さて、ブログを再開します。
話はGW以前に遡ります。メトのライブビューイングでワーグナー作曲の「トリスタンとイゾルデ」を見てきました。スタッフ&キャストは以下の通りです。
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:ユヴェル・シャロンイゾルデ:リーゼ・ダーヴィドセン(ソプラノ)
トリスタン:マイケル・スパイアーズ(テノール)
ブランゲーネ:エカテリーナ・グバノヴァ(メゾソプラノ)
クルヴェナール:トマシュ・コニエチュニ(バスバリトン)
マルケ王:ライアン・スピード・グリーン(バスバリトン)
まず、この公演は超絶お薦めです。私が今まで見てきた(と言っても、大した数ではありませんが)「トリスタンとイゾルデ」の中では、間違いなくNO1ですし、すべてのオペラ公演の中でも、かなりの上位に食い込むほどの、素晴らしい公演です。これ、ほんと、お薦めです。
演出の大勝利だし、その演出を実現するための大道具の導入であり、歌手や俳優たちの演技力の勝利です。こんなオペラ、日本じゃできないし、日本人歌手には無理です。ああ、アメリカ人に生まれて、生でこの舞台を見たかったなあ…。
芝居は二箇所で行われます。通常の床とそこに置かれたテーブルと、二階部分に設置された動く円形の舞台です。この2個所で常に同時に芝居が行われます。そして、円形舞台の周辺にはプロジェクジョン・マッピングが施されていて、つまり、観客は常に2つ以上の視点を以て「トリスタンとイゾルデ」というオペラを見ていくわけです。
生の舞台に複数の視点を持ち込む…というのが、まずは現代演出だなと思いました。
第一幕は、円形舞台で物語が進行し、床で主役2人の心象が演じられます。第二幕と三幕では、床で物語が進行し、円形舞台で心象が演じられます。現実と心の中を場を分けて表現される事で、なんとも物語がスッキリするのです。そうなんです。ワーグナーの台本って、音楽同様に饒舌であり冗漫なのです。それを場を分けて、すっきりと整理する事で、現代に生きる我々観客に理解しやすくしてくれるのです。これ、何気にすごい事だと思いました。まさに「オペラは演出の時代」ってのを体現しています。
第一幕では、現実の歪みが舞台の歪みとともに表現されるし、第三幕では死にかけたトリスタンが朗々と歌い上げるのも、実は心内歌唱である事もよく分かります。
また場が2つあるため(舞台上での交代もあるので)主役カップルの黙役も2組必要で、歌手カップルと2組の俳優カップルが入れ替わり立ち替わりする事で、我々観客も視点の移動が分かりやすくなるわけです。
とにかく、演出が抜群に良いのです。
さて、演出ばかりを褒めてもダメですね。歌唱もなかなかに素晴らしかったです。主役の2人が良いのは、まあ当然として、何ともすごいかったのは、マルケ王を歌ったスピード・グリーンです。このスピード・グリーンは黒人歌手なんだけれど、ここまで演出がぶっ飛んでいると、マルケ王がイギリスの領主であることなんて忘れてしまい、どこかのファンタジーな王国の王様なんじゃないか…と思ってしまい、彼が黒人であることを、素直に受け入れてしまいます。
とは言え、マルケ王が若すぎるのは…ちょっと引っかかりました。歌手本人が若いのは良いのですが、マルケ王はトリスタンの親世代という設定なのですから、もっと老けメイクをしっかりした方が良いでしょう。これがこの公演の唯一の残念ポイントです。
この素晴らしい演出を行った、シャロンはこれがメトデビューだそうです。で、彼の演出による、新しい「ニーベルングの指環」が現在、メトで計画されているんだそうです。すごく、すごく、楽しみです。ただ、その時のヴォータンを演じるのが、今回マルケ王を歌ったスピード・グリーンなんだそうで…「え、黒人歌手がヴォータンを演じるの? またまたポリコレでオペラをダメにずるつもりかい?」と思ってしまいました。まあ、ファンタジー色を強くすれば、黒人でもOKかもしれないけれど、でもヴォータンが黒人? じゃあ、彼の娘である、ブリュンヒルデやワルキューレの乙女たちも全員黒人キャストにするつもりかい? まさかね。
黒人歌手がアルベリヒをやるのは前例があるし、物語的にも納得できるけれど、ヴォータンは…初めての試みだし、どうなんだろうね?
とにかく、ユベル・シャロンという演出家は、今後注目すべき演出家です。
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