作者の如月青さんに頼まれて、“Geselle! 対話篇『冬の旅』”の宣伝をする事になりました。ステマではなく、ダイマです(笑)。ダイレクト・マーケティングです。そのおつもりで今回の記事はご覧ください。
さて、すべての本は読者を選びます。言い換えるならば、どんな本も、読者を想定して書かれます。では、この「Geselle!」は、どんな人を読者として想定しているのでしょうか? それを考えた時、この本の読者は、作者の意図とは別に、極めて少数の、エリート読者を想定しているのだろうなあと思いました。
まずはタイトルです。「Geselle!」というタイトルを受け入れられる人が読者になれる可能性があります。タイトルが何だか分からなければ、手に取らないものね。
ちなみに「Geselle!」って、どんな意味だか分かりますか? 私は分かりませんでした。これ、ドイツ語なんですよ。“ゲゼッレ”と読みます。友とか、仲間とか、若い衆とか、職人とかいう意味があるそうです。まあ「気のおけない友よ!」って感じなんでしょうね。
次に「冬の旅」というワードに引っかかる人が読者になれる可能性があります。冬の旅…そう、シューベルトの連作歌曲集「冬の旅」です。つまり、クラシック音楽の、それも声楽曲である、シューベルトの「冬の旅」に興味関心がある人が本書のメインターゲットってわけです。
さて、この本はジャンルで言えば、小説の形式を取った、音楽エッセイ集だと思います。内容は「冬の旅」を愛聴する作者が「おれ」に自分を仮託して「冬の旅」を聞いた感想やうんちくやらを語っていくエッセイです。要は、作者の感想やらうんちくやらを楽しんで読めるかどうかですね。
と言うわけで、「冬の旅」に作者と同レベルの愛情を持っている人が読者になれる可能性があります。いやあ、でなければ、作者の感想やらうんちくやらにはつきあえません。
実は私、作者の如月さんに、この本の書評を頼まれて、この記事をアップするまでに、結構な時間がかかってしまいました。まあ、自分の発表会を控えてて、読書の時間を減らしていたから…と言うのもありますが、実は正直に言えば、この「Geselle!」を読むのが、ちょっと辛かったから…というのがあります。どう辛かったのかと言うと、私は作者ほど「冬の旅」への愛情も興味も関心も無い…という事が痛いほど分かり、それ故に本当に読みすすめるのが辛かったのですよ。
如月さんの『冬の旅』への愛情にあてられてしまった…とも言えるでしょう。
改めて分かった事は、私は歌の鑑賞の際に、知性は使わずに、感性だけで聞いていたんだなあって事です。だから、鑑賞に知性を必要とされる「冬の旅」の世界が、あんまり好きではないって事が、よくよく自覚できました。やっぱ歌は、理屈抜きで、高音をピャーっと出して、カタルシスの開放/解放をするのが、一番ですよね。イタリアオペラ、最高! これが私の音楽鑑賞法であって、詩の世界を歌で表現して…なんて繊細な世界は、私、大の苦手という事が分かりました。
私には向かない本だったけれど、逆に言えば、ドイツリート大好きとか、ドイツ音楽とかドイツ文学の、あの特有の世界が好きという人には向いているのかもしれません。
例えば、ベートーヴェンの第九の第四楽章の歌詞と音楽が「素晴らしい」と心の底から感じられる人には、きっとおすすめです。また、最近、イキのいいクラシック系の音楽エッセイを読んでいないぞ…という人は、ぜひ読んでみてください。
私のようなへそ曲がりではなく、日本にごく普通に生息している、いわゆる“歌系のクラヲタ”の方には、楽しめる本に仕上がっていると思います。
如月さんは、書評の頼み先を間違えた…と思うし、私もなんで引き受けちゃったのかなって、今更ながらに思ってますよ。
「Geselle!」は「冬の旅」への良き入門書であり、最近の音楽エッセイの中では骨太のエッセイに仕上がってます。また、趣味のアマチュア歌手の皆さんには、良き参考書にもなるだろうなあって思いました。こんな私ですが「Geselle!」を読んでいると、時々「この歌、歌ってみたいかも」って思う瞬間が何度かありましたもの(笑)。
ってな感じですが、この記事は、「Geselle!」のダイマになっているのかしら? 自分で書いておきながら、かなり不安です。
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気になった方は、ぜひぜひどうぞ。
蛇足 あと、これは「冬の旅」という連作歌曲集の特徴でもあるのだけれど、この歌曲集の主人公(「Geselle!」では「僕」と呼ばれています)は、典型的な陰キャなんだけれど、この陰キャな僕を、温かい目で見守れる性格の人が、この本の読者になれる可能性があります。つまり、心優しい人だね。私は陰キャな人を生温かい目で見てしまう人なので、ついついイライラしてしまうんだよね。ほんと、読者に向かない人です。
蛇足2 この「Geselle!」を読む時には、「冬の旅」がしっかり頭の中に入っている人は別として、音源を聞きながらとか、楽譜を見ながら読むのがベストだと思います。私は、それをした方が良いのだろうなあと思いながらも、結局はできませんでした(「冬の旅」という音楽そのものが苦手なんです)。その手間を惜しまずに読める人が、良い読者になれると思います。
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コメント
お忙しいところ、無理なお願いをしてしまって申し訳ありません。
非常なご苦労を強いることになったようで心ぐるしいですが、販促より何より、
本の作者が予想できなかった観点で優れた評を頂き、たいへん感謝しております。
「冬の旅」は、はるか昔の高校時代、文化祭で合唱部の3年がひとりずつ好きな曲を独唱するとき、よくここから選んでいたので、折に触れて楽譜を開いて歌ってきました(人に聞かせられるレベルじゃありませんが)。
私のように言葉で曲を「解釈」したい人間には、この曲集の「Ich」の屈折ぶりが面白くてたまらないのですが、そうでなければ、確かに「Ich」はうっとうしいキャラですね。
私にしても、例えば発表会で「冬の旅」の曲を選ぶかと言われると微妙なところです。この前は準備期間がなくて、音域が楽な「春の夢」という曲にしてしまいましたが、元来声が極めてノーテンキなので、シューベルトなら「美しき水車小屋の娘」のほうがノルし聴きやすいかと思っています。
如月さん
十分に役割が果たせたかどうか、不安な私です。この記事を読んで、一人でも二人でもご著書を買われる方が出ることを願っています。
それにしても、私にとっての音楽って、カタルシスの解放なんですよね。基本的には、ハードロックを聞いて、頭を前後に激しく振っている(ヘドバン)人たちと、根っこの部分は同じなんだろうなあって思ってます。
いやあ、シューベルトを始めとして、ドイツリートとは相性が悪い私です。でも、勉強のために、レッスンでは真面目に取り組んでいるんですよん。