もちろん、声楽と器楽の一番の違いは、演奏の際に、自分の声を使うか、楽器を使うかの違いが一番大きいでしょう。
器楽であれば、どんな楽器にするか、自由に選べますし、一度選んで「なんか違うなあ…」と思えば、楽器を変える事も可能ですし、余裕があれば、二つ三つの楽器を同時に学んでも良しです。ガチにヴァイオリンを学んでいる人は、まずピアノを器楽の基本として学びながら、並行してヴァイオリンを学ぶ人は多いです。またオトナだと、フルートを学びながらサックスも嗜む人は多いです。いやいや、それどころか、管楽器プレイヤーにはマルチプレイヤーと言って、フルートとサックスのみならず、クラリネットもオーボエもリコーダーも嗜む人も少なからずいます。すごいよね。
しかし、自分の声を使うとなると、持って生まれた声で歌うしかなく、これは選択の余地がありません。自分の声が好きであろうと嫌いであろうと、自分の声でしか歌えないのです。声は取り替える事ができないのです。男性が女声では歌えませんし、女性が男声では歌えません。また同じ男声女声であっても、それぞれに声色があって、高い音域が得意な声を持っている人、低い音域が得意な人、声が強くて張りのある人、ソフトな声で包み込むように歌うのが得意な人…声には様々な種類があり、鍛錬していく事で、声の幅や強さをある程度は広げていくことは可能であっても、別物になる事はまず無理です。
声楽と器楽の違いと言えば、ソロ前提か、アンサンブル前提かという違いもあります。
歌の場合、独唱と合唱の両立はもちろん可能だけれど(特に日本の趣味の音楽の世界では)普通はあまりしません。独唱の人は独唱を専らとし、合唱の人は合唱を専らとします。器楽の場合は、ピアノ以外は、アンサンブルが大前提にあります。まずはアンサンブルありきが器楽の世界です。器楽を、アンサンブル無しで、ずっとソロでやっている人って…いないわけではないけれど、多くはやむをえなくソロをやっているという人が大半で、そういう人だって、チャンスさえあれば、アンサンブル団体に加わりたいと願うものです。
声楽と器楽の違いと言えば…言葉を介在させるか、させないかと言った違いもあります。歌には歌詞があります。歌詞はさまざまな言語で書かれています。日本語の歌しか歌わないと心に決めた人は別として、普通の人は声楽を学ぶと、必然的に外国語も学ぶ必要があります。少なくとも、イタリア語とラテン語とドイツ語ぐらいは、読めて、簡単な意味ぐらいは分からないと、とても声楽はやれません。
そこへ行くと、器楽には言葉が伴いませんから、言葉の壁を簡単に超え、言葉の違いをものともせずに、音楽を共有できます。しかし器楽では音楽でしか表現ができないので、人の持つ様々な感情を象徴的にしか表現できません。
しかし声楽は言葉を伴うが故に、人々の感情を具体的にダイレクトに音楽に載せて表現する事ができます。感情表現という点について見れば、器楽よりも声楽の方が様々な点で有利であると言えるでしょう。
器楽の場合、アンサンブルをする事が多く、音楽のイニシアチブを握るのは指揮者である場合が多く、指揮者がいなくても、コンサートマスター等、自分ではない誰かが音楽のイニシアチブを握る事は少なくありません。
声楽は、基本的に歌手が絶対君主です。歌手が音楽のイニシアチブを握っています。難しいのは、オペラ等で歌手と指揮者が並び立っている時ですが、オペラ全盛期の19世紀はともかく、現代では指揮者が歌手をリードするカタチが多いようですが…それでも両者の力関係によっては、歌手が絶対君主として君臨することもあるようです。
あと、つまらない事ですが、器楽演奏は基本的に楽譜を見ながら演奏する事が多いですが、声楽は暗譜が大前提です。と言うのも、椅子に座って楽器演奏に専念できる器楽と違って、声楽の場合、多くは歌唱に演技が伴うことが多いからです。演技をしながら歌うなら、楽譜なんて持っていられませんからね、自然と暗譜になるわけです。
ざっと思いついただけでも、これぐらい、器楽と声楽では違いがありました…という話です。
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コメント
すとんさん、こんにちは。
器楽の人は、音が出せるようになったら、自分でコンチェルトみたいな難曲を目指すとか、ソリストとしての水準を上げるように研鑽するというより、アンサンブルやアマオケに入って大曲をやろうというのが好きな人が多いとおもいます。
で、曲目の呼び方は、オケ中心の器楽の人は「ラフ2」「ドヴォ5」「ベト6」とか作曲者の略語+数字をやたら連発しますが、声楽の人はイタリア語やドイツ語の原語で呼びますので、第三者から見れば敷居がありますね。
合唱やったことのある趣味の独唱の人は、「二度と合唱なんて御免だ」と思うけど、器楽では逆のようです。
そして、声楽では自分の声にあった曲を選ぶけど、器楽は自分のやりたい曲が自分の楽器のために書かれていないとしたら、あっさりアレンジしてしまいますね。
ドロシーさん
全くその通り、そんな感じ。おっしゃる通り。
同じ音楽を嗜む者でも、声楽と器楽とでは、かなり気質が違うみたいですね。でも、違うから、一緒にやる時は楽しいと言うか、幅が広がる…ような気がします。そもそも、自分のカラダで音楽をするか、道具を巧みに使って音楽をするか…という選択をした段階で、気質が違うのは当然なのかもしれません。
>合唱やったことのある趣味の独唱の人は、「二度と合唱なんて御免だ」と思うけど、器楽では逆のようです。
ここが一番の違いかな。アンサンブルをどう受け止めるか…ここが一番、気質の違いが現れるところかもしれない。
こんばんは。
> アンサンブルをどう受け止めるか…ここが一番、気質の違いが現れるところかもしれない。
こちらは、たまたま誘われた某アマオケの居心地がよくて個人レッスンとか発表会はなくてもフルートはまだ続いています。
弦とか木管との合わせに感動してしまうと、音の溶け方はピアノ伴奏とは別世界すぎです。
ただ1stと2ndの違いは大きい、とおもわず書いてしまいます。2ndも周りで何が起きているか1stに比べるとメチャ冷静に見えて十分おもしろいですが。
あとフルートアンサンブルという他の業界の方はほぼご存じでない特殊な分野があります。
フルートアンサンブルはよく演奏される曲のせいか特に低音が弱い音のバランスのせいかわかりませんが、こちらは二度と関わりたくないです。
一時期アルトフルートまで購入してブルートレインやったこともありますがそのアルトもとっくに売り払ってしまいました。
これも気質なのでしょう。
失礼しました。
tetsuさん
オーケストラでのアンサンブルには抗し難い魅力があるのは、私も分かります。私が以前、合唱をやっていた時は、オーケストラ伴奏で歌う合唱団にばかり属していました。だってね、同じ合唱でも、ピアノと合わせるのと、オケと合わせるのとでは、そりゃあ、あれもこれも全然違うわけで、オケと合わせられたら、そりゃあ嬉しいですからね。
今は声楽(独唱)を主にやっていますし、主に予算の都合もあって、ピアノ伴奏に甘んじていますが、本音で言えば、やっぱりオケ伴奏で歌いたいものです。まあ日本では、プロでもなかなかオケ伴奏で歌えないのが現実ですから、アマの私になんぞ、そりゃあ無理難題ってもんっす。
フルートアンサンブルは…私も勉強のためにやりますが、あくまでも勉強のため…ですね。楽しくはないですよ、むしろピアノと合わせている方が楽しいです。これも気質なんでしょうね(笑)。ま、フルートアンサンブルも1stを吹かせてもらえれば、また話は別なんでしょうが…。