじめて知りました。ヒロインやヒーローの名前そのものが題名になっているオペラは多いのですね。
    今日はウェストサイドストーリー。めちゃくちゃなつかしいです。
    冒頭のニューヨークの下町を俯瞰する映像からダンスシーン、マリアに一目ぼれのトニーが「マリアマリア、まりぃあーー」、と歌い上げる声、耳に目によみがえってきます。

  2. すとん より:

    だりあさん

     今回の連載は、オペラに疎い方を対象にしたものです。そういう方に、ちょっとでも興味を持っていただけたらと願って書きました。

    >ヒロインやヒーローの名前そのものが題名になっているオペラは多いのですね。

     なので、主役の事をタイトル・ロール(題名役)って言うんです。

     ウエストサイド…いいですよね。ミュージカルも素晴らしいですが、映画も名画だと思います。実は、このミュージカル、未だ舞台上演のものはDVD化されていないのですが、もしもDVD化されたところで、あの映画を上回るものが作れるのか…微妙だなあって思ってます。それくらい、あの映画は完成度が高いと思ってます。

     またDVDを見ようかな。

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