スポンサーリンク

ファはミに近く、シはドに近い

 いきなりですが…ソ♯とラ♭は、どちらの音の方が高いでしょうか?

 「同じ音なんだから、どちらが高いとか、そういう事は無いです」

 ブッブー! 残念、ハズレです。答えは「ソ♯」です。

 「え? なんで、なんで?? だって、ソ♯とラ♭も、ソとラの間にある黒鍵の事でしょ?」

 それは残念。あなたはピアノ脳です。

 ピアノという楽器は、実は妥協の産物による楽器なのです。すべての音の音程をを少しずつ妥協して、容易に転調できるように工夫した楽器なのです。こういう音の並びの事を“平均律”と言います。平均律が誕生したために、本来の音の並びを“純正律”と呼ぶようになりました。

 オーケストラ曲とか合唱曲とかは、純正律で演奏されます。別に純正律がどうとかこうとか意識しなくても、曲を演奏しながら、常に一番キレイなハモリを求めると、自然と純正律にならざるをえないだけの話です。純正律の音程には妥協がないので、美しくハモりますが、調性ごとに音ごとに、音程の幅が違うので、調が変わるたびに音程の微調整をする必要がありますが…声とかオーケストラで使う楽器等は、簡単に音程の調整ができるので、耳を開いて演奏すれば、特に問題ありません。

 なので、ピアノと一部の楽器は平均律で演奏しますが、その他の楽器は純正律で演奏します。で、その純正律では、ソ♯とラ♭ではソ♯の方が高くなるのです。その方が美しいからです。

 分かりやすく言えば、♯は平均律の半音よりも少し多めに音を高くし、♭は平均律の半音よりも少し多めに音を低くする効果があり、その方が美しく聞こえるのです。なので、ソ♯とラ♭ではソ♯が高くなるのです。

 結果として、半音って、全音の1/2の位置には来ないってわけです。

 そうなると引っかかるのは、ハ長調で言うところの、ミとファ、シとドの間の半音は、平均律の半音よりも広いのか? 狭いのか? って話です。もちろん、ピアノのキイを叩いても分かりませんよ。だって、ピアノは平均律ですからね。

 これは、ヘ長調とト長調を見ると分かります。ヘ長調は階名唱で言うところのファに、♭が、ト長調は階名唱で言うところのシに♯が付いています。つまり、ファはミに近く、シはドに近いのです。

 ただし、それだけでは問題が生じます。と言うも、平均律であれ純正律であれ、1オクターブの音程は一定で同じだし、もっと言うと、ドとソ、ソとドの音程も一定で同じなのです(クラシック的には完全音程と言い、ポピュラー的にはパワーコードと言います)。

 どういう事なのかと言えば、ドとソの間は常に一定なのに、ミとファが近いなら、その近くなった分の余った音程は、どうなっているのか? という話です。結論から言えば、レとミとファの位置が平均律のそれらとは、少しずつ違っているのです。レとミは少し高く、ファは少し低くなっています。そうやって、ミとファを近づけているのです。

 特に純正律のミは、平均律のミよりもだいぶ高くなっています。そうやって、音程の調整をして、美しい和音を作り出しているのです。同様に、ソとドの間も一定で、なおかつシとドが近くなっているために、純正律では平均律と比べて、ラが少し高くなるのです(ラが少し高くなってしまうので、純正律では平行調への移調が、そのままでは美しくなくなるのです)。

 実は、音律にはたくさんの種類があって、平均律と純正律以外の音律も当然あります。特に有名な音律として、純正律以前にはピタゴラス音律というのが用いられたようで、このピタゴラス音律は純正律よりも、もっともっと和音が美しいのだそうだし、純正律で演奏しながらも、ピタゴラス音律的な要素を取り入れて演奏する団体もいますが…ピタゴラス音律を全面的に取り入れて演奏する団体は…まず無いそうです。と言うのも、ピタゴラス音律は、転調が出来ないだけでなく、完全音程というのが無いため、1オクターブや完全4度、完全5度が、逆に美しくなくなるという特徴があります。それじゃあ、バロック音楽以降のクラシック音楽の演奏には向かないよね。

 ちょっとオタクな音程の話でした。

 実際の演奏は、ゴリゴリの平均律とか純正律とかで演奏はしないそうです。多少の妥協はしながらも、その時その時のベストで美しい和音を奏でながら、平均律をベースとしながらも、純正律の要素を入れて演奏するのが、今のプロの音楽家の演奏なんだそうです。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 音楽ブログ 大人の音楽活動へ
にほんブログ村

コメント

  1. 如月青 より:

    ご教示有り難うございます。
    昨年まで息子が行っていた高校(実は私の出身高)の科学研究の授業で、オーケストラ部の生徒が「純正律と平均律の和音の聞こえについて」というのをやっていました。

    私も被験者として協力しましたが、よく聞いて見ると音域が変わる度に微妙に感じが変わります。

    平均率の音程は均等ではなくて、分析してみると対数をとって近似値的に構成するのだということで、純正律に比べて初めは変わらないように聞こえても、倍音をとって行くとハーモニー感が薄れて不安定に聞こえてくる。

    ↑はアンケート調査の結果で、精密な検証は課題に残っているということでしたが、色々な曲を例にして論文を書いてくれたら読んでみたい、と思っています。

  2. すとん より:

    如月青さん

     実は音律の話はとても深くてマニアックなのです。ひとまず今回は、よく耳にする、純正律と平均律の話に限りましたが、実は音律にはこれ以外にも数種類あります。特に古楽の人たちは、様々な音律を使いこなすようです。

     我々は、平均律の世界の人間であり、ほんのちょっぴり、純正律の雰囲気を取り入れて演奏するくらいが、関の山だろうと思います。

     厳密に考えていけば、旋律の美しさを取るか、和音の美しさを取るか、転調の容易さを取るか、はたまた別の要因を優先するか、それで使用する音律が変わってくるみたいです。なぜ、そんなにたくさんの音律が存在するのか? それはこの世界を数学できれいに表すことができないからです。

  3. 巌本康治 より:

    すとん様

    久々にコメントいたします。
    人の声など自由に音程を取れる音楽には、大まかにピタゴラス音律によるものと純正律的なものとがあると思います。

    ピタゴラス音律は5度(周波数で2:3の割合)を重ねて、例えばド=120Hzとすると ソ=180Hz、レ=270Hz、ラ=405Hz、ミ=605.5Hz、シ=911.25Hz、ファは下方に5度で80Hzとなります。
    オクターブ120~240Hzの範囲におさめると、ド=120、レ=135、ミ=151.875、ファ=160、ソ=180、ラ=202.5、シ=225.625となります。

    純正的な音楽は、ソ、ファはピタゴラスと同じですが、ド:ミ:ソ=ファ:ラ:ド=ソ:シ:レ=4:5:6の割合になるようにします。するとドミソ、ファラド、ソシレの和音がとても美しくなります。ド=120Hz、レ=135Hz、ミ=150Hz、ファ=160Hz、ソ=180Hz、ラ=200Hz、シ=225Hzです。
    しかしこれだとレがラの5度下200Hz×2/3=133.333…Hzであるべきなのに135Hzで高すぎて調和しません。なので、レとラが絡むときはレを低くしたりラを高く(202.5Hz)したりしないといけません。「夢路よーりー帰りて-」ドシドソーミ、レド#レラー…のレは低く、最後の「夢路より帰り来よー」ラシドドソミソファミレドーのレは高くないと美しくないのではないでしょうか。

    私はピタゴラスが純正かは曲やジャンルによると感じています。同じドレミでもグレゴリオ聖歌や「咲いた、咲いた、チューリップの花が」のドレミはピタゴラス、ドイツ民謡や「めだかーの学校は、」のドレミは純正が合っているように思います。

  4. すとん すとん より:

    巌本康治さん

     音律の話は深いですね。

    >私はピタゴラスが純正かは曲やジャンルによると感じています。

     そうなんですよ、で、私の場合はジャズも聞いちゃいますから、もう“美しくない音程も味”とか“不協和音は大人の香り”とか思っちゃうし、そもそもがギタリストですから、理屈はともかく、耳は実に大雑把なのです。

     でも、メロディにせよ和音にせよ、なんかキレイにハマって美しい瞬間ってありますよね。特に倍音がババーンと聞こえるような感じはシビレます。そんな快楽を求めていくと、結局、音楽の場合は音律の話になっちゃうんだろうなあって思うのですよ。

     で、そんな繊細な音も好きだけれど、パワーコード(完全五度)で押しまくるような楽曲に惚れ惚れしちゃう面もあったりします。

タイトルとURLをコピーしました