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だからフルートはダメなんだ

 最近ハマっているジェスロ・タルのCDを聞いていて「ああ、だからフルートはダメなんだ」と思いあたりました。

 何を出し抜けに、そんな事をいうのかと言うと…。

 フルートって、音がきれいすぎるんですよ。天上の響? 天使の歌声? 小鳥たちのさえずり? こんなキレイな音…今の時代には、全然似つかわしくない…んだろうな。

 ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンのフルートって…いわゆる美音ではないと思います。無論、私はこのバンドを聞き始めて、まだ日が浅いのでよく知らないという部分はありますが、基本的には歪んでいたり割れていたりします。バッバの「ブーレー」(オリジナルはリュート組曲第1番です)という、クラシック系の曲も彼らはやってます。そこでは割と普通の美音系の音で吹いているかなあ…と思って聞いていても、やっぱり、ここ一発ってフレーズの時は、歪むし割れるし…。でもそれって、狙って歪ませているし割れているんだな、どうやら。

 いわゆるジャズフルートって奴を聞いていると、そりゃあ、千差万別なんです。美音系で吹いている人も大勢いるけれど、何これ?って音色で吹いている人もいるよね。「そんな音じゃあ、クラシックは吹けないよ」みたいな音だね。

 一般的に音楽演奏というもので考えた場合、クラシックは美音系だけれど、ポピュラーや現代音楽は必ずしも美音が求められているわけではない…というか、美音も必要だけれど、現代人の心情を表現するには、美音を越えた音でないと表現できないものもあるって感じ。

 再現芸術なら美音が必要なのでしょうが、自己表現としての音楽なら、何でもアリって感じです。

 サクソフォーンはよく耳にする楽器で、その音色は味わい深い反面、ちょっとハスキーで濁った感じがします。それがサックスの魅力だから、それで良いと思ってましたが、ある時、クラシック系のサックスの音を聞かせてもらいました。そしたら、同じ楽器なのに、全然音が違いました。クラシック系のサックスの音って、まるでクラリネットの親戚のような澄んだ音なんですよ。え?ナニナニ?って感じでした。奏者の人に話を聞いてみると、普通に吹くと普通に濁った音が出るけれど、注意深く吹くと、こんなふうに澄んだ音が出るんですよって教えてくれました(でもとても難しくて、注意深く吹かないといけないそうです)。

 サックスは濁った音から澄んだ音まで、音色の品性にだいぶ幅があるようです。

 考えてみれば、それはサックスに限らない事です。ギターも生音は結構澄んだ音ですが、ディストーションかけちゃえば、限りなくノイジーになります。クラシック系の代表楽器のヴァイオリンだって、天国を思わせるような美しい音から、酒場が似合いそうな猥雑な音まで出せます。人の声に至っては、天使の歌声から地獄の使者まで、すごく幅広いものです。

 そこへ行くと、フルートの音色の幅と言うか、ヴァリエーションの狭いこと。いつも、小鳥のさえずりか、天使の歌声、汚れを知らない少女の調べ…もちろん、多少の音色の変化というかパレットはあるけれど、他の楽器が持っている音色の数と比べると、圧倒的に少ない事は否定できません。

 役者に例えて言えば、フルートって、清純派女優のようなもの? できる役柄に厳しい制限があって、味のある演技などは最初から期待されていない…そんな感じ。

 この音色の数の少なさが、フルートの活躍を狭め、作曲家に軽く扱われる原因だと思う。

 永遠の清純派、永遠のアイドル、永遠の小娘。それがフルート。芸に幅がないんだよね。そういう狭さがフルートの味であるけれど、音楽そのものをやりたいという人は、いずれフルートだけでは、物足りなさを感じるようになる? ならない? どうでしょう??

 でも、そこで、あえてフルートに踏みとどまって、新境地を開拓している冒険者のようなフルーティストさんも、ジャズやポップスには若干いるわけです。こういう人がせめて200年前にいたら(おいおい:汗)、私の大好きなクラシック音楽におけるフルートの地位が、現在とは全然違っていたろうなあ…。

 タイトルの「だからフルートはダメなんだ」は、さすがに自分でも言い過ぎだなあと思うけれど、そういう制限の厳しい楽器であり、だから演奏人口が多いくせに、王道足り得ないのも、そういうところに原因があるんだろうなあという、結局は私の独り言に落ち着かざるを得ない話でした。

 おしまい(笑)。

コメント

  1. はむはむ より:

    フルートは音色の表現幅が狭い…
    大変的を射たご意見ですね~。

    先日の、すとんさんの「ピアノを弾く男性 VS フルートを吹く男性」
    で ピアノの方がモテモテ [E:shine] でしたが、
    それもこの音色の幅の違いが影響しているのかもしれませんね。

    >いずれフルートだけでは、物足りなさを感じるようになる? ならない?

    ホントに音楽そのものをやりたい人なら、絶対に物足りなくなると思いますよ!
    フルート大好きな私でも、時々 ピアノも弾けたらなぁ…
    と思いますもん。
    我が家には仕舞いっ放しの64鍵キーボードがあるので、
    せめてバイエルくらいは弾けるように練習してみようかしらん(笑)

    すとんさん、フルートにある程度満足なさったら
    次はサックス辺りに手を出しそうですね?
    持ちかえで楽器2つを操れるって、カッコイイですよ~~ [E:heart04]
    (悪魔のささやき [E:catface]) 

  2. YOSHIE より:

    >クラシック系の代表のバイオリン…酒場の似合いそうな…

    そうそう!そのバヤイ
    バイオリン→フィドルと言う呼称になります(ご存じでしたらすみません;謝)

    『屋根の上のバイオリン弾き』は原題は『フィドラー・オン・ザ・ルーフ』ですねんよ。

    〈バイオリンとフィドル〉で検索かけるだけでもおもしろいです。

    クラVSポップなどに通じる話題でもあり、inti-solさの書かれていた広儀な意味で民俗音楽もポップスであるという話とも関連してきますね。
    以上、知ったか鰤、
    アイリッシュ好きの多摩Ladyより。。。

    ※バイオリンは誕生直後はけたたましい音色により、下賤で卑しい庶民の楽器とされていて、
    ノーブルな方々は優しく品のある音色のヴィオールを愛用していたようです。

    茂木健一著『フィドルの本』から覚え書き。

  3. すとん より:

    >はむはむさん

     そうそう、あの対決ではピアノに惨敗でした。いやあ、ここまであからさまな差が出るとは思ってませんでした。いやむしろ、こちらはフルート女子がたくさんいますから、結構善戦するんじゃないか、もしかするとフルートの圧勝も…とか思ってたのですが、私の見通しは練乳のように甘かったことを思い知りました。いやはや…。

     サックス…いずれやりたいですね。昨日も別のブログでそんな話をしました。私がやるなら、ソプラノサックスかな? 例によって、吹奏楽やオーケストラでは使わない楽器に憧れるあたりが私っぽいでしょう。なにしろ、サックスやるなら「目指せ、ケニーG」ですからね。

     でも、私の場合は、元々、フルートと歌という二つの出力チャンネルを持っていますので、それほど物足りなさって感じていないのです。あえて不足を感じているとすると、ハーモニー主体の音楽の出力チャンネルがない事ですが、これも合唱やギターをやることでとりあえず満足できそうなので、まあいいかっと思ってます。

  4. すとん より:

    >YOSHIEさん

     そうそう『フィドル』って言いますね。知らないわけではありませんが、すっぱり頭から抜けておりました(笑)。

     では、最近、ポツポツ見かける、ジャズ・ヴァイオリニストさんは、フィドラーさんと呼んであげた方がいいのかしら?

     それにしても、全く同じ楽器なのに、使用するジャンルが違うと、奏法はもちろん、その名称まで変わってしまうなんて、ヴァイオリンという楽器も、なかなかおもしろくって、奥の深い楽器ですね。やっぱ、弦楽器には、色々な意味で憧れるなあ…。

  5. tico より:

    >ジャズ・ヴァイオリニストさんは、フィドラーさんと呼んであげた方がいいのかしら?

    フィドルはやや民族音楽的なイメージがあるので、ジャズの場合はバイオリンって言ってますね。

    クラシックは要するに古典でしょ。伝統芸能でしょ。最初の音楽は人間の声でした。それ以来、楽器が出来て進歩を繰り返してきて、ある一定の決まり事が出来てきて、それを守ってきています。年代が新しくなると徐々に音楽の形が変わってきているし現代曲となればクラシックとジャズの境目がわからなくなる音が使われたり演奏方法が使われたりしてきますが、根本的にはクラシックの音があり、楽譜があり、演奏者はその中で個性を発揮することを求められます。

    一方ポップスとかロックとかジャズとかは民族的な音楽から発展してきて規制の概念に捕らわれないことをよしとしているので、簡単な言葉でいうと既成概念の破壊でしょうね。

    例えば能を破壊すればもう能の世界では生きられない、というようなことでしょう。

    どれがどうっていうことはないのですが、自分はどうしたいのかを決めていかないと、世界は広いですから、本当に流されてどっちつかずになりますね。私も色んな世界を見てきて、最近は好みがずいぶんわかってきました。あっちこっち手を出したりしないと外から見てるだけではわからないことが多いですから、色々やってみるのはいいことです。あとは年月と経験で自分を決めたらいいのですしね。つまりクラシックの人にジャズを求めても仕方ないのです。その反対もあり。ジャンルの融合というのはありますが、基本はこれだってことをしっかり持ちながら融合していかないとムチャクチャになります。

    えーと、本文とかみ合ってましたっけ?すみませんね、いつも…。

  6. むむっ。刺激的、自虐的なタイトルですね。
    ついにフルートの批判を始めたと思うのは間違いで、多分、
    これも愛情の表現と理解します。

    私はジャズについての知見が乏しいので、クラシックに限って
    コメントします。

    クラシックの世界で、フルートの曲は、ピアノやバイオリンの曲
    にくらべると、あまり多くなく、あっても、一般の人になじみの
    ない曲がかなりあります。

    フルートの特性を活かすには、高音で歌うか、分散和音、
    オクターブ等の跳躍、16分音符などの転がるようなパッセージ、
    トリルなどを効果的に使う必要があります。
    (この部分は、私の独断と偏見なので、どなたか、フルートの
    特性に詳しい方のご批判を仰ぎたいと思います。)

    こういうことを心得て作曲するには、作曲家自身がフルートの
    演奏ができるか、演奏家と親しい必要がありそうです。

    逆にフルート用に作られた名曲を他の楽器で演奏することは
    稀なのではと思います。アルルの女のメヌエット、ハンガリー
    田園幻想曲などを、例として思いつくのですが。

    恐らく、他の楽器でも、同じようなことが言えるのでは?
    管弦楽で旋律を演奏する機会の多いオーボエやクラリネットの
    場合も、音は、フルートのように清純さだけが売り物ではないと
    しても、もっと厳しい状況にあるのではと思います。

  7. すとん より:

    >ticoさん

     ジャズではバイオリンですね。了解しました。同じアメリカ音楽でも、カントリーウエスタンでは確かフィドルでしたね。あまり詳しくない分野の事は、これくらいに慎んでおきます。詳しい方はぜひ補足をお願いします。

     私は基本的にクラオタですからクラシックをやりたいのですが、最近はジャズという(私にとって新しい)音楽を知ったばかりです。こちらはこちらでなかなかおもしろそうな気がします。どちらかに絞って学ばないと、どっちつかずになるというご指摘は、すごく納得します。おそらくそれは真実なんだと思います。たぶん、私もいずれかは、どちらかに専念していくのだろうと思ってます。ただ、それを今の段階で決めかねているところです。

     決めかねていると言っても、悩んでいるわけではなく、あえて選ばないと言った方が正しいと思います。と言うのも、こればかりは『縁のモノ』と思っていますし『神様の御心のまま』とも思っています。今の現状の中で、色々な事を学び、与えられた課題を精一杯やっつけているうちに、人脈も広がったりするだろうし、そうなると、おのずと道が開いて行って、結局はどちらかにシフトしていることになるんじゃないかと思ってます。

     大切な事は、両方をゴッチャにしないことだと思ってます。同じ楽器を使っていても、ジャンルが違えば、奏法も違うし、音楽に対する姿勢や考え方も違うし、基礎的なテクニックだって違うかもしれない。なので、学ぶ時に、頭の中にきちんと、クラシックの箱と、ポピュラーの箱の二つを用意して、それぞれの事柄をきちんと分けて、身につけていけたらいいなあと…今は思ってます。

     だって、ジャズもクラシックも両方ともおもしろくって、両方とも高嶺の花だから(笑)。

  8. すとん より:

    >エルネスト・アントルメさん

     私は、大好きな女の子のスカートめくりをするタイプの、悪ガキです(笑)。

    >逆にフルート用に作られた名曲を他の楽器で演奏することは、稀なのではと思います。

     確かにおっしゃるとおりかも…。私には、この視点が欠けていました。なるほど、ピアノ曲やヴァイオリン曲をフルートで演奏することはあっても、フルート曲をヴァイオリンやピアノで演奏することは、稀ですね…。なぜでしょう?

     一つには、ピアノやヴァイオリンは自分たちのレパートリーの中に名曲が豊富にあるので、わざわざ他の楽器用に作曲されたものをアレンジしてまで演奏する必要がないと、と言うこともあるでしょう。また、他の楽器で演奏したくなるほどの名曲に、フルートが恵まれていないという悲しい事実もありますね。他にはどんな理由があるかな?

    >フルートの特性を活かすには、高音で歌うか、分散和音、オクターブ等の跳躍、16分音符などの転がるようなパッセージ、トリルなどを効果的に使う必要があります

     これこそが、フルートを清純派女優に留めている理由だと私は思います。確かにこれらの事柄に作曲家が熟知していないと、フルート曲は書けないと思いますが、それでは今までの枠組みの中で曲が再生産されているだけです。

     例えば、フルートに、低音の魅力があって十分に心に訴える音色を持っていれば、そういう特性を生かした曲が書かれていたと思います。また、むせび泣くようなヴィブラートが容易に奏でられる楽器なら、もっと歌いあげるタイプの曲も書かれていたと思います。無い物ねだりをしても仕方ないのですが、このフルートの特性って奴が、案外、食わせ者なのではないかと疑っています。

     でも一番の問題は、エルネスト・アントルメさんのおっしゃるとおり、世の作曲家たちの大半が、フルートの演奏ができなかった、ということにつきるのかもしれません。たぶん、きっと、おそらく、そういう事だと思います。

     オーボエやクラリネットについては、興味はありますが、何も分からないので、コメントできませーん。

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