一般的に、フルートは簡単な楽器だと言われています。何を以て簡単だと言ってよいかという部分については、議論の余地はあると思います。しかし、単旋律用の楽器である事。ト音記号の世界の楽器である事。移調楽器ではない事。メカシステムの完成度が高く、奇妙な運指がない事。軽量であり持ち運びに便利である上に、音量も小さいので、どこでも練習できる事、などから考えても、比較的演奏が簡単な楽器と言われても仕方ありません。
しかし、いくら簡単だと言われても、あくまでも“比較的”簡単なだけで、リコーダーやハーモニカやオカリナのような教育楽器ほどは簡単ではありません。
フルートの場合、あえてどこが難しいのか言えば“音を出す”と言った、基礎の基礎の部分が難しいです。つまり、一番最初が一番難しかったりします。逆に言っちゃえば、ここを乗り越えちゃうと、後はさほど難しくないとも言えます。また、音出しに苦労しない人だと、どこも難しい事がない楽器だったりするんです。
さて、フルートの音が出ない理由には、実は様々な要因が絡んできます。呼気圧や腹圧の問題、楽器の構え方の問題、そしてクチビルのカタチの問題…つまり、アンブシュアの問題があります。
初心者の頃って、音が出ない人は本当に出ません。いくら頑張っても出ません、出ないものは出ません。私の知り合いのピアニストさんは、学生の時、副科でフルートを学んだのだそうですが、親にねだってムラマツを購入してもらったところまでは良かったのだけれど、全然音が出なくて、毎日毎日フルートの練習をするのだけれど、全然出なくて、友人や教授にも散々教わったのだけれど、本当に出なくて、それでようやく「ピヤ~」って鳴り始めたのが夏休みを終えて、すでに授業が後期に入った頃だったそうです。音さえ出てくれるようになれば、後は楽なもので、あっという間にフルートを普通に吹けるようになったのだそうだけれど、音大生ですら、フルートの音が出せない人はいるわけだし、音が出せなきゃ、何もできないわけです。
だから、趣味のオジサンオバサンがフルートを始めて、最初の音出しの段階で、さんざん苦労するのは、まあ、当たり前と言っちゃあ当たり前なのです。当然と言っちゃあ当然なのです。逆に言えば、たいていの人は、音出しで苦労すると思って、間違いないのです。
で、そんな音出しに苦労する初心者の皆さんが、その原因として、最初に着手するのが、アンブシュアの問題なのです。クチビルをどんなふうにしてフルートにあてるのか…そんな事に悩むわけです。で、その結果、ネットのフルート情報のページには、アンブシュアに関する記事があちらこちらにあるわけです。
でもね、そんなにアンブシュアって大切なのかな? プロのフルート奏者の口元を見ると、皆さん、それぞれだし、決まりきったやり方なんて無さそうじゃない? 中には、斜めにフルートを構えていたり、クチを尖らせて吹いていたり、ほんと、色々です。ちなみに、私はインコのクチをしてフルートを吹いてます(笑)。
でも、ネットに書かれているアンブシュアのページを見てみると、理想的なアンブシュアは…クチビルを閉じて、軽く横に引っ張り、息を吹き出す勢いでクチビルを開ける。その息が通る大きさは細めのストロー程度が良い…なんて書いてあったりなかったりするわけです。
でも、そんな事、誰がやっている? 案外、みんな、思い思いのスタイルでフルートを吹いているわけで、そんな理想なアンブシュアなんてしてないよ。少なくとも私はやっていないし、H門下の人もやってません。みんな、フルートを手に持って、無造作にクチビルに当てて、息を吹き込んで吹いてます。何か特別な事はしていません。
それでも吹けちゃうのがフルート…なんだと思います。
まあ、アンブシュアは大切だけれど、音出しに関しては、一番大切とは言えないのだろうと、私は思います。
では、音出しに一番大切なのは…おそらく腹圧だろうと思います。
初心者の頃は、とにかく腹圧が弱いのです。腹圧が弱いので、呼気圧が弱くなり、呼気圧が弱いので、クチビルであれこれしようとしてしまい、結果、アンブシュアにこだわるわけです。
いわば、腹圧の弱さをクチビルでカバーしようとしているだけで、やっている事は邪道も良いところなのです。
と言う訳で、音出しで一番大切なのは腹圧です。言葉を変えて言えば、腹筋です。だから、腹筋がある程度強くなり、腹圧が強くなれば、アンブシュアを気にせずとも、自然とフルートの音が楽に出るようになるわけです。
では、腹圧を強くし、腹筋を鍛えるには、どうしたら良いのか?
少なくとも、体育会系の人がよくやっている腹筋運動は、あまり効果が無いと思います。と言うのも、腹筋を動かすと言っても、ちょっと動かす方向が違うからです。
フルートを吹くための筋肉を鍛えるために一番の近道は、フルートを吹くことです。フルートを吹いて吹いて吹きまくって、カラダをフルートを吹く人のカラダに作り変える事です。
そうすると、簡単にフルートの音出しができるようになります。
なので、フルートの音が出なくて悩んでいる人は、アンブシュアをあれこれいじるよりも、ひたすらフルートを吹いて、早く自分のカラダをフルーティストのカラダにしてしまう方が現実的だと、私は思うわけです。
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コメント
>ネットに書かれているアンブシュアのページを見てみると、理想的なアンブシュアは…
「基礎」と「初歩」を切り分けて考えると、腑に落ちます。
例えば、ヴァイオリンの弓の構え方。ヴァイオリンに触ったことの無い人には、弦は4本あるので「G線を引くときの弓の角度はこう、D線のときはこう、A線のときは・・・」と、角度を(体の感覚として)教えます。そうしないと隣の線を弾いちゃいますから。
でも、ある程度ヴァイオリンに慣れたら、いちいち「この角度で」と意識して弾きませんよね。そんなことを習ったことさえ忘れちゃいますし、角度を決めながら弾こうとすると、速いパッセージなんて弾けません。かえってジャマです。
この、「弓の角度」が「初歩」です。
すとんさんが例に挙げられたネットのアンブシュア情報は、ほとんどがこの「初歩」の情報です。なので、音が出せるようになると忘れちゃいますし、自分の口の形に合ったアンブシュアが見つかってよい音が出せるようになれば、そんな初歩の情報はかえってジャマです。
初心者の頃は誰もが通る道ですが、「初歩」は忘れて良いのです。
でも「基礎」は忘れちゃダメですね。「基礎」は科学的な原理に基づいた「根拠」なので、基礎に逆らうと事を仕損じます(大きな音を出したくて無理やり息を吹き込んでも汚い音が出るだけ。これは楽器が音を出す物理法則に基づいた「基礎」に反した吹き方をしているからです)。
すとんさんが最後のほうで言及している腹圧の話は、根拠に基づいた話なので「基礎」です。基礎ができていないといつまでたってもうまく吹けませんね(音を出すメカニズム、つまり原理に反していますから)。
初心者の頃は、この「初歩」と「基礎」の区別が付かないんですよね。初歩と基礎をごちゃまぜにして学びます。初級者(初心者ではなく、初級者)を脱して上のステージに上がれるかどうかは、いかに頭を使って「初歩」を捨て、「基礎」に基づいた洗練された技術を身につけるかです。
Hiro.MTBさん
なるほど、初歩と基礎ですか。私には、そういう視点がありませんでした、勉強になりました。
>いかに頭を使って「初歩」を捨て、「基礎」に基づいた洗練された技術を身につけるかです。
それこそが、脱初心者への道ですね。そういう意味では、基礎は大切。初心の頃に習ったからと言って、基礎を甘く見てはいけない…ってわけで、肝に命じます。
それにしても、ほんと、ネットでは、アンブシュアにこだわる人が多すぎます。それだけみんな、初歩の段階で停滞しているのかしら?