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同じ乞食でも日伊ではかなり違う[音源付き]

 さて、声楽レッスンの続きです。今回は、レッスン本体の話です。

 まずは、コンコーネです。9番は「声を押さない事(=声帯を力付くで閉じて歌わない事)」と「声を裏返さない事(=軟口蓋を開けたまま歌い続ける事)」を徹底的に練習しました。押したり、裏返ったら、即座にやりなおし。でも、これらをちゃんと気をつけていくと、私はAsまで歌えるんだよ、Asどころか、発声練習ではAまで、ちゃんと出ているそうなので、発声さえきちんとできれば、もっと上まで歌えるはずだと言われました。問題は「声を押す事」がすでに癖になっている点です。この癖を取り除かないと、次の段階に上れないわけで、頑張って、素直な声が出せるようにしたいものです。

 コンコーネの10番は「五線の上の音だけを、気持ちよく歌うつもりで、歌うように」と言われました。それは同時に「五線の中の音は、すべて捨てていくつもりで…、五線の中の音は(しっかり歌いたいだろうけれど我慢して)しっかり歌ってはいけない。五線の上の音だけを考えて、それらを気持ちよく歌う事だけを目指していく事」。うまくできないけれど、言いたい事はよく分かりました。

 「五線の中の音なんか、低くて低くて歌いづらいなあ…」とぼやくのが、テノールというものなんだそうです。ま、その気持ちはよく分かります(気持ちだけですが…)

 あと、それと、すべての音をpで歌うように言われました。少なくとも、pで歌っていれば、声を押す事はないからです。

 「Il Poverret(哀れな男)」はレッスン初回でした。アップした音源は、レッスンの最初に通して歌ったもので、まだ何の指導もされていない状態のものです。いわば「使用前」の歌です。今回はこの音源をアップします。そして、散々レッスンをして、曲が完成したら「使用後バージョン」をアップしますので、レッスンを通して、私の歌い方がどう変わったかを聞いてください。

 アップした音源は、私なりの解釈で歌っています。主人公のイメージは「元傷痍軍人の乞食」です。私が子どもの頃は、まだそういう人が街頭のあちらこちらにいたものです。そういう人の姿を思い浮かべながら歌ってみました。

 まず、私の歌い方には、演劇性が足りないそうです。この曲は、歌曲であってもヴェルディの曲ですから、もっとオペラチックに歌って、ちょうど良いのだそうです。そのためには、歌いながら泣く事もこの曲では大切だそうです。

 泣くのは難しいですね。そして、その泣き方も、日本人とイタリア人では違うので、その違いに注意しながら泣かないといけません。日本人は下からすすり泣くわけですが、イタリア人は上から嘆きながら泣くんです、知ってましたか?

 さらに乞食だからと言って、恐縮しながら歌うのも、イタリア人らしくないと言われました。イタリアの乞食は、堂々と物乞いをするのだそうです。あたかも「自分は君に施される資格があるんだから、さあ、さっさとお金をよこしなさい」みたいなノリがあるそうです。実際、歌詞を読んでみると、そんなニュアンスがありますわなあ…。

 それと、声の高い男だからこその滑稽味というのを表現してくださいと言われました。一見、英雄ぽい歌い方と、歌詞の内容の齟齬が、この曲の「哀れみ」を誘うわけだから、かっこよく歌えば歌うほど哀れに聞こえるのだそうです。これは声の低い男には出せない味なので、そこをうまく利用(?)していきましょうって事です。

 それと最後の音は、楽譜では下がってAで終わりますが、ここはせっかくだから、上がってFで終わりましょうと言われました。「なぜ?」と尋ねたら「テノールの歌だから(はぁと)」だそうです。やっぱ、そうですよね。

 今度の曲は、強弱に幅があります。pからffまであるのですが、別にpは“弱く”でもなければ“ff”も強くではありません。ffは一人語りと言うか、演説している部分です。一方、pはプレゼンをしていると言うか、相手に訴えている部分です。つまり『声を弱くしている』というよりも『声を落としている』部分です。

 ffは演説をしているわけですから、思い切って歌ってみました。レッスンの最後の頃では、ほぼフルヴォイスで歌ってました。そばにいた妻が言うには「持っていたペットボトルが、あなたの声に共振していたよ」だそうです。つまり、私の声に反応してペットボトルが震えたわけです。ああ、やっとそのレベルまで来ましたかあ…。ちょっとうれしいです。

 これは本から得た知識ですが(どの本からかは失念しました)、昔、ヨーロッパの辻々で、大道芸人たちがちょっとしたイベントを繰り広げていたそうです。そのイベントの中で、たまに「トランペット対テノール」というのがあったそうです。

 「トランペット対テノール」? 不思議ですよね。一体、何を対決するのかと言うと、トランペットとテノール歌手で、1)どちらが大音量か、2)どちらがより輝かしい高音を出せるか、3)どちらがより細かなフレーズを吹けるか、4)どちらが長くロングトーンできるか、の四点で勝負をするそうです。お客の前で対決をし、客がその勝敗を決定していたそうですね。もちろんお客は金をかけて、真剣に、この対決をジャッジしたのだそうです。勝負は基本的には五分五分だったそうで、トランペットが勝ったり、テノールが勝ったりしていたそうです。つまり、ちゃんとしたテノールは、トランペット(つまり金管楽器)並に大音量だって事です。フルートやヴァイオリンなんて室内楽向けの楽器じゃあ、比較にならないんですよ(笑)。

 そうそう、声の持つエネルギーってすごいんだぞって話で言えば、オペラ歌手が発声練習をして練習室の窓ガラスを割りました…という逸話は、声楽系の都市伝説として、たまに聞きます。滅多にあるわけではないでしょうが、だからと言って、無いとも断言できない話です。なにしろ、私レベルでも、ペットボトルを共振させられるなら…プロ歌手なら…ねえ。もっとも、この話が実話なら「あんたは少年ジェットか!」と突っ込みたくなります(笑)。

 ま「窓ガラスを割る」までいきませんが(当たり前)「ペットボトルを共振させる」までは行ったのです。これも、キング先生のご指導のおかげです。

 さて、今回アップした音源は、本当に初回の、レッスン冒頭での歌唱なので、歌い方も平板だし、全体的にボリューム不足だし、歌詞を間違えていますし、音程も怪しいし、所々よれていたりしてますし、先生もピアノをちょっとミスってますし、何よりも録音が良くないですが、勘弁してやってください。とりあえず、ここが学習のスタートってところです。数週間後には、きちんと仕上げた音源をアップしますので、それをお楽しみにしてください。

 音源はこちらです。覚悟して聞いてくださいね。

 それにしても、今回は1時間のレッスンを2時間ちかくやってもらっちゃいました。なんか、申し訳なかったです。

コメント

  1. おぷー より:

    この曲、歌った事あります!思い出した。
    インドのお乞食さんたちを見てましたので、堂々と金くれっ!(笑)って感じで
    歌ってたと思います。
    Fin laからm’oblioは、過去を思い出して、ちょっとセンチに歌いました。
    最後は、お金ー、お金ーくでーと叫びます。
    頑張って!!

  2. みるて より:

    わたしは発声練習で厚さ3cmあるガラスの瓶を真っ二つに割った歌手を知っています。
    すごいですよねぇ。
    その方は身長150cmあるかなしかの小柄なメゾソプラノさんです。

    わたしは近頃五線からはみ出る音はピアノのどこかの弦が共鳴して一緒に鳴ります。。。。
    ペットボトルはないなぁ。
    ペットボトルの方がうるさくなくていいですね。ピアノの弦だと残響音みたいでうるさいです。
    ちゃんと倍音のなる発声になると共鳴するのでしょうか?
    すとんさんも窓ガラス割ってくださいね。
    小柄な女性で3cmのガラス割るんだからすとんさんなら強化ガラスも割れそうな感じです。
    がんばれ!

  3. すとん より:

    >おぷーさん

     インドのお乞食さんたち…なんか、すごくタフそう(笑)。

     この歌は短い歌だけれど、きちんとストーリーがあるので、いろいろと主人公の人物像を考えていると楽しいです。やっぱり、堂々を金をせびった方がよさそうですね(笑)。

     最後は…おぷーさんは叫びましたか。キング先生は、泣け!って言います。泣き落としで金をせびれ、と言います。まあ、私も泣き落としの線で行こうと思ってますが、叫び落とし(?)で金をせびるのもアリだなあ…。いっそ、泣き叫んでみようかしら(爆)。

     歌は、歌うのも楽しいですが、どうやって歌おうかと考えるのも、楽しいですね。

  4. すとん より:

    >みるてさん

     小柄なメゾと言いますと…あの方のことですね。イメージ的にはそんなにエネルギッシュには見えませんが、実際の歌声はきっとすごいんだろうなあ…。チケット入手困難なので、私はまだリアルで聞いたことないんですよ。

     しかし、厚さ3cmのガラス瓶ですか…歌手は声だけでガラスを割るってのは、都市伝説ではなかったんだなあ…。

     それにしても、ピアノを共鳴させるというのも、すごいエネルギーだなあ。

     物を共鳴/共振させるには、きちんと倍音が出ていないと、たぶん無理なんだと思います。いくら大音響でも、全周波数に渡ってエネルギーが散っていたら、それぞれの周波数帯のエネルギーが干渉をおこして、振動のさまたげになるはずですからね。きちんと倍音が出て、音のエネルギーがいくつかのグループに分かれた時に、声のエネルギーで物体が共鳴/共振するのだと思います。

    >すとんさんなら強化ガラスも割れそうな感じです。

     いやあ、いくら親友に硝子屋のオヤジがいるとは言っても、強化ガラスを片っ端から割っていたら、さすがに修理代がかかりすぎるので、勘弁です(爆)。

     …ピアノを共鳴させるくらいが、お金がかからなくて、いいな。

  5. Cecilia より:

    歌ったこともないし楽譜も持ってないのですが、おぷーさんがおっしゃるFin laからm’oblioのところ、聞き覚えがあります!
    昔声楽発表会で親しい人が歌っていました。
    ピアノの音量が強く、すとんさんの歌声とか言葉が聞き取りにくいのが残念ですが、発生によさそうな曲ですよね。
    私には気持ちよく歌っていらっしゃるように聞こえます。
    ”使用後”が楽しみです。

  6. すとん より:

    >Ceciliaさん

     そうそう、録音状態が良くないんですよ。申し訳ないです。元々、アップするつもりで録音をしたわけではないので、いつもと録音機を置く場所が違っていて、今回はピアノのすぐ横に置いたものですから、こんな感じになりました。

     あと、私自身も、この曲のこのバージョンの時は、[最初だったので]声を抑えて歌っていたと言う事もありますので、余計に聞きづらかったと思います。

     発声に良い…というか、楽なんですよ。最高音がFなので、何の心配もなく歌っているのがいいんでしょうね。これで最高音がGとかになると、Gは出ないはずはないのですが、発声に迷いが生じて、それで失敗しちゃうんですね。高い音は、テクニック的にも難しいですが、メンタル的に難敵なんですよ(涙)。

    >”使用後”が楽しみです。

     ご期待にそえるように頑張ります。

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