表題の通りです。ワーグナー作曲の「ローエングリン」を見てきました。キャスト&スタッフは以下の通りです。
指揮 ヤニック・ネゼ・セガン
演出 フランソワ・ジラールローエングリン:ピョートル・ベチャワ(テノール)
エルダ:タマラ・ウィルソン(ソプラノ)
オルトルート:クリスティーン・ガーキー(ソプラノ)
テルラムント:エフゲニー・ニキティン(バスバリトン)
国王ハインリッヒ:ギュンター・グロイスベック(バス)
今までメトのライブビューイングでは、数多くのオペラの公演を見てきましたが、今回の「ローエングリン」は、その中で1,2を争う、素晴らしい公演だと思いました。(マジでよかったよ)。
歌手が上手なのはもちろん、演出が実に良かったです。いわゆる“読み替え演出”で、台本を書いたワーグナーの意図したものは全然違うだろうけれど、これはこれで実に良い演出だと思いました。
舞台は未来だそうです。最終戦争が終わって、人類は絶滅寸前という、いかにもアレな舞台です。ブラバント公国は、地下シェルターの一つという設定です。そこに白鳥型の宇宙船に乗った、謎の来訪者(これがローエングリン)がやってきて…というお話なのです。こんなデタラメの設定ですが、これが実に物語にうまくハマるんですよ、オジサン、びっくりしました。
舞台を終末世界のSF仕立てにしたせいか、剣と魔法の世界もアリな気がしちゃうんです。いやあ、不思議。まあ、高度に発達した科学は魔法と区別つきませんからね…と個人的に納得していました。
今回の公演は、演出的に、10年前の2012-13シーズンの「パルジファル」の続編という作りなのです。つまり、今回のローエングリン(ベチャワ)は、あのパルジファル(カウフマン)の息子という設定なのです。
とにかく、どれくらい興味深い演出なのかは、見てもらうしかないのだけれど、とりわけ合唱団の衣装が、舞台装置も兼ねていて、赤白緑に切り替わって、実にいいんです。
そもそもの楽曲が良くて、歌手が上手で、演出が素晴らしければ、そりゃあ良い公演に仕上がるのは当然です。
当初懸念していた、ローエングリンを歌うベチャワですが、終始、当初の懸念どおり、違和感バリバリの存在でしたが、それは演出意図とも合致していました。と言うのも、この公演でのローエングリンは“異邦人”なので、ローエングリンを歌う歌手が違和感バリバリで良いのです。それにしても、ほんとベチャワは、他のキャストと較べても、小柄だし、声質も違うし、明らかにワーグナー歌手ではなくて、違和感バリバリでした。そんなベチャワを上手に使ったなあ…という感想です。あと、最後まで歌い切ったベチャワに感心してしまいました。ここまで歌える人とは思っていなかったので、改めてベチャワの凄さにもビックリです。
そう言えば、昔々、ドミンゴもローエングリンを歌っていましたね。伝統的に、ローエングリンって、こんな感じでイタリア系の歌手が歌ってもハマる役なのでしょう。ちなみに、あのディスクでは、軍令使を歌っていたのフィッシャーディースカウという、これまた実に違和感だらけのディスクだそうです。私は未聴ですが…聞いてみたい気もします。
さて、今回の公演のタイトルは「ローエングリン」でしたが、見終わった感想としては「オルトルート」というタイトルの方がふさわしかったのではないかと思うくらいに、オルトルートを演じたガーキーが、他のキャストを食っていました。主役のベチャワ以上の存在感でした。
そもそもガーキーは、2018-19シーズンの「ワルキューレ」で主役のブリュンヒルデをやった歌手で、今、メトのパワー系ソプラノのトップの一人ですから、そりゃあスゴいに決まっているよね。
一方、ヒロインであるエルザをやったタマラ・ウィルソンは、歌はともかく、演技が棒で、どう見ても“デブったオバサン”にしか見えなくて、一昔前に多くいたタイプのオペラ歌手でした。こういう人でもキャスティングしないといけないくらい、ワーグナー歌手って数少ないのだなあ…というのが、今回の私の感想です。他の歌手が、歌・演技ともに21世紀仕様になっていただけに、かなり残念だと思いました。今回の公演の唯一の穴が、よりによって、ヒロイン・エルザなのでした。まあ、エルザが残念な分、オルトルートが頑張っていたのでした。
今回の合唱団は140名なんだそうです。オケも三管編成だから、生の舞台はすごい事になっていただろうね。こんなのを5時間近くも聞き続けていたら、音に酔ってしまいそうです。いやあ、映画館上映のライブビューイングも良いけれど、ワーグナーは(特にメトは)生で聞いてみたいものです。
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