前回見た「こうもり」の記事はこちらです。
今回見た「こうもり」は“さえの会”という国内NPO法人さんが主催するオペラで、スタッフ&出演者はみな日本人で、日本語による上演の「こうもり」でした。一応“小劇場版”と銘打っていて、オーケストラは小編成で、大道具は簡素でしたが、それ以外は、普通にオペラ公演をしていました。会場は武蔵小杉にある中原市民館ホールで、350名程度の小ホールでの4回公演で、私が見たのは、4回公演の4回目でして、約8割ほどの入りでした。それなりに人手がかかっているオペラ公演でして、それをこんな小さなホールでやって、ちゃんと出演者たちにギャラは支払われているのかしら…と心配になってしまうほど、きちんとしたオペラでした。
オーケストラは、かなり小さかったですよ。なにしろ、バイオリン、ヴィオラ、フルート、ピアノ、打楽器がそれぞれ各一名の6名構成。このオペラのオーケストラは、通常サイズなら二管編成だから、約60名のミュージャンが必要なところを6名で済ませてわけです。人件費、9割削減。こりゃすごい。もちろん、指揮者は減らせないので、どちらも1名ずつ必要ですが(笑)。コスト的には、このオーケストラ代と、合唱に関わる費用と大道具代を削ったんだろうなあ…と思いました。確かに、ここらを削ると、費用的にだいぶ削れるものね。
ちなみに、フルートさんは適宜ピッコロに持ち替えていましたし、打楽器さんは一人で各種太鼓・木琴・鉄琴なんでもござれって感じでしたので、人数が少なかった割には、音色的には豊かでしたよ。でも、やはりヴァイオリンの数が少ないので、この小さな小さなオーケストラで序曲を演奏していた時は、さすがに聞き劣りがしまししたよ。どうしても無意識に普段CDなどで耳にする通常編成のものと比べてしまい「どうなの?」と思ってしまいます。でも、オペラが始まってしまうと、この小さな編成でも、あまり気になりませんでした。これはこれでOKって感じでした。
日本語上演だったので、一部、セリフが聞きづらい人がいて「字幕が必要だなあ~」と感じた人もいたけれど、その人以外は、セリフの発声もしっかりしていて、原語上演字幕付きよりも、ずっと楽しめました。やっぱり日本語で上演してくれると、随所に細かい笑いが入るから、いいね。それに使用された日本語台本も、割と最近のものらしく、言葉づかいも自然で良かったです。日本語のオペラも捨てたものじゃないですね。
演劇的な楽しみとしては、黙役というか、セリフはバンバンしゃべるけれど、歌わない役の人が二人いて(看守のフロシュと、アデーレの姉のイーダ)、この二人が良い味を出してました。特にフロシュ役の人は俳優さん(テレビドラマでたまに見かける方です)なので、三幕の冒頭部はほぼ一人芝居状態で、あれこれと笑いを引き出していました。イーダをやったのはバレリーナさんだった(だからか、妙に姿勢がいい:笑)のですが、この人、合唱部分は歌ってたよ。うむ、歌えるバレリーナさんだったんですね。
それと今回の上演で特徴的だったのは、パントマイマーさんがいた事。なぜ、パントマイマーさんがいたのかは、よく分からないけれど、ほぼ舞台に出ずっぱりで、なんかおかしみを醸しだしていました。「こうもり」はコメディだから、こういう演出もアリですね。
合唱団の皆さんは…よく分からないけれど、アマチュアさんなのかな? いい意味での一生懸命さがあって、好感モテましたね。あと、合唱団の方々の衣装が、むやみにきらびやかだったのが印象的です。まあパーティーシーンに登場するので、きらびやかでいいのですが、たぶんソリストさんたちは、いわゆる衣装だから、プロダクション持ちの衣装だろうけれど、合唱団の人の衣装って…もしかすると“自分持ち”? なんか、そんな感じの気合の入った衣装の方が多かったですね。
もしも、合唱団の皆さんがアマチュアだとしたら、出演料を支払って(プロはいただきますが、アマチュアは支払うんです)、衣装も自分持ち…かなりの持ち出しになりますね。それでも舞台で歌えるなら、それくらい惜しくないって感じなんでしょうね。きっと私が同じ立場だったら、喜んで、自分でかぶります(笑)。
ソロを歌った歌手の皆さんは、多少力量にデコボコがあるように見受けられましたが、まあ、それは低予算オペラなので、仕方がない事なのかもしれません。ただ、私はアデーレ役の前原加奈氏を見に行ったわけですが、前原氏は上出来だったし、いっぱい歌ってくれたので、後の人の出来はどーでもいーです(笑)。…と、言いながらも、総じて皆さん、一生懸命でベストを尽くして演じていたと思います。
私の後ろに座っていた年配男性が、休憩中、大きな声で自分の連れに向かって「無様なくらい一生懸命だな(冷笑)」と言ってましたが、なんだろ? そんなに冷めた目でオペラを見ていて、楽しいのかな? いや、この年配男性に限らず、客のマナーはあまり誉められたモノではありませんでした。上演中に子どもは走るし、ベビーカーは出入りするし、アリアを歌っている最中に平気でホールにズカズカと入ってくる人はたくさんいるし、そんな人たちがガタガタ物音をたてるし…。それが一人や二人でなく、たぶん、のべで言うと30~40人ぐらいの人がそんな感じ。350名のホールだから、約1割の人がそんなんだったんです。
たぶん、チケット代が3000円(当日券は4000円だけど、まあ普通は前売りで買うでしょ)ってのが、ネックになったんだろうと思います。…はっきり言って、チケット代が安すぎるんだと思います。いつも思うのだけれど、オペラって、チケット代と鑑賞マナーがだいたい反比例するんだよね。上演中にあんなにガタガタされちゃ、真剣に見ている客もガッカリだけれど、出演者も気の毒だと思います。上演内容も良かったし、もう少しチケット代がお高くても良かったんじゃないかな? チケット代があんまり安いと、お客さんにあなどられるんじゃないかな? だって正直「3000円でオペラ???」って思うでしょ。その値段を聞いただけで、もう見に行く気分がうせる人もたくさんいると思います。
今年二本目の「こうもり」でしたが、今回はしっかり“こうもり”というオペラを見たなあ…って感じがしました。確かに、オケはチープだったし、歌手は全員日本人だったし、ソリストと言えども??な人がいないわけじゃなかったけれど、全体的には、とても楽しい「こうもり」だったと思います。
演出はストーリーを語るという点では、やや不親切な部分もあり、初見の人にはキビシイ部分はあったと思うけれど、まあ、それは事前にプログラムに目を通しておくことで、ある程度は補完されるだろうからヨシとしましょう。笑いもそこそこあったし、オペラって、お高くとまったコンサートじゃなくて、愉快なエンタメなんだから、まずは楽しめないといけないし、そういう点ではこれは良かったと思います。
今年見た一本目の「こうもり」と比べると…歌のレベルは前回の方が良かったし、見かけもやはり外人にはかなわないけれど、エンタメとしては今回の方がずっとよかったですし、今回の方がオペラを見たという気持ちになれました。
文句がないわけではないけれど、値段以上の価値ある公演だったと思います。
今年は、少なくとも、あともう一回「こうもり」を見に行く予定です。それは、今回のものとも、前回のものとも、だいぶ違ってくるのではないかと思います。同じ演目なのに、主催団体が違うと、アレコレ違うのも、オペラの楽しみですね。
楽しみ、楽しみ。
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コメント
私も見ました~。
観客のマナーがよろしくなかったのにはびっくりしました。
ガサガサ音のするビニール袋をいじっていたり、暗くなってから携帯を
見ていたり、、。 マナーを心得て見ている人達にとっては、ちょっと残念でした。
が、舞台は面白かったです。
前原お姉さまがひときわ輝いてピカイチ!! でした~。
モナビーナスさん
でしょ? 観客のマナーにはビックリでしたよね。私は別にオペラ鑑賞が窮屈なものであって良いなどとは思いませんが、みんなが楽しむための、最低限の約束ってあると思うんです。で、そういう最低限の約束、つまりマナーを知らない人は、学んでから来るべきだと思うし、主催者側も、お客にそういう人が来る事が想定される以上、それなりの準備をしないといけないと思います。
ラ・フォル・ジュルネなんて、立派だよ。大ホールでの演奏会の時は、ホールの入り口で演奏マナーが書かれた小冊子を配っているし、演奏前に司会者が鑑賞マナーの説明をしてます。そういう、ちょっとした事で、みんなが気持ちよくなれるなら、そうすべきじゃないかな?
低価格でコンサートを提供する以上、そういう準備が欲しいなあって思います。
>前原お姉さまがひときわ輝いてピカイチ!! でした~。
うん、アデーレは良かったよね。とても、良かった。