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2019年 プラハ国立劇場の『フィガロの結婚』を見ました

 なぜ、タイトルの冒頭に“2019年”と付けたのかというと、実は2013年にもプラハ国立劇場の『フィガロの結婚』は見ているからです。なので、タイトルに“2019年”と付けました。

 どこで見たのかと言うと、自宅から徒歩10分の地元の市民会館です。徒歩10分で、本格的な海外歌劇団の引っ越し公演が見れるというのは、幸せな事です。もっとも地方の悲しさで、この公演でのメインであるエヴァ・メイの伯爵夫人は無しで、別の歌手さんが演じます。ま、たいてい、当地にくる海外歌劇場引っ越し公演は、東京公演では目玉になっているスター歌手抜きでの公演なんだよね。もっとも、その分、かなり格安な価格設定になってはいるんだけれど…。

 さて、今回知った事だけれど、一言で“プラハ国立~”と呼んでしまうけれど、実際は3つの歌劇場があるんだそうです。日本語で言うと、1つ目が“プラハ国立歌劇場オペラ”、2つ目が“プラハ国立劇場”、3つ目が“プラハ国立歌劇場”だそうです。で、今回、当地に来ているのは、1つ目の“プラハ国立歌劇場オペラ”で、通称“スタヴォスケー劇場”さんです。ちなみに“スタヴォスケー劇場”とは“貴族劇場”という意味で、プラハでは最古参のオペラ劇場なんだそうです。さらに、1つ目と2つ目は、ホールとしての歌劇場は別だけれど、これを運営している歌劇団は同じなので、プラハ国立歌劇場オペラの公演を『プラハ国立劇場』の公演と名乗っても、全然問題はないようです。ちなみ、プラハ国立歌劇場さんは、その設立経緯も運営団体も違うので、これはゴッチャにしてはいけないようです。

 で、今回やってきたプラハ国立劇場は、6年前にやってきたプラハ国立劇場と同じ、スタヴォスケー劇場なんだそうです。

 「同じ歌劇団が同じ演目を上演するの?」

 そうなんですよ。それに気づいたのは、実はオペラ当日だったりします。まあ、事前に知っていたからと言って、きっと見に行ったと思いますが、6年ぶりとは言え、同じ歌劇団の同じ演目を見るなんて、テレビの再放送を見るような感じかな…と、ちょっとしょんぼりしたのは本当です。

 でも、行ってみたら、同じ歌劇場が同じ演目をやっていましたが、演出が全然違っていたので、全く別物として楽しめました。そうだよ、そうじゃなくっちゃ残念だよね。

指揮 ズビネク・ミュラー
演出 マグダレーナ・シュヴェツォヴァー

フィガロ ミロシュ・ホラーク(バリトン)
スザンナ ユキコ・キンジョウ(ソプラノ)
伯爵 ロマン・ヤナール(バリトン)
伯爵夫人 マリエ・ファイトヴァー(ソプラノ)
ケルビーノ アルジュベータ・ヴォマーチコヴァー(メゾソプラノ)
マルチェッリーナ スタニスラヴァ・イルクゥ(メゾソプラノ)

 前回の演出は、多少時代背景を現代寄りにした、演劇色の強いシリアスな演出でしたが、今回の演出は、極端にコメディーに振り切った演出となっていました。なにしろ、登場人物のヘアスタイルが、みんな変(笑)。また、無声映画時代のお笑いのような、極端で類型的な演技が多様され、いかにも「笑ってください」って感じのノリでした。

 今回の演出の特徴の一つに、5人のダンサーの活躍があります。男性1人、女性4人なのですが、彼らが(男性ダンサーも含めて)メイドの格好(つまり、男性は女装をしているわけです)をして、黙役でありながら、黒子のような働きをして、オペラを進行していくのです。

 さらに、フィガロの結婚というオペラは4幕ものですが、これを2幕ずつまとめて、いわゆる2幕ものとして上演していたのですが、当然、本来の1幕と2幕の間、3幕と4幕の間には、舞台装置の移動などの時間が必要なのです。そのために、一度舞台の緞帳を下ろすのですが、その際に、彼らダンサーたちが幕前に立って(チェコの歌劇団なのに)イタリア語でコントをやるんですが、これもまた面白いんです。ただ、笑いのツボが日本人とは違うので、会場には今ひとつ受けないのですが、私はクスっときましたよ。

 さらに、この演出の面白いのは、ケルビーノがダブルキャストだった事です。つまり、ケルビーノという役を二人の人が演じていたって事です。

 もちろん歌唱の部分は、メゾソプラノの方が男装をして演じていたのですが、ケルビーノって、劇中で2回女装するんです。そもそも、ケルビーノというのは、役柄としては男性なのですが、いわゆるズボン役なので、女性歌手が演じます。女性歌手が演じる男性が女装をするというのが、このオペラの面白さなのですが、その女装部分になると、演者が変わるんです。男性ダンサーがケルビーノになります。なので、最初の女装シーン(伯爵夫人の部屋の場面)では、着替えをして、衣装を脱ぎかけますが、実際には女装はせずに、リアルな男性が、着替えの途中なので、半裸な男性として演技をします。歌の部分は舞台の後ろで女性歌手のケルビーノが歌いますので、女装はせずに半裸な男性が部屋で伯爵夫人を誘惑するというシーンになります。これはなかなか目新しい演出だと思いました。

 二度目の女装シーン(バルバリーナにノセられて村娘になる)では、本当に男性ダンサーが村娘の女装をして登場をします。いやあ、これが実に違和感バリバリの女装で、思わず笑っちゃいました。こういう演出もあるんだなあと関心しました。

 舞台が始まる前に、今回の出演キャストを見た時に、ちょっぴり残念な気がしたのは、キャストに日本人が入っていた事です。それもスザンナというほぼほぼ主役に日本人歌手が抜擢されていた事です。

 なんで、外国の歌劇団の引っ越し公演で日本人を見ないといけないの?…と、正直、最初はそう思いました。日本人の歌は、日本の歌劇団で見るから、海外引越公演は、オール外人で見たいじゃない…って思いました。

 でもね、始まったら、そんな気持ち、どこかにすっ飛んじゃいました。ユキコ・キンジョーさん、いいよ。いいソプラノさんです。外人に混ざって歌っていても、存在感はあっても、違和感はありません。さすがに、主要キャストを演じているだけあって、安心安定の歌唱&演技でした。

 他のキャストも、皆、若手~中堅の歌手ばかりで、エネルギッシュで良かったです。あえての文句を言えば、マルチェリーナが若くて、フィガロの妹に見えても、フィガロの母親には見えない事。出演者のほとんど若々しいので、バルバリーナが全然小娘には見えない事。フィガロがかっこよすぎる事…ぐらいかな?

 会場となった、当地の市民会館は、リニューアルしたばかりなのですが、どうやらリニューアルに伴う改装は、良い方向で成功したようです。市民会館には、3つのホールがあって、そのうちに、ミニホールと小ホールでは、私、リニューアル後に歌っていて、響きが豊かになって、よりクラシック音楽向きになったなあと思っていましたが、どうやら大ホールも響きが豊かになってクラシック音楽向きになったようです。と言うのも、見ていて、歌手の皆さんが楽に歌っているのが分かるからです。楽に歌っているのに、声は十分に届いているわけで、良いホールに生まれ変わったんだなあと思いました。

 そうそう、舞台に配置してあった、数々の孔雀のオブジェは何だったのでしょうか? おそらく、笑いの小道具としての機能が与えられていたようですが、笑いのツボが違うせいか、全然笑えませんでした。外国のコメディーって、難しいよ。

 今回の上演は、コメディーに振り切っていたせいか、会場から、結構ゲラゲラ笑い声が上がっていました。私の3つ隣に座っていたオジサンなんて、身を捩って笑い転げていたんだよ。あまりにオーバーアクションで笑うので、私は引いてしまったくらいです。いやあ、フィガロの結婚であんなに笑っている人、初めて見ました。

 とにかく、楽しいフィガロの結婚でした。

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