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フルートは上達するが、歌はなぜ上達しない?

 私はよくアマチュアの発表会/演奏会を聞きに行きます。声楽が中心ですが、他のジャンルの音楽も聞きますし、同じ団体の演奏を何年にも渡って聞き続けていたりします。そうすると、同じ人の演奏を何年にも渡って聞くわけで、一種の定点観測のような事をしていたりするわけです。

 そこで思うことは、フルートを初めとする器楽の方々と言うのは、毎年毎年、確実に進歩/上達しますね。みんながみんな、前年よりも今年の方が上達している…のですよ。もちろん人によって、その上達度や進歩の具合は違うのだけれど、ほぼ全員、上手くなっているのです。

 一方、歌(いわゆる独唱を中心とした声楽、合唱は含みません)はどうかと言うと、あまり上達しません。同じ人の歌唱を数年に渡って聞いていても、いつもいつも変わり映えしません。進歩も上達も見られず、ほとんど成長しないのです。たまに少しずつ下手になっている人もいるくらいです。

 器楽の人は確実に上達していくのに、なぜ声楽の人は上達しないのだろう…という疑問が沸々と私の中で湧いてきました。

 一つには年齢層の違いがあるかもしれません。器楽の人って、割と若いんですよ。子どもや青年はもちろん、いわゆる大人も現役世代の人がかなりの割合を占めています。老人がいないわけではないけれど、歌ほどじゃないです。

 で、歌は…老人が多いですね。もちろん、若い人や現役世代もいるのですが、やはりアタマが白かったり肌色だったりする人が大半でしょ? 器楽の人たちとは、平均年齢が明らかに違います。この違いは大きいと思います。なにしろ老人は新しい事を学ぶのが苦手だし、老化現象もあるし、あれこれ若者とは違うわけです。

 でも、原因はそれだけじゃないです。いわゆる現役世代の方であっても、器楽は上達していくのに、歌ではあまり上達しません。

 そこにはメソッドの違いがあるかな? って思います。器楽は、どの楽器であっても、標準的な教則本というのがあって、それを順番に学んでいくと、システマチックに上達していけます。一方、歌の方には決まりきった教則本と言うのはありません。学ぶ人の好みに合わせたり、教える先生の趣味に合わせたりして、色々な楽曲を色々な順番で学ぶわけで、どう考えてもシステマチックとは縁遠いわけです。

 器楽ならば、教える人の技量にかかわらず、教則本を順番に学ぶ事で、学ぶ人は一定水準の演奏技術に達しますが、声楽の場合、教える人の意欲や技量や経験に大きく左右されるのではないかと思われます。いくら学ぶ人が熱心であっても、教える方がヘボであったり、意欲が低ければ、全然上達なんてしないわけです。

 歌を教えるには、公的な資格なんて要りませんからね。それに歌える事と教える事は全然別ですから、自らが優秀な歌手であったとしても、教える方は素人なら全然ダメだしね。

 もちろん、優秀な教授能力を持った人であっても、その人が「素人相手なら、これくらいでいいだろう」と言った低いハードルで教えていたとしたら、やはりその人に学んでいる人は、上達するはずありません。つまり、声楽の場合は、良い教師と向学心あふれる生徒の組み合わせでないと上達は難しいと言えます。

 逆に言えば、器楽の場合、教則本がしっかりしている分、ある程度までなら独習も可能だと言えるでしょう。でも、あくまでもある程度までで、先生の指導の元で学んでいる人と、そうでない人では、学習の速度と深度に大きな違いが出るのは、言うまでもありません。いくら独学が可能であると言っても、やはり良い先生について学ぶ事は、器楽においても必要な事です。

 いずれにせよ、学ぶ人には真面目さと向上心が求められます。いくら優秀な教授能力と高い志を持った人を師と仰いでいても、師の教えを守らず従わずに、自分の好き勝手に歌っていたら、そりゃあ全然上達するわけないよね。器楽なら、そんな勝手な事をしていたら、全然教則本が進まないけれど、声楽には教則本がないから、自分が上達しているのかどうかもよく分からなかったりするわけで、それで好き勝手をしちゃうんだろうと思います。

 他にも原因はあるかもしれないけれど、ほんと、声楽を学んでいる人は、なかなか上達しないのですよ。

 そういう点で、私は実に恵まれていると思ってます。私は毎年毎年着実にフルートも歌も上達しています。フルートは器楽だから上達は当然としても、歌が上達している事は、実に稀有なことなのだなあと、最近は思ってます。

 キング先生時代は(今なら分かりますが)私も上達していませんでした。いやむしろ、最後の頃は入門時よりも確実に下手になっていました。笑っちゃうね。以前、妻と「あの時、あのままキング先生に習い続けていたら、今頃どうなっているだろうね」と話したことがありますが、その結論は「今頃は声を壊して歌を辞めているはず」となりました。うん、さもありなん。

 今の私の歌は、あの頃と比べると、かなり上達しましたし、今でも上達し続けています。元の門下の人が今の私の歌を聞いたら、きっとビックリしちゃいますよ。それくらいに上達しちゃっていますからね。

 でもそんな私は恵まれているわけですよ。私のようなアマチュア歌手は、何年歌を学んでも、たいして上達しないのが、ごく当たり前。それが、世間の普通。

 そんな恵まれた状況の私は、今日も音楽の神様に感謝しつづけちゃうわけなのでした。

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コメント

  1. ドロシー より:

    すとんさん、こんにちは。

    音楽教室を選ぶのに重要なポイントは、自分と同じくらいか、ちょっと目標になりそうな人がいる、ということかと思います。レベルだけではなくて、年齢や職種も近い人が多い方が良いですね。

    >たまに少しずつ下手になっている人もいるくらいです。
    同感です。殆どのアマチュア、そしてごく一部のセミプロの方は50代後半になると聴力の間隔が衰えていくのか音程がマズくなっている方が多くなっています。
    それを生きがいにしている方もいるので、周囲はなかなか否定的なことは言えないのだと思います。

    >で、歌は…老人が多いですね。
    以前、大学院を卒業してから音楽教師を始めて2、3年程度の先生についていたことがあります。生徒も20~30代のOLといった若い人が多かったです。最初は初心者ばかりの生徒だったのに、数年経ったらすごく上手くなっていたのがわかりました。
    ただ、「若い女性と二人っきり」になることを期待している下心のある方を除き、髪の色が薄い方で社会人2,3年目程度の人から学ぼうという人はいないでしょう?

    >歌の方には決まりきった教則本と言うのはありません。
    コンコーネがありますが、趣味の生徒は不要と考えている先生も多いですね。私は中学生の時から続けていますが、何十年やってもコンコーネ50の1番でもそれなりの課題を感じています。

    今の先生に「なかなか上手くなりませんね。私」と言ったら、「その発言はプロ歌手である私の存在も否定していることになる。今度こんなこと言ったら破門する」と怒られたことがあります。歌手としてプライドを持っている方なので、これ以上は言わないことにしましたが、歌手としてのプライドは指導者としての価値とは違うのではないかと思うけど、芸術家が一般人の考え方とはズレていることは多々あるので、やむ得ないと思いました。

    自分の上達がよくわかる方法は、初心者の時から定期的に録音を取っておいて、しばらく経ってからまた同じ曲を歌って録音して比較することではないでしょうか?家族にも聞かせて「どっちが上手い?」と聞くのが一番だと思います。

  2. すとん より:

    ドロシーさん

     「名選手、必ずしも名伯楽にあらず」とか「知っている事と教えることは別物だ」と…という言葉もあります。いくら歌手として一流であっても、名指導者であるとは限りませんし、名指導者が一流の歌手であるとも限りません(ただし、水準以上の歌手である必要はあるでしょう)。それに初心者や子どもを教えるのに向いている人と、若手プロを教えるのに向いている人も別だと思います。あまり、教えるという事をなめてもらっては困ります。

    >ただ、「若い女性と二人っきり」になることを期待している下心のある方を除き、髪の色が薄い方で社会人2,3年目程度の人から学ぼうという人はいないでしょう?

     私は全然平気ですが、先生の方が嫌がるだろうと思って避けています。自分の父親のような年齢のジイサンを教えるのは、セクハラを除いても、やりづらいだろうなあって思うからです。

    >殆どのアマチュア、そしてごく一部のセミプロの方は50代後半になると聴力の感覚が衰えていくのか音程がマズくなっている方が多くなっています。

     これ、最近の私は如実に感じています。私、右耳はかなり聴力落ちましたよ。たぶん、健常者の1/4程度しか聞こえないです。左もだいぶ落ちていると感じています。最近まで聴力には自信があっただけに、ちょっとガッカリしています。近い内に耳鼻科に行って診断してもらおうと思ってます。補聴器をつけても歌えるかしら?

    >自分の上達がよくわかる方法は、初心者の時から定期的に録音を取っておいて、しばらく経ってからまた同じ曲を歌って録音して比較することではないでしょうか?

     そうですね。私もキング先生時代の録音が保存していたはずですが、ハードディスクをふっとばした時に全部消えてしまいました。ああ、もったいない。

     キング先生時代に習った歌を今歌ってみると、あの当時、あれだけ苦労していた点があっさり解決していたり、全然歌えなかった曲が歌えるようになっていたり、以前は問題に感じることができなかった箇所が、今は「うーん、もう少しどうにかならないかな」とか思ったりして、当時よりも上達している事を感じると同時に、新しく問題を発見してしまったりと…まあ、これで良しという事にはなかなかなりません。

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