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フルートで演奏された声楽曲を聞くと、物足りなく感じる理由について考えてみた

 フルートで声楽曲を…と言うか、フルート用にアレンジされた声楽曲を聞くと、よほど上手にアレンジされたモノでない限り、何となく物足りなさを感じる事って、ありませんか? これって、私だけの感覚でしょうか?

 もちろん、例外もあります。たとえば、パトリック・ガロワが『タイスの瞑想曲』というアルバムで演奏している、オペラアリアの数々とかね。ここに収録されている曲のすべては、元々声楽曲ですが、フルートの名手が演奏するという前提でアレンジされた曲ばかりが収録されているので、実にフルート曲として、聞き応えがあります(実に残念な事に、ガロワのこのアルバムは、現在、国内盤・輸入盤ともに廃盤のようです:涙)。

 こういう演奏なら、私も大好きなんですが、でも、実際に私がたくさん耳にする、普通に楽器店で販売されている、アマチュア向けとおぼしきアレンジ楽譜を使用して、声楽曲を演奏されると、ほんと~~~に、物足りなさを感じる私です

 理由は、もちろん、無意識に元の声楽曲と比較してしまうからなんです。で、歌手の歌とフルートの演奏を比較して「フルートって、何か物足りない…」って思ってしまうのですよ。

 物足りなさの原因は…おそらく歌詞の有無でしょうね。歌詞…と言っても、いわゆる“意味を紡いでいる言葉”の有無ではなく(これを言いだしたら、さすがに、歌手はチートすぎるでしょう:笑)、言語の持つ音色の多様さがフルートには欠けているので、物足りなさを感じるようなのです。

 具体例をあげて説明します。例えば、ドレミ出版から出ている『フルート名曲31選』に掲載されている、25番の『ラルゴ』という曲。この曲の原曲と言うか、声楽版は『オンブラ・マイ・フ』という曲です。

 ちなみに、話は少しズレますが、フルートの譜面に限らず、楽器の譜面って、同じ曲でも奏者の腕前に応じて、演奏の難易度を変えた譜面が幾種類も出されているでしょ? 出版社が違ったり、同じ出版社でも編者が違うと、アレンジが微妙に違っていて、演奏難易度が違ってくるのが普通です。まあ、簡易版の譜面が存在すると言うのは、演奏者にとって、選択の幅が広がると言うわけで、それはそれで良いことだと思います。

 しかし、声楽の譜面って、持ち声に応じて、楽譜によって調性の高い低い(中声用とか高声用とか)はあるけれど、原則的に、アマチュアもプロも同じ譜面を使います。

 閑話休題。『ラルゴ』の話に戻ります。

 フルート版では、フルートは、曲の冒頭部で“ド~ラソファファ~”と吹きます。実はこのメロディ、声楽曲と同じです。まあ、このフレーズの直後“ファミレドド~”と、伴奏のメロディも吹くのが、フルート版の特徴でしょうが、違うのは、ここと、二番に入ったら、フルートは1オクターブ上の音域でメロディを演奏すること、この事くらいです。

 なので、フルート版も声楽版も、ほぼ同じメロディを同じように演奏していると言えます。実は、フルートで声楽曲を演奏して、物足りなさを感じるのは、ほぼ同じメロディを、ほぼ同じように演奏してしまう事なんだと思います。

 と言うのは、同じメロディを同じように演奏したら、フルートは、声楽の音色の多様さには、到底及ばないからです。

 冒頭の“ド~ラソファファ~”というフレーズ。声楽版では“Ombra mai fu”という歌詞が乗ります。つまり出だしの“ド~”の部分には“Om”が、“ラ”に“bra”が、“ソ”に“ma-”が、最初の“ファ”に“-ai”が、次の“ファ”には“fu”が乗ります。

 フルートでは冒頭の“ド~ラソファファ~”というフレーズ、音程の違いはあれど、ほぼ同じ音色で吹くことになります。

 一方、声楽版は、このフレーズに対して“オ~アアイウ~”という母音を使います。声楽における母音の違いとは、音色の違いでもあります。つまり、フルート版はほぼ一色の音色で演奏しているのに、声楽版は、アとイとウとオの四色の音色で演奏するわけです。さらに、フルートはタンギングの有無で音の立ち上がりに色を添えていますが、声楽版は“m”“br”“f”と三種類の子音を使って、音の立ち上がりや終端に色を添えています。

 フルートと声楽では、同じフレーズを同じように演奏しても、声楽の方が音色的にカラフルなんですよ。

 つまり、同じ土俵で勝負をしたら、フルートは声楽には敵わない…と、私は思います。そこは、おそらくフルート版のアレンジャーさんも分かっているのだと思います。だから『フルート31選』の編者さんは、ちょっとだけですが、伴奏のメロディもフルートに吹かせたり、後半は1オクターブ上で演奏させてみたりと工夫しているわけですが、この楽譜が対象としている演奏者層は、アマチュアさんであって、ガロワのようなフルート名手を相手にしているわけではないので、そんなに難しいメロディには変更できないわけで、やむなく(?)声楽版とほぼ同じメロディを演奏する事にしているのでしょう。

 ですから、そういう譜面を用いた演奏で聞いてしまうと「フルートの演奏で声楽曲を聞く、何となく物足りないなあ…」って思うわけです。

 まあ、そこを逆手にとって、あたかも、カラー写真に対する墨絵のように“単色ゆえの美しさ”を表現していくというやり方もないわけではありませんが、それをアマチュア向けにアレンジされた譜面に求めるのは、酷というものかもしれません。

 …フルートで演奏された声楽曲を聞くと、物足りなく感じる理由…と言うのは、私がよく耳にする演奏が、アマチュア向けの楽譜を用いた演奏だからと言ってしまえば、身も蓋もないのですが、そういう事なんです。

 「アマチュアの演奏に何を求めているんだい?」と言われそうですね。

 アマチュアフルーティストさんが、皆、プロの方々が使用している演奏が難しい譜面で演奏できれば、物足りなさなんて、感じさせることはないのでしょうが、アマチュアさんの中には、私のような低レベルの演奏者もいるわけで、私のような演奏者が、プロの方々が使用している演奏が難しい譜面での演奏なんて、無理も無理だし、となると、やはりアマチュア向けの譜面で演奏するわけだし、そういう譜面で演奏すれば、もの足りなさを感じてしまうわけだし…。

 まあ、結局は、やっぱり「アマチュアの演奏に何を求めているんだい?」って事になってしまいます。そうは言ってもやっぱり、フルートで演奏された声楽曲を聞くと、どうしても物足りなく感じてしまう私なんですね。

 これもまた、一種の無い物ねだり…って奴でしょうか?

 声楽の世界では、プロもアマも同じ譜面で演奏するわけで、そこに演奏自体の上手い下手の違いはあっても、アマチュアだから簡易にアレンジされた楽譜で演奏する…って事はないのです。『オンブラ・マイ・フ』は誰が歌っても『オンブラ・マイ・フ』なんですよ。そういう世界にも足を突っ込んでいますから、なおさら、無い物ねだりをしてしまうんでしょうね。

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コメント

  1. 河童 より:

    子音が物言う言語を、母音で演奏してしまうからでしょうかね?
    あまりにも味のある演奏を歌詞なんか知らない人が聞くと、何だこりゃ?になるでしょうし。
    ハードルが高すぎます。

  2. ぼー より:

    こんにちは。

    フルートって音色変化を付けにくい楽器だと思います。リアルに振動するリードが存在せず、どうしても子音にあたるアクセントが歌はもちろん、他の楽器と比べても、すごく齢ンだと思います。
    歌にたとえればハミングみたいなもの??音のつながりとかは綺麗だけどメリハリがない?…声楽分からないので、変なたとえですみません。

    自分はオーボエもやってますが、やはりオーボエの曲をフルートで演奏したモノを聞くと物足りなさを感じます。ま、私的にはフルートの音色は好きなので、それはそれで良いと思います。

    歌は…歌手自身が楽器で、唯一無二の存在で…逆に洋銀の人はどんなに頑張ってもゴールドの音は出せない訳で…なんか、無力感みたいなものを味わいそうで、なかなか飛び込めません。自分、声は高いのですが、プラ管なみですから(笑)
    楽器頑張ります♪

  3. すとん より:

    河童さん

     母音で演奏と言っても、フルートの場合、よっぽど上手くないと、1~2色程度でしょ? 歌は日本語でも5色、ヨーロッパ系の言語だと、イタリア語が7色、英語が12色、ドイツ語が15色、フランス語が16色だそうです。多彩ですね。勝負になりません。

     もっとも、フルートの場合、音色の数の豊富さではなく、その音色の美しさで勝負をしているわけですから、元々、フルート曲の目指すべき方向は、声楽曲とは違うはずなんです。でも、オリジナルのフルート名曲があまりに少ないので、他ジャンルの名曲を演奏せざるを得ない(?)ので「…まあ、物足りなくても仕方ない」の世界なのかもしれませんね。

     ハードル高いっちゃあ、高いと思いますよ。

  4. すとん より:

    ぼーさん

     フルートでも多彩な音色を駆使して演奏する方もいますが、それはかなりの上級者であって、なかなか初級~中級程度のアマチュアでは、それもまた難しい話です。どうしても、音色の多彩さの前に、しっかり響かせる事とか、指もかろやかに演奏する事とか、やらねばならぬ事がありすぎますからね。

     結局、フルートの良さを生かせるオリジナル名曲が少なすぎるのが、フルートの悲劇なんだと思います。どんなにフルートが頑張っても、声楽曲は、歌のための曲、人間の声で演奏されるための曲であって、本来笛で吹くべき曲じゃないですからね。物足りなくても当然なんです。

     結局、いつもの「オリジナルのフルート名曲が少なすぎる」という結論になるんだよなあ(グチグチ…)。

    >プラ管なみですから(笑)

     プラ管も、決して捨てたもんじゃないですよ。私、結構、プラ管の音、好きです。

  5. うさぎ より:

    歌の世界は『オンブラ・マイ・フ』は誰が歌っても『オンブラ・マイ・フ』なんですね。楽譜が上級者も初心者も同じって素敵ですね。声の自在な表現力に近づこうとするろ、フルートでは技術が必要ですよね。アルテのエチュードは初心者には適度に難しくて、しかも上手く表現できれば、面白い曲だと思います。誰かピアノ伴奏をかつけてくれないかなと思うこともあります。

  6. すとん より:

    うさぎさん

    >楽譜が上級者も初心者も同じって素敵ですね。

     そうなんですよ、世界的なトップアーティストも、私も、全く同じ譜面を使っていたりするんですよ。で、同じ譜面を使って、同じように演奏して、でも結果はまるで違うわけで…そこに、プロとアマの差を感じるわけです。それが歌の世界。なので、初心者には、ある意味、厳しい世界…なのかもしれません。いきなり、プロと同じ土俵に上がっちゃうわけですからね。

     そこへ行くと、フルートもそうだし、ピアノなんかは特にそうだろうけれど、初心者用の譜面とか簡易版の譜面とかが大量に存在していて、初心者に優しいと思います。で、これは曲によるのかもしれないけれど、その初心者用とか簡易版の方が、普及したりする事だってあるわけで、それはある意味、本末転倒な現象かもしれません。

    >アルテのエチュードは初心者には適度に難しくて、しかも上手く表現できれば、面白い曲だと思います。

     そう思います。でも惜しいかな、知名度は限りなく低く、フルート学習者以外には、全く知られていないというのが、悲しいですね。ああ、残念。

    >誰かピアノ伴奏をつけてくれないかなと思うこともあります。

     前の笛先生は、たまにピアノ伴奏をしてくれました。アルテ程度なら、初見でピアノ伴奏弾ける人なんて、掃いて捨てるほどいるんじゃないの? 五線譜がなくてもピアノ弾ける人なんて、ザラだもの。

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