実はフルートの試奏をした日は、別にフルートの試奏に東京に行った訳ではなく、本当の目的は、にゅうおいらんずを聴きに行ったのでした。
にゅうおいらんず?
はい、“にゅうおいらんず”です。ジャズバンドです。ディキシーランドジャズのバンドです。ライブ会場は浅草演芸ホールです。
演芸ホール?
はい、いわゆる寄席で、八月上席公演の大喜利として、にゅうおんらんずが出演します。
混乱しました? そうでしょうねえ、知る人しか知らないバンドですもの、にゅうおいらんずって。私も数年前にその存在を知って以来、ぜひ聴きたいと思いつつも、なかなか日程が合わず、今年ようやく聴くことができたというくらいのバンドですもの。
メンバーには有名人がいますよ。
三遊亭小遊三(トランペット)、春風亭昇太(トロンボーン)、三遊亭右紋(司会&バンジョー)、三遊亭円雀(クラリネット)、桂伸之介(電子ピアノ)、ベン片岡(ベース)の六人のメンバーにゲストドラマーとしてプロの方が日替わりで参加してます。ちなみに本来のドラマーは神田山陽です。
そうです、噺家バンドです。笑点にご出演の方もお二人いらっしゃいます。なあんだ、お笑いさんの隠し芸か!とは思わない方が良いです。と言うのも、彼ら、今年でデビュー12年の活動歴がありますし、あれで結構コンスタントに活動しているんです。では、プロ並の凄腕バンドなのかと言うと、それも違う。いや、一応入場料を取っているわけだから、プロのバンドと言えばプロなのだけれど、腕前は割と普通なアマチュアバンドレベル。演奏レベル的にはそれがウリになるレベルではないです。
では何かウリなのかと言うと、楽しさおもしろさ。もちろん噺家さんのバンドなんだから、コミカルなトークはたっぷりありますが、演奏は至ってシリアス。そのシリアスな部分が楽しくておもしろいのです。
なんて言うのかなあ…演奏者たちが本当に音楽が好きで、愛していて、正面から取り組んでいて、それが客席にまで伝わってくるんですよ。だから、聴いている方も楽しくておもしろくなっちゃうんですよ。
決して、落語的なお笑いの部分だけで楽しませてくれるのではなく、演奏も十分楽しいバンドなんです。
興味のある方は、DVDが発売されてますので、チェックしてみてください。実はこのDVD、会場で売っていたので、メンバーのサイン付で購入しました。ちなみに小遊三師匠には息子君の名前まで入れてもらいました。家宝です。DVDの中身は、当日のステージとほぼ同じです。メンバーの腕前はDVDより上手くなってましたが…。
上手くなっていた…。そう上手くなっているんですよ。このバンドが私の気を引く理由の一つが、花形プレイヤーである金管の二人(小遊三と昇太)に、実は楽器経験がなく、にゅうおいらんず結成時に楽器を買ってきて、初めて楽器に触れ、練習を始めて、今日に至るというわけなんです。つまり、音楽が好きで好きで、でも子どもの頃は色々な事情があって出来なくて、大人になってようやく楽器を買ってバンドを組みました…ってパターンなんですね。だからこそ、伝わる“何か”があるんです。それにしても小遊三師匠は五十の手習いですよ、すごいですねえ。
実にほほえましいバンドです。ちなみに金管の二人以外は、なかなか侮れない演奏をします。ドラムはプロだからともかくとして、ベースの方は実は噺家さんではありません。落語芸術協会の事務員だそうですが、元はプロのベーシストさんだそうです。そりゃ演奏も安定しているはずだ。
このリズム隊の磐石のビートの上に、メンバーたちの音が載ります。
他のメンバーたち。ピアノの伸之介やバンジョーの右紋、クラリネットの円雀は若い頃から、楽器をやっている人たちです。そりゃあ、上手だよね。その彼らと、アマチュアむき出しの金管二人の対比がまた楽しいんです。他のメンバーがクールに演奏している中、金管の二人が実に熱く演奏してます。
クール。そう、まさにクールなんです。特に円雀師匠のクラリネットは、素敵にクールです。そして実はかなり上手いです。きちんとジャズしてます。金管の二人がノリでババンと派手にやっている裏で、地味に細かいところをキチンキチンと押さえて、ノリノリに演奏しているのがクラリネットなんです。あのクラリネットがあるから、単なる合奏ではなく、ジャズになっているんだと思います。
右紋師匠のバンジョーは、またいい味出しています。ピアノの伸之介師匠は…調子が悪かったみたいです、ピアノが。しかし噺家さんですよねえ、楽器の調子が悪くて音が出なくても、それで笑いを取りにいくところはなかなかと思いました。
いやあ、楽しかったなあ、にゅうおいらんず。きっと来年の八月上席も浅草演芸ホールでライブをするだろうから、また来年も聴きに行けるといいなあと思う。それに彼らのライブを聴きに行くと、もれなく彼らの落語も聞ける。これは一挙両得だねって、そりゃあ、本末転倒な話だねっと。
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