先日、ある講演会に出掛け、そこでの話題の一つに『20年後には無くなっているはずの仕事』の話がありました。そういう仕事は、今は景気が良さそうでも、20年後は無くなっている可能性が大だから、若者をそういう業界に行かないように、しっかり進路指導しましょうって感じの話でした。
就職先の会社が潰れても、業界自体がしっかりしていれば、同業他社に転職すればいいけれど、就職先の業界が壊滅してしまい、ある程度の年令になってから、別の業界へ転職するって…そりゃあ大変だもの。子どもはそういう事が分からないから、オトナがしっかり、そのあたりを見極めてアドヴァスしてあげないと、その子の人生が台無しになってしまいます。ほんと、業界の景気動向を見てあげることは、進路指導にとって、大切な事です。
で、その話を聞きながら、私は音楽業界について考えてみました。まあ、私は音楽業界の人ではなく、完全に門外漢なので、そのあたりは結構無責任に言えちゃうし、たからこそ言っちゃおうかな…ってのが、今回の記事の主旨です。
音楽業界は、基本的には芸能界の一つの分野であって、確実性はなく、安定性もなく、実力があっても通用するとは限らず、人脈がモノを言い、綺麗事が通用せず、ハイリスクな世界だけれど、ごくまれにハイリターンも狙える、賭博性の高い業界です。
まあ、堅気のオトナなら、若者には薦めづらい業界です。実際、私も、息子君が音大に行きたいと言い出した時は、全力で阻止しました。どうしても音楽業界に行きたいなら、ごく普通に(音大ではない大学に進学して)大学を卒業してから、周辺業界への就職を考えろと言いました。音楽家ではなく、音楽家を支える仕事ね。そっちに行くなら頑張れよって事です。演奏家は…ダメだよね、親としては、そんなリスキーな選択は許せませんって。
ただ、演奏家は…クラシックであれポピュラーであれ伝統音楽であれ、本人には才能と人脈があり、家庭には有り余る財産(あるいは、本人には貧乏に耐える根性)があって、普通の幸せを捨てる覚悟と、その上、運と出会いがなければ成功できないとは言え、演奏家という職業自体は、決して無くなることはないでしょう。昔から、ごく一部の人しか成功できなかった職業でしたが、今後もごく一部の人しか成功できない職業として残っていくと思います。
むしろ、周辺業界の方が厳しくなっていくのかも…ねえ。
すでに音楽販売業(街のレコード屋さんね)は壊滅状態です。街からレコード屋さんがバンバン消えています。大きな原因は、アマゾンを始めとするネット通販の躍進や、音楽のダウンロード販売のおかげですが、ほんと、次々と街のレコード屋さんが廃業しています。
販売業だけでなく、製作業(レコード会社さんね)も、かなり厳しいと思います。CDが売れなくなってからは、販売の中心をダウンロード販売に移行して頑張っているのは分かりますが、いかんせん、若者を中心に“お金を支払って音楽を聴く”習慣がドンドン無くなっているから厳しいです。
今や音楽は聞きたい時にネットで聞ける時代になりました。音源をダウンロードして購入することもできますが、YouTubeに行けば、たいていの曲は、新曲であっても、あります。だから「音楽を手元に所有したい」という人は別ですが、単に「音楽を聞きたい」だけの人は、音楽を購入する必要がないのです。つまり“録音された音楽には商品価値は無い”って時代がやってきているわけです。
それに、音楽を製作するにしても、レコード会社を経由せずに製作して発表する事も可能だし、そこから成功する人だっています。最近の例でいえば“PPAP”がそうでしょ? 近所のスタジオで製作して、YouTubeにアップして、世界中の人々に視聴してもらって、ウハウハ…ってパターンです。そんな仕事の形が定着したら、レコード会社的には、たまったもんじゃないでしょうね。
一方で廃れないのが、興行関係です。いわゆる、ライブで稼ぐってパターンね。演奏家がいて、客がいる限り、ライブなりコンサートなりってのは、無くなりはしません。これはとりあえず安泰でしょうね。そして今後は、録音された音源は、商品として販売されるのではなく、ライブの宣伝部材として活用されるようになるでしょう。
ただ、ライブは廃れないとは言え、規模は小さくならざるを得ません。だって人口が減っているんだもの。仕方ないよね。
音楽教育の現場は…と言えば、学校の先生は廃れませんが、子どもの数は経る一方ですから規模は小さくなります。小学校~高校は統廃合が進むでしょうし、音大は潰れていくと思います。
私がよく耳にするのは、都会は中高の音楽の先生が余っているけれど、地方に行くと全然足りない…という話です。ですから、学校の音楽の先生(仮にも公務員です)志望の人は、地方の教員採用試験を受けてみると良いかもしれませんね。
少子化の影響をモロに受けているのは、街のピアノの先生でしょうね。家庭の主婦が自宅で(経済的に)内職感覚で行うならともかく、この仕事だけで生活を支えていくのは、厳しくなっていくだろうと思われます。
似たような仕事に、楽器店の音楽教室と、そこで働くインストラクターさんや臨時講師さんがいます。今は楽器店の教室も老人相手の講座でしのいでいますが、その老人世代の中心となっている団塊の世代も、あと20年生き残っている事は…まあ、ないでしょう。となると、老人相手の商売はダメになってきますし、だからと言って、子どもの数も減ったままです。楽器店の音楽教室の経営そのものは、海外進出して行って生き残る戦略はありますが、その場合、その教室で働くインストラクターさんや講師の方々は現地採用でしょうから、日本人講師の出番はありません。厳しいです。
楽器店も学校同様に、少子化の影響を受けています。でも、学校に吹奏楽部がある限りは、大きくもうける事はなくても、きっとなんとかなるはずです。
楽器製造会社は、日本のメーカーはどこも高い製造技術を持って、良い楽器を生産していますが、以前ほど国内での販売は期待できないでしょう。なにしろ、日本の人口が減っているんですから、内需にはあまり期待できません…やはり、海外進出をしていくしか生き残る道はないかな? それがダメなら、海外資本に買い取られての、生き残り…ですかね。
音楽系出版社は…本当の本当に厳しくなると思います。教科書を発行しているところはともかく、そうでない会社は厳しいです。日本の人口は減っているし、人々から読書の習慣は薄れてきているし…、音楽系に限らず、書籍は売れなくなってきています。また、楽譜は輸入譜が簡単に入手できるようになったので、クラシック系の楽譜出版を中心に据えている会社は厳しいですね。
このように書き連ねていくと、20年語の音楽業界は、あたかもお先真っ暗のような気がしますが、別に先が暗いのは音楽業界だけでなく、日本社会のお先そのものが真っ暗なだけです。日本社会のお先が暗いのは、何かヘマをしたからとかそういうわけではなく、単純に人口が減っているためです。
日本の人口は、2010年では約1億3千万人だけれど、2035年には1億1千万人になると言われています。わずか25年(20年でなくてゴメン)で2千万人近くも減ります。人口5千万人にと言えば、割合で言えば、日本人口の1/3にあたります。25年で人口が15%も減ってしまうわけです。人数で考えても、2千万人と言えば…チリやオランダの人口よりも多いですよ。つまり、25年でチリひとつ分、オランダ一国分の人口が日本から消えてしまうのです。驚きだね。
国にとって、人は力なのです。子どもが生まれなくなり、老人がバンバン死んで、人口が減ると、国力が下がります。つまりは、それだけの話なのです。音楽業界も、そこから逃れることはできないのです。
人口が減り、国力が弱まっていく中で、音楽業界で生きていくために、どうするべきかと言えば、やはりリスクヘッジの事も考えると、企業レベルで考えると、やはり多角経営をしていくしかないかな? 例えば、音楽教室なら保育園事業と提携していくとか…ね。
個人レベルならば、音楽だけでは食べていけないのですから、副業をしっかりしていく事に尽きると思います。例えば(すでにいるかもしれないけれど)平日は工場労働者として働き、休日はピアニストとして働くとか…。まあ、工場労働者じゃなくても市役所の職員でも、大工さんや料理人でもいいのです。とにかく、定時に始まり、定時に終わる商売ならなんでもいいんじゃないかな? あるいは、昔々のように、パトロンを見つけて、資金援助を受けながら音楽家として生きていくか…。
そう考えると、一番現実的なのは、結婚して家庭に入って、旦那が働いている時間に、パートとして音楽業界で活動していく兼業主婦だったりして…。となると、近い将来、音楽業界で働く人々は、女性ばかりになってしまうかも…。
事実、音大の女子大化は、だいぶ進行しているそうだし、私の推測も、あながちハズレではないと思うのです。
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コメント
ギターの専門学校(!)というのがあるそうでして、
講師が生徒たちに、
「みんな、親の反対を押し切って、入学したんだろうねえ?」
と問いかけると、生徒たちの大部分は、異口同音に、
「親も応援してくれています。夢を追え、と。」
講師氏、びっくり「時代は変わったねえ。」
「俺が若い頃、俺も周りの音楽仲間も、
音楽で食っていくなんて、みんな親に反対されたもんだが。」
専門学校ですから、音大よりは、ずっと、入学のハードルは低いでしょうが、
それにしても、親御さんが、お子さんに対して、音楽学校オッケーということで、
すとん様と正反対の親御さんって、多いようです。
私も、すとん様派、でして、
赤の他人の若者が、音楽学校へ行こうが、怪しい業界に行こうが、ご自由に、ですが、
自分の身近な若者の進路については、堅実な道を勧めます。
私の甥っ子、高校卒業後、アニメ専門学校に進学し、
(まあ、その親は、音楽学校オッケータイプ、ですかね。)
卒業後、アニメ制作会社で、無給で修行していましたが、
ある日「明日から来なくていいよ。」と言われて、以来、アルバイター。
おじである私が、その子の進路に口出しできるはずもなかったのか?
いやいや、おじの意見として、反対するべきだった、と反省しています。
おしまい
今日は、業界という枠組みでの話でしたね。
連続投稿をお許しください。
ポップス系音楽の場合、
国内外問わず、才能ある若者が、大した苦労もなく、
大ヒットを飛ばしているのを見て、
「俺にもできる!」とか、「私も憧れる!」とかで、
音楽業界に参入しようとする若者は、
音楽以外の学業や
音楽以外のアルバイトをしながら、
音楽業界を目指し、
その内の何人かが、大衆受けする音楽を作り、歌い、
CDや楽譜という物理的な「物」は売れなくても、
ネット配信という方法で「お金」を儲けるシステムを
中高年が工夫・メンテし続けることで、
(ポップス系)音楽業界は生き続けるのでしょうか?
クラシック音楽の場合は、才能+苦労+運=成功
クラシック音楽以外の学業や
クラシック音楽以外のアルバイトをする暇などなく、
ポップスに比べると、非常にリスキー。
そのリスクを負えるのは、お金持ちの子女であり、
音楽家になれれば良し、
音楽家になれなければ、それもまた良し、
家で音楽を奏でて、個人的に楽しむわ。
てなことだと、クラシック音楽業界の未来は暗いのかしら?
ああ、まとまってなくて、すとん様、すみません。
おしまい
すとんさん、こんにちは。
私は、進路指導に関しては、年長者のアドバイスほど有害なものはないと思います。
数十年後、世の中がどうなっているか、ということを考えながらアドバイスする人はいません。ただ、今までとこれからの自分とその周囲の人たちがどうか、ということだけです。
それに、社会人になる前にはなくて、なった後にできた職業というのも多く存在しています。Web関係とか、音楽だったら音楽療法士がそうですね。
ちなみに、私の親は教員でして、よく「教員は公務員だから、安定している。守られた環境だから、なりなさい」と言われていました。
今思えば、「自分の子供に勧めるなんて、自分の職業を誇りに思っているんだな」ですが、実態はかなりブラックなのではないでしょうか?
私は、組織に守られなくても、他に移りやすい仕事を選びますし、自分はそれで良かったと思っています。
しいて言えば、大切なことはかなりの高齢になっても学び続ける姿勢を失ってはいけないということです。
話しはそれますが、アジアでは、西洋音楽の楽器の消費が伸びているらしいですよ。一時的かもしれませんが、和楽器を習う外国人も増えています。
現地で「日本語で教える音楽教室」を開くというのも、アイディアかもしれません(笑)。
operazanokaijinnokaijinさん
私はポップスと言うか、流行歌の業界は廃れないと思います。もちろん、個人で見れば、浮き草稼業ですし、安定性なんて、これっぽっちもありませんが、それでも常に世間からのニーズは一定してあるわけだし、世の中が好況になろうが不況になろうが、平和であろうが戦時であろうが、流行歌は無くなりませんし、その業界は生き続けるでしょう。
一方、クラシック音楽の業界は…そもそもクラシック音楽が、同時代のものでもなければ、我々日本人のものでもありません。今が受け入れられすぎている…と言えなくもありません。
従来は「舶来品はすべて素晴らしい」と信じていた世代(主に戦前の世代)と「日本のモノはすべて駄目だ」と思い込んでいる世代(団塊の世代)がクラシック音楽を持ち上げてきたわけですが、だんだんと世代は進み、今の人たちは「外国のモノよりも国産品の方が好き」という考え方の人も増えてきました。クラシック音楽が早晩なくなるとは思いませんが、段々とニッチな音楽になっていくだろうと思います。
学校教育が我々とクラシック音楽を結び止める縁であったわけで、それはこれからも変わりませんが、その学校教育の中で、クラシック離れ…と言うが、日本回帰が進んでいますので、これから先、相対的にクラシック音楽の人気が廃れていく事は予想できます。
ドロシーさん
>私は、進路指導に関しては、年長者のアドバイスほど有害なものはないと思います。
私も同意見です。世間の常識なんて、世代が変われば、コロッと変わるものですからね。ましてや、業界の動向とか世の中の流れなんて、変化するのに一世代も必要ありませんから。
>実態はかなりブラックなのではないでしょうか?
ブラックですよ(笑)。それも漆黒。確かに安定はしてますが、労働時間に対して、非常に安価にこき使われています。同じ質と時間の労働を民間企業で行えば給料は…止めましょう、誰も教育者になるのを止めてしまうでしょうから(笑)。
>現地で「日本語で教える音楽教室」を開くというのも、アイディアかもしれません(笑)。
面白いですが、どうでしょうね。所詮、西洋音楽は西洋が本場ですからね。「ドイツ語で教える音楽教室」とかがあったら、大流行かもしれませんが(笑)。
その発想で行くなら「日本語で教える柔道教室」とか「日本語で教える生け花教室」、いやいや「日本語で楽しもう、日本アニメ」とか「日本語で歌おう、日本のカラオケ教室」とかの方が、ウケると思います。
こんばんは。
> 20年後、音楽業界はどうなっているのでしょうか?
こちらも全く予想つきません。
フルート業界では神戸で初めてパユを聴いてから20年以上たっていますが、パユの次はこちらはよくわかりません。
http://style.nikkei.com/article/DGXBZO62980660S3A121C1000000?channel=DF130120166044
「米国で2011年度に入学した小学生の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう」
思えば幼少期、有名な業界とか企業は・・・、ととても書けませんが、コンピュータは少なくともメジャーではありませんでした。
高校で今はなき某メーカーの機械語で遊んだのが楽しくて、大学の専攻とはちがう業界に就職しました。
結局、ITと呼ばれる業界の片隅でツブシが効くところでかろうじて仕事を続けています。
http://ascii.jp/elem/000/000/476/476950/
世界のコンピュータ市場は5台くらいだろう」(I think there is a world market for maybe five computers.)
今のクラウドから見れば一人一台を超えてところで、そうなるかもしれません。
数十年前は今の世界はガラケー、スマホ、ネットワークなども含めて全く想像できませんでした。
音楽に戻ると
> 昔から、ごく一部の人しか成功できなかった職業でしたが、今後もごく一部の人しか成功できない職業として残っていくと思います。
まさにその通りです。追加するコメントはありません。
> 日本社会のお先が暗いのは、何かヘマをしたからとかそういうわけではなく、単純に人口が減っているためです。
このあたりは、右肩上がりの経験しかなくて、逆にあらゆるところでどのようにシュリンクしていくか全く方向性のないこの国で大きな問題です。
http://news.livedoor.com/article/detail/12128755/
1992年に205万人いた高校3年生人口が、2015年には120万人まで減少した
東京大学の定員は3000人のままだという林氏は「20年以上見てきたボクから言わせてもらうと、この(東大生の)下のほうはスッカスカですよ」
大学は廃業しないように定員を確保したり多めにとるようです。
分数できない大学生という話題がいつだったかも忘れました。
tetsuさん
20年なんて、たった一世代ですが、私だって先は読みきれません。なにしろ、20年前(前世紀末)の頃と今とを比べたって、あの頃に今の世界を予想できたかと言えば、そりゃあ無理ってもんです。
東大を始めとする大学に限らず、どこの学校も廃業しないように、定員を確保するために、成績基準やなんやらをガンガン下げています。成績を下げすぎて、もう下げられなくなったら、次は外国人(つまり留学生)をガンガン受け入れます。そうやって受け入れられた留学生は、別に優秀だから我が国に留学してくるわけでもなく、単純に日本に入国するのが目的で、日本で職にありついて母国に送金したり、日本人と結婚して日本国籍をもらうのが目的だったりするわけで、それがうまくいかないと分かると、そのままトンズラして、不法入国者になったりするわけだから、タチが悪いのです。
学校ビジネスって業界は、人口減で簡単に不況に陥る業界なんっすよ。
すとんさん
はじめまして。
パリにいてフルートを楽しんでいる中年オジさんです。ブログ楽しく拝見しております。
人口は確かに減っていますが2010年は1億2千8百万前後だと思います。35年で1千8百万位の減少。これでも約15%の減少で小さな減少ではありませんね。
パリGingerさん
間違いご指摘感謝です。私もちゃんとした統計ページで確認したつもりですが、確認先が間違っていたのかもしれません。今では、どこで確認したのか覚えていないのだから、だらし無いです。