スポンサーリンク

すとんが薦める初心者向けオペラ その7「フィガロの結婚」

 さて、今回私が薦めるのは、モーツァルト作曲の「フィガロの結婚」です。

 モーツァルトにはたくさんの作品がありますが、その中でも最高傑作との呼び声が高いのが、この「フィガロの結婚」というオペラです。有名なアリアがたくさんありますし、重唱も素晴らしい。序曲は、オーケストラの演奏曲として単独で演奏されるほどの名曲だし、ストーリーだって、皮肉のきいた、なかなかのコメディです。このオペラの欠点は…上演時間の長さぐらいかな? 四幕ものだけれど、それぞれの幕が約1時間ずつあるわけで、1時間ドラマを4つ連続で見るようなものです。そこが初心者の方には、高いハードルになってしまうかもしれません。

 ストーリー的には、ロッシーニが作曲した「セヴィリアの理髪師」の続編となります。前作では、アルマヴィーヴォ伯爵とロジーナの恋をうまく取り持ったフィガロでしたが、今作では伯爵夫人(元ロジーナ)に使える小間使いであるスザンナとフィガロ自身の結婚話がメインとなります。

 結婚を数日後に控えたフィガロとスザンナの元に、伯爵がかつて廃止した初夜権を復活させ、フィガロとの結婚前に、伯爵がスザンナを試食しようとしている知らせが、フィガロたちの元に入ってきた。収まらないのが、フィガロとスザンナと伯爵夫人である。なんとか、初夜権の復活を阻止して、無事に結婚したいものだと画策を始めるわけである。

 三人が部屋から出て行った後、医者のバルトロと女中頭のマルチェリーナが登場。バルトロは、伯爵夫人の独身時代の後見人であって、元々彼女と結婚するつもりで、身寄りのない彼女を育てていたのに、それをフィガロに邪魔されて、伯爵に取られてしまったので、フィガロに対しては積年の恨みが積もり積もっています。一方、マルチェリーナはフィガロを憎からず思っていて、彼がマルチェリーナから借金する際に「借金を返せなかったら結婚します」という証文を持っていた。この二人は、フィガロの結婚が失敗すればいいのに…と思っているわけだ。そこで、フィガロとスザンナの結婚をご破算にして、フィガロとマルチェリーナが結婚できるように、こちらはこちらで画策し始めるわけだ。

 そこでこの二人は伯爵を巻き込んで、フィガロへ借金返済要求の裁判を起こします。結婚を控えたフィガロには、マルチェリーナへ返せる金などない。となると、裁判の判決はもちろん『マルチェリーナへの借金を返せないフィガロは、約束通りマルチェリーナと結婚する事』となるわけだ。

 さあ、困ったのはフィガロだ。そこでフィガロは苦し紛れに“自分は貴族の出身だから、結婚するなら親の承諾が必要だ”と言い出す始末。貴族だという証拠を見せろと迫る伯爵。そこでフィガロは、自分は子供の時に盗賊に盗まれた子だから親の顔も名前も知らないが、自分の腕には貴族の印の紋章(実はアザ)がある、と言い出す。それを聞いたマルチェリーナは驚き、フィガロの腕のアザを見るなり「ああ、この子は私の息子だ」と言い出す。昔、バルトロの家で女中をしていた時に、バルトロとの間に生まれた息子が神隠しにあってしまったが、実はその子の腕には、フィガロと同じアザがあった…年格好からすれば、フィガロは私のいなくなった息子に違いない…と告白をするわけで、親子ならば結婚はできない。借金もチャラだとなるし、バルトロはバルトロで、息子相手に恨みを抱えていても仕方ない…というわけで、三人は親子の名乗りをした。そして、改めて、バルトロとマルチェリーナ、フィガロとスザンナは、その晩に結婚式をする事となった。

 一方、スザンナと伯爵夫人は、なんとか伯爵に初夜権の行使を思いとどまらせ、伯爵をコテンパンにしてやろうと、あれこれ考える。そして、スザンナから伯爵に手紙を送り『結婚式後の夜、庭で二人きりで会ってイチャイチャしましょう』と誘いをかけるという計画を立てた。もちろん、夜半の庭で伯爵を待っているのはスザンナではなく、伯爵夫人。そう、二人は衣装を交換して伯爵を騙して、伯爵を懲らしめてやろうと考えたのだ。

 スザンナが伯爵に手紙を送るのを偶然見てしまったフィガロは、それを真に受け、スザンナが伯爵と良い仲だと勘違いをして、嫉妬に燃える。

 やがて、夜となった。スザンナだと思って、自分の妻である伯爵夫人を口説く伯爵。一方フィガロは、伯爵夫人だと思って、スザンナの浮気を当の本人に愚痴る。愚痴っているうちに、フィガロは相手が伯爵夫人ではなくスザンナだと気付き、逆にスザンナをからかい始める。やがて、二人で互いに馬鹿しあっている事に気づき、スザンナの正体をバラして、喜んで抱き合う。そして、フィガロはスザンナと共に、スザンナの姿をした伯爵夫人を口説いている伯爵のところに行き、夫人と共に伯爵を懲らしめるのであった。心より、夫人に謝る伯爵。雨降って地固まるというわけで、全員で伯爵夫妻を祝福するのであった。…というお話です。

 さて、お薦めディスクですが…今回はちょっとお高めだし、古い映像なんだけれど、このディスクをお薦めしたいと思います。

 なぜ、このディスクをお薦めするのかと言うと、実はこれ、舞台中継ではなく、映画なんですよ。映画なので、歌と演技は別撮りで、歌が臨場感に乏しいという欠点はあるけれど、その代わり、舞台ではなく映画なので、歌手たちが演技に集中できる上に、卓越したカメラワークによる映像の表現力が素晴らしいです。実に映像が雄弁なんですね。おまけに、出ている歌手が往年の名歌手揃いなのもうれしいです。フィッシャー=ディースカウ、ヘルマン・プライ、キリ・テ・カナワ、ミレッラ・フレーニに、指揮はカール・ベームですよ。もう、オールドファン垂涎の一品です。

 オペラは舞台中継も良いですが、映画化されたものも、なかなか素晴らしいですよ。

 さて、アリアのご紹介なのですが、あらすじの説明に登場しなかった、ケルビーノのアリアをご紹介しましょう。ケルビーノとは伯爵夫人に憧れる小姓なのですが、ストーリー的にはコメディ・リリーフ的な役割をする大切な役割です。しかしコメディ・リリーフなので、本筋とは関係ないところで騒動を起こすという役回りの、青年の役です。

 この役はズボン役なので、男性の役柄にも関わらず女性が演じます。女性が演じているけれど、劇中の役としては男性なのです。ちょっとややこしいですが、女性が若い男性役を演じるのがズボン役なんです。このケルビーノ、ズボン役なので男性なのですが、劇中で女装をします。女性歌手が男性として女装をしながら演技をするといったシーンもあり、なかなかに面白い役なんですよ、ケルビーノは。

 現在の視点で見ると、ちょっとばかり怪しいズボン役ですが、当時は大真面目にやっていたわけです。ある意味、日本の歌舞伎の女形の正反対の事をやっているわけです。まあ、面白いと言えば面白いですね。ちなみに、画面の中でギターを弾いているのスザンナで、ケルビーノが歌いながら誘惑している相手が伯爵夫人だったりします。

↓拍手の代わりにクリックしていただけたら感謝です。
にほんブログ村 クラシックブログ 声楽へ
にほんブログ村

コメント

  1. tetsu より:

    どうもです。

    > さて、お薦めディスクですが

    ポネル演出ですね。amazonのコメントでは「30年前頃にNHKのお正月特番で放送された」ようですが、たぶん、このときTVで見ていました。細かいところまでは覚えていませんが、重唱で音声は流れても口は動かさず、それが内心の表現になっていたりで、めちゃくちゃ面白かった記憶があります。
    今も序曲だけ見たら、荷造りしているところで、モンテスキューの「法の精神」とかヴォルテール全集が出てきて、ビックリです。
    今はyoutubeで簡単に見れるので時間あるときみたいです。

    https://www.youtube.com/watch?v=cN0-kbBSDHY
    https://www.youtube.com/watch?v=OAmUJRdYPqk

  2. すとん より:

    tetsuさん

     ほんと、YouTubeはありがたいです。もっとも、権利を持っている人たちからすれば、商売敵でしかありませんが(笑)。

     でも、YouTubeだと字幕が無いからシンドイですね、と書こうとしたら、この画像には字幕が付いていてビックリ。もちろん、日本語の字幕はデフォルトではついてませんが、英語の字幕が付いているので、それを日本語に訳して見る事が可能です…が、そうやってつけた字幕は、ちょっといただけませんでした。ストーリーを追うにも、支障が出るくらいの名翻訳でした。まあ、機械翻訳なんて、そんなモンですね。

     字幕の要らない人はYouTubeで十分でしょうが、字幕の必要な人は、まだまだ販売されているディスクが必要ですな。もう少し機械翻訳の精度が上がってくれると、うれしいのですが。

     それはともかく、映画になったオペラも良いでしょう? 舞台中継も臨場感があって良いのですが、映画は細かく作られていますからね。私は映画版のオペラって好きなんですよ。

タイトルとURLをコピーしました