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メトのライブビューイングで「ルサルカ」を見てきた

 標題の通り「ルサルカ」を見てきました。「ルサルカ」って、あまり有名なオペラではないので、まずは基本的な事を書きます。

 作曲者はドヴォルザーク。使用言語はチェコ語。初演は1901年で、著名なオペラだと、プッチーニの「蝶々夫人」とほぼ同じ頃の作品になります。

 ルサルカは、若い女性の水の精(ソプラノ)で、本編の主人公です。話は、チェコに伝わる民間伝承を元にしているそうだけれど、アンデルセンの「人魚姫」(って事は、ディズニーの「リトル・マーメイド」)と同じような話となります。

 自分の領地である深い森の中の湖で、しばし狩りの休憩を取っていた人間の男(王子:テノール)を見初めて惚れてしまった水の精であるルサルカは、ぜひ人間となって王子と結ばれたいと願い、魔法使いのおばあさん(アルト)から、声と引き換えに人間の姿になれる秘薬をもらって飲み、人間の姿となり、無事に王子と恋仲となって、王子の屋敷に迎え入れられ、結婚をする事となります。しかし、クチもきけず、体温のない彼女を見て、周りの人間は恐れをいだきますが、一人王子だけは、その事に気を留めませんでした。

 しかし、結婚式の当日、招かれた客の一人である、外国の王女(メゾソプラノ)に誘惑された王子は、ルサルカを捨ててしまい、失意のどん底に落ちたルサルカは、故郷の森の中の湖へ帰ります。

 湖に戻ってきたルサルカは、元の精霊たちの世界に戻る事もできず、かと言って人間世界にも行けず、たった一人で絶望感にうちひしがれて、湖のほとりを彷徨っていました。魔法使いからは、元の精霊の姿に戻るためには、王子を殺して、その血を浴びなければいけないと言われたが、まだ王子を愛していたルサルカは、そんな事は出来ないと、それを拒否し、絶望して自殺します。

 自分のひどい仕打ちを恥じた王子は、湖のほとりに行き、湖に向かって、ルサルカに許しを乞うと、湖から、今や、死んで呪いの亡霊となったルサルカが現れます。彼女に許しの口づけを求める王子。ルサルカは呪いの亡霊となった自分と口づけをすると、王子まで死んでしまうと告げるが、王子はそれでもかまわないと答え、ルサルカは王子に口づけをし、王子は死んでしまいます。

 …とまあ、実に救いのない話です。

 このオペラ、作品としては、かなり良い作品です。20世紀のオペラですから、ストーリーもしっかりしていますし、音楽もワーグナー以降の音楽で申し分ありません。

 ドヴォルザークと言えば「交響曲第9番 新世界より」や「スラブ舞曲」「チェロ協奏曲」「ユーモレスク」「我が母の教えたまいし歌」など名曲が数多くありますが、オペラ「ルサルカ」はそのいずれにも負けず劣らずどころか、おそらくは(無名であるだけで)ドヴォルザークの最高傑作と言ってもいい作品でしょう。とりわけ、第1幕で歌われる「月に寄せる歌」はドヴォルザークが書いた最高のメロディの一つと言えるかもしれません。

 その作品の素晴らしさに比べて、上演頻度が低くて、有名ではない理由は…やはりチェコ語の作品であるって事じゃないかな? 我々日本人に取っては、チェコ語もイタリア語も『よく分からない言語』と言った点では同じでしょうが、ヨーロッパやアメリカのオペラファンに取って、チェコ語のオペラはチンプンカンプンで遠ざけてしまわざるをえない作品なのかもしれません。なにしろ、向こうの歌劇場には、日本のそれと違って、字幕のサービスはありませんからね。あちらの観客は、歌われる言葉をそのまま聞き取ってストーリーを理解するわけです。

 ヨーロッパにおける音楽の共通言語は、イタリア語です。また、優秀な作曲家をたくさん輩出しているため、ドイツ語も受け入れられやすいでしょうし、同様な理由でフランス語もOKでしょう。でも、この三つの言語以外で書かれたオペラは、厳しいと言わざるを得ません。

 チェコ語のオペラと言えば「ルサルカ」以外にも、スメタナの「売られた花嫁」とかヤナーチェクの「利口な女狐の物語」「イェヌーファ」などのオペラがあって、チェコの作曲家たちは結構頑張ってオペラを書いて、成功もしているのですが、世界的な視点で見ると、どうしてもマイナー感が漂います。実際、私も、チェコのオペラを見たのは、今回が始めてだもの。

 今回のメト版では、主役のルサルカをルネ・フレミングが、王子をピョートル・ベチャワがやってました。ちなみに、ルサルカのCDやDVDを検索すると、古い20世紀の録音はともかく、最近の録音を探すとルネ・フレミングのモノばかりです。おそらく、今はフレミングがルサルカの第一人者って感じなんでしょう。

 このオペラの面白いのは、主役であるルサルカは、人間の姿になると声を失う(つまり、歌えない)ので、第1幕の途中から、第2幕の終盤まで、ソプラノが歌いません。歌いませんが、しっかりと舞台の上で演技はし続けるわけです。歌えなくても、主役を張れるだけの演技力のあるソプラノじゃないとルサルカは演じられないわけで、チェコ語歌唱もそうだけれど、ルサルカは主役のソプラノを選ぶオペラだなあって思いました。

 一方、王子は最初から最後まで歌いっぱなしです。演じたベチャワによれば「スラブ版オテロ」とも言えるほど、テノールにとっては難役なんだそうです。

 メトの演出は、マイナーオペラのためか、最近の流行りの演出ではなく、オットー・シェンクが昔々に作った演出をそのまま使用していました。これが良いのですよ。

 オットー・シェンクと言えば、フランコ・ゼッフィレッリと並ぶ、1980年代を代表するビッグなオペラ演出家ですが、その演出がそのまま使われているわけです。今や、ゼッフィレッリやシェンクが作ったプロダクションって、昔のDVDで見れるぐらいで、そのセットや衣装の豪華さもあって、最近の生の舞台ではほとんど使われていないのです。

 なにしろ、最近の歌劇場では、現代的な演出というのが流行りで、オペラの時代設定を近代に設定し直し、それでセットや衣装にかける費用を安くあげるのが普通です。

 ルサルカも、DVDなどで入手しやすいロバート・カーセンの演出(現代的な演出)だと、女性は皆、白いワンピース姿、男性はスーツ姿ですけれど、シェンク版だと、登場人物はみな中世の衣装を着ているし、妖精を始めとしたモノノケたちは、いかにもモノノケっぽい衣装を着ています。現代的な演出が良い味を出すオペラもあるでしょうが、ルサルカのようなおとぎ話をベースとしたオペラの場合、現代的な演出では、どうなんでしょうね? メトで使われているシェンク版のような、コテコテな演出の方が良いのではないかなって思いますし、コテコテな演出の方が、ストーリーがよく分かります。

 シェンク版の演出は、映像化された事がないのだそうです。なので、この演出でルサルカを見るなら、今回がチャンス(あと、アンコール上映もあるだろうけれどね)です。

 ルサルカって、マイナーオペラだと言って、馬鹿にしてはいけないオペラだと思います。

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コメント

  1. okazakikotomi より:

    すとん様

    突然のコメントを失礼いたします。
    「[throw back & turn up] 知らなきゃいけない名曲リスト」というサイトを運営しているokazakikotomiと申します。
    この度、すとん様のサイトを拝見させて頂き
    ぜひ相互リンク・相互RSSをお願いしたくご連絡させていただきました。

    誠に勝手ながら、先に以下サイトのサイドバーにリンクを貼らせていただきました。
    http://meikyokulist.com/

    お手数ですが、ご確認の程よろしくお願い申し上げます。
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    ご検討の程、よろしくお願いいたします。

    —————————————————————————————-
    okazakikotomi
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  2. すとん より:

    okazakikotomiさん

     残念ながら、うちは相互リンクをやっていないのですよ。と言うのも、迷惑な話なんですが、ネットにたまにいる、粘着な“キ”印な方が、ここにもいて、その方が、ウチのブログの相互リンクを使って、リンク先であれこれと迷惑をかけたという事件があります。

     私個人へのいやがらせだけなら、一種の有名税と思って諦めますが、他の方への迷惑行為となると看過出来ませんので、それをきっかけに、私は相互リンクを一切やらないことにしたのです。

     憧れの気持ちが、変な方向にねじけちゃったんでしょうね。いい年したジイサンなんですが、かわいそうな人なんです。

     と言うわけで、ご了解ください。

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