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「良い・悪い」と「好き・嫌い」は別物

 これは私も注意している事だけれど、物事を「良い・悪い」で判断する時は、あくまでも客観的な判断がなされるべきであって、それを主観で判断してはいけない…という事です。

 よく聞くのが「Aという指揮者の若い頃の演奏はとても良かったが、晩年の演奏はダメだ」とか「Aという指揮者の若い頃の演奏はイマイチだが、晩年は円熟味が加わって良い演奏になった」とか…ね。この「指揮者」という部分は「歌手」とか「○○奏者」とか入れ替えても可です。あるいは「Bという指揮者の演奏はさすがであって、とてもCという指揮者とは較べものにならない」とか…ね。この文章もあれこれ入れ替え可能です。

 この評価に関して、生演奏に関する評価ならばまだしも、商品として販売されている録音物(つまり、レコードとかCDとか)に関して言っているのだとしたら、よほど耳の悪い人が言っているんだなって思います。

 具体的に書きましょう。

 例えば、カール・ベームの演奏したモーツァルトの交響曲40番は、現役バリバリの頃に録音したベルリン・フィルとの録音と、晩年に録音されたウィーン・フィルとの録音の2種類が代表的な録音です。

 私が若い頃にもてはやされたのは、晩年のウィーン・フィルとの録音です。堂々とした演奏で、いかにも巨匠然とした重々しい印象があり、周囲にいたクラオタたちが絶賛していました。一方、バリバリの頃に録音されたベルリン・フィルとの録音は、それと比べると、少々軽い感じがして、華やかな印象があり、あまり高い評価はもらっていなかったと思います。

 なので「ウィーン・フィル盤は良いけれど、ベルリン・フィル盤はダメだ」と言っちゃう人たちもいて、私は「先輩たちがそう言うんだから、きっとそうなんだろうなあ…」と思ったものです。

 年をとった私が、今思うのは「単純に音楽として考えるなら、私はベルリン・フィル盤よりもウィーン・フィル盤の方が、やっぱり好きだな」「でも、ウィーン・フィル盤はテンポも遅いし、音楽も重い。モーツァル的なロココ感覚で考えるならば、ベルリン・フィル盤の方が軽やかで好きかも」「いやいや、モーツァルトを現代オーケストラで演奏している時点でベームは前時代的な演奏であって、やはりノリントンやブリュッヘン、マッケラスやホグウッドやアーノンクールやガーディナー…ああああ~、とにかく室内オーケストラで演奏されたスタイリッシュな演奏こそがモーツァルトにはふさわしいのじゃ!」とか、あれこれ悩む私なのです。

 ただ一つ言える事は、すべて商品化された録音は、みんな素晴らしいって事です。もちろん、それぞれの演奏は演奏者の個性が強く出ていて、とても同じ作品を演奏したと思えないほど違った印象のモノもありますが、でもでも全部素晴らしいのです。ダメな演奏なんて、一つもありません。

 そりゃあそうでしょ? どの録音も、レコード会社とか音楽プロデューサーとかが「この録音は素晴らしい。絶対に売れる!」と思って、リリースしたものだもの。悪いわけがないのです。そういう意味で言えば「良い・悪い」で言えば、すべて「良い」のです。これを「悪い」と言い切っちゃう人は、本当に耳が悪いのだと思います。

 でも「好き・嫌い」で言えば、全部が全部、好き…とはなりません。好きもあれば嫌いもあります。だって人間だもの、仕方ないじゃん。

 私の場合は、ベームのウィーン・フィル盤は大好きです。ベルリン・フィル盤は…そんなに好きじゃないです。室内オーケストラ盤で言えば、マッケラスやノリントン、ガーディナーは結構好きですが、アーノンクールやホグウッドは…あまり好きじゃないです。好きじゃないけれど、良い演奏だと思ってますし、これらの演奏を好む人の気持ちも分からないじゃないです。

 音楽を趣味とする以上、好きな演奏と嫌いな演奏があっても当然です。でも、自分が嫌いだからと言って、それをダメと言ってしまうのは、演奏家に対するリスペクトの念に欠けているのではないかと思うのです。つまり商品化された録音に対して、簡単に「良い・悪い」なんて言えるわけがないし、言うにしても「良い・悪い」と「好き・嫌い」はきちんと分けて考えないといけないと思うのです。

 以上は録音物に関してです。これが生演奏となると…悪い演奏って、たまにあります。例えば、演奏ミスが多くて聞き苦しい演奏とか、演奏水準がプロとしての水準に達していない演奏とか、個々の演奏者の力量は認めるけれどアンサンブルとしては破綻しちゃっている演奏とか…これ、案外、プロの有料のコンサートでもあるんですよ。ビックリですよね。生演奏は、本当に玉石混交なのです。ですから、生演奏に関しては「好き・嫌い」以前の「良い・悪い」の基準ってアリだと思ってます。

 でもまあ、ネットでは、名指しでダメとは言いづらいし、その演奏家の将来をかんがえるならは、はっきり言うべきではない…とも思います。

蛇足 ベームの40番に関して言うと、私の若い時は、ベルリン・フィル盤って廃盤だったのですよ。当時のレコード会社的にはウィーン・フィル盤を売りたかったのだろうし、クラオタの先輩方は、そんなレコード会社の広告戦略に載せられていただけなんだと思います。情弱なんだよね。ちなみに、今は長らくウィーン・フィル盤は廃盤で、逆にベルリン・フィル盤がモーツァルト交響曲全集としてカタログに載っています。レコード会社的には、今は、ベルリン・フィル盤を売りたいのだろうと思います。ちなみに、私もこの交響曲全集は持っています。19世紀的なオールド・スタイルの演奏がお好みの方にはお勧めな全集ですよ。

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コメント

  1. オペラ座の怪人の怪人 より:

    すとん様、
    先般のバス停すっ飛ばし事件ですが、
    バス会社に、クレームされるべきか、と思います。
    もう、既に、クレームされておられれば、Sorryです。

    この場を勝手にお借りして、私も書かせていただくならば、
    (「固有名詞はまずいよ、怪人さ~ん」ということであれば、
    固有名詞は削除か、伏字化していただけますか?)

    山梨家裁の(ユニークな名字の)壁書記官は(ああ、書いちゃった)、
    全くふざけた奴ですので、
    私、今、クレームの準備をしております。

    さてさて、カール・ベーム。
    大昔、NHKテレビで、
    ベーム指揮ウィーンフィルの「40番」が放送されていまして、
    多分、テレビ用に撮影された演奏だったと思いますが、

    もう、素晴らしかった。
    世の中に、これほど美しい音楽があるのか!?
    と思いました。

    今、CDになっている「40番」と同じ演奏か否か、わかりまへんが。

    おしまい

  2. すとん より:

    オペラ座の怪人の怪人さん

     ああ、クレームか…。思いつかなかったと言うよりも、そんな事をしている心の余裕が無いというか…。「ひとこと」に書いたけれど、今、頭痛がひどくて、とにかく精神活動一般に余裕がなくて…。ブログの記事は、書き溜めたものを小出しにしているので、何とかなってますが、それ以上の面倒はちょっとパスってのが、今の私です。ほんと、頭痛がヒドイと、鎮痛剤が効いている間に、必要最低限だけをして、他は何もする気がしないのよ。

     ほんと、頭痛って厄介だね。

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