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ソプラノブスとテノールバカ

 ソプラノブスとテノールバカ。よく耳にする言葉ですが、今回は、この言葉について考えてみました。例によって、偏見に満々ている記事ですが、たとえご自分が以下の記述に該当したとしても「すとんなんて、モノがよく分かっていない奴だ」と一笑に付してくださると感謝です。

 さて、参ります。

 まず、ソプラノブスについて。元々、ソプラノであろうが、メゾであろうが、アルトであろうが、歌手の声種による容姿の差というのは無いはずです。いや、むしろ、ソプラノさんは基本的に“お姫さま”が多いので、むしろメゾやアルトの人よりも、美容やファッションに気をつけている人も多いので、派手めな人が多くて、むしろ「美人が多い」という印象なのに、なぜ“ソプラノブス”という言葉があるのでしょうか?

 それは単純に、ソプラノさんを見て「ブスだなあ…」って思う人が多いからなんでしょうね。

 映画「うた魂」って、ご覧になりましたか? あの中で主人公のソプラノさんは、友人に自分が歌っている時の写真を撮影してもらって、その顔写真を見て、あまりのブサイク加減に大ショックを受けて、すっかり歌う気持ちを無くし、一時は合唱部の退部まで考えるわけです。

 歌っている顔がブサイク? そう、まるで「サケが産卵している時のような顔」なんだそうです。そう言われてみると、確かにそんな顔するソプラノさんって多いよね。

 サケの産卵なら、まだマシかも。だって、ソプラノさんって、クチを思いっきり広げて、歯(ってか牙)をむき出して、目を釣り上げて、真剣な顔(って怖い顔になります)して歌う人、多いでしょ。一歩間違えると、鬼のような形相になる人も少なからずいます。ほとんど、ムンクの『叫び』状態になっている人もいるし…、この種の顔を称して「ソプラノブス」って言うんだろうと思います。

 じゃあ、メゾやアルトの人って、そんな顔をしないのかって言うと…あんまりしないですね。と言うのも、ソプラノさんが顔を崩す時って、高音を歌っている時でしょ。中低音ばかりを歌うメゾやアルトさんは顔を崩す事が少ないんですよ。それに、ソプラノでも、中低音メインで歌っている重たい系の声の人とか、合唱ソプラノの人は、さほど高い音にチャレンジするわけでもないので、そんなに頻繁に顔を崩す事はないです。

 そこへいくと、軽い声の独唱ソプラノさんは、いつもでも、かなり高音まで歌うわけだし、とりわけコロラトゥーラなんて呼ばれる人は、始終高音だらけだから、かなり顔を崩しっぱなしになるわけです。普段の顔が美しければ美しいほど、歌っている時の顔とのギャップが激しくて「ブスだなあ…」って思われてしまうのかもしれません。

 だって、最初から崩れた顔の人が、さらに顔を崩しても、今更「ブス…」とは思われないでしょ。つまりは、ソプラノさんは、普段の美しい顔と、歌っている時の崩れた顔のギャップの差が激しいんですね。

 私などは、そういうソプラノさんの崩れた顔を見ると「ああ、頑張っているなあ~、すごいな~」と思いますが、歌う苦労を知らない人が見れば「まあ、あのソプラノ、顔を崩しているよ。歌っていない時はきれいなのに、歌いだすとブスになるなあ~」と思っているわけで…だから、ソプラノブスって言われるんだと思います。

 ま、そんな事は、当のソプラノさんたちは百も承知だし、だから『顔を崩したくないから高音を諦めるか』あるいは『顔を崩しても高音を歌いたいのか』のどららを選択しますか、と尋ねられれば『顔を崩しても高音にチャレンジしたい』って思うからソプラノさんをやっているわけでしょ。私は、その覚悟に賛同します。でも、一般人の理解は…結局得られず、ソプラノブスになっちゃうわけです。

 プロの歌手の中には、高音になっても、顔の崩れが比較的穏やかな人もいます。あれって、すっごい苦労をして、顔の崩れと高音発声の妥協点を見つけ出したのかもしれないし、顔の表情筋を極限まで鍛えて、高音を発声しても笑顔を絶やさないようにしているのかもしれませんが、すごいプロ根性だと思うし、女子力だってすごいなあって思います。だから、プロなんだろうね。

 一方、テノールバカという言葉がございます。実際に、テノールにはバカしかいないのかと言うと…確かに「しゃべらなければカッコいいのに…」と言われる、ちょっと頭がボヤ~とした方も大勢いらっしゃいます(笑)が、普通の知性や、平均以上の知性を持っているテノールさんも大勢いらっしゃいます。それなのになぜ“テノールバカ”という汚名を浴びせられるのかと言うと…

1)高音発声は難しいので、いつでも高音発声の事しか考えていなくて、それ以外の音楽的な行為は、最初から捨てている点がミエミエで、バカっぽいから。

2)テノールの高い声は軽薄で、オバカさんにしか聞こえないから。

3)オペラにおけるテノールの奴って、たいていがバカか世間知らずか、その両方なので、イメージ的にテノールはバカと思われがちだから。

4)高音発声に失敗しても、ヘラヘラしている歌手が多いので「あいつ、バカじゃねえか?」と思われがちだから。

5)他の声種の人は朝から夜まで必死に練習しているのに、テノールは午前中は朝寝してゆっくりとして、昼はのんびりして、夜は女の子と遊んでいて、いつ練習しているか分からないので、音楽仲間からバカにされているから。

6)性格がオレ様で自己中心的でワガママで、大人の分別に欠けている人間が多いから。

7)テノールって大抵、チビでデブで愚鈍に見えるので、バカ扱いされだちだから。

 
 ううむ、こんな感じかな? あ、すべての意見に私が同意しているわけじゃないですよ。いやむしろ「これって偏見だろ」って思う理由が多いですが、色々な人に話を聞いてみたところ、こういう事を言う人が多いんですよ。でも、5)にあるように、テノールって練習しない人ばっかりなのかな? ちょっと信じられないです。

 まあ、ともかく、これという決定打には欠けるけれど、小さなつまらないイメージの積み重ねで、テノールバカというイメージが作られていると思います。

 バカと言えば、どこの合唱団に行っても、団の運営って、アルトとバスの人が中心になってやっているんだよねえ…。ソプラノとかテノールの人って、そういう“大人の仕事”には向いていないのかもしれない(笑)。なにしろ、ソプラノは使えない“お姫さま”が多いし、テノールは“バカ”ばかりと来たら、アルトとバスが頑張るしかないよね(爆)。

 頑張れ~、低声。

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コメント

  1. おぷー より:

    そういや、うちの合唱団の幹事長は、アルトだなあ。
    でも、ソプラノの秘書的存在になる人がいて、その人が喋ると和みますよ。
    そうやって合唱団はバランスを取っているのです。

    あ、私も歌っている時の顔、結構気にしますよ。
    演奏会や人前で歌う時は、歌った時に美しい表情になるよう、
    眉の描き方・目尻のアイラインの入れ方、口紅の線の入れ方まで変えます。
    (つまり普通の化粧をしないって事ですね。)
    結構努力してまっせー。

  2. Cecilia より:

    ソプラノブスって初めて聞きました。
    ブスでもバカでも”声”が出ればいいのでは、とも思います。
    顔を崩してでも声が出る人はうらやましいです。そのためには口の中(つまり歯並び)に自信がないとダメだなあと実感しています。
    人にもよりますがやっぱりソプラノやテノールには協調性のない人が多いような気がしますね。(笑)

  3. すとん より:

    おぷーさん

    >演奏会や人前で歌う時は、歌った時に美しい表情になるよう、眉の描き方・目尻のアイラインの入れ方、口紅の線の入れ方まで変えます。

     あ、やっぱり! そういう努力(?)はされてらっしゃるのですね。歌っている時も、歌っていない時も、美しくありたいですよね。そういう所は女性ならではの苦労(楽しみ?)なんでしょうね。

    >ソプラノの秘書的存在になる人がいて、その人が喋ると和みますよ。

     団体の執行部に和み系の人がいるといいですね。そういう人がいると、物事が円滑に進むというものです。和みも一つの立派な才能だと思います。

  4. すとん より:

    Ceciliaさん

    >ブスでもバカでも”声”が出ればいいのでは、とも思います。

     はい、私も同意見です。まずは“声”ですよね。私などは、顔をどー崩しても、出ない音は出ませんから、顔を崩せば声が出るなら、メッチャクッチャ崩しますよ(笑)。

    >そのためには口の中(つまり歯並び)に自信がないとダメだなあと実感しています。

     これはどうだろう? 歌っている歌手が大口を開いていても、その歌手の歯並びは…見てないと思いますよ。少なくとも私は見ない。「うわっ! でっかいクチ!」と思って、そこ以上細かい所は見ないと思うし、歯並びなんて、かなり近くまで近寄らないと分からないって(笑)。

  5. Cecilia より:

    そうですね~。そういえば私も人の歯並びまで見てないです。(観察する余裕が・・・。)
    でも、最近自分が矯正を始めるにあたってやっぱり気になるようになってきました。
    生演奏では観察する余裕はないけれど最近動画で繰り返し見る時は(主にプロのですが)口の中を観察しています。そしてもともと私は口も小さく歯が見えるように開けることができないのですが、歌のときもそんなに大きな口を開けることができません。その上、歯並びが気になることもあって全開状態にできなかったというのもあります。きっとそんなところまで観察する人はいないと思ってはいても、このような心理状態から思い切ったことができないことでいろいろ影響があるのだろうと思っています。

  6. すとん より:

    Ceciliaさん

     生演奏では歯並びを観察することは無理ですが…動画ですか、たしかにアップ画面だと、歯並びを観察することも不可能ではないけれど、やっぱりそこまでは見ないかな?

     クチを大きく開くと歯が見えるか? ですが、これは人によってだいぶ違うと思いますよ。 歯茎までしっかり見える人もいれば、歯もほとんど見えない人までいると思います。私は…たぶん標準サイズか、多少大きいかもって程度のクチですが、クチを普通に開くと、余裕で歯は見えません。ですから普段は他人に歯が見えることはないと思います。歌う時に、思いっきりクチを開くと、上の歯が多少見える程度で、それでも下の歯は見えないと思います。もちろん、クチビルを意識的にめくるような動作をすれば、別ですが、歯なんてよく見えません。

    >歯並びが気になることもあって全開状態にできなかったというのもあります。

     なんとなく分かります。たとえ見る人がいないと分かっていても、自分が気にしていると、気になるものです。でも、Ceciliaさんは歯並びを矯正なさる事にしたんですよね。なら、もう、その悩みはなくなりますね。これからは、思いっきり、ガバーと大きな口を開いて歌ってみてください。顔が崩れたら…その時はその時でしょう。

  7. もり より:

    久しぶりに、ブログを読ませていただきながら声を出して大笑いしてしまいました。面白いですね~

    ソプラノブスっていう言い方は初めて知りました。歌っている時の顔はあまり意識したことなかったです。私は逆に口の開け方が小さいから、ちょっと反省。
    ソプラノ・パートには、他のパートが音取りに苦労している時に上から目線でものをいう人が居て、それが嫌ですね。「アンタは旋律が一番簡単なソプラノなんだから出来て当たり前」と思います。言いませんけど(Sのオバサマ達、怖いもん)。

    テノールバカっていうのも初めてですが、コレは何となくスッと入って来ましたけど(爆)
    私の夫(T)もよく自分で言ってますが、歌っている時は自分の声しか聞いていない/聞こえないらしいです。
    コーラスでも、テノールはパート内でお互いに聞かずにバラバラに歌うことが多いので、ソロの重唱みたいになることがよくあるんです。だから指揮者も皮肉を込めて「男声(バス+バリトン)とテノール」って呼びかけるんですよ(爆)
    でも私の知っているテノールさん達は、特に高音域だと歌うことに精一杯なだけなんですよね。

  8. Yテノール より:

    生で知っているテノールは4人だけです。
    キング先生とストンさんと私の友人と私自身です。
    私はともかく、他の三人は高度で豊かな知性の持ち主であることは間違いありません。

    生まれつきのテノールっているのかどうか判りませんが、
    テノールという高度な技量を習得するには、多分バカでは無理なんじゃないでしょうか。

    それでもバカと言われるとすれば、役柄として二枚目をやることが多いからかも。

    忠臣蔵で言えば、テノールは、判官さんとか勘平ですよね。
    間違っても大星由良助のテノールは無いと思います。

    二枚目ってどこか弱いところがあってそれゆえ悲劇や困難、苦悩を引き受けてしまう役所ですよね。

    大星由良助のような盤石の思慮分別と不屈の精神力の権化である一枚目に比べれば愚かしく見えてしまうのかも知れません。

    ソプラノブスは単なるやっかみじゃないんですかね〜♪

  9. すとん より:

    もりさん

     Ceciliaさんもおっしゃってましたが、もりさんも“ソプラノブス”って言葉、初耳ですか? うむ、それでは地域差がある言葉なのか、たまたま私の周辺にクチの悪い人間が集まっていたのか…どちらかかな? ま、かく言う私も、毎日聞くわけじゃないですけれど(笑)。

     合唱のソプラノってのは、確かに音取りが楽でズルいですよね。私も「メロディ歌うだけなら、誰だってできる」と毒を吐く時ありますよ(笑)。ま、私もメロディ歌いたい人間ですから、ソプラノさんには嫉妬しちゃう時ありますよ。

     合唱テノールだと、自分の声しか聞いていない人…結構いますね。テノールの甲高い声は自分の頭によく響くんだよねえ…と言うのは言い訳で、やっぱり単純に他人の声を聞く気がしないからでしょうね。だって、自分が歌うのに精一杯だもん、特に高い声は命懸けですから(笑)。

     いや、ほんと、男性が高い声で歌うのって、ほんと、大変なんだから。

  10. すとん より:

    Yテノールさん

    >テノールという高度な技量を習得するには、多分バカでは無理なんじゃないでしょうか。

     私が思うに、確かにテノールは、バカでは無理でしょうが、バカでないと無理だとも思います。『バカでない人間がバカになってこそのテノール』ですよ、だって、あんな無理なこと、バカにならなきゃできないって(笑)。

     しかし、忠臣蔵で来ましたね。確かに判官とか勘平は、どこか危なげで、確かにテノールでしょうね。どっしり構えて安定感のある由良助は、どう考えてもバスでしょう(笑)。ふむ、やはり一枚目はバスで、二枚目はテノールの役回りなんでしょうね。となると、三枚目の性格俳優さんはバリトンさんかな? でも、バリトンって三枚目だよね~と言ったら、バリトンさんに怒られそうだな。

    >ソプラノブスは単なるやっかみじゃないんですかね〜♪

     かもね(笑)。

  11. モナビーナス より:

    こんばんは。

    私、中低音域ですけど、一生懸命歌うとゾンビ顔になりまーす。
    ブス超越(!)、何とかしないと(汗)。。

    テノールバカ、って、しょーもなくって愛すべき人種だと思いまーす。

  12. すとん より:

    モナビーナスさん

     ゾ、ゾンビ顔! いや、それはさすがに無いから(断言しておきます)。

     だけど、モナビーナスさんに限らず、一生懸命歌っている時に、顔の造作など気にしているようでは、歌手としてはまだまだなんだろうなあって思います。声よりも顔が気になる人は、歌に向いていないとすら思います。

     まずは声、次に顔です。プロの歌手は、声が完成しているからこそ、顔にまで気がまわる訳で、修行中で、まだまだ声をうまく出せないアマチュアは、まずは声ですって。

     ゾンビ顔、上等! くらいの気持ちで行きましょう。

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