肝心のオペラの話はここからです(笑)。
プラハ国立歌劇場の「魔笛」公演を見てきました。
実はこの公演、目玉は、エリカ・ミクローシャが夜の女王を演じる事だったのですが、当然の事ながら、ミクローシャは当地に来てくれませんでした。当地の前日のオーチャードホールと、翌日の東京文化会館では歌うので、ちょうど当地での上演日はオフの日だったんでしょうね。ま、それはそれでいいです。スター歌手の歌も素晴らしいけれど、座付きの歌手さんたちの手慣れたアンサンブルを聞くのもなかなか良いものです…なんて思っていたのですが…。
当日の出演者たちはこんな感じでした。
タミーノ:マルティン・シュレイマ(レギュラー)
パミーナ:レンカ・マーチコヴァー(ゲスト)
パパゲーノ:ダニエル・チャプコヴィチ(ゲスト)
パパゲーナ:ユキコ・シュレイモヴァー・キンジョウ(ゲスト)
ザラストロ:ズデネック・プレフ(レギュラー)
夜の女王:ヤナ・シベラ(レギュラー)
モノスタトス:イジー・フルシュカ(レギュラー)
レギュラーと書いたのは、この歌劇場専属歌手の皆さん、つまり座付きの歌手の皆さん。ゲストと書いたのは、余所の歌劇場の歌手で、今回のツアーにサポートとして加わってくれた皆さん。もちろん、当地に来てくれなかったエリカ・ミクローシャもゲストですね。
こうやって見ると、海外からの引っ越し公演って、スター歌手以外は、その歌劇場専属歌手の皆さん方ばかりで上演しているのかと思っていましたが、案外、私たちの知らないゲストソリストも多くいるんですね。
じゃあ、ソリストじゃなければ…と思って、三人の侍女を調べてみました。
三人の侍女1:アンナ・トドロヴァー(レギュラー)
三人の侍女2:シルヴァ・チムクロヴァー(レギュラー)
三人の侍女3:カダア・イブラギモヴァー・クラード(レギュラー)
ああ、よかった。さすがにアンサンブルしか歌わない三人の侍女たちは、座付きの方でした。
クレジットがないのですが、三人の童は…まだ女学生さんのようですから、おそらくこの歌劇場の研究生じゃないかな? 合唱団は自前のようです。やはり、小さな役(失礼)とか合唱は、歌劇場専属の歌手の皆さんがメインなんですが、大きな役は、余所の歌劇場のソリストさんも使うんですね。ま、やせても枯れてもソリストですからね。
ちなみに、子役とバレエダンサーは自前ではなく、当地のバレエスクールの方々が演じてました。
そうそう、パパゲーナを演じたキンジョウは、日本の方のようです。琉球大学を卒業して、国費留学生としてイタリア留学をしていたそうです(で、向こうの方とご結婚されて、あっちを本拠地にして頑張っているんでしょうね。ちなみに、チェコ国立歌劇場の専属歌手さんです)。魔笛のようなバタ臭いオペラに、いかにもお醤油な顔の方々がいらっしゃると、見ていて、なんか違和感を感じてしまうのは、私が偏見にまみれた人間だからなんでしょうね。
それにしても、よかったですよ。大道具は実に簡素でしたが、これはおそらくツアー用の大道具なんでしょうね。でも、衣装はなかなか素晴らしかったですよ。最近のオペラは、日本国内のモノはもちろん、下手をすると、ライブビューイングで見る、メトやオペラ座だって、衣装がしょぽいケースが増えてきましたが、プラハの衣装は実にゴージャスでした(その代わり、ちょびっと古びてましたが…)。やはり、オペラってファンタジーだから、豪華なイメージが必要ですよね。だから、衣装がハデハデなのは、いいですね。
派手と言えば、モノスタトスは、衣装やメイクが実に派手と言うか、奇抜でした。だって、まるでトランプのジョーカーのような風体でしたからネ。モノスタトスはムーア人(つまり黒人)という設定なんだけれど、今回のモノスタトスは黒人というよりも魔人って感じでした。
で、そのモノスタトス(テノール)の衣装はすごかったし、演技も上手だったけれど、肝心の声は…ちょっと残念でした。ダメという意味ではなく、私の趣味ではない…というか、手本にはならない発声でした。プロにしてはナマっぽい発声で、こんな声でもプロのオペラ歌手にになれるんだ~という感じでした。
私的には、タミーノ(テノール)の発声が素晴らしかったです。パワー的に不足を感じますが、実に響きが豊かで軽い歌声でした。だからと言って地声はそんなに軽い声ではなく(魔笛はレチタティーヴォがなくて、歌と歌をセリフでつなぐので、普段の話し声も聞けるんです)、普通の男性の声なのに、歌声になると、軽くて響き豊かな声になるんです。「こういうふうに発声できたら、いい感じなんだなあ~」と憧れちゃいました。今の私が目指す方向は、とりあえず、こっちの方向かなって思わせる歌声でした。
まあ、そこを目指しても、そこには到着しない可能性は、大なんですが(笑)。
さきほどは顔つきで違和感があるって書いちゃいましたが、パパゲーナは、歌も演技も、なかなか良かったです。日本人が異国である本場のヨーロッパで、オペラ歌手として頑張っているのを見ると、なんかうれしくなりますね。それもその他大勢ではなく、ちゃんとした役をいただいているわけで、金城さん、すごいなあ…って思いました。
夜の女王は、実に危なげなく歌ってましたよ。あのアリアを手に汗握らせずに聞かせると言うのも、なかなかの芸達者だと思います。まあ本当は、手に汗握らせるような、ハラハラドキドキさせるような歌の方がエンタメとしては上等なんでしょうが、演奏家としては危なげなく歌えた方が良いに決まってます。
プラハ国立歌劇場は10月末まで、日本各地で公演するようですから、近くで見かけたら、ぜひご覧くださるといいですよ。なかなか立派なオペラをやってます。
そうそう、幕間の休憩の事です。時間も少ないし、妻はチャレンジャーなので、車椅子に乗って障害者用トイレに行くのではなく(それでは時間がかかってしょうがなく、休憩時間中に席に戻れる自信がなかったんですね)、松葉杖をついてトイレに行くことにしたのですが、やはりホールでの松葉杖移動はつらいですね。
何がつらいって、やはり階段がつらいんですよ。
階段を登る時、松葉杖でカラダを支えて、その状態から、ジャンプして健康な足で「エイっ!」って前の段に跳ね登ります。その際、着地時にヒザを少し曲げておくと、多少楽みたいです。もっとも、一応、体重は松葉杖に預けているとは言え、ジャンプして片足で階段を登るわけです。結構大変ですね。で、足が前の段にしっかり着地したら、体重を前に移動し、曲げた膝を伸ばすことで、松葉杖を再び、自分の体側に引き寄せます。で、そこからまた、ジャンプして健康な足を前の段にかけるわけです。
つまり、ケンケンで階段を上るに等しいわけで、多少は松葉杖に体重を預けられるとは言え、これはかなりつらいです。
で、階段を登る時は、この動作を、階段の段数分だけ、すっとやりつづけるわけです。すごく疲労します。妻はホールの後ろに行く前に、よろけてしまったくらいです。
本当は松葉杖移動ではなく、私が妻を抱き抱えて移動できれば良かったのですが、それは私のヒザのコンディション的に無理な相談でした。
ちなみに、階段を降りるときも大変ですが、登りよりは楽そうでした。下りは、先に杖を前について、そこに健康な足でピッコンと飛び下りれば良いのです。ま、登りより楽だし、よろけることはありませんでしたが、途中で何度か休憩が必要なくらい、大変でした。
会場のどこへでも車椅子で行けると、本当はいいのにねえ。今回の件で、私は日本中の音楽ホールがバリアフリーになるといいなあって思いました。いや、ほんと、車椅子での外出って大変だし、松葉杖の移動もなかなか大変だって。
「魔笛」は、とても良かったのですが、私、実は、ところどころ記憶がありません。やはり疲れた状態でオペラを見ていると、せっかくの素晴らしいステージなのに、ついつい睡魔に負けてしまいます。
オペラは体調万全で見たいものです。
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