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「Caro mio ben/いとしい女よ」を歌います

 さて、ブログを再開します。

 声楽のレッスンに行ってきました。発表会で歌う、残りの一曲を決めました。トマゾ・ジョルダーニの「Caro mio ben/いとしい女よ」です。いわゆるイタリア古典歌曲の中の1曲です。

 なるべく歌曲は原調で歌いたい私なので、この曲のオリジナルは何調なのかを調べているうちに、あっちこっちのサイトを見たり、海外の書物に当たってみたりした結果、色々な事が分かりましたので、今回はその事を記事にします。

 この曲、我々がよく使う全音の楽譜では“ジョゼッペ・ジョルダーニ”の作曲と書かれていますが、たぶんこれは間違いで、本当はあまり有名ではないトマゾ・ジョルダーニの作曲らしいです。ちなみに、二人は同時代人です。

 そもそも、現在我々が親しんでいる「Caro mio ben/いとしい女よ」は、原曲ではなく、19世紀にパリゾッティが編曲したものです。パリゾッティが参考にしたと思われる、当時のこの曲の楽譜に書かれている作曲者名は“セニョール・ジョルダーニ”で、それを編曲者のパリゾッティがジョゼッペ・ジョルダーニと勘違いしてクレジットして出版したのが、そもそもの間違いなんだそうです。

 なぜそんな事が起こったのかと言うと、トマゾ・ジョルダーニは、イギリスで活躍したオペラ作曲家だったそうです。この曲は、イギリスで大人気となり、ポピュラー音楽的な流行り方をしたんだそうです。で、この大ヒットを耳にしたジョゼッペ・ジョルダーニが、それにピアノ伴奏(厳密には、当時のピアノ…ね)を付けて、イタリアで出版したものが、今我々が知っている「Caro mio ben/いとしい女よ」の原型なんだそうです。

 まあ、今風に考えると、ジョゼッペの著作権侵害が考えられますが、当時はそんなモンは無いわけで、海の向こうのイギリスで流行っている曲を採譜して、きちんとした楽譜にしてヨーロッパ大陸で販売するのも、当時の作曲家&楽譜出版社の仕事だったわけで、それを考えると、一概にジョゼッペを責めるわけにもいかないのかもしれません。

 それに、元々のイギリスで出版されたトマゾのオリジナルの楽譜というのが、実は伴奏が弦楽四重奏だったそうで、いくら曲が流行っていても、そんな楽譜は一般家庭(と言っても、貴族階級が中心だったそうだけれど)には売れねーよという話です。それをピアノ伴奏に編曲したのがジョゼッペなので、今風に言えば「作曲:トマゾ・ジョルダーニ、編曲:ジョゼッペ・ジョルダーニ」って感じなのだろうと思います。

 で、ジョゼッペ・ジョルダーニは有名人だったから、出版社的には「本当の作曲家はトマゾの方だけれど、トマゾの名前じゃあ売れるモノも売れないし、だからと言ってジョゼッペ作曲と書くのも、知っている人からすれば嘘になるわけだから…ここは適当に誤魔化して“セニョール・ジョルダーニ”作曲って事にすれば、嘘にはならないし、ジョゼッペの新譜と誤解して買ってくれる客もいるよな」って事になったんだろうと、私は推測します。

 で、後年、どのくらいそこらへんの事情を知っていたのかは定かではありませんが、パリゾッティが“作曲:セニョール・ジョルダーニ”を見て「ああ、ジョゼッペ・ジョルダーニの作曲だな」と思って、そうクレジットしてしまったわけだ。

 まあ、だから一概にパリゾッティばかりを責められないわけでもあるのです。

 で、ここで問題なのは、ジョゼッペが編曲して完成させた「Caro mio ben/いとしい女よ」(ままり、ジョゼッペ版の原調)は変ホ長調なのですが、元々のトマゾのオリジナルだと、実はこの曲、ヘ長調なんです。つまり、ジョゼッペは編曲をする際にキーを下げたわけです。おそらく…キーをを下げた方が売れる…とか、出版社に言われたんだろうなあ…って私は考えます。

 さて、私はどちらで歌うべきでしょうか? 私は当然、ピアノ伴奏で歌うので、ジョゼッペ版に寄り添って変ホ長調で歌ってもいいわけです。ある意味、ジョゼッペ版はピアノ伴奏版としての原曲ですからね。それに、メロディの流れを見ると、この曲は、どうも音程の平均値がやや高めで、正直、テノールである私には少々キツめの調なのです。無理は禁物な曲なのです。つまり、メロディ的には女声向けに作られているわけで、男声が歌うと…少しずつ声が削れて大変な事になりそう…なんですよ。

 この曲、歌詞を見ると、どう読んでも男性歌手向けなのに、メロディの構成を見ると女声向けなので…やはり時代的に考えると、本来、カストラートが歌う事を想定して作られた歌なのかもしれません。そう考えると(私はカストラートではなくテノールなので、無理せずに)ジョゼッペ版の変ホ長調で歌った方が良いのかもしれませんが、なるべく歌曲は原曲で歌いたい私は、ここはやはりトマゾを尊重してヘ長調で歌うことにしました。

 私はチャレンジャーなのです。

 ちなみに、ヘ長調の「Caro mio ben/いとしい女よ」は、全音版だと高声版がそうなので、実際には全音の高声版の楽譜で歌うわけです。ちなみに、ヘ長調の「Caro mio ben/いとしい女よ」だと(私はテノールなので)最高音はG4で、最低音はE3となり、音程幅は10度。結構広いなあ…。正直、変ホ長調にすると、音域は最高音がF4で最低音がD3となるので、かなり歌いやすくなるのは本当の話です。音程が全音(カラオケ的には-2)違うだけで、歌の難易度はかなり変わるからねえ…。正直、は揺れますよ。

 元々は、発声練習代わりに歌おうと思っていましたが、ヘ長調だと、ちょっと気合を入れないと歌えないかもしれません。なので、発声練習は事前に舞台裏で行って、当日はフルスロットルでこの曲を歌いたいと思います。

 貼り付けた音源は、国立音大で行われた、トマゾのオリジナル譜による演奏だそうです。ううむ、歌っているのは女声ですね。やはり、カストラートの代わりに女性歌手が歌っているわけで…そう考えると声的には、やっぱり女声向きの曲なのかもしれません。

 カストラートの曲を歌う時は、いつでもそうだけれど、現代ならどの声種で歌うべきなのかは悩むところだよね。

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