「やっぱり、自分が使う楽器くらい、自分で調整できないとね!」と言うわけで、近所の楽器店で、ヴァイオリンのメンテナンス講習会が開かれたので、スズキ君を持って参加してきました。色々としっかり学んできましたよ。
もっとも、メンテナンスと言っても、素人が道具なしでできる初歩の初歩の簡単な調整で、弦の張り替えとか、駒の調整とか、ペグの調整、魂柱の位置の確認方法とか、そういう事を職人さんから学んできました。先生役の職人さんに対して、生徒さんが私を含めて、たった二人だったので、フレンドリーな雰囲気で学べました。よかったです。実技として、実際に弦の張り替えに挑戦しました。
弦の張り替えそのものは、ギターの経験があるので、楽勝でしたが、ペグ周りの事を学べたのは有益でした。
せっかくヴァイオリン職人さんとフレンドリーに話せるチャンスなので、以前、最初のお買い物をした時に、そこの職人さんから色々と指摘された事を相談してみました。
スズキ君のペグはたしかに磨耗しているそうです。ただし、ペグ穴の方は大丈夫だし、ペグにきちんとチョークを塗っておけば、まだまだいけるでしょうとの事でした。ただし、E線のペグはとりわけ磨耗が激しいので、E線に関しては、なるべくペグを回さずに、アジャスターでチューニングした方が良いでしょうとの事でした。
アゴ当ては、たしかに壊れているそうです(驚)。なので、チャッチャッと直してくれました(笑)。これで大丈夫だって。
魂柱はありえないくらい位置が違うそうです。これはズレているではなく、意図的にここに置いていると考えた方が良いでしょうとの事です。直すことは簡単にできるけれど、これは師匠の楽器(借り物だと伝えてあります)なんだから、下手にいじらない方がよいという見解でした。私も同意見です。
駒は…これくらいが標準じゃないかって言われました。もちろん、もっと低くしてあげる事はできるし、そうした方が楽に演奏できるけれど、これくらいで十分じゃないかという事でした。
とにかく、アゴ当てを修理してもらって、うれしかったです。
さて、講習会の最後というかメインは「弦の違いでヴァイオリンの音がどう変わるか」というテーマの勉強会でした。結果は、私にとって、驚きというか、ギターなら当たり前というか、とにかく弦が違うと、同じ楽器であっても、まるで楽器が違ってしまったかのように、音が変わりました。いやあ、参加して良かったです。
会場に用意されたのは、同じヤマハのV10というヴァイオリンに、トーマスティックインフェルド社の「ドミナント」「インフェルド赤」「インフェルド青」、ピラストロ社の「オブリガート」「エヴァピラツィ」「オリーブ」の六種類の弦を張って、それらの聞き比べをしました。私の感想を書いておきます。
ドミナント ちょっとシャリシャリした感じの音です。高い倍音が出すぎるって感じかな? なので、シャリシャリしつつも、同時にイキの良さを感じさせます。なんでも、この弦がヴァイオリンの素の音を一番よく引き出せるのだそうです。お店に展示されているヴァイオリンは、たいていこの弦が張られているそうです。そういう意味では、定番中の定番って感じの弦なんでしょうね。とにかく値段が安いからね。しかし、V10には合わないような気がしました。高い成分の音が耳に突き刺さる感じがして、うるさいです。安い楽器にこの弦を張ってしまうと、楽器の安さが目立ってしまうような気がします。あ、だから、この弦がヴァイオリンの素の音をよく引き出すと言われるわけですね。つまり、この弦は、良い楽器向きの弦であって、お安い楽器は、少々、弦を奢った方が良ろしいのかと思いました。
インフェルド赤 柔らかめの落ちついたしっとりした音がします。声楽っぽい響きになります。これはなかなか良いです。この音は、結構、好きかもしれません。ドミナントを張ったV10はザラっとした音がして、パスって感じがしましたが、V10にインフェルド赤を張ると、そういうザラっとした部分がなくなり、かなり良い感じになります。たかが、弦ですが、弦で音がだいぶ変わります。驚きですよ。V10くらいの楽器だと、素の音を引き出してしまうドミナントよりも、こういう弦の音そのものに味わいのある方が、結果的に良いのだろうと思いました。
インフェルド青 ドミナントと赤の中間ぐらいの印象です。ほどほどに明るくて、ほどほどにしっとり。ほどほどにイキがいいです。もちろん、ドミナントにあった、シャリシャリした感じはありませんし、V10もザラっとはしません。赤ほど個性が強いわけでもないので、色々な曲に対応できて、かなり便利に使える弦かもしれません。ドミナントの音は好きだけれど、ちょっとザラとしているのがねえ…という人には、このあたりがお薦めかもしれませんね。
オブリガート ここから弦のメーカーが変わります。オブリガートはインフェルド赤に似た印象のしっとり系の弦でした。しかし、赤よりも幾分ダークな音色かな? 深くて透明感があります。こういう音を好む人っているだろうなあ。私も嫌いじゃないです。ただし、この弦は楽器は選びそう。元々地味な音色の楽器にこの弦を張ったら、シブくなりすぎるんじゃないかな? でも、音色の明るい楽器なら、おもしろい組み合わせになると思いました。
エヴァピラツィ オブリガートよりも、さらに柔らかくて深みのある音。ただし、深みはあるけれど、同時に明るくて切れもあって…って感じもします。上手な人向きの弦って印象で、きっと、この弦からは、色々な音色が出てくるんだろうなあ…って思いました。とても私の手には負えそうもないオーラがその音に漂ってました。なんかもう、ムリムリムリ~って感じです。
オリーブ 柔らかいも柔らかい。音色の振り幅が広そうだし、一歩間違うと、すごく地味なところに落ち込んでしまいそうな感じ。V10って明るい音色の楽器だと思うし、だからこそ、この手の柔らか系の弦って合いそうなものですが、ドミナントとは別の意味で、V10には合わない弦だと思いました。何というのかな? 弦の音を楽器が受け止めきれていないような気がします。
ちなみに、私が普段使っているのがトーマスインフェルド社の「ヴィジョン」なので、耳がトーマスティックインフェルド社の音に馴染んでいるというバイアスはご了解ください。
なぜ私が「ヴィジョン」を使っているのかと言うと“安い”から(爆)。「ヴィジョン」は「ドミナント」よりも安いんです。とにかく、安さで「ヴィジョン」を選びました。
職人さんが言うには「ヴィジョン」という弦は、はっきりくっきりした音の弦なので、音程が取りやすく、初心者には扱いやすい弦なんだそうです(初心者向け? だから値段が安いのかも)。だから、私の場合は、しばらくの間は「ヴィジョン」を使い、腕前が上がったら、好みの弦を探して、色々と弦を冒険するのがよいでしょうと言われました。でも「ヴィジョン」は好きですよ。安い弦ですが、シャリシャリせずに、良く楽器を鳴らしてくれます。初心者向けの弦ならば、おそらく廉価な楽器向けの弦なのかもしれません。
ちなみに、私はE線だけは「ヴィジョン」ではなく「ゴールドブラカット」という弦を張ってます(これも安いからです)が、この弦は、ちょっと音がビビります。楽器と合わないのかな? それとも私がヘタクソすぎ(たぶん、これ)? E線だけ、色々と試したい気分です。
しかし、弦が変わると、ヴァイオリンって、本当にガラっと音が変わります。ま、肩当て程度で音が変わるんだから、弦が変われば、そりゃあ、大きく変わるよね。弦選びって大切かもしれません。
それと、ヤマハのV10と言う楽器は、なかなか元気の良い楽器で、あんまり優等生っぽくなくていい感じでした。なんでも、ヤマハのヴァイオリンは、V10は元気系で、V20がおとなしめで、V25がその中間なんだそうです。ああ、だから私はV20には惹かれなかったわけだな。
さて、一緒にメンテナンス講習会を受けたお姉さんの楽器は、私がちょっと気になっている「フィレンツ・ベラ・バーチ」でした。でも、最初はそれに気づきませんでした。と言うのも、私が山野楽器で試奏したものとは、だいぶ印象が違ったからです。同じ工房の同じモデルでも、ヴァイオリンの場合、こんなに個体差があるんですね。いや、驚きです。お姉さんには申し訳ないけれど、彼女の持っていた楽器は、私の好みとは、かなり違いました。なんか、変な響きがするんですよ。なので…はい、音は好みとは違いましたが、外観は…好みでした。いやあ、とっても美しいヴァイオリンだったんですよ。
で、その音は、私好みでなかっただけでなく、実はオーナーであるお姉さんの好みでもなかったそうです。なんでも、買った当初はいい感じだったそうですが、今はそうでもないそうなんですし、習っている先生からも「このヴァイオリンは…なんかねえ…」と言われていたそうなんです(高い買い物なのに、それって悲しくないですか?)。なので、弦を変えれば、その辺も変わるんじゃないかと思って、このメンテナンス講習会に参加したのだそうです。
「見せてください」と言うわけで、職人さんがお姉さんのヴァイオリンをチャチャっと改めたところ「魂柱の位置は正しいですけれど…ちょっとズラしてみますねえ…」と言って、魂柱の位置をチョコチョコっていじってました。そうすると…変わりますねえ。変な響きがなくなって、普通のヴァイオリンになりました。「標準の位置とは違うけれど、この位置の方が、この楽器にはいいみたいですねえ」だそうです。たしかに響きは普通になりました。魂柱の位置でこんなに音って変わるんですねえ。また、楽器によっては、標準の位置がベストというわけでもないというのは…勉強になりますね。
…ても、やはりノイジーな感じは変わりませんでした。
で、弦を変える事になりました。元々張ってあったのはドミナントで、これ以外の弦は試した事ないのだそうです(って事は、ノイジーなのは楽器ではなく弦のせい?)。そこで色々と相談をした結果、弦をピラストロ系にした方が良いんじゃないかと言うわけで「オブリガート」に変えることになりました。
オブリガートに変えたフィレンツ・ベラ・バーチは、実に別物のような音になりました。ノイジーな感じもなくなり、音もほどほどに柔らかく、楽器もよく鳴るようになりました。この音なら、私も好きになれます。
弦は奥が深いね。弦を変えるだけで、楽器を買い換えたような効果があります。それくらい、弦が音に与える影響って大きいです。
いや、もっと、はっきり言っちゃうと、音色に関してだけなら、楽器にこだわるよりも、弦にこだわった方が、良いのかも。おそらく音色に与える影響って、楽器よりも弦の方が大きそうな気がしました。特に、趣味のヴァイオリンだったら、安価に自分好みにできるという点から考えても、楽器よりも弦にこだわった方が良いかもしれない…そう思いました。
考えてみれば、楽器って、単なる“箱”なんですよね。肝心の音を出している“発振体”は“弦”と“弓”なんですよね。弦と弓で作った音を駒を通じて伝えられ、それを増幅しているのが楽器なわけです。いわば、理科で使っている箱付き音叉で言えば、音叉に当たるのが弦で、それを叩くハンマーが弓、音叉が固定されている木箱が楽器ってわけです。ならば、箱よりも、音叉やハンマーにこだわった方が、よい音が出るのではないでしょうか?
箱の役割とは、音の増幅ですから、良い箱であればあるほど、大きな音は出るでしょう。なので、良い楽器を使うほど、音量のダイナミクスは広がり、より表現力の増した演奏ができますが…それって、どこまで必要なのかな? 大ホールでオーケストラをバックにコンチェルトを演奏するならともかく、私のヴァイオリンは、自宅の練習と、たとえ人前で演奏するにしても、ジャズ喫茶のステージでしょ。ジャズ喫茶で演奏する時は、必ずマイクを使うわけで、素の楽器に音量などいらないです。
もしも音色にこだわるにしても、ヴァイオリンの場合、楽器が音色に関与する割合って、フルートと比べると、とても小さいような気がします。もちろん、その楽器固有の音というのはあるでしょうし、その音色がベースになるにせよ、弦や弓、さらには、駒やアゴ当て、肩当て、ペグやテールピースでも音が大きく変わってしまいます。
ヴァイオリンの購入に際しては、フルートほど、楽器の音色にこだわらなくても、良いような気がしてきました。音色にこだわるよりも、楽器としてのハードウェアの部分の性能にこだわった方が良いのではないかと思いました。楽器としてのハードウェアの性能とは、つまり“どれだけきちんと丁寧に作られているか”って事です。あと“美観”かな? キレイな虎杢には強く心が弾かれますからね。
今後は、ヴァイオリンの試奏をする時、音色の事はちょっと横において、どれだけ細部まで丁寧に作られているか、どれだけ美しい美観を持っているか、この二点で色々検討してみようかな?
それにしても、ヴァイオリン選びって、知れば知るほど、難しさを感じます。
コメント
わ~。
興味深い記事をありがとうございます。
なかなかそれだけの弦を自分で買って試すということもありませんよね。買い替えのときに印象が変わっても、古くなった弦と新しい弦を公平には比べにくいですし…
古い楽器(最安値のスズキ)のとき、最初ドミナント+ゴールドブラカットで、次にインフェルド赤にしたんですよ。私はインフェルドのほうがやや好きではあったんだけど、ちょっとそれこそ楽器のほうが「受け止めきれていない」感じはしましたです。
根柱の位置が標準でないほうがよい場合があったりするのもおもしろいです。
弾き比べたときも、どこまでバイオリンの素の実力で比べているのか、弦や調整などがたまたま私好みなのかというのはわかりにくいですね。案外「見た目」で吸い寄せられたというのは確かかもしれん(^^;;
>アンダンテさん
いやあ、あくまで自分のための備忘録ですから、どれだけ他の方に伝わったかどうか、不安ですが、一つ言えることは「弦を変えると、楽器を変える以上に、音色の変化があるかもしれない」って事です。それくらい、弦を変えると、楽器の音って劇的に変わります。
それにしても、ヴァイオリンの弦というのは、実に個性豊かです。ひとつひとつ、それぞれ音が違います。楽器の買い換えってのは、なかなかできませんが、弦を変えてみると言うのは、割とやりやすいのではないでしょうか? もっとも、楽器によっては、弦の音を受け止めきれないケースもあるみたいですから、そこのところの制限もありますけれど…。
そう考えると、楽器はただの箱ですが、箱の性能で、弦の選択の幅の広さが変わっているわけで、やっぱり良い箱を持っている方がいいみたいですね。
私もいい箱が欲しいです。