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メトのライブビューイングを見てきました

 実に今更だけれど、お盆の時期に、メトロポリタン歌劇場の「ライブビューイング」を見てきました。それも…アンコール上映と言う奴です。いや~、声楽ファンなのに、アクション遅すぎですね。実は、メトのライブビューイングを軽く見ていたので、今までスルーしていただけなんですけれどね。公式ホームページはこちら。いや~、石、投げないでねえ~。

 場所は、東京の築地にある東劇。せっかくなので「カルメン」と「ホフマン物語」の二本立てで見ました。一本、3時間半なので、7時間もオペラづけ(笑)。至福でした…。

 メトのライブビューイングを知らない人のために、ざっくり説明をしますと…。

 世界のトップ歌劇場の一つである、アメリカのニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の最新オペラ公演を、世界的な規模で、衛星同時中継しちゃうという奴で、まあ、オペラのパブリック・ビューイングって奴です。ただし、日本だけは、日本語字幕をつける作業が必要なので、同時中継ではなく、三週間ほど遅れて[日本全国各地の映画館でハイヴィジョン]上映します。

 ま、世界の一流オペラ劇場の最新演目を三週間遅れで見れる…という奴です。すごいでしょ。これの再演というか、アンコール上映って奴を見てきました。

 私は、メトのライブビューイングを、単に「DVDとして販売されている過去のオペラ上演を映画館でやっている」と勘違いしていた、大馬鹿野郎だったんですよ~。

 市販のDVDと違うのは、単なる劇場中継ではなく、休憩時間は、準備中の幕の中でのスタッフさんたちの仕事ぶりが何気なく映し出されていたり、歌い終わったばかりの歌手を舞台袖で捕まえてインタビューしてみたり、演出家や指揮者に話を聞いてみたり、稽古場に行って、次の上演演目を準備している歌手たちにリハーサルの進捗状況を尋ねてみたりと…実におもしろい特典映像(のようなものが)幕間にたっぷり入っているんですよ。ま、日本以外は、生中継なんだから、そういう工夫が必要なんだと思います。

 ところで、インタビューアーたちも大物を使っていて「カルメン」ではルネ・フレミングが、「ホフマン物語」ではナタリ・デセがやってました。贅沢だね…。

 もちろん、ホンモノのオペラ上演並に、休憩時間もたっぷりあります(本来は生中継ですから当然と言えば当然ですけど…。その間も、ずっとスクリーンには何かしらが映っています)。とにかく、上演時間である約3時間30分があっと言う間に過ぎてしまうような工夫が随所にありました。…日本の場合は生中継じゃないんだから、もう少し、そのあたりの工夫があっても良いかもしれませんが…。

 もちろん、オペラ公演の方は、すべて初日の最初の公演で、緊張感があっていいですよ。ライブビューイングなので、アップのシーンも多いので、歌手たちの細かな演技も楽しめます。今まで見に行かなかった事を激しく後悔しちゃうほどです。

 最初に見たのは「カルメン」でした。これはメトの2010年からの新演出で、今までのメトのカルメンとはだいぶ違いました。

 今回のものは、演出がリチャード・エア、カルメンがエリーナ・ガランチャ、ホセがロベルト・アラーニャで、指揮がネゼセガンでした。

 ちなみに、旧演出はブライアン・ラージのもので、これはバルツァとカレーラスのコンビのものが今でもDVDで見れます。

 とりあえず、歌手が素晴らしいです。もちろん、歌だけなら、バルツァ&カレーラスだってすごいのですが、今度のガランチャ&アラーニャのコンビは、歌だけでなく演技もすごいんですよ。とにかく、20数年ぶりの新演出だそうですが、その間の歌手たちの演技力の向上には目を見張るものがあるわけです。演技で見せて、歌で聞かせて…。特にカルメンをやったガランチャは、ダンスもバレリーナと混ざって踊っても、見劣りしないくらいに、ちゃんと踊れる…。まあ、歴代のカルメン歌手はみな踊れる人が多いのですが、それでもガランチャのそれはちょっと別格でしたよ。いやあ、すごいすごい。カルメンがとても猥褻で下品で鼻っ柱が強くて、でもかわいくてツンデレで…。ホセは馬鹿真面目で小心な臆病者なモテナイ君だし、ミカエラは利己的な策略家だし、エスカミーリョは実に好青年だし…。

 そうそう、「カルメン」って普通に上演すると、バレエのシーンがほとんど無いのですが、この演出では随所にバレエシーンが挿入されていて、それも良かったなあ…。私は、この「カルメン」実に気に入りましたよ。とにかく、これは良いプロダクションですよ。

 それにしても歌手って大変だあと思ったのは、エスカミーリョを歌ったテディー・タフ・ローズ氏。彼は上演当日の三時間前に自宅に電話がかかってきて「メトでエスカミーリョを歌ってくれない?」とオファーが来て、それでメトデビューが決まったそうです。なんか、すごい話だね。

 この「カルメン」は世界のライブビューイングで観客動員数の新記録を樹立した大人気演目だそうですが、それも納得の素晴らしさです。もしも、難点を一つあげるとすると…カルメンがセクシーすぎるという点かな?

 そうそう「カルメン」にはフルートソロがたくさんあるんですが、ちゃんと、デニス・ブリヤコフ君がアルタスPSで演奏してましたよ。PSはホントいいフルートですね。それにしても、彼、本当にメトの首席フルーティストみたいです(笑)。

 実は「カルメン」の次は、東劇では、プラシド・ドミンゴ主演の「シモン・ボッカネグラ」を上演しました(本当はぜひ見たかったのです)が、それを見るのは、体力的にキツイので、パスして、その次の「ホフマン物語」を見ました。

 パスした間の時間で、昼飯を食べ、iPADで遊び、銀座ヤマノ楽器に行って、ニューヴォイスフルートの試奏をしたり、イル・ディーヴォの楽譜を買ったりしました。いやあ「ネッラ・ファンタジー(ガブリエルのオーボエ)」の男声用の楽譜が入ったモノが欲しかったんですよ~。

 「ホフマン物語」も新演出でした。これの旧演出は、ゼッフィレッリのもので、ドミンゴが主演した奴がDVDで販売してますね。

 「ホフマン物語」の新演出は…現地では好意的に迎えられたそうですが、私的に×××だなあ…。音楽は最高なんだけれど、演出がどうにも疑問でねえ…。私は、この演出はイヤですよ。妙に演劇くさくて、なんか、舞台は暗いし、貧乏くさいし、救いがないし…。前の夢々しくてゴージャスなゼッフィレッリの演出の方を支持しますよ。やっぱりミューズ(音楽の女神)が裸足のキャミソールワンピース姿でホフマンを突き放しちゃダメでしょ。きちんと純白な大天使の姿になって、ホフマンを救済しないと…。ホフマン、かわいそ過ぎますって。

 演出は??だったけれど、歌手は良かったです。特に主役のホフマンを歌ったジョセフ・カレーハは、これがメトデビューだそうですが、すごい新人さんですよ。私は彼の今後に注目します。

 アントニアとステラの二役をやった、アンナ・ネトレプコはいわゆるディーヴァですが、あの人、絶対に変人だと思う。素の時の彼女って、ネジが5~6本、外れているもの。周りのスタッフは絶対に大変だと思うよ。

 メトの特徴は、舞台に色々な人種の人がいる事で、今回の「ホフマン物語」では、オランピアをキャスリーン・キム(韓国系のソプラノ)が演じました。歌唱にも演技にも文句はない(どころか、すごく良い)のですが、やっぱり白人の中にぽつんと東洋人がいると…違和感があります。その違和感で、なんか夢が冷めちゃうような気がするんですよね。だって、彼女以外の自動人形の黙役のダンサーたちは、みな白人だもん。人種差別のつもりはないけれど、東洋人を使うなら、もう少し考えて欲しいなあ。「カルメン」ではカルメンと小競り合いを起こすマヌエリータ役を別の韓国系ソプラノがやってましたが、これは違和感なくOKでした。だから人種によって、できる役とできない役があると思うんですよ。特に、演劇的な要素が強い演出なら、なおさらです。

 それにしても、レヴァインは、病気で倒れて以来、急に老け込んだみたいです。ちょっと指揮姿も痛々しかったです。

 ああ、メトのライブビューイングは、本当に良いですよ。もっと早く、その良さに気づいて、見ておけばよかった。

 来シーズンの演目も日本で上演します。来シーズンの情報はこちらにありますが、来シーズンは、ワーグナーの「ラインの黄金」で始まり「ワルキューレ」で終わる、夢のようなシーズンです。それも新演出だよ。予告編をちらっと見たけれど、なんか、すごそうでした~。その他にも、ゲルギエフ指揮でムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」や、アラーニャで「ドン・カルロ」でしょ、作曲家自身が指揮をする「ニクソン・イン・チャイナ」もあるし、定番の「トロヴァトーレ」や「ルチア」もやるし…、見たいものだらけだよ、どうしましょう。

 一週おきに、メトに通うか。…あ、いや、メトのライブビューイングをやっている映画館に通うか(笑)。

コメント

  1. テツ より:

    カルメン行かれたんですか!

    いいなぁー

    私はオペラはカルメンだけ聴きます。
    昔、マリア・カラスのレコードを買って、嫌というほど聴きましたね。

    間奏曲はいつか発表会で演奏してみたい曲の1つです。

  2. すとん より:

    >テツさん

     ええ「カルメン」に行きました。私的には「カルメン」は耳タコなので、本当はロッシーニの「アルミーダ」かリヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」に行きたかったのですが、仕方なしに「カルメン」に行ったわけですが、これが大正解でした。

    >私はオペラはカルメンだけ聴きます。

     それもアリだし、そういう人って多いと思います。「カルメン」って、オペラというよりもミュージカルっぽい部分が多いので、親しみやすいんですね。元々「カルメン」って、オペラとして作曲されたのではなく、オペラコミックとして作曲されていて、このオペラコミックってのが、ミュージカルみたいなものなんですね。で、ミュージカルっぽかった原曲に、のちにギローという作曲家が色々と書き足して、現在のオペラヴァージョンの「カルメン」ができたというわけです。もちろん、マリア・カラスの「カルメン」はオペラヴァージョンの「カルメン」です。

     ところで、テツさんは、ファニー・アルダン主演の「永遠のマリア・カラス」という映画はご存じでしょうか? ゼッフィレッリが監督した“もしも系…”の映画で「もしも、晩年の歌えなくなったマリア・カラスが、自分が歌った『カルメン』の録音を使って、オペラ映画を作っていたら、どうなっていたでしょうか?」という映画で、歌声は実際のマリア・カラスのものを使って作った映画です。この映画の中で、マリア・カラス役をやっているファニー・アルダンが結構マリア・カラスにそっくりだったりして、とても上質な音楽ファンタジー映画になってます。

     たぶん、もう廃盤になっていると思うので、レンタル屋で探してみてください。マリア・カラスの「カルメン」がお好きなら、絶対に楽しめる映画ですよ。

  3. BEE より:

    はじめまして。
    いつも楽しくロムっております。って声楽のみですが。。。
    すんません。
    私も趣味で歌を習っており、前々からストンさんの声楽に関する解説をよーく勉強させてもらっております。
    お礼もしてなくて重ねがさねすんません。

    で、今回出てきたのはMETです!!
    私は去年、カリタ・マッテラの「サロメ」を東劇で見て以来、はまり込んでおります。
    あれは度肝を抜かれましたよん。
    すごい演出、すごい歌手がいたもんだと。。。

    それからつい先週見たトゥーランドットは泣きました。
    まじで涙ぽろぽろでした、あんましリューがかわいそうで。
    大体リューに対する拍手が一番大きかった気もしましたし。
    納得できませんね、あのストーリーは!なんて(^^;)

    近々トスカを見に行きます。マッテラです♡♡♡
    長々とすみませんでした。
    ではまた。(^^;)

  4. すとん より:

    >BEEさん、いらっしゃいませ。

     読み逃げ歓迎ですので、気にしなくて結構ですよ。

     しかし「サロメ」ですか? 何かと演出が話題にのぼるオペラですが、ぜひ劇場で見たいものです(実はDVDでしか見たことないんです)。カリタ・マッティラは、名前は知ってますが、きちんと聞いたことがないソプラノさんです。私は、プラシド・ドミンゴのファンで、彼の全盛期に現役だった歌手たちは、それなりに知っているつもりですが、ドミンゴが活動を指揮にシフトし始めたあたりから、あまりあちらのオペラを見なくなったので、意外と最近の歌手を知らない私です。いや、お恥ずかしい。実は最近は、日本の歌手ばかり聞いているんですよ。なので、自分自身、今回、ライブビューイングを見て、世界のオペラ界の世代交代の波を感じているわけです。

     勉強…とは違いますが、生きのいい、今のオペラ歌手の事も知らないと、楽しくないですからね。色々と知っていきたいと思ってます。カリタ・マッティラですね。頭の中にその名前を刻んでおきます。

     「トゥーランドット」はいいですね。あのオペラのヒロインは、トゥーランドット姫ではなく、リューだと、私は思ってます。だって、プッチーニのオペラなのに、トゥーランドットは死なないでしょ? プッチーニのオペラでは、ヒロインは必ず最後に死ぬんですよ。だから、リューはあれでいいんです。可哀相でいいんです。プッチーニのオペラヒロインってのは、可哀相な娘なんですから。

     マッティラの「トスカ」ですか。いいなあ、私もチャンスがあれば、見に行きたいです。

  5. 婆猫 より:

    婆猫再登場!
    すとんさん、婆猫も行きますよ(笑) できるだけ。
    メトのライブビューイング最近知り、みのがしたので残念に思っていました。
    再上映していたんですね~ 貴重な情報有難うございます。
    カルメン、サロメ、トウランドットはぜひ行きたいですね。
    今度声楽の先生から、ハバネラに挑戦しても良いというお許しがでましたので、どんなカルメンがみれるのか非常に楽しみです。
    後数日ですが、何としてもいぐ~ゥ!

  6. すとん より:

    >婆猫さん

     ええと、毎日違う演目を上映しているので、かならずこちらのページ( http://www.shochiku.co.jp/met/topics/info30.html )で確認した上でお出掛けください。それと、一本が(休憩時間は入るとは言え)長いですから、それなりのご覚悟を。一本見るだけなら、大丈夫でしょうが、ハシゴをするおつもりなら、本当に大変ですよ~。

     「カルメン」「サロメ」「トゥーランドット」とありますが、この中で「トゥーランドット」だけは、過去のメトでの上演(もちろん同じ演出)がDVD化されていますので、探せば入手できますよ。エヴァ・マルトンとプラシド・ドミンゴがやったバージョンです。これは…すごいですよ。なので、ライブビューイングで見るなら「カルメン」→「サロメ」→「トゥーランドット」という優先順位でいけばいいと思います。特に「ハバネラ」を歌うなら「カルメン」は必見ですよ。

  7. 婆猫 より:

    色々ご心配有難うございます。
    参考にさせていただきます。
    それから、リュウがヒロインというすとんさんの意見
    なるほど!です。

  8. すとん より:

    >婆猫さん

     でしょでしょ、「トゥーランドット」でのヒロインは、トゥーランドット姫ではなく、女奴隷のリューでしょ。実に痛々しい娘です。自分の愛する主人のために、我が命を捧げてしまうなんて、いかにもプッチーニっぽいヒロインじゃないでしょうか?

     ちなみに「トゥーランドット」というオペラは、あの“リューの死”を書いたところで、作者であるプッチーニは心臓発作で死んでしまいました。そこから先は、プッチーニの作曲ではないので、ある意味、やっぱり「トゥーランドット」も、ヒロインの死で終わったオペラと言えるでしょう。実際、あそこから先は、なんか付け足しっぽいんだよねえ…。

  9. BEE より:

    >ちなみに「トゥーランドット」というオペラは、あの“リューの死”を書いたところで、作者であるプッチーニは心臓発作で死んでしまいました。

    そうでした!すっかり忘れていました。
    個人的には、リューが死んだ後、カラフと姫の絡みでカラフが本名を名乗り、その次の瞬間姫が「お前の本当の名前が分かった」ってことでやっぱカラフは死刑!って言う方がすっきりすると思います。
    私ってひどいですね。(^^;)

    来年、METが日本にやってきます。
    その時の演目の一つにルチアがあるのですが、それをディアナ・ダムラウがやります。
    なんとしてでも見たいので、今からMET貯金しようかと思っとります。(^o^;)
    ダムラウも機会がありましたら聞いてみてください。
    (でも実はネジが5本ぐらい外れているネトレプコが私の神様です。(⌒♡⌒))

  10. すとん より:

    >BEEさん

    >「お前の本当の名前が分かった」ってことでやっぱカラフは死刑!って言う方がすっきりすると思います。

     すっきりはするし、そのカラフの最期のシーンに、劇的な音楽をつければ、オペラとしてはおもしろいでしょうが…なんか、それじゃあ、プッチーニと言うよりも、男臭いヴェルディになっちゃいませんか?

     ところで、来年はメトがやってきますね。私も行きたいけれど…お財布が…その前にチケット入手できるのかぁ~…ってところですね。買うなら、やはり「ペア通し券」でしょう。アメリカに行くよりは安いだろうけれど、半端ないお値段のはずだから、今からすでに諦めてます(汗)。

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