スポンサーリンク

メトのライブビューイングで「リゴレット」を見てきました

 実によかった、ほんと、マジ、お薦め。ただし、保守的な人や、クラシック音楽やオペラは教養だと思っている人は、見ない方がいいかも。

 どういう事かと言うと、今回のメトの新演出のリゴレットは“オペラ”というよりも“ミュージカル”っぽいんですよ。「ああ、オペラとミュージカルは地続きなんだな」って感じさせる演出なんです。

 今度の新演出では、オペラの舞台となっている、時代と設定が新しくなっています。時は1960年代。場所はラスベガスのカジノ。マントヴァ公爵だった人は、デュークという呼び名でカジノのオーナーにしてポップス歌手。貴族たちは、デュークの取り巻きの芸能人たち。モンテローネはアラブの大富豪。主役のリゴレットは、デュークお気に入りのお笑い芸人。

 そんな感じで、オペラの時代と設定が変わってしまっているけれど、それでもしっかり『リゴレット』だったわけで、実によかったですよ。

 今までにも、時代や設定を変更した演出によって上演されたオペラは数あれど、たいていは「???」と思うほど、なんか無理を感じていたし、せいぜいが「これもアリかな?」って感じだったけれど、この新演出は良いです。伝統的な演出よりも、良いかも(マジでね)。

 私のアタマの中では、リゴレットのテノール歌手の役は、もはやマントヴァ公爵ではなく、デュークですよ、デューク。いやあ、デューク、チャラいです。

 今回の演出は、マイケル・メイヤーという人が手がけています。メトは初登場だけれど、長いこと、ブロードウェイで演出を手がけていた人で、つまり、ミュージカル畑の人なんです。この人が、自分のチームを引き連れて、メトにやってきて、リゴレットをミュージカル化したというわけなんだけれど、このリゴレットのミュージカル化は大成功だと思いますよ。

 公式ホームページによると、このリゴレット、現地では、2012-2013年シーズンの最高動員数を記録したそうで、かなりの大当たり公演なようです。また、このオペラ公演のメイキング番組が作られるほどの注目らしいです(日本でも、2013年3月22日(金)の夜、このメイキング番組がWOWWOWで放送されるそうです)。なんか、それくらいスゴい事になっているようです。

 いや、ほんと、今回は演出の勝利ですよ。演出次第で、オペラって、まだまだ現代性を獲得できるんだなって事がよく分かりました。それにしても、メイヤーという演出家は、なかなかスゴい才能の持ち主ですね。

 さて、演出ばかり誉めても仕方ないので、その他の事も書きましょう。

 メトですから、歌手は皆上手なのですが、今回私が関心したのは、スパラフチーレを歌ったステファン・コツァンというバス歌手のスゴさ。この人の低音は、実は見事です。一幕のリゴレットとの二重唱での最後の低音は実にカッコいいです。低音もあんなふうに歌うと、本当にカッコいいんだなあって思いました。いや、カッコいいのは声だけじゃなくて、ほんと、殺し屋っぽい演技も良かったです。

 いただけなかったのは、ジルダを歌っていた、ディアナ・ダムラウ。彼女、声も歌もいいし、美人だし、たぶん伝統的な演出だったら、とっても良いジルダになったと思うけれど、今回の演出では、かなり残念でした。というのも、時代が1960年代ですから、女性の衣装が、割とカラダのラインを強調するような感じのものだったにも関わらず、ダムラウのボディ・ラインは隠した方が良い感じのボディ・ラインで…ってか、はっきり書けば、あんなデブなジルダは見たくない! ジルダって10代の少女のはずなのに、いや、物語の時代や設定が変わっているのだから、もう少し年配になって20代に変更になっていたとしても、やっぱりダメだよ。あんなに太ってたら。いや、太っている事を強調するような衣装を着たら…。デュークってデブ専? いや、そんな事ないでしょ。だって、マッダレーナはデブというよりも、グラマーだもの。そりゃあ、ジルダがあんなに太っていたら、デュークもジルダを捨てて、マッダレーナに走るだろうて。そこが悲しいです。

 ダムラウのために書き添えておけば、伝統的な演出で、伝統的な衣装だったら、ダムラウのボディ・ラインもいい感じに隠せて、彼女は可憐なジルダを演技できたと思うよ。

 それにしてもあの衣装は、ハードルが高いです。あんな衣装を着せるなら、最初っから、ソプラノ歌手は、若くて細身の子を使わないと…。メトに出てくるソプラノは、たいていがデブなんだから、演出も大切だけれど、歌手の体型を隠すような衣装だって考えて上あげないと…その点だけが、実に残念でした。

 ……そりゃあ、ミュージカル歌手は、細くてかわいくて美人な子もたくさんいるけれど、オペラ歌手には、細くてかわいい…なんて子だと、主役は出来ないんだよ。そこんとこ、分かってほしかったなあ…。

 あと、デュークの1幕のアリアで、私がよく聞くパヴァロッティの歌唱だと、最後の最後はHi-Dなんだけれど、そこをHi-Dではなく、むしろメロディを下げて歌っていたのも、残念。たぶん、それが本来のメロディなんだろうけれど、いつもHi-Dで聞いていて、それが耳についてたので、とっても残念でした。

 とまあ、ちょっとだけ残念なところがあるけれど、この公演はほんとお薦めです。ミュージカルなら見るけれど、オペラはちょっと…という人には、ほんと、お薦めです。それと、手練のオペラファンにもお薦めかな? 古くて新しいのが、今回のリゴレットですよ。

 私は、本当に気に入りましたよ。ビバ、ヴェルディ! ビバ、リゴレット! ビバ、メイヤー!

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ
にほんブログ村

コメント

  1. wasabin より:

    すとんさん、おはようございます。
    お久しぶりです。

    「アイーダ」のライブビューイング楽しまれたようで、良かったですね♪
    映像だと細部迄見れるのが長所であり、又今回は特に短所もあぶり出しですね。

    仰るようにミュージカルの主役は「選手生命」が短い。
    サッカーやテニスの様・・オペラはゴルフの様かなと思ってます。

    最近ではyoutubeで”i Capleti et Montecchi”のベテラン歌手を見ていて、複雑です。
    ジュリエットは可憐で未だハイティーンなはず・・
    特にAnna Netrebkoはさすが!と思うが故・・現実は残酷です。

    私の感動のスクリーンオペラは「ドンジョバンニ」
    キャスティングは劇場では有り得ない程の組み合わせ!
    撮影は古城やその近辺で迫力満点!
    感動が数日続きましたよ♪

  2. すとん より:

    wasabinさん

     おっと、見てきたのは「アイーダ」ではなく「リゴレット」です(笑)。メトのアイーダはなかなかの人気演目だそうですね。毎年のように、ライブビューイングに登場してますが、私はDVD[レヴァイン&ドミンゴ版]で持っているので、見に行きません。

     オペラは絶対に生の方がいいのですが、スクリーンのオペラもなかなか捨てたものではありません。おっしゃるとおり、細部まで見れるのは、スクリーンならではですし、どこを見ていたらいいのかも、カメラワークで教えてくれるので、スクリーンは視覚的にやさしく出来ています。そういう点では、オペラを見慣れない人は、スクリーンの方が良いかもしれませんね。……字幕もついているし(笑)。

     オペラにせよ、ミュージカルにせよ、いや、ストレートプレイにせよ、たいてい主役たちの設定年齢って若いんですよね。一方、それを演じる俳優たちは…たいていの場合、若くないんですね。これはストーリーを動かすためには登場人物が若くなくてはいけないけれど、役者として役を演じるための力を備えるまでには時間がかかるという矛盾があるからでしょう。それでも、本来の舞台は遠目ですから、演じる役者がたとえベテランでも、衣装や化粧で年齢を誤魔化す事ができます。テレビや映画なら、若い俳優を使っても、編集作業で演技力の不足をできます。そういう意味では、舞台作品をカメラ取りして映像化するってのは、とても厳しいことなのかもしれませんね。

     ネトレプコは…ちょっと前まで、若くて美しかったのですが…。

     スクリーンオペラの「ドン・ジョヴァンニ」と言えば、有名なロージー監督のものでしょうか? 私、それまだ未見なんですよ。良い評判を聞きますが、チャンスがなくて見ていないのです。ドン・ジョヴァンニって、なかなか良い映像作品がなくてね…。私は、最晩年のカラヤンのものが[当時テレビ放送で見て]好きなんですが、国内版DVDはあまりに高いので、なかなか購入できません。

タイトルとURLをコピーしました