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メトのライブビューイングで「メデア」を見てきた

 痛み止め飲んで(笑)、メトのライブビューイングでケルビーニ作曲の「メデア」を見てきました。

 …と書いても、多少なりともクラシック音楽に詳しい人であっても「ケルビーニ? メデア? なにそれ?」って感じでしょうね。

 ケルビーニはグルックと同時代の作曲家で、モーツァルトの後の世代で、ベートーヴェンのちょっと前から活躍していた人です。オペラを中心に活躍し、当時はそれなりの評価もされていた作曲家で、作品も数多くあるようですが、たぶん現代でも演奏されるのは、この「メデア」と晩年に作曲された「レクイエム」ぐらいで、今となっては、さほど重要ではない作曲家扱いとなっています。と言うのも、音楽史的には、ロッシーニの登場で、その存在がかき消されてしまった人のようです。

 実際、この「メデア」にしても、ロッシーニの諸作品と比べちゃうと、正直見劣りする部分は…正直…ありますが、そんな悪い作品ではないと思います。少なくとも、ベートーヴェンの「フィデリオ」よりは、ちゃんとしたオペラだと、私は個人的には思います。

 とは言え、マイナーな作曲家のマイナーなオペラ作品であるのは、事実です。それでもこの曲の存在自体は、私でも知っていました。と言うのも、かつてマリア・カラスが得意としていたオペラで、彼女によって蘇演されたオペラとして有名だからです。

 今回の上演は、メトでも初上演なんだそうです。作曲されたのは二百年以上も前なのにね。カラスの全盛期に一度メトでも上演しようという話はあったそうだけれど、カラスとメトがトラブってしまったために実現せずに、今日に至ってしまったようです。つまり、カラス以外のソプラノは、このオペラを歌おうとしなかった…というわけです。

 よほどつまらないオペラなのかな? と私は思っていましたが、上演されなかったのは、それが理由ではなく、あまりに技巧的なオペラのために、歌える歌手を揃えるのが大変だからなんだそうです。特に主役のメデアを歌えるソプラノがいないので上演できないのだそうです。

 今回のメトでも、主役のラドヴァノフスキーがメトの劇場支配人のピーター・ゲルブに「メデアを歌いたい」と直訴したために上演される事になったんだそうですよ。つまり、劇場の方から歌手に上演依頼をかけるような作品ではない…ってことらしいです。

 今回のスタッフとキャストはこんな感じでした。

 指揮:カルロ・リッツィ
 演出:ディヴィッド・マクヴィカー

 メデア:ソンドラ・ラドヴァノフスキー(ソプラノ)
 ジャゾーネ:マシュー・ポレンザーニ(テノール)
 クラウチェ:ジャナイ・ブルーガー(ソプラノ)
 クレオンテ:ミケーレ・ペルトゥージ(バス)
 ネリス:エカテリーナ・グバノヴァ(メゾソプラノ)

 マイナーなオペラ作品のため、私も事前学習ができず、ぶっつけ本番で聞いたのですが、ストーリーは古代ギリシアを舞台に、割りときちんとしていました。

 音楽は…キラーソングは無いですが、メロディもしっかりとあって、良い感じの音楽がたくさんありました。どの登場人物にも大きなアリアがあって、合唱もしっかりとしていて、古典派の音楽なんだな…と思いました。確かに、ロッシーニほど楽しいオペラじゃないです。でも、いい感じの歌にあふれている、オペラとしては良い作品なのではないかなって思いました。たぶん、ここまで技巧的ではなくて、もっと上演が容易な作品だったならば、普通に上演され続けられていたのではないかな?と思わないでもないです。とびきりの名作とは思わないけれど、マリア・カラスが蘇演したのも分かるような程度の作品でありました。

 この曲はフランス語のオペラですが、今回はイタリア語で歌っていました。カラスに敬意でもはらったのかな?

 主役を歌ったラドヴァノフスキーは、あまりに上手い歌手なので、メデアの歌唱困難さが分かりませんでした。だって、終始普通に歌っているんだもの。でも、歌える歌手がほとんどいないわけだから、ほんとに難しいんだろうし、それを全然難しさを感じさせずに歌っちゃうラドヴァノフスキーってすごいんだろうなあと思いました。

 ヒロインから見れば、敵役となるグラウチェを歌ったブルーガーは音域が高くて大変だとこぼしていたので、女声はかなり技巧的に難しいのでしょうね。

 一方、テノールのポレンザーニは「この曲のテノールは、バリトンでも歌えるよ」って言ってましたから、男声はさほど難しくないのかな? 当時のオペラって、演じる歌手を念頭において当て書きが普通だったわけだから、初演をした劇場の女声陣は凄腕の歌手が揃っていたけれど、男声陣はそうでもなかったのかもしれませんね。

 見終わった時に、もう一回、最初から見てもいいかも? って思ったくらいです。

 でもね、音楽は良いのだけれど、ストーリーは重いよ。上演する側の障害は、歌唱技巧の難易度だろうけれど、鑑賞する側の障害は、重いストーリーだと思います。とにかく、ヒロインであるメデアの心は病んでいるんですよ。主人公がメンヘラなので、見ていて、そこに拒否感が生まれるかもしれないし、結構お腹いっぱいになっちゃうかもしれません。

 このオペラは、通の方にオススメしたいです。面白いですよ。私的にも、もう一度見てもいいと思うし、別の歌手や別の演出でも見てみたいと思いました。

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