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2011年 ラ・フォル・ジュルネに行ってきたよ その3…今度はピアノ三昧さっ

 初日の夕方からの話です。ヴォーチェス・エイトのコンサートに満足した私は、マルキューブから、再び東京国際フォーラムへと向かったのであります。

 コンサート会場は再び、ガラス棟の会議室です。今度のコンサートは…待ちに待った、フランク・ブラレイ先生のコンサートです。もうワクワクです。

 妻とはコンサート会場の入り口で無事に落ち合えました。もちろん私は「マンメル、良かったよ~。『詩人の恋』を歌ったんだぜ~」と言ったところ「えっ!『詩人の恋』を歌ったの! それは残念。ぜひ聞きたかったなあ~」ときました。マーラーでは気持ちが動かない妻も、シューマンは聞きたかったようです。
 
 
フランク・ブラレイ&松山冴花 ヴァイオリン・ソナタ

 さっそく会場に入りました。座席は…最悪。一番前だったんだけれど、ちょうどピアノもヴァイオリンも背中しか見えない席(涙)。まあ、音はじっくりと聞けて良かったのだけれど、せっかくヴァイオリニストの演奏っぷりも見てみようと思っていただけに、実に残念な席でした。あ、演奏曲は以下のとおりです

R.シュトラウス:5つのピアノ小品 Op.9より 「静かな森」「夢」
リスト:レメーニの結婚式のための祝婚曲
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
ブラームス:F.A.E.ソナタより スケルツォ

 コンサートの最初はブラレイ先生だけが現れて「今からコンサートを始めるけれど、オープニングの曲を、作品3番から作品9番に変更するよ。抜粋でやるんだけれど『静かな森』と『夢』をやるから、よろしく」とフランス語鈍りの英語でしゃべってました。ううむ、フランス人の英語は、本当に聞きづらいです。あ、曲のタイトルだけは、片言の日本語で言ってましたよ。

 さて、演奏の方ですが、ブラレイ先生の演奏が悪いはずがありません。なにしろ(私の中では)世界最高のピアニストの一人ですからね。キラキラしているのにフワフワした音で、繊細なのに力強く、柔らかいのにどこまでも響き渡る音でピアノを奏でます。まるで夢の世界にいるような、現実離れしたピアノを弾くんですよ。ほんと、至福のひとときでした。

 ピアノ小品を二曲弾いたブラレイ先生は、一度舞台から引っ込み、今度はヴァイオリニストと一緒に現れました。そうです、ここからが今回のコンサートのメインであり、主役である松山冴花氏によるヴァイオリン・ソナタのコンサートです。

 合わせモノのブラレイ先生も、またサイコーなんですね。ソロも良し、アンサンブルも良しなので、ついついブラレイ先生のアンサンブルものも聞きたくなる私なんです。で、今年はヴァイオリンと一緒のステージがあったので、迷わず、そいつをチョイスしたってわけです。

 ヴァイオリニストの松山氏について、私は知りませんでしたが、なかなか好みのヴァイオリニストさんでした。ヴァイオリンって、人によって、楽器によって、その音が違うので、同じ曲を聞いていて、その音の好みで、曲の好き嫌いが左右されがちです(え? そんな人間は私だけだって?)が、この人の演奏は、私好きですよ。ぶっ太い音で、ガンガンとパワフルに演奏するタイプです。女性奏者だけれど、実に雄々しい演奏する人です。もちろん、全部が全部、力付くってわけじゃなく、すごく繊細な部分は本当に優しい音色で奏でます。これは、ブラレイ先生抜きで聞いても、楽しめるヴァイオリニストさんです。うむ、しっかり覚えたので、来年以降もチャンスがあったら聞いてみたいヴァイオリニストさんになりました。

 三曲やりましたが、私はメインのリヒャルト・シュトラウスよりも、ブラームスの方に魂を抜かれました。いやあ、かっこいいよ、この人。うん、ブラームスのこの曲、私のファイヴァリットになりましね、確実に。
 
 
マスタークラス(ピアノ:エマニュエル・シュトロッセ)

 ブラレイ先生に満足し、松山氏に魂を抜かれた私は、フラフラになりながら、次のプログラムであるマスタークラスに向かいました。

 列に並んでいる間中、午前中のマスタークラスが、如何に期待外れだったのかと妻にグチグチとこぼしました私でした。いやあ、だってねえ…。

 今度のマスタークラスは、この日の最後のマスタークラスでした。一応、座席に座りたかったので、前のクラスが終わる前から並んでいました。やがて、前のクラスが終了して、大勢の人が出てきました。しばらくして、講師の先生(ドミトリ・マフチン)が出てきましたが、出待ちをしていたファンにあっと言う間に囲まれていました。へえー、私は知らなかったけれど、ドミトリ・マフチンって人気者のヴァイオリニストさんなんですね。それに、出てきたお客さんも皆、満足げな顔でしたから、なかなか良いクラスだったみたいです。

 どうせ入場は10分前だろうとタカをくくっていたら、30分前に会場に入れてもらえました。早く会場入りできると言うことは、それだけ長く座っていられるわけで、ラッキーでした。私たちが会場入りした時は、まだ座席に余裕はありましたが、最終的にはほぼ満席になったようです。

 時間になって先生と生徒さんが現れました。にこやかに挨拶をして、さっそく生徒さんがベートーヴェン作曲のピアノ・ソナタ「テンペスト」の第一楽章を演奏し始めました。

 この生徒さん、芸大の1年生で18才だそうです(つまり、二カ月前までは高校生だったわけですね)が、おそらく天才肌のピアニストさんだと思いますよ。ピアノ演奏中、常に何かと交信しながら演奏しているのがよく分かりました。きっとピアノの神様とおしゃべりしながら演奏するタイプの人なんでしょうね。そうそう、テクニック的にも、相当高いレベルにあるのが分かりました。さらに、若いと言うこともあるのでしょうが、シュトロッセ先生のアドヴァイスがグングン入っていくのが見ていてよく分かります。マスタークラスに出てくる生徒さんって、大学院レベルの方が多くて、上手いんだけれど、その場で先生のアドヴァイスをこなせなくて苦労している人を多く見てきましたが、彼女はアドヴァイスを受けるたびに即座に反応して、すぐに変わるんですよ。まだ大学一年生だし、将来が楽しみなピアニストです。…プロとしてデビューできるといいですね。

 さて、シュトロッセ先生がたくさんの言葉を彼女に投げかけていましたが、その中で、私の心にひっかかった言葉を、いくつか列記してみたいと思います。

 ・フレーズは切りすぎないように。フレーズの開始直前の和音の響きをよく聞いて、その響きの中で、次のフレーズを始めるように。

 ・フレーズの開始を他人に悟られないように。次のフレーズへの準備が早すぎます。演奏は常に新鮮な驚きをもって行わなければいけません。

 ・あなたはベートーヴェンを、簡単に、きれいに、弾きすぎます。もっと、ゴツゴツと難しげに弾いてください。

 ・左手は単なる伴奏ではありません。チェロを弾いている気持ちで弾いてください。チェリストは、この旋律だけを一生懸命弾いているのです。そんなチェリストの気持ちになって左手を弾くこと。

 ・演奏する時は、必ず、弾いているフレーズが本来、どの楽器で演奏されるべきなのかを考えながら演奏してください。このフレーズはヴァイオリンのフレーズですか、フルートのフレーズですか?

 ・ベートーヴェンの音楽は、同時代的にはとても奇妙な音楽だったのです。だから、その奇妙さを忘れずに、表現すること。これは決して、当たり前の音楽ではないのです。

 ・ピアノをレガートに弾きなさい。チェロの弓の動きのように、一つのフレーズを一弓で弾きなさい。あなたの演奏はまるで、一音一音、弓を返しているような演奏になっています。

 ・暗譜できているなら、楽譜をピアノの前に置かない事。楽譜を前に置くだけで、演奏姿勢が悪くなります。楽譜はこちらで預かりましょう。

 ・弦楽器の弓の動きは円ですよね。あの弓の動きを真似てください。ピアノの音も、弦楽器のように、丸く弾かないといけません。しかし、ピアノは気を抜くと、直線的な固い音になりがちです。ピアニストは常に弦楽器奏者を意識しないといけません。
 
 
 マスタークラスは一時間でしたが、テンペストの第一楽章のレッスンは45分ほどで終わってしまいました。そこで先生が「時間があるから、第二楽章も見てあげましょう。途中まででいいから演奏してください」と予定外の事を振ると、生徒さん、暗譜で第二楽章の演奏を始めました。

 マスタークラスって、観客である我々は、教える先生の事ばかりに注目していますが、実は、教わる生徒さんって、すごく準備して臨んでいるだなあって思いました。当たり前と言えば当たり前だけれど、この一時間のクラスのために費やした練習時間を想像すると、ほんと、生徒さんは、たくさんのものを積み上げてきているんだなあって思いました。だから、見る方も、もっと真剣になって見てあげないといけませんね。
 
 
 実はこの後、夕食を食べてから、周辺エリアコンサートの“ジプシーヴァイオリンの演奏”を聞こうかなって思ってましたが、妻が電池切れを起したので、無理せず、帰宅する事にしました。ここで無理をして、カラダを壊しちゃ、ダメでしょ。

 まだ時刻的には宵の口だったので、東京駅付近で天ぷら屋さんに入って食事をしました。天ぷらって料理は、簡単そうに見えて奥が深いなあって、いつも思います。自宅であげた天ぷらは美味しいです。そば屋や定食屋で食べる天ぷらも、もちろん美味しいです。でも、なぜ、天ぷら専門店で食べる天ぷらは、それらとは別の料理のように感じてしまうのでしょうか。材料に衣をつけて油で揚げるだけなのに、なぜこうも違うのでしょう? そういう違いが生まれるところに“食文化の妙”って奴があるのかもしれませんね。

 ラ・フォル・ジュルネ関係の連載は、今日で一旦、小休止にします。いやあ、ヴァイオリンの独学練習報告とフルートのレッスン記事をアップしないと、そろそろマズいので、そっちを優先し、その後、ラ・フォル・ジュルネの連載後半をアップしますので、よろしくね。

コメント

  1. おざっち より:

    東京でのラ・フォル・ジュルネの様子がよく分かりました。びわ湖とはまた趣が異なるようで、こうなると各地で行われたこのイベントをすべて回ってみたくなりますね。あまり名前が知られていなくても、素晴らしい演奏家に巡り会えるかもしれませんね。

  2. すとん より:

    >おざっちさん

     そうですね、ラ・フォル・ジュルネは、その開催都市によって、多少の違いがあるようです。東京の特徴は「その年のナントの公演と同じテーマで、演奏者&演奏曲目も共通性がある」「とにかく規模がデカイ」「多くのオーケスラが楽しめる」「吹奏楽はほとんど無い」「どうやら三菱が一枚噛んでいるらしい(笑)」「実はカジモトが牛耳っているらしい(爆)」などの特徴があります。

    >あまり名前が知られていなくても、素晴らしい演奏家に巡り会えるかもしれませんね。

     そこがラ・フォル・ジュルネの、最大の喜びだと私は個人的に思ってます。だって、ラ・フォル・ジュルネだから聞いてみたアーティストなんて、たくさんいますよ。そして、その中に気に入って、ファンになってしまったアーティストだっています。そういうアーティストとの出会いのでもあると思います。

     だから私は、ラ・フォル・ジュルネが好きなんです。おっしゃるとおり、本当は、東京だけでなく、日本各地の、そして、世界各地で行われているラ・フォル・ジュルネに行けたらいいなあと思います。きっと楽しいと思いますし。

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