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メトのライブビューイングで「ファルスタッフ」を見てきた

 今年一発目のライブビューイングとして、メトロポリタン歌劇場の「ファルスタッフ」を見てきました。昨年は、パリオペラ座のライブビューイングの「ファルスタッフ」を見たので、ここんとこ、ちょっとばかり「ファルスタッフ」づいている私です。

 ちなみに、パリとメト、主役のファルスタッフ役と、テノールのフェントン役は同じ歌手でした。ファルスタッフがアンブロージョ・マエストリで、フェントンがパオロ・ファナーレです。どうも最近では、このマエストリがファルスタッフを得意としているらしく、どこの歌劇場でも「ファルスタッフ」を上演する時は、彼が主役をやるみたいです。たぶん、今はそういう時代なんだと思います。

 参考までに配役を列記しておくと…

 ファルスタッフ…アンブロージョ・エマストリ(バス)
 アリーチェ(フォード夫人)…アンジェラ・ミード(ソプラノ)
 クイックリー夫人…ステファニー・プライズ(メゾソプラノ)
 メグ…ヴェニファー・ジェンソン・キャーノ(メゾソプラノ)
 ナンネッタ…リゼット・オロペーサ(ソプラノ)
 フェントン…パオロ・ファナーレ(テノール)
 フォード…フランコ・ヴァッサッロ(バリトン)

 指揮…ジェイムズ・レヴァイン
 演出…ロバート・カーセン

 そうですよ、久しぶりのレヴァインです。ライブビューイング的にはこのオペラで復帰という事になりますね。やっぱり、メトと言えばレヴァインですからね。なにしろ、1973年にメトの芸術監督に就任したそうだから、もうなんだかんだ言って、40年間メトで振ってきたわけですから、メトとレヴァインは切っても切れないってイメージです。

 しかし、久しぶりに見るレヴァインは、電動車椅子に乗っての登場でした。ググってみたところ、彼はパーキンソン病なんだそうです。それに、太りすぎが原因で腰痛持ちで座骨神経症を患っているそうだし、年齢もいつのまにか70歳を超えたそうだし…レヴァインの指揮姿を、今のうちにしっかりと目に焼き付けておかないといけない雰囲気でした。

 さて今回の「ファルスタッフ」ですが、歌芝居としての評価は…やっぱりいいですね。歌は、どの歌手も素晴らしく、不安な点はありませんでした。まあ、このオペラはアンサンブルオペラなので、歌手の力が揃っていないとダメなんですが、今回は高い水準で揃っているようで、良かったですよ。特に、若者役である、フェントンやナンネッタのアリアや二重唱は良いですねえ。この二人の二重唱は、ほんと良いですよ。

 芝居の方も、メトに出る歌手はみな芝居も上手なので、安心して見ていられます。

 それにしても、メトはキャスティングが上手だと思います。

 メト以外の歌劇場では、声的には分かるけれど、容姿や年齢的に「???」というキャスティングが組まれることが普通ですが、メトの場合は、容姿がその役にふさわしい歌手(または、ふさわしく見える歌手)を選ぶので、見ていて分かりやすいです。

 今回の場合、アリーチェとナンネッタがしっかり親子に見えましたもの。アリーチェはオバサンで、ナンネッタは若い娘に見えましたが……実はこの二人を演じる歌手さんたちは、最近デビューしたばかりの若手さんで、年齢もほぼ同じくらいなのに、まるで親子のように見えるんだから、面白いねえ。ま、化粧とか衣装とか芝居とかで、年齢を表現しているのだろうけれど、見た目と役柄の年齢が一致していると良いです。

 なにしろアリーチェを始め、三人のオバサン役は太めの歌手を起用し、娘役のナンネッタは細身の歌手を起用するとか、第三幕でナンネッタと入れ代わる赤鼻のバルドルフォには、本当に小柄で女性と入れ代わっても違和感のない程度の身長の歌手を起用するとか、そういう配役がいいですよ。

 さて、今回の演出は新演出という触れ込みですが、実はこの演出、イギリスのロイヤルオペラとイタリアのミラノスカラ座の共同制作だったようで、そこにメトも一枚噛んできた…って事のようです。

 まあ、オペラの製作って金がかかるからね。複数の歌劇場による共同制作も仕方ないと思います。

 で、今回のカーセンの演出は、時代設定をヴェルディのオリジナル(14世紀)とは大きく変えて、1950年代に設定したそうです。1950年代なんて、つい最近じゃん(笑)。なので、なんか見慣れた風景というか、子どもの頃よく見た、アメリカのシットコムっぽい感じでした。「ルーシー・ショー」とか「奥様は魔女」とかね。ああいう感じ。

 なので、私はオペラの時代設定を変更する演出は、キライだし、違和感と言うか無理やり感を感じる人なんですが、この「ファルスタッフ」の時代変更は、すんなり受け入れられました。

 今やオペラは、作品や歌手の魅力で見るものではなく(作品や歌手は一級品であるのが前提って意味ね)、演出で見るというか見せるモノになったのかもしれません。

 こういう風潮は、私の記憶だと1990年代のヨーロッパで起こったモノだと思うけれど、今はこれが当たり前なんでしょうね。メトも20世紀までは、オリジナル通りに上演するものが多かったけれど、21世紀になってからは、どんどん演出を変え、時代設定を読み替えたモノで上演するようになってきました。心情的には寂しいですが、これもオペラが現代に生きるための術なのかもしれません。演出を変える事で、古典作品が現代にも通用するエンタメとなるのなら、これも歓迎すべき事なのかな?

 少なくとも、今回のメトの「ファルスタッフ」は良かったと思います。

 蛇足  今までメトのライブビューイングでインタービューを受けていた歌手は、みんな当然のように英語がペラペラでしたが、今回ファルスタッフを演じたマエストリは通訳を通してのインタービューでした。そして、その通訳って、どうやら彼のリアルな奥様さんのようでした。ううむ、妻が専属通訳なら、言葉を覚えなくても困らないのか…もしれませんな。それにしても、英語が話せないオペラ歌手っているんだ(驚)。

 蛇足2  パリオペラ座のライブビューイング(東宝系)の上映期間が2週間なのに対して、メトのライブビューイング(松竹系)は1週間の上映なので、もう少し長い期間上映してくれると、もっとたくさんの作品を見に行けるのになあ…とグチった事がありますが、実はメトだって1週間もやってくれるので有り難いという事が判明しました。と言うのも、ロイヤルオペラのライブビューイングってのも、実は日本でやっている(イオンシネマ系)のですが、こっちの上映期間は、たった1回なんですよ。ロンドンで上演したものに字幕をつけて、翌日の夜に一回上映するだけ。たいていは平日の夜なので、私、見に行けません。せめて、メト並の1週間やってくれたら、ロイヤルオペラも見に行くのに。

 蛇足3  パリオペラ座のライブビューイングは、今年もやるそうです。うふふ、ちょっと楽しみだな。

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