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やっぱりカルーソーだよね

 私は歌うのも好きだけれど、音楽を聴くのも大好き。ポピュラーは言うに及ばず、クラシック音楽も、クラオタほどではないけれど聴きます。クラシック音楽は、特に歌もの、それも名歌手、さらに言えばテノール歌手の演奏は偏愛の対象です。

 テノール歌手で一番好きなのは、何度尋ねられても、マリオ・デル・モナコなのですが、モナコとは次元の違う好きな歌手として、エンリコ・カルーソーがあげられます。

 カルーソー。1903年にレコードデビューをした最初のスーパースター。彼の歌った「衣装を着けろ」は世界で最初のミリオンセラー・レコードだそうな。

 またカルーソーは、今に至る(当時としては)新しいテノール歌手の発声法を確立し、彼以前の歌手たちを歴史の彼方へと葬った画期的な歌手としても有名。今のベルカント唱法はカルーソーから始まったという人もいるくらいの偉大な歌手。

 閑話休題。カルーソー以前のテノール(古典的なベルカント唱法で歌っていた歌手)は、女性歌手のように高音を訓練されたファルセットで歌っていたそうです。そこへカルーソーが中低音の音色をもった輝かしく力強い高音(いわゆるアクートだ!)を持ち込んだので、それ以前のファルセットを中心としたテノールの歌唱方法は一気に廃れてしまったそうですが…カルーソー以前のテノール歌手の発声法が具体的にどうだったかは、今となっては分かりません。カルーソー以前の大テノール、タマーニョの録音が残ってますが、あまりに録音が古すぎるので、その実態については、皆目見当もつきません。
 もしかすると、カウンター・テノールに昔のテノールの面影を重ねることができるかもしれません(し、できないかもしれません)。ま、テノールの歴史は、カルーソー以前と以降に分かれる事は事実。歴史の分岐点なのです、カルーソーは。

 話を元に戻します。

 そんな大歌手、カルーソーですが、大雑把に言って百年前の歌手。録音はあるとは言え、レコードの黎明期のもの。劇的に録音状態は悪いです。復刻盤は無いわけではないけれど、その音質の悪さにがっかりします。いくら一時代を作った素晴らしい歌手の歌声とは言え、ザーザー言うノイズの中に埋もれた歌声を聴くのは、相当にしんどいです。脳内補完がかなり必要です。

 私もSP復刻盤でカルーソーを数枚持っていますが、どれもこれも、21世紀に生きる普通の音楽ファンの耳では、聴くにはつらいものばかりです。カルーソーと言えば、テノール界のアダムとイブのアダムみたいなもの。何とか、その姿に接したいと思うものの、なかなかうまく行きませんでした。

 でも、科学の進歩ってすごいよね。「カルーソー2000~ザ・デジタル・レコーディング」というCDがあります。私はこのCDでやっと、カルーソーを普通に聴けるようになりました。試聴は輸入盤のコーナーからできます。

 このCD、はっきり言って「美しいゲテモノ」です。百年前に行われたカルーソーの録音の、オーケストラの演奏部分と耳障りなノイズをデジタル処理で消して、そこに現代のオーケストラ演奏を加えたもの。でも、これだけで、とても聴きやすいものになりました。

 私はこれを聴くまで、カルーソーって力任せに歌う歌手だろうと思っていましたが、どうしてどうして、いいね、カルーソー。

 今の歌手とは歌唱スタイルがかなり違います。しかし声は(録音状態のせいもあるけれど)まろやかで美しい。張り上げると言うよりも、響きあげるといった印象の声。今の耳で聴くと、全く以て普通のテノール歌手。つまりカルーソーこそが現代テノールの元祖的存在だからこそ、普通に聞こえるのでしょうね。さすがに天下を取った歌声。百年たっても不滅な歌声。One & Only とは、まさにこの事。

 このCDのおかげで、私はカルーソーを聴き込むようになりました。


 このCD、日本ではあまり売れなかったようですが、あちらではそれなりに売れたみたいで、第2弾、第3弾が製作されています。「Italian Songs」と「Great Opera Arias」がそう。前者は「オ・ソレ・ミオ」などのイタリア民謡と、トスティやドナウディのイタリア歌曲が入ってます。後者は「カルーソー2000」に入らなかったオペラ・アリア、例えば「人知れぬ涙」や「星は光りぬ」などが入ってます。(もちろん)輸入盤ならアマゾンでも入手可能です。

 まずはカルーソーに興味を持ったら「カルーソー2000~ザ・デジタル・レコーディング」を聴いてみてください。伴奏を変えて、ノイズを取るだけで、百年前の歌声が親しみやすい音質になって聴けます。引退した伝説の名歌手から(ディスクで)現役復帰なんです。科学って、素晴らしいですね。

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