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男性が声楽を学ぶのは難しいのか?

 先日、私の趣味である、全く知らない赤の他人の発表会を見てきました。今回見に行ったのは、声楽の発表会で、複数の教室の合同発表会でした。合同発表会ですから、かなり規模が大きくて、男性の生徒さんもそれなりにいました。

 もちろん、素人の発表会ですから、上手さのレベルは様々で、つい最近始めたんだろうなあ…という人から、この人絶対に音大を卒業している…という人までピンキリでした。概ね、女性は普通にアマチュア歌手の皆さんでした。

 問題は男性陣です。そんなに数は多くないのだけれど、奇妙な発声をしている人がとても目立ちました。割合にすると、約半数の人が「なに、これ、こんな発声しちゃっていいの?」って感じでした。なんだろうなあ…下手じゃなくて、奇妙なんです。下手なら、やがて上手になると思うのですが、奇妙なのは、その先どうなっていくのか分からないじゃないですか? そういう意味では、奇妙と言うのは、下手よりもタチが悪いのかもしれません。

 奇妙な発声の方々の特徴は、裏声がとても強いって事です。まあ、突き抜けてカウンターテナーになっちゃっている方々もいましたが、それはまあ、それでいいのですが、そうでなく、テノールの音域をほぼすべて裏声で歌っている人も少なからずいました。むしろ、よくそんなアクロバチックな事ができるなあと感心するものの、それはクラシック系の男性の発声とは異質なものです。裏声が強い代わりに…ってわけでもないでしょうが、響きはほぼありませんでした。キンキン声になるか、逆に飲み込んだような声になっていました。

 じゃあ、下手なのかと言うと、必ずしもそうではないのです。少なくとも、ソルフェージュ的(リズムとか音程とか)には上手だったりするんです。あくまでも、奇妙なのは発声なのです。

 あんまり、おかしな発声の方々が多かったので、不思議に思っていたのですが、最後の最後に「ああ、なるほど」と納得する事がありました。それは、その合同発表会の先生方は、すべて女性の先生だったのです。

 声楽の発声って、男性と女性では、基礎基本は同じでも、そこから一歩踏み出すと、全然違うんです。奇妙な発声をしている男性生徒さんは、もしかして、女性の発声をしている…のかもしれません。それもかなり未熟な形で…。もし、そうなら納得します。

 実際、女性の先生が、女性の生徒に教えるように男性に発声を教えたとしたなら、まあ、あんな感じの奇妙な声になっても仕方ないようなあと、理解しちゃった私なのです。と言うのも、私自身、女性の先生に習って、女性の発声を学んだ経験があるからです。私の場合は、私自身が不器用ですから、自分にとって不自然な女性の発声なんて、できるはずもなく、むしろソルフェージュ的にもおかしくなり、かなり筋金入りの音痴になってしまった事があります。だいたい、当時の私は、裏声の発声自体がすごく困難だったんですよ。

 もちろん、女性の先生であっても、男性の発声方法に理解があって、それを指導できる方なら、問題はないでしょうが、多くの街の声楽教師というのは、歌手の成れの果て(ごめんなさい)であって、声楽教育のプロではありません。歌手の成れの果てですから、自分が学んできた事しか知りません(その代わり、その分野ではプロです、当たり前か)。

 それに、街の声楽教室に集まる生徒さんのほとんどは女性ですから、別にご自身が女性の発声しか教えられなかったとしても、特に問題はありません。男性の生徒が門を叩いてきたら、断ればいいだけの話です。以前、私を教えてくださった女性の先生は、断る事はしなかったけれど、基礎基本だけ教えたら、男性の先生にバトンタッチするから…という約束だったんです(が、バトンタッチをしてもらう前に、ご縁が切れてしまったんですね)。

 色々な教室事情があるでしょうし、何でもかんでも男性生徒を断ってしまったら、男性が声楽を学ぶチャンスが著しく小さくなってしまうので、男性を受け入れてくださる女性の先生はありがたい存在なのですが、教える以上はきちんと男性の発声を教えてくださる事を強く望みます。

 実際、その合同発表会にも、しっかりとした男性の声で歌っていた方もいらっしゃったので、先生方のすべてが男性の発声を教えられない…ってわけではないのでしょうが、奇妙な方々が目立ってしまっただけなのかもしれません。

 もっとも、しっかりした男性の声で歌われていた方も、必ずしも声と歌が合っていたとは言えなかったのが残念です。特に私が違和感を感じたのは、テノール用のアリアや歌曲を3度下げて歌ってしまった方々です。アリアを移調するのは、私的には無しですが、そこはどうなんでしょうね。歌曲は移調して歌っても全然問題の無い曲もありますが、曲によってはアリア同様に「高音を一発で決めるのがキモ」というタイプの歌曲もあって、それを下げちゃダメでしょう…って気分なんですわ。たぶん、男性の先生なら、彼らの声質からそんな選曲は許さないだろうけれど、そこは生徒も先生もよく分かっていないんだろうなあって思いました。

 歌って、音程とリズムが合ってなきゃダメなんだけれど、音程とリズムさえ合っていれば良いってわけじゃなくて、声とか発声とかって、大切な歌の要素だと思います。作曲家は、歌を書く時に、前提としている声があるわけで、やはりそれは尊重していかないといけないのだと思います。私だって、バリトン用の曲は、音域的に楽だけれど、声質が全然合わないから、まず歌わないしね。

 とは言え、アマチュアは楽しんだほうが勝ちなんだよね。だから、どんな声でどんな曲を歌おうが、楽しければいいとは言えますが、より楽しむならば、やはりきちんとした発声で歌えたほうが楽しいし、自分の声にあった曲を歌った方がもっと楽しいと思います。

 女性は女性教師に、男性は男性教師に習うのが、ある意味理想なんだろうけれど、だからと言って、軽いコロラトゥーラの先生が重いスピントのソプラノの生徒に自分のやり方を押し付けたら、やっぱり生徒はうまく歌えないと思います。大切なのは、先生の性別よりも、先生がどれだけ教えることに心を砕いて、勉強しているかって事だと思います。どんな分野でも「できる事と、教える事は別物」なんですね。だから私は単なる『歌手の成れの果て』が声楽を教えるのは、どうしたものかなと疑問を持っています。教える以上、ご自身が歌えるは当然として、やはり教えるための勉強もしていなければ、きちんと教えられないだろうなあと思ってます。

 女性の先生は女性の生徒さんを教えていれば、案外、それでOKって部分があります。男性の先生って、ただでさえ数が少ないのに、音大受験生は熱心に教えても、アマチュアさんを教えてくれる先生は、なかなかいなかったりします。そういう意味では、男性が声楽を学ぶのは難しい世の中なのかもしれません。

 

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コメント

  1. ドロシー より:

    女性の生徒も、プロ団体のオーディションに合格したアマチュアの方などは、男性の先生についている方が多いような気がします。

    今までついた先生の例だと
    ①声質が近いプロ歌手を断念した若い女性の先生
    ⇒ご自身が音大で学んだことをそのまま伝えてくれる感じ。先生自身が大人っぽい声に憧れていて、変なクセがついてしまった
    ②声質が違うベテラン歌手の女性の先生
    ⇒ご自身だったらそんな歌い方しないでしょ?という感じ
    ③ベテラン歌手の男性の先生
    ⇒「上手くなるための解決策」以外の話題がない。選曲はご自身が出られた全幕オペラの中のアリアを勧めることが多い。奥様は有名なコロラトゥーラ歌手なので、時々アドバイスもらっているらしい。

    結局、女性の歌い手は厳しい競争で選ばれるわけで、選ぶ側は男性ですからやはり男性目線というのは大切だと思います。
    女性の先生だったら歌っている時の表情や見た目の美しさなどに拘りを持っていろいろアドバイスしてくれるかなと思いましたが、逆でしたね。

  2. すとん より:

    ドロシーさん

     確かに、女性の先生の元で学んでいる男性は少ないけれど、男性の先生の元で学んでいる女性は少なからずいます…ってか、初心者向けの先生には女性が多いけれど、音大進学とか、それ以上の生徒さんを対象に教えている先生って、たいてい男性の先生だと思います。

    >女性の生徒も、プロ団体のオーディションに合格したアマチュアの方などは、男性の先生についている方が多いような気がします。

     レベルというか、クラスの高い学びをするには、それなりの先生で学ばないといけないわけで、そうなると自然に男性の先生の元で学ぶ人が増えてくる…んじゃないかしら?

    >選ぶ側は男性ですからやはり男性目線というのは大切だと思います。

     ああ、それは確かにそうですね。音楽の世界も、やはり男性社会ですから…。

    >女性の歌い手は厳しい競争で選ばれるわけで

     とにかく絶対数が多いんですよね。アマチュアも大変ですが、プロは本当に大変だと思います。多少歌が歌える程度や、多少可愛らしいくらいでは、世に出ることはかないませんから…ほんと、厳しい世界だと思います。私は、アマチュア男性でよかったです。

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