スポンサーリンク

“やまとなでしこ”と、リング式

 私のフルート、アゲハはリング式というフルートです。つまりトーンホールを押さえるキーに穴が開いているタイプのフルート。もちろん、キーに穴が開いていないカバード式というフルートもあります。チャイナ娘がそれ。

 一般的に、穴の開いているリング式は、その穴をきちんと塞がないと音が出ないため、カバード式と比べて、演奏が難しいと言われています。だからでしょうか、スクールモデルのフルートのほとんどはカバード式です。ある意味、初心者に優しいカバード式と言えなくもないです。

 私もそうですが、フルートを始めた最初の時に持つ楽器って、たぶん、ほとんどの人がカバード式なんじゃないでしょうか。そして、ある程度の腕前になったり、経験を重ねてきたり、無謀な衝動買いだったりして、やがて二本目のフルート購入にたどり着きます。

 二本目のフルートとして候補に上がるのが、だいたいリング式フルートです。

 二本目のフルート候補になる価格帯のフルートって、リング式とカバード式の二種類用意されていることが多いけれど、なぜかカタログに写真が載っているのは、リング式の方だけ。

 雑誌やブログを見ても、プロ奏者の方がニッコリ微笑みながら手にしているフルートは大抵リング式(のゴールドフルート)。レッスンをつけてくださる、お教室の先生のフルートも大抵リング式。

 なんか、憧れますよねえ、リング式。

 たしかにキーに穴が開いていて、難しそうだけれど、少しはフルートが上達した自分にはちょうどいい乗り越えるべき課題というか、ステップアップするための目に見える難問のような気がして、ファイトもりもりになりますよね。

 お高いフルートは、みんなリング式のような気がします。リング式って、高級そうな感じします。本格的な感じもします。

 なんか、心の片隅で「カバード式のフルートを吹いているうちは、フルート奏者として、まだまだなんじゃないか」なんて気持ち、無いと言えば嘘になります。

 だから、買換え候補のフルートって、リング式が多いし、今すぐフルートを買い換えるつもりがなくても、「いつかは総銀のリング式のフルートを…」 そう願っている人、いるんじゃないですか? 実は私がそうでした。いやあ、実にお恥ずかしい。

 そして、実際に二本目のフルートをリング式にして、皆さん苦労するわけです。「音が出ない~」「穴が塞がらない~」「指が届かない~」となり、当面はホールキャップ(リング式の穴を塞ぐシリコン製の部材)の世話になりながら、何カ月もかけて、人によって数年に渡って、一つずつキャップを外してゆくという苦労をして、リング式を使いこなせるようになるわけだ。

 なぜに、それほど苦労する人が大勢いるのか? 私は考えてみました。技量が足りないから穴が塞げない? そんな事はないでしょう。技量なら十分にある音大生だって、リング式に転向したばかりだと苦労するそうです。では、なぜ?

 ここで翻って、自分自身のことを考えてみました。私はフルート初心者です。始めて三カ月の時にリング式のフルートに買い換えました。購入したその日から、何の苦労も不自由もなく吹いてます。

 自慢をしているわけではありません。みなさんご承知でしょうが、私のフルートは、当然まだまだです。うまくないどころか、たぶんヘタッピです。才能も無いでしょ。練習時間も雀の涙ほどです。

 それではなぜ、購入したその日から苦労もなくリング式を使えているのか? それは…。

 単純に、手がデカいから。指が太いから。それだけじゃないかな?

 フルートを構える私の手を真上から見ると、指に隠れて、フルートのキーそのものが見えなくなります。つまりフルートのキーよりも、指の方が太いわけです。だから、かなりアバウトにいいかげんにキーを押さえても、キーの穴は塞がります。って言うか、穴を開けたままキーだけ押さえろって言われると、たぶん苦労します。

 つまり、リング式のフルートのキーの穴をふさぐ、特別のテクニックがあるわけではなく、単に「手がデカい」「指が太い」だけで、リング式フルートが克服できるのです。

 日本では、フルートって女性の楽器というイメージが強いですが、この楽器、元来は男性用の楽器でしょう。軍楽隊で行進の時に軍人さんが吹いていたり、窓辺で求愛をする男性が恋人の気持ちを引きつけるために吹いたり、王様が宮廷音楽会で家臣たちを前にして威厳を持って演奏したり…、歴史的に見ると、フルートって、本質的には男性ホルモンむんむんの楽器だったみたいですよ。

 と言うか、ヨーロッパ(つまり西洋音楽の本場)では、現代になるまで、ピアノとハープと声楽以外の音楽活動は、男性が独占していたんだよね。当然、フルートだって男性しか演奏しなかった。

 だいたい、金属製でガシンガシンと組み立てる楽器だよ。超合金ロボの玩具みたいな楽器ってだけでも、男性というよりも、男の子向けって感じでしょ。

 男性用として作られた楽器だから、当然、そのサイズも男性用。ガタイのデカい、白人男性サイズに作られているわけで、だから私にはぴったりなわけだ。あ、私は身長も体重も白人並の巨漢日本人です。

 そのガタイのデカい白人男性向けの楽器を、小柄で華奢で可憐な日本女性が持てば…そりゃあ、色々無理があるよねえ。

 まるで男物の大きなスーツを、女性が着ると、ブカブカになって、なんともカワイイとは言えるけれど、ちょっとムリを感じる…そんな感じ?

 旧日本陸軍では「靴に足を合わせろ!」という言葉があったそうですが、現在の日本のフルート界には「フルートに指を合わせろ!」という風潮があるのでしょうか? ご苦労なことです。

 私は、細くてたおやかな白魚のような指の方々が、リング式のフルートを苦労をして演奏している様子を見るたび、大きな胸を痛めています。あの美しい指でリング式フルートを演奏するのは、元来、無理なことなのかもしれません。

 でも、その無理をみなさん押し通しているんですよねえ、みなさん。いやあ、すごい。さすが、日本女性。やまとなでしこ!

 いや、ほんと。茶化しているのではなく、本当に大変なんだろうなあと、同情しています。

 プロでもカバード式のフルート奏者って、少なからずいるでしょ。音だけ聞いたら、リング式もカバード式も区別がつきません。音楽を演奏するツールとして考えるなら、リング式にこだわる理由なんて、これっぽっちもないのかもしれません。

 それでも皆さん、一度はリング式のフルートを購入するわけです。それは理屈ではなく、憧れだってことはよく分かってます。はい、私もリング式に憧れていました。

 憧れですよね。その憧れのために、本来ならば不要な努力を積み重ねるわけです。頭下がります、本当に下がります。ただ、憧れのために、あえて苦難の道を選択する…。これぞロマンなのかもしれません。趣味人として、その姿には心うたれます。

 頑張ってゆきましょう。私も陰ながら応援します。色々難しいでしょうが、リング式を克服して、軽やかにフルートを吹きましょう。

 がんばれ、がんばれ、日本女性、やまとなでしこ! でも、カバード式でも、全然、無問題だと思ってます。

蛇足。私は指は太いけれど短くて…という人は、オフセットのリング式を選ぶといいと思います。そう、最近は、リング式でも、オフセットとインラインの二種類ある楽器がありますので、指が短い人はオフセットで、長い人はインラインがいいんじゃないかな? 指の長短とリング式適性の有無は、たぶん関係ないです。

コメント

  1. tico より:

    私が昔20代の頃にちょっと人のを借りて遊んでたフルートはカバード式でした。「でした」っていうより、リング式っていうのを知らなかったです。フルートはサキソフォーンのようにお鍋のふたみたいなのが穴を塞いでくれて当たり前だと思ってました。確か、おぼろげな記憶ではソの#の時に左手小指で蓋から伸びた腕を押さえると遠くにある穴を塞いでくれたように思います。あれも自分の指で穴を塞ぐとしたら、届かないような気がします。(なんか間違ってたら訂正お願いします。)

    検索でフルートリング式の写真を見ると、穴が開いてるキーと開いてないキーが混ざってました。蓋が押さえてくれる箇所もあるのかもしれませんね。昔はこういうの見かけなかったです。(私が知らないだけかも)反対に練習用とかいって、ただ穴だけ開いてるフルートは見たことがあります。いわゆるリコーダーのように、胴体に穴が開いてるだけのです。まあ、私の話は1970年代後半~1980年代初めくらいの時代に見た・経験した話ですので、世の中すごく変わっていると思います。(汗)

    最近私はアルトリコーダーを吹くはめになって、自分の指できちんと穴を塞ぐのに苦労してます。特に右手(低音を作る場所)の小指が押さえられなくて、一番低いドがピーっていうんです。それで何度も練習していたら、リコーダーの小指の部分をちょっと自分の小指側に回すと楽に届くようになりました。これで解決かと思うと、案外そうでもないですね。もうちょっと反復練習しないと押さえられないです。左手はギターで鍛えられていて、よく開くのですが、右手はギターでも違う動きしてまして、開いたり力を入れたりさせられてなくて、リコーダーを押さえるには慣れてないですね。

  2. すとん より:

    >ticoさん

     ソ♯を開ける棒のようなキーは確かにありますよ(笑)。リング式のフルート、穴が開いてるキーと開いていないキーが混在している理由は、指の乗るキーには穴が開いていますが、指が乗らず、他のキーと連動し動くキーには穴が開いていないだけです。

     穴が開いているだけのフルートもありますね。私、持ってますよ(笑)。商品名を「コンサインス・フルート」と言ったと思いますが、C管なのに最低音がDという、変わった楽器です。ググってもヒットしないので、もう世の中的には、存在していないのかもしれませんね。

     リコーダーもソプラノはともかく、確かにアルトは大きいので、穴を塞ぐのに、ちょっと苦労する部分ありますね。特に低音!はもうねえ…。練習あるのみです。

     私はむしろ小さい楽器に苦労します。ソプラノリコーダーでギリギリかな? それ以上小さいと、たぶんお手上げです。フルートを吹いていると、いつかは同族楽器も吹いてみたいという誘惑にかられますが、だからと言ってピッコロはねえ…。音の高さもさることながら、あの小ささに幻惑されます。私的には、むしろ大きい楽器…バス・フルートとかに行く方が気持ち的には楽です。

  3. chiko より:

    西洋の楽器は男性用だと、すとんさんはよく仰っていますものね。ああそうなんだあ・・・

    私、リングキー小指がとどきません。手も小さいけれど、小指が極端に短いんです。関節までありません。手を見て、よく笑われます。お気に入りの小さい手なんですけれど、だから、ピアノが1オクターブやっとです。乙女の祈り、弾けません。

    ピッコロは大好きです。

  4. chiko より:

    失礼しました。
    リングキーでも小指はリングじゃありませんでしたね。
    小指が短いので、バランスが悪いんですかね。

  5. すとん より:

    >chikoさん

     私は常々、クラシック音楽で使う楽器は、なぜミニサイズのものを作らないのか、不思議でなりません。ポピュラー系なら、シンセサイザーにはミニ鍵盤のコントローラーがあるし、エレキギターやエレキベースにしても、ショートスケールというミニな楽器がある。ドラムスだって色々な大きさのドラムがあるから、小さめのドラムで揃えることも可能。身体の大きさが、演奏家としてのマイナスにはならないようにできているし、だからガールズバンドも大手を振って活動できるわけだ。しかし、クラシック系は、身体が小さいことが音楽家としてマイナス要素に働くわけで、なんか納得しない。

     ヤマハあたりが、日本女性向けの、ちょっと小振りでオシャレな楽器を作ったら、いいのになあと思います。もちろん音域とか操作性は通常サイズと同等にしてね。

     もっとも売れるかどうかは分からないけれど…。

     乙女の祈り? 鍵盤の1オクターブくらい、楽々押さえられるけれど、技術がないので、弾けません。

  6. すとん より:

    >chikoさん

     小指の件は、フルートの場合は、右の小指は足部管を内向きに廻すことで、多少指の長さをカバーできると思います。

     どちらにしても、フルートの場合、小指は右も左もレバーなので、このレバーを長くしてもらえば、問題ないと思います。既製品ではダメですが、ハンドメイドのフルートなら、注文する時に、レバーを長くしてくださいって頼めばいいんじゃないの? 自分の手に合わせて作ってもらえるのも、ハンドメイドの良さだと思うけれど。

     オーバーホールの時に、改造をお願いするってのは、ありなのかな?

  7. めいぷる より:

    すとんさん、そんな立派な手をお持ちなのですか?
    んじゃぁ、反対にピッコロなんか指がくっついちゃって吹き難いのでは??

    私は指も長く、筋肉の無い殿方の様な手をしてます(笑)
    オフセットキーは指が余って吹き難いですし、、、クリスタルフルートのD管(ピッコロ)は指がくっつき過ぎて吹けないんです。。。^^;;

  8. すとん より:

    >めいぷるさん

     立派かどうかは別として、手は普通にデカいかな? 冬場は手に合う手袋がなくて、苦労します。スキーグローブはとにかく一番デカイ奴にしてます。

     ピッコロは吹いたことないけれど、あの大きさはちょっとイヤかな。オフセットキーは確かに指があまって、私もイヤだな。というより、フルートも、もう少し太いと持ちやすいのになあ、と真剣に思ってます。

     女性は指が長いと、手に色々なオシャレができていいですね。リングにしても、マニキュアにして、映えますものね。

  9. あゆみ より:

    こんばんはー。いつも楽しく読ませていただいてます。

    手が大きいとよいですね。やっぱり楽器に向いている手の形もあるからそれも才能の一つですよ。

    忙しくて2日練習できず今日吹くと案の定ガタガタ・・・涙。指か息か、何の崩れが一番ひどかったかと思うとアンブッシャーでした。ちょっとさぼると真っ先に一番の弱点というか身についていないところに来るということがわかった一日でした。

    今度の連休はガンガン練習したいです。綾子さんって素敵ですね。今度CDを買ってみようと思います。

  10. すとん より:

    >あゆみさん

     手に限らず、体によって向く楽器、向かない楽器ってあると思います…が、プロをめざしているわけではなく、あくまで自分の楽しみでやっている趣味の音楽なら、自分に向かない楽器でもやりたければ、ガンガンやればいいと思ってます。

     フルートは初めて間もないので、そういう気分になったことありませんが、声楽とか合唱とかは、時折、壁にぶつかって「オレ、向いてないのかなあ…」と落ち込むことあります。落ち込むたび、問題を乗り越えたり、回避したり、逃げ回ったりと見苦しくやってます。

     アンブシュア…生意気なようですが、私も弱点です。ま、私の場合、弱点だらけのフルートなんですけれど(笑)。弱点は一つ一つ丁寧につぶしていくしかないですね。

     休みの日は練習…いいですね。私も最近は暇な時間があると、ブログをしているか、フルート吹いているかのどっちかです。いやあ、安上がりな休日の過ごし方でナイスだなあと自分で思ってます。え? 声楽の練習はしないのかって? 声楽は一日1時間以内と決めているので、たっぷりとはできないんですよ。

  11. くろねこ より:

    フルートは男性用ですか~。そうかもしれないですね。
    私、チビなので・・・どうしてこんなに長いんだろう???とよく思います(^^;
    頭部管があと10cm短かったら、とても持ちやすいんだけどなぁ~。

    チビのくせに手はデカイです。肉は殆どありません。
    手袋は男性用でピッタリ!
    ただ、小指だけが短いので、小指の先が余りますけど・・・
    左手小指のキィはちゃんと届かなかったので、届くように自分でムニ~っと曲げちゃいました(^^)
    先生に話したら、「そんなことしちゃダメー!」と言われました。そりゃそうですよね。

    右手小指も届きにくくて、低音ドは苦労してます。
    あまり使わないキィなので何とかなってますが・・・

  12. すとん より:

    >くろねこさん

    >頭部管があと10cm短かったら、とても持ちやすいんだけどなぁ~。

     U字型の頭部管あるよ。あるいはソプラノ・フルートという手もある。…けど、それじゃイヤなんだよね。私もその立場だったら、何となくイヤだな。だって、普通サイズのフルートを吹きたいんだもの。ねー。

     左手小指のレバーを自分で曲げてしまうとは…なかなかの豪傑ですね。サクライさんには「Gisレバーは長めに」って注文出してありますか? 「足部管のレバーも大きくしてください」って言っておいた方がいいよ。ハンドメイドなんだから、自分の手の大きさに合わせて作ってもらうって、基本中の基本だからね。

タイトルとURLをコピーしました