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「ウィーン国立歌劇場2020 in CINEMA トスカ」を見てきた

 色々な歌劇場がオペラの映画上映に手を染める中、ある意味「やっと、やってくれるようになったか!」というわけで、ウィーン国立歌劇場がオペラの映画上映をしてくれたので、見に行ってきました。
 世界三大歌劇場と言えば…、オーストリアの“ウィーン国立歌劇場”と、イタリアの“ミラノスカラ座”と、フランスはパリの“オペラ座”です。まあ、最初の2つはともかく、最後の一つは、アメリカの“メトロポリタン歌劇場”だったり、イギリスの“コヴェント・ガーデン王立歌劇場”だったりと、人によって意見が異なる事もありますが、とにかくウィーンとスカラの2つは、二大歌劇場として、ほぼ確定です。
 で、そのウィーン国立歌劇場の公演が映画になった…のですから、見に行かないわけには行きません。
指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出:マルガレーテ・ヴァルマン
管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィル)
合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
トスカ:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
カヴァラドッシ:ユシフ・エイヴァゾフ(テノール)
スカルピア:ヴォルフガング・コッホ(バリトン)
 ちなみに、ネトレプコはスターオペラ歌手ですが、この公演がウィーンでのデビューなんだそうです。意外だね。
 ええと、正直に書きます。ネットであまりネガティブな事は書きたくないのだけれど、私はこの映画をオススメしません。特にオペラに興味や親しみがなかったり、オペラとミュージカルの違いもよく分からないレベルの人とか、まだオペラを見始めたばかりの初心者さんは、止めた方が良いと思います。逆に見に行った方が良いのは、ストレプコの熱心なファンの皆さん…ぐらいかな?
 まず映像が良くないです。とにかく画面が暗すぎます。その暗い画面を無理やり機械的に明るさ持ち上げているようで、画質が荒いです。最初は「これ、昔のVHFビデオ?」と思ったくらいです(冷静に考えれば、そこまで低レベルではありませんが、ハイビジョンレベルの画質には届いていません)。画面のカット割りもあまり良くなく、何かこなれていない感じがして、あまり見やすくありません。
 ネトレプコって、オペラ歌手の中では割と美人の部類に入ると思いますが、その彼女を美しく撮影していません。いかにも“太ったオバサン”になっちゃってます。トスカって、若くて美人の歌姫って設定のはずなんだけれど、その設定を活かすような撮影がされていません。ドキュメンタリーじゃないんだから、ありのままに撮影しちゃダメでしょ? オペラ映画なんだから、そこは考えて撮影して欲しいですよ。スタッフの皆さんは、ネトレプコが好きじゃないのかしら? 画面から彼女に対する愛が感じられないんだよね。
 そしてオーケストラの音が、プッチーニ向けじゃないです。オーケストラの音が「バーン」じゃなくて「ブワーン」なんです。つまり重いです。ワーグナーならこれでも良いのかもしれませんが、プッチーニは、ここまで重くないです。そのせいか、音楽自体が“これじゃない感”がたっぷりします。
 “これじゃない感”というと、歌手の皆さんからもしました。
 歌手の皆さんは、きちんと自分の役割は果たしていましたし、特に大きなミスはありませんが、じゃあこれが『トスカ』なのかと言うと、なんとも“これじゃない感”がしました。もしかすると、歌手の皆さんは、本調子ではなかったのかな?とも思います。だって、ネトレプコがメトで『トスカ』をやった時は、きちんと『トスカ』になっていたから、ストレプコにトスカが出来ないわけではないのです。でも、この映画では…何とも“これじゃない感”が漂っていました。
 この映画の撮影は、世界的にオペラが中止になっていた2020年の暮れに撮影されたそうです。なので、会場にはお客さんは誰もいなくて、出演者も一線級の歌手はネトレプコだけという始末です。この時期、ウィーン国立歌劇場はお休みしていたはずですし、通常は舞台でさんざん演じたものが撮影されるのですが、これは撮影のための上演でしょうから、リハーサルの時間が足りなかったのかもしれません。
 このオペラは、ソプラノ、テノール、バリトンの三人にスター級の歌手を揃えて、合唱団も大規模にして、派手派手で上演するのが、最近の主流です。特にテノールは、実質的な主役なので、ソプラノ以上のスターを持ってこないとバランスが悪いですし、第1幕の終曲は合唱団の見せ所なのです。でもコロナ禍の影響もあって、合唱団を小規模にせざるをえなかったのかもしれないし、スター級の歌手たちも国境が封鎖されていたので、ウィーンに集結できなかったのかもしれません。
 出演したネトレプコはスター歌手だけれど、なんか本調子ではなさそうだったし、バリトンのコッホは…正直、スカルピアを映画でやるほどの歌手ではないと思うし、テノールのエイヴァゾフに至っては、明らかにネトレプコのバーター出演でしょ(彼はネトレプコの夫です)。
 なので、オペラをたくさん見ている、手練のオペラファンなら「まあ、こんな上演もあるよね」で済みますが、そうではない、一般の映画ファンとか音楽ファンとか、最近オペラにハマりましたみたいな人には、ほんと、オススメしたくないのです。
 ごめんなさい、この映画の商売の邪魔なんて、するつもりは全然無いのだけれど、あまりに“これじゃない感”がするので、書かずにはいられませんでした。
 あと、オペラの舞台中継の映画なのに、休憩がカットされて全く無いのも、どうかなって思いました。全3幕を一気呵成に上演しちゃうのは、オペラ鑑賞としても邪道だし、この映画を見ているお客さんたちも、上映中に中座される方がそこそこいて、不親切な作りの映画だなって思いました。
蛇足 いつもオペラ映画は目をランランに輝かせて、一瞬たりとも見逃さないように、熱心に見ている私ですが、この映画では、3箇所ほど記憶がありません。それも有名なアリアとか二重唱の箇所の記憶が曖昧なのです。たぶん、映画を見ながら、別のことを考えてしまって、当該箇所を思い出せないのです。つまり、気が散ってしまった…わけです。いやあ、そんな事はオペラ映画はもちろん、一般の映画でも、めったにしないんだけれどなあ。それが私のこの映画の正直な評価です。

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コメント

  1. 如月青 より:

    プッチーニってヒロインの声がストーリーのイメージより強めに設定してあって、若い娘のヒロインがおばさんぽく聞こえませんか?
    トスカはまあ大人の女だからいいほうかな。
    昔通っていた教室の発表会では、今の私くらいの年齢のおばさま方にトスカ大人気でした。
    短刀を振り上げる演出を見て、当時まだ20代の我々は生意気にも、あれはどう見ても夫婦喧嘩の出刃包丁だなどと…
    若さって残酷だと、この年になって実感します。

  2. すとん より:

    如月青さん
    >プッチーニってヒロインの声がストーリーのイメージより強めに設定してあって、若い娘のヒロインがおばさんぽく聞こえませんか?
     聞こえますが…それがプッチーニの“女の好み”なんだと思います。ロッシーニなんて、メゾがヒロインですからね。これもオペラ的には、変わった趣味だと思います。
     それにしても、蝶々夫人の蝶々さんが設定上は15歳の少女だと知った時の驚きは今でも忘れません。オペラを見る限り、どう見ても15歳には見えないし聞こえないもの。「ある晴れた日」を歌っている野太い声の女が15歳の少女って、悪夢だよなあ。

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