表題の通り、メトのライブビューイングで、リヒャルト・シュトラウス作曲の「ばらの騎士」を見てきました。結論から言うと、実に、すごく、とてつもなく良かったです。
正直な話、私はリヒャルト・シュトラウスのオペラ作品が苦手です。どちらかと言えば嫌いな部類のオペラに入るかもしれません。特に「ばらの騎士」は有名な作品だけに、何度もトライをして好きになろうとしましたが、今まで撃沈の日々で、このオペラを好きになれずにいました。いつもオペラの半分ぐらいは睡眠時間になってしまっていました。それがとうとう、今回のメトの上演では、最後まで飽きることなく、楽しみながら見られました。これって、私的にはすごいことなのです。それほど、今回のメトの「ばらの騎士」は良かったのです。
例によって、スタッフとキャストを書きます。
指揮:シモーネ・ヤング
演出:ロバート・カーセン元帥夫人:リーゼ・ダーヴィドセン(ソプラノ)
オクタヴィアン:サマンサ・半キー(メゾソプラノ)
ゾフィー:エリン・モーリー(ソプラノ)
オックス男爵:ギュンター・グロイスベック(バス)
ファーニナル:ブライアン・マリガン(バリトン)
アンニーナ:キャサリン・ゴルドナー(メゾソプラノ)
ヴァルツァッキ:トーマンス・エペンシュタイン(テノール)
今回の上演は、メトの2016年シーズンにライブビューイングで上演したものの再演です。ゾフィーとオックス男爵は続投ですが、その他の歌手は交代しています。初演のキャストと比べると、正直、地味になったと言えるものの、さすがはメトですから、実力派を揃えてきたなあというところでしょうか?
まず、何がそんなに良かったのかと言えば、ロパート・カーセンの演出です。とにかく、彼が加えた演技が実に良いし、それに応えている歌手たちが素晴らしいのです。
オペラって、歌が命で、演技は二の次というのが正直なところじゃないですか? ところがカーセンの演出では、歌手の演技はもちろん、黙役たちの演技に至るまで、実に饒舌で、音楽では表現しきれていない部分を演技で表現しているのです。また、現代人である我々のために、あれこれ設定や時代背景も変更されて演出されています。それが実に効果的で、おかげで私、今まで退屈で仕方なかった「ばらの騎士」をようやく理解し、楽しめました。今回の演出版で、今までなんかモヤモヤしていた部分がすっきりし、舞台から目が離せませんでした。いやあ「ばらの騎士」って、こんなに面白いストーリーだったんだね、ほんと、ビックリです。
私の中での「ばらの騎士」の決定版は、このカーセン演出版で決定です。
実はカーセン演出版は、ライブビューイングの初演時、私は「ばらの騎士」に苦手意識を持っていたので、パスしてしまっていたのです。今回も、当初は見ないつもりでしたが、初演時にパスしていた事を思い出して、重い腰をあげて、期待せずに、見たわけですが、見て後悔したわけです。これだったら、初演時に見れば良かった!と思ったわけです。
ちなみに、このカーセン演出版ですが、初演の公演がDVD化されていますが、日本語字幕が付いていません(残念)。なので、見るなら、映画館で上演された時がチャンスなのです…今回見逃した方は、夏のアンコール上映で見れるでしょうが、その次となると…今度はいつになるのでしょうか?
今回のカーセン演出版で、私が分かった事は、今まで「ばらの騎士」というのは、元帥夫人が抱える「残酷な時の経過」がテーマとして語られる事が多く、私もそういう目でこのオペラを見ていましたが、実はそれは間違いだったのです。このオペラの真のテーマは、オクタヴィアンの成長なのです。だいたい、オペラの題名は「ばらの騎士」であって、主人公は元帥夫人ではなく、オクタヴィアンだったのです。そんな、つまらない事に、やっと気づいた私だったのです。
まあ、だいたい、このオペラは元帥夫人に大物ソプラノが配役される事が多く、一方、オクタヴィアンにはズボン役のメゾソプラノという地味目の歌手が配役されがちで、だから観客は、一番華のあるソプラノである元帥夫人を、勝手に主役と勘違いして鑑賞していたわけです。それがこのオペラをつまらなくさせていた原因の一つです。
でも、このオペラをオクタヴィアンの成長物語として見るなら、物語としても面白いし、筋が通っているし、なぜオックス男爵がヴィランなのかも納得です。だって、元帥夫人が主役なら、ヴィランはゾフィーでないと可怪しいでしょ? でもゾフィーはヴィランじゃなく、どう見てもヒロインなわけで、となると、ヴィランは元帥夫人? それも変だよねとなるわけです。で、もやもやもやもや…してしまうのです。
今回、オクタヴィアンを演じたサマンサ・ハンキーが、またいい味出しています。そもそも、ハンキーは代役なのです。当初はイザベル・レナードがオクタヴィアンを演じる予定だったそうですが、それが主役交代で、それなのにライブビューイングは続行しちゃうメトもなかなか太っ腹な歌劇場とも言えます。
ズボン役って難しいのです。何しろ成人女性が少年役を演じるのですから。そもそも無理があるわけで、だいたいは「少年と言うよりも、オナベだろ?」という感じになりがちですが、このハンキーはなかなか少年っぽく、違和感なくズボン役を演じていました。さらに、劇中で2度もオクタヴィアンは女装するわけですが、そのオクタヴィアンの女装姿もハンキーが演じると「女装している少年」に見えるから、実にスゴいわけです。メトのメイクさんもすごいですが、ハンキーの演技力の凄さにも驚きです。たいていのズボン役は、少年役まではどうにかしても、少年が女装をすると、元の女性らしさが出てしまうわけ(裏の裏は表になるわけですからね)ですが、ハンキーはあくまでも「少年が女装している」ふうにしか見えないのです。今どきのオペラ歌手の演技力には、なかなかのモノがあります。
演技力と言えば、ゾフィーを演じたモーリーもスゴいですよ。とにかく所作がいかにも「若い娘」なのです。だから、動いている時はティーンエイジャーにしか見えません。しかし、動きが止まると、途端にオバサンになっちゃうのが残念で仕方のないところなのですが…。舞台なら演技で年齢を誤魔化せても、映画の大画面では、お肌のキメとかシワとかで、なかなか年齢は誤魔化せないんだよね。
音楽面では、やはりリヒャルト・シュトラウスの小難しくてつまらない音楽が炸裂していますので、好き嫌いが大きく分かれる「ばらの騎士」ですが、芝居に限って言えば、このカーセン版は、本当にお勧めです。今まで、私同様に「ばらの騎士」に苦手意識を持っていた人は、このカーセン版を見るといいと思いますよ。
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