JAXAiを出た私は、その足で銀座ヤマノ楽器に向かいました。そう、ヤマノで行われている「アルタスフルートフェア」に参加するためです。いつも、ラ・フォル・ジュルネとアルタスフルートフェアは日程的にぶつかるので、この二つのイベントは常に掛け持ちな私です。
今年のアルタスフルートフェアの目玉は…アルタスの田中会長による講演会「ハーモニックスの秘密」でした。講演会と言っても、定員は4名(笑)。それを二日間に渡って4回行うというもの、そのラッキーな16名に入れてもらえた私は、ワクワクな気分でヤマノ楽器に向かいました。
講演会「ハーモニクスの秘密」でしたが、内容は、田中会長による「アルタスフルートはこのように演奏してもらいたい!」という話で、我々参加メンバーは実際に自分のフルートを吹きながら、製作者の思いと意図を聞きながら、いかにフルートから良い音を引き出すかをマンツーマンで習ってきたわけです。つまり“自分のフルートの設計者に、その正しい操作法を習ってきた”とまあ、そういうわけです。
すごくおもしろかったです。田中会長は、気さくで飾り気のない、いかにも職人さんっていう方でした。すごく正直な人だなあという印象でした。また、アルタスフルートが、田中会長(とウィリアム・ベネット)の趣味趣向が色濃く反映された、かなりパーソナルで癖の強いフルートだという事も分かりました。言い換えれば、製作者の思いがたっぷり載っている楽器、というわけですが…考えてみれば、すべての工業製品って、そうあるべきですよね。
今回の一連の記事に書かれている事は、そんな田中会長の話を、私が聞いて理解した範囲で書きました。ですから、もしかすると私か誤解している部分や取り違えている部分があるかもしれませんが、それは勘弁してください。それと、田中会長の言葉づかいは、とても個性的で、その口調を真似て文章を書くと、真意が伝わらない恐れがあるので、田中会長の言葉は、通常の会話文に翻訳して載せています事もご了承ください。
さて、本題です。ハーモニックス、つまり高次倍音とは、音色の事です。ある音に、どれだけの量の倍音を載せるかで、音色が決まります。だから、ハーモニックスを自在に操る事が、音色を操る事につながり、それが豊かな音楽表現につながっていくのだから、フルーティストたるモノは、ハーモニックスを自由に操れなければダメである、まずこれが大前提。
で、フルートには、正しい音と間違った音の二種類があるそうです。間違った音とは、倍音構成が間違っている音です。
この問題はかなり根深く、初心者はもちろんのこと、世界的に活躍しているプロ奏者の中にも、時々、間違った音で演奏している人もいるので、よくよく注意をしなけれはいけない、大きな落とし穴のようです。
間違った音は、倍音構成が違うので、音色的に美しくないです。また、音程も不安定で、うわずったり、ぶらさがったりするそうです。逆にいうと、フルート的に正しい音は、美しくて、ピッチもフルート製作者の思惑通りに鳴るそうです。
この話を聞いていた私は、笛先生がよくおっしゃる「壊れた音」を思いだしました。おそらく、笛先生のおっしゃる「壊れた音」と、田中会長の「間違った音」は同じ現象をさしているのではないかな? 違うかな?
さて、ちょっと話題を変えます。
フルートという楽器は、本来、チューニングが不要な楽器なのだそうです。
フルートは正しく組み立ててあれば、後は、演奏者が息の強さと角度でピッチを決めていく楽器であって、楽器が正しく組み立てられていれば、必ず、正しいピッチで鳴るように作られているのだそうです。だから、バシっと組み立てたら、頭部管の抜き差しでピッチを調整するのではなく、演奏者の方で正しく音を出しさえすればよいのだそうです。
だいたい、頭部管の抜き差しをしてしまうと、それで、例えばAの音をチューニングしてしまうと、Aの音だけが正しくて、後は狂った音になってしまうので、頭部管の抜き差しは厳禁なのです。頭部管の抜き差しをしなければ、正しい音程の音が吹けないのは、そもそも、間違った音を吹いているからであって、正しい音の出し方の習得が、最初に習得するべきものなんだそうです。
なので、最初に習ったのは、フルートの正しい組み立て方。
[フルート製作者が想定している]フルートの正しい組み立て方。ポイントは二つ。すべての倍音に整合性があるように組み立てること。歌口をなるべく口に近づけるように組み立てること。この二点が大切なんだそうです。
すべての倍音に整合性があることとは、例えば、低音Cの第二倍音の音と、中音Cの第1倍音の音は全く同じはずなので、それが同じ音になるように組み立てる事。そういう事なんです。
アルタスフルートは、頭部管を5mm前後の抜き幅で普通に組み立てると、そのようになるように設計されているそうです。
実は今回の参加者の中にお一人、有名外国メーカーのゴールドフルートで参加された方がいらっしゃいました。このフルートは、実は、倍音の整合性があまり上手に取れていない設定のフルートだったんですよ。なので、普通に組み立てて、低音Cの第二倍音と中音Cの第1倍音の音を吹き比べるとが、私のような鈍い音感の持ち主であっても、聞いていて、音程音質ともに、かなり違っていて、気持ち悪かったです。
もちろん、それでは演奏に支障が出るので、その方は、即座に自分で音程音質を調整をして、低音Cの第二倍音と中音Cの第一倍音を同じ音になるように音出しをしました。
田中会長はそれを目ざとく見つけました。「いつも、いつも、そうやっているのだろうけれど、それをせずに済んだら、とても楽に音楽の演奏ができますよね。フルートに気を使わずに、演奏できた方が、自分にとって有利ですよね」
田中会長のおっしゃるには、だから、これがダメというわけでなく、ただ「有利ではない(つまり“不利”って事ですね)」というのです。演奏をする時に、楽器のコントロールが楽な方が、その分、音楽表現に気が回るので、なるべく楽のできる、自分に有利な楽器を選択した方がよいという主旨です。
もっとも、この有名外国メーカーのフルートですが、田中会長が、足部管を少し抜いたところ、ハーモニックスの整合性が取れるようになりました。足部管も頭部管同様に、少し抜くのが、このメーカーのフルートの組み立ての際のポイントなんだそうです。「このフルートは、元々、寒い地方で演奏されるように作られているから、日本ではピッチが狂ってしまうんだよ」という事を話されていました(だから、足部管を抜くわけです)。外国製のフルートを自分の愛器にする時は、そういう点に注意ですね。
無論、Cだけでなく、他の音のハーモニックスも同様に整合性が取れるように組み立てること。これが正しいフルートの組み立て方で、そのように組み立てた時に、Aの音が442Hzになるなら、そのフルートは442の楽器だと言えるのだそうです。
正しく組み立てた(442Hzの)楽器なのに、ピッチが合わないのは、楽器のせいではなく、演奏者が間違った音で吹いているからなんだそうです。
というわけで、我々のフルートも田中会長が正しく組み立ててくれました。お一人、リングキーにプラグを差し込んでいる方がいらっしゃったけれど、これは取られちゃいました。プラグがないと音が出ないんです~という訴えに、音が出なくても、プラグを使っちゃダメというお達しでした。そして、みんな、一様に頭部管がかなり内向きに組み立てられました。
そこで、次に「歌口をなるべく口に近づける事」になりますが、これはつまり、田中会長がやったように、頭部管をかなり内向きに組み立てるという事につながります。
かなり内向きと書きましたが、基本はフルートの胴部管の頭部管側から数えて三つ目のキイのセンターと、頭部管の歌口の向こう側のエッジが同じラインにあるように組み立てるべしなんだそうです。
頭部管を内向きにするいう事は、歌口のエッジが奏者により近づくと同時に、歌口の面が奏者側から見ると、こちら側に立っているように見えるわけです。これは、息の吹き込む楽度が、通常の頭部管の位置よりも、上の方向から息を吹き込む事になるのです。このフルートに吹き込む息の角度というのも、実はとても大切なファクターなんですね。
この辺の話を含めて、田中会長の話はまだまだ続くので、残りはまた明日にします、よろしくね。
コメント
お久しぶりです。田中会長のお話にすごく興味があったのでアップ感謝です。
>基本はフルートの胴部管の頭部管側から数えて三つ目のキイのセンターと、頭部管の歌口の向こう側のエッジが同じラインにあるように組み立てるべしなんだそうです。
今まで一番頭部管に近いキーのセンターを基準に組み立てていました。高音Fisが出にくかったのですが、たったコンマ数ミリ動かしただけで音がきれいになりました!
設計者のこだわりの強い楽器は設計どおりに吹くのが一番なんですね。
有名外国メーカーってドイツですかね? 日本より寒い国というとドイツかしら、アメリカはそんなに寒そうじゃないし。
>野鳥さん、お久しぶりです。
田中会長の話の要約をアップしてますが、実は、本当におもしろかったのは、アップできない部分なんですよ。もう~、有名人の話がバンバン出てきました(笑)。さすが、田中会長、人脈広すぎです。でも、これらの話は又聞きになりますから、いくらおもしろくてもアップできません。田中会長はとても話が楽しい方なので、チャンスがあったら、野鳥さんもぜひ一度田中会長のお話を聞いてみるといいと思いますデス。
海外メーカーの件ですが、わざと書きませんでした。というのも、書いてしまうと、そのメーカーの製品の質が悪いような印象になってしまいますからね。実はそうではなく、これは設計思想の違いなんですよ。何に重点をおいて設計しているという事なんです。
さらに言うと、倍音構成が違っているフルートって、実は国産メーカーにもあるんです。なので、特定のメーカーの名前をあげちゃうのはマズいなあと判断して、名前を出しませんでした。
フルートって、みんな同じに見えますが、実はそれぞれのメーカーごとに、あるいはそれぞれのシリーズごとに、設計が違っていて、それぞれに得手不得手があるんですね。さらにそれを作る職人さんにも得手不得手があるので…一つとして同じ楽器はないと言ってもいいくらい、細かなヴァリエーションの違いがあるんです。
だから、楽器選びの時に試奏して相性を試すのは、とても大切なんですね。
かなりの内向きなんですね!!!エールちゃんを試奏したときに一緒にいてくださった先生はアルタス吹きなので、ベストポジションを教えてくれましたが、私としたことがもう忘れちゃってるみたいです(涙)息の入れ方(いつも「入れすぎ」って注意されてました)、組み立て方・・・・早く修正したいのですが次回のレッスンは8月。。。。それまでに発表会があるのでなんとかあの音をもう一度出せるように試行錯誤しているなか、とても参考になる記事でした。苦労していた表現もすぐに反応してくれてニュアンスも出しやすくなり、ご機嫌だったのに、今はムスッとしてます(涙)週一回習っている先生は別のメーカーなので(私も同じメーカーでした)アルタスの特徴はご存じないのかなぁ、と思います。大好きな先生なので不満はないのですが^^;
そういえば、アルタス先生の初めてのレッスンの時に(前のメーカーです)足部管を抜きました。ピッチめちゃくちゃ安定しましたよ!アルタスはその必要はないよって。でも音痴なんですよね。吹き方に問題ありっぽいので研究していきます。なんだか初心者に戻ったようでもどかしいような、うれしいような(笑)・・・こんなんでプロコのソナタ大丈夫かな(汗)
>いがぐりさん
そうそう、足部管もアルタスの場合は、他メーカーのフルートのように、抜かなくてもいいんですよ。逆に言うと、他メーカーのフルートの場合は、足部管をちょっと抜くのがデフォルトなんですが、そこをご存じない方がいて、それで音程が合わないと言って困っている人を、たまに見かけます。
独学者ならともかく、先生について習っている人は、先生がきちんと教えてあげないと、アマチュアなんて、いつまでも気付かないものなんだけれどなあ…。
アルタスに限らず、それぞれのメーカーごとに、設計するにあたって、フルートの理想的な組み立て方&吹き方というのがあるそうです。その理想の組み立て方&吹き方をした時に、フルートはばっちりピッチが合うように作られているそうです。へえ~と思うと同時に、考えてみれば当たり前の話でもありますね。
ピッチにしろ、音色にしろ、本来、製作者の意図に近い形で演奏できると、その楽器の持っている力を引き出すことができるわけで、さらにそこから、自分の体格やら癖やら、そして楽器の個体的な特性やらを加味して、自分なりのベストポジションを探していくのだろうと思います。
なんて、エラそうな事を書きましたが、私自身、そいつを現在模索中で~す(笑)。
ありがとうございます!先ほど組み立て方や姿勢、口の中、息つかいを注意してエールを吹いてみました。音痴じゃない!楽に鳴る!倍音オッケー!なぜだかリングをちゃんと押さえられなくなりましたが(^-^;音色に関してはほぼクリア(^o^)欲を言えば、もっとフォルテを出したいんですが、離れて聴くと十分な大きさかも知れませんね。アルタス先生宅で録音していただいた時に、自分の感じてる音(音色も音量も)よりずっといい音で驚くと同時に、なんだかその差が気持ち悪かったです(笑)
早く御礼を言いたくて、連投のようなカキコミ失礼します。
ホントにありがとうございますo(^-^)o
>いがぐりさん
別に迷惑コメントでなければ、連投はむしろ歓迎ですから、気になさらないでください。
アルタスALに限らず、良いフルートは正しく鳴らすと、遠鳴りをするので、奏者には何だか物足りなく聞こえるのだそうです。だから、おそらく、いがぐりさんのエールちゃんも、素晴らしい音色で鳴り響いているのだと思いますよ(笑)。
楽器なんて、奏者に愛されてナンボですから。そういう点ではエールちゃんは幸せな楽器さんですね。